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3歳児の眼を、耳を、借りる日々

子どもと遊ぶリビング。小さな音でオスカー・ピーターソンをかけ流していた。「ラッパがうたってるね。」粘土をこねる子どもが言った。耳をすますと、トランペットとのセッションだった。

ラッパが歌ってる。トランペットのソロを人間のボーカルと同じふうに受け取るのだな、と意表を突かれた。人によっては当たり前の受け取りかたなのかもしれない。けれどわたしは童謡〜J-POPという日本の一般家庭によくある流れで音楽に触れていたせいか、若い頃はボーカルのない音楽はつまらないと思い込んでいた。3歳になりたての彼女の耳には、遊んでいる最中でも、トランペットの音色が人の声と同様に歌っているように豊かに届いている。そう思うと感慨深かった。わたしは日ごろ、耳から入ってくる音を知識とを結びつけて、何かしらの判断を下しているのだろう。その先入観を取り払うよう意識して、娘とともに耳をかたむけると、確かにラッパがうたうのを感じることができた。


入浴中、子どもが出し抜けにわたしの乳首をつまみ、「これはどこのおっぱい?」とたずねてきた。面食らいつつ「どこの?左のおっぱいかな」と答えると、「ひだりに動くおっぱい?」と。「左側についてるおっぱいだよ。おっぱいは動かないの」と説明したところ、「なんで?なんでおっぱいは動かないの?」と追求してくる。類似の例を提示しようと、彼女の体で動かせない箇所を探した。「鼻は動かないでしょ。それと同じ」と言うと、鼻腔を膨らませたりへこませたりと、わたしの説を打ち崩しにくる。「おへそ!」と言うと、腹をへこませる。確かになぜ胸は、自分の意志で動かせないのだ?わたしにも不思議に思えてくる。

「耳だ、耳は動かないよ。ね?体の場所によっては、動かせないところもあるんだよ。」さすがに彼女は耳を動かして見せることができず、納得してはいなさそうだったが、それ以上は追求してこなかった。われながら、答えになっていない応えだった。胸は脂肪だから動かせないのか?胸筋がつくと動かせるようになるか?・・・などと無駄なことを考えた。

どれもこれも、日常のささいなひとコマ。でも、彼女の視点を借りて新鮮な目で世界を見られることは、途方もない喜び。

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