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野球の映画<実話編>②

今回も、引き続き実話を題材にした野球映画のお話をします。どうかお付き合い下さい。気になった作品があれば是非ご覧になってください。野球への愛情が深まるはずです。

まず「夢を生きた男〜ザ・ベーブ」(1992年/アーサー・ヒラー監督/ユニバーサル・ピクチャーズ)、そして「打撃王」(1942年/サム・ウッド監督/RKO)、「61*」(2001年/ビリー・クリスタル監督/ワーナー・ブラザーズ)の3本です。

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何故いきなり3つの作品を続けてご紹介するかと言えば、この3本を観ることでヤンキースの歴史や物語が繋がるからです。順番もこの順番通りにご覧になることをオススメします。
 
やはり野球と言えばアメリカでしょう。アメリカ人に「野球の神様は?」と問えば、ほとんどの人は、「ベーブ・ルース」と答えるのではないでしょうか?今回まず初めに紹介させて頂くのが、そのベーブ・ルースの波乱万丈の生涯を描いた作品「夢を生きた男〜ザ・デーブ〜」です。

私のベーブ・ルースのイメージは、いつもニコニコしていて、子供に優しく、病気の子供と次の試合でホームランを打つと約束し、見事予告ホームランをかっ飛ばすというメジャーきってのスパースターということくらいです。この映画を観て、そんなベーブ・ルースのイメージは変わります。

彼は家族愛をほとんど知らない環境で育ち、それ故に非行に走り少年院で育つのですが、そのずば抜けた野球選手としての天才的な能力を授かります。しかしその才能を持っているがための孤独さも描かれていて、彼の光と陰の部分を知る事が出来ました。

私もプロ野球チーム在籍中にいろんな選手を見てきました。この映画を観終えて、改めてベーブ・ルースと同じような悩みを持ち、苦しんでいたんだろうなと思う選手が何人か頭に浮かんできました。この映画を通じて、そういった選手たちへの理解が深まった気がします。

次の作品は、かなり古いのですが、伝説のメジャーリーガーで、難病で引退するまで2130試合連続出場を果たしたルー・ゲーリックの半生を描いた映画です。なにしろ1942年の制作なので、モノクロで少し映像、内容とも最近の目の肥えている方には物足りないかもしれません。

ただ、この映画には、ベーブ・ルース役は本人が演じていて、実物の姿が見る事ができます。そこでのベーブ・ルースが病気で入院している子供とホームランの約束をするのですが、その後に同じ子供とルー・ゲーリックもホームランを約束するので、少し紛らわしいかもしれません。ご注意ください。

そして次は、「61*」です。1961年の話で、そこから30年以上も前にベーブ・ルースの打ち立てた1シーズン60本という記録に2人の男ロジャー・マリスとミッキー・マントルが挑む物語です。当時このベーブ・ルースの記録は、メジャーリーグで最も神聖な記録と言われていました。この記録は永遠に抜かれないだろう、いや、むしろ誰にも抜いてほしくないという空気が流れていたのです。永遠に輝いていて欲しいという多くの人々の願望がこもっていました。この映画をご覧になると、何故61の横に「*」(アスタリスク・注釈)がついているのかが分かると思います。映画の初めと最後の方にのちにこの記録をも破るマーク・マグワイアの本塁打記録の実際の映像が流れます。

これら3つの作品見ていると、選手が成長していくためには、切磋琢磨するライバルの存在が重要という事が実に良く理解出来ます。ベーブ・ルースにはルー・ゲーリックが、今回映画にはあまり出ていませんが、ルー・ゲーリックにはジョー・ディマジオが、ロジャー・マリスにはミッキー・マントルがというライバルの存在がお互いを伸ばしていくのです。切磋琢磨する仲間は大切です。

私は、日本とアメリカのプロ野球でコーチとして在籍させて頂きました。しかし、臨時コーチとして韓国のプロ野球チームの秋季キャンプに2度招かれた事があります。1回目は韓国全州市に当時あったサンバンウル・レイダーズ(現SKワイバーンズ)、2回目は釜山広域市にあるロッテ・ジャイアンツです。両チームとも7~10日ほど参加させてもらいました。どちらも質問攻めにあったことを覚えています。私の印象では、韓国の野球は日本の野球を目指すというより、思いっきり投げて打つというアメリカ寄りの野球だなと感じました。キャンプの練習メニューにデッドボールに当たる練習(もちろん今はないと思いますが)が組み込まれているのには驚きました。そんな事もあり、韓国のプロ野球にも興味を持っています。

そこで今までアメリカの作品ばかりでしたが、他の国でも実話に基づいた素晴らしい野球映画の作品があります。韓国の映画「スーパースター カム・サヨン」(2004年/キム・ジョンヒョン監督/CJエンタテインメント)です。

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韓国のプロ野球(KBOリーグ)は、1982年発足されました。主人公のカム・サヨンは、社会人野球の投手として活躍していました。しかし、KBOリーグ設立にあたり自分の会社がプロ野球チームを持つことになります。本人はいてもたってもおれず会社に黙ってトライアウトを受けます。そして、見事に合格します。そこから彼のストーリーが始まります。この映画もエンドロールまでしっかり観てください。エンドロールの初めの方にカム・サヨン投手が実際に投げている写真がいくつかでできます。

次も韓国の野球映画です。「ホームランが聞こえた夏」(2011年/カン・ウソク監督/Happinet)です。

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実在する聴覚障がいを持つ高校生が通う高校、シンソム学校高等部野球部の実話を基にした作品です。韓国でも高校野球は人気があります。しかし、日本の学校には野球部が4000校くらいあるのに対して、韓国では高校が約5300校あるのに対して野球部がある高校はわずか50校です。

韓国にとって高校野球の位置づけは、少数精鋭のプロの予備軍的な扱いのようです。その中の一つとして日本の甲子園にあたる大会の1勝をシンソム高校の選手たちは目指します。(ちなみに50チームしかないので予選はありません)。野球にとっても「音」は重要です。その音がない世界の高校生が挑んでいきます。

この映画の中でも、プロ野球のスパースターだったコーチ(この登場人物はフィクションです。)が心の底から叫ぶように励ますシーンがあります。

野球映画好きあるあるかもしれませんが、野球映画やドラマで役者さんの野球の動きが経験者かどうかを気にしたり、どんなグラブやスパイクを使用しているのか?メーカーはどこか?なども私は見てしまいます。この映画の中で、海辺で特訓するシーンがあります。その中でトレーニングの一環として使われていたチューブが、恐らくですが、私が1995~6年あたりに、某スポーツメーカーと共同開発した物(TCAバンド)が出てきます。驚きと喜びもありました。

ここまでアメリカと韓国の映画をご紹介してきましたが、日本にも素晴らしい実話の野球映画があります。野球と戦争の映画3本をご紹介します。

今年は、野球関係者、ファンの方々も、コロナにより本当につらい思いをしたと思います。特に選手、その中でも中学3年生、高校3年生、そして大学4年生たちです。各々野球人生の節目を迎えるはずなのに、相次ぐ大会、リーグ戦の中止。私はこれら多くのカテゴリーの選手たちと接しています。本当に見ていて辛かったです。そんな彼らを全力で支え励ます事に努めてきました。その中で、もちろん、コロナに野球を奪われた悔しさ辛さは、痛いほど理解出来ます。しかし、私たちの野球界の先人たちは、もっと酷い理由で野球を奪われました。もう二度と起こしてはいけない戦争によってです。戦争は野球だけでなく、多くの尊い命を奪いました。そんな悲しい過去を知ることは大切な事といつも思っていました。特に今年はそうです。なので私は、励ます言葉だけでなく、戦争により、野球だけでなく命まで奪われた若い野球選手の実話の映画を観るように勧めています。

1つ目は「英霊たちの応援歌〜最後の早慶戦〜」(1979年/岡本喜八監督/東宝)です。

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私はこの映画を中学3年生の時に観て、戦争の愚かさを知る事が出来ました。また春と秋にテレビで観ていた早慶戦、何故大学野球でこれだけの大観衆が集まるのかも理解できました。

2つ目は同じ題材で「ラストゲーム〜最後の早慶戦〜」(2008年/神山征二郎監督/シネカノン)です。

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コロナ渦の今、観ていない人はもちろん、全ての野球関係者に観てほしいと強く願う映画です。私は、当時2008年私が関係する小中学生の野球選手たちに、この映画を映画館で見せるようにしました。野球が出来るありがたさ、そして戦争は二度と起こしてはいけないという事を知ってもらうためです。
「英霊たちの応援歌」は1979年に作られた物で手に入りにくいかもしれません。また少し大人向けだと思うので、高校生中学生小学生は「ラストゲーム」の方が見やすく観賞できるのではと思っています。指導者ご父兄の皆さん、この映画に関しては、一度練習を休みにしてでも、是非子供たちに観せてあげて下さい。それだけの価値があります。鑑賞後、チームミーティングの題材にしてみてはいかがでしょうか?

次は、この作品も野球と戦争を題材にした「人間の翼〜最後のキャッチボール〜」(1996年/岡本明久監督/シネマクラフト)です。

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この作品はドラゴンズ(当時名古屋軍)のエース石丸進一投手の24歳で戦死するまでの物語です。上記の2つの映画と時は同じです。神風特攻隊と言われる「死の突撃」の戦闘機に乗り込む直前、つまり死ぬ前の最後のピッチングを10球石丸投手は行います。どんな気持ちでピッチングしたのでしょうか?平和ボケした私たちには想像もつきません。そしてその10球は全てストライクだったそうです。多くの学生野球の選手たちも戦争でその尊い命を奪われています。また石丸投手のようにプロ野球選手も多く戦死しています。

みなさんは東京ドームの関係者駐車場入り口向かって左側に、戦火で散ったプロ野球選手たちの名前が刻まれた石碑「鎮魂の碑」があるのをご存知でしょうか?私はプロ在籍時代、あるいは社会人野球都市対抗出場時、時間のある時に見に行くようにしていました。この鎮魂の碑の前に立つとなんとも言えない気持ちになります。石碑は外からでもご覧になれます。ご存知でなかった方や、この映画を観た方は、是非とも野球観戦のついででもよいのでご覧になってください。何かを感じ取れるのではないか、と思います。

この他にも、戦前カナダに移住した日本人の伝説の野球チームの映画「バンクーバーの朝日」(2014年/石井裕也監督/東宝)や、1931年の甲子園に台湾代表として出場し、日本中に感動を与えた嘉義農林高校野球野球部を描いた「KANO~1931海の向こうの甲子園~」(2014年/馬志翔監督/ショウゲート)、私の生まれる前の私の母校が映画化された「浪商のヤマモトじゃ!」part1~4(2003年/白岩久弥監督/GPミュージアムソフト)も楽しく観られました。最後に日本からモンゴルに野球を教えに行き、奮闘する元高校球児の青年を映画化した「モンゴル野球青春記」(2013年/武正晴監督/アールグレイフィルム)。私もいつしかモンゴルで野球が人気スポーツになってほしいと思っています。

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次回はフィクションの野球映画のお話をしますが、フィクションとはいえ、非常に楽しく、また感動を与えてくれたり、人を励ましたりするシーンが沢山あります。次回、もう一度だけ野球映画のお話に、どうかお付き合いください。


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