見出し画像

総合内科・循環器の最新エビデンス 2023.1.

THANKOの15.6インチモバイルモニターを買ってみました。結構良いかんじです。それでは今日も最新論文を見ていきましょう。

有害事象のリスクが高いCOVID-19の成人患者に対する早期治療としてのMolnupiravir+通常ケア vs 通常ケア単独(PANORAMIC):オープンラベル、プラットフォーム適応の無作為化比較対照試験

Butler CC, et al. Molnupiravir plus usual care versus usual care alone as early treatment for adults with COVID-19 at increased risk of adverse outcomes (PANORAMIC): an open-label, platform-adaptive randomised controlled trial. The Lancet [Internet]. 2022 Dec [cited 2023 Jan 7]

Lancetは超有名医学雑誌です。そこに掲載されるということは、それだけ注目度が高く洗練されているということなのでしょう(多分)

オープンラベル試験、というのは医療スタッフや患者さん本人がどのような治療を受けているのか知っている状態で行われる試験のことです。そのRCTなので、エビデンスピラミッドとしては結構上のほうに値します。このピラミッドも細かいことを言うといろいろあるのですが、そこは今日はスルーで。

https://www.j-milk.jp/knowledge/food-safety/uwasa_ekigaku.html

‌さて、肝心の研究です。みんな大好きラゲブリオですが、パキロビットに比べてその効果が微妙そうだ、というのはこれまでも報告がありました。で、この研究では「2021年12月から2022年4月までに、入院していない、50歳以上(または18歳以上で関連する併存疾患がある)、過去5日以内に発症したCOVID-19症状があり、過去7日以内にPCRまたは迅速抗原SARS-CoV-2検査で陽性であった人」を対象に、ラゲブリオ群とプラセボ群で検討しています。

その結果は入院や死亡は減らさない(そもそも少ない)が、回復までの時間や症状の改善はラゲブリオ群のほうが優れていることがわかりました。その程度については抜群にすごいわけではないようで、細かい数字は論文を読んで確認してください。費用対効果という点ではちょっと微妙そうですね。

こういった知見を参考にしながら、患者さんのリスクを判断し、相談の上で抗ウイルス薬を処方するようにしています。

背景:SARS-CoV-2の経口抗ウイルス薬であるモルヌピラビルの安全性,有効性,費用対効果は,COVID-19による罹患・死亡リスクの高い地域のワクチン接種患者においては確立されていない.われわれは,この集団において,通常のケアにモルヌピラビルを追加することで,COVID-19 に関連する入院と死亡が減少するかどうかを確認することを目的とした.

方法: PANORAMIC試験は、英国を拠点とする全国規模の多施設共同非盲検多群前向きプラットフォーム適応無作為化比較試験であった。対象者は、50歳以上または18歳以上で、関連する併存疾患があり、COVID-19が確認され、5日以内、地域社会で体調を崩していた人でした。参加者は、モルヌピラビル800mgを1日2回、5日間投与する群と、通常のケアのみを行う群に、1対1で無作為に割り付けられました。無作為化には安全なWebベースのシステム(Spinnaker)が使用され、年齢(50歳未満 vs 50歳以上)およびワクチン接種状況(あり vs なし)で層別化された。COVID-19の転帰は,無作為化後28日間,自己記入式のオンライン日誌で追跡された。主要アウトカムは、無作為化後28日以内の全原因入院または死亡で、無作為に割り付けられたすべての適格参加者においてベイズモデルを用いて解析された。本試験はISRCTNに登録されており、番号30448031。

所見: 2021年12月8日から2022年4月27日の間に、26 411人の参加者が無作為に割り当てられ、12 821人がモルヌピラビル+通常ケア群、12 962人が通常ケア単独群、628人がその他の治療群(別途報告予定)に振り分けられました。モルヌピラビル+通常ケア群から12 529名、通常ケア群から12 525名が一次解析集団に含まれた。集団の平均年齢は56-6歳(SD 12-6)で、25708人のうち24290人(94%)がSARS-CoV-2ワクチンを少なくとも3回接種していた。入院または死亡は,モルヌピラビル+通常ケア群12 529 例中 105 例(1%),通常ケア群12 525 例中 98 例(1%)で記録された(調整オッズ比 1-06 [95% Bayesian Credible interval 0-81-1-41]; 優越確率 0-33).サブグループ間の治療交互作用のエビデンスはなかった。重篤な有害事象は、モルヌピラビル+通常ケア群では12 774例中50例(0~4%)、通常ケア群では12 934例中45例(0~3%)に記録された。これらの事象はいずれもモルヌピラビルとの関連はないと判断された。

解説: モルヌピラビルは,高リスクのワクチン接種を受けた成人の地域社会におけるCOVID-19関連入院または死亡の頻度を減少させなかった.

資金提供: 英国国立医療研究機構。

多枝病変を有する急性心筋梗塞におけるFractional Flow Reserveと血管造影ガイドの比較:無作為化試験

Lee JM, et al. Fractional flow reserve versus angiography-guided strategy in acute myocardial infarction with multivessel disease: a randomized trial. European Heart Journal [Internet]. 2022 Dec 20 [cited 2023 Jan 7]

韓国からの報告です。心筋梗塞の患者さんで、閉塞している血管以外の血管が細い場合、その血管を治療するかどうか悩みます。

冠動脈造影で、血管径が見た目で細ければステントを置いてしまうこともあれば、FFRという狭窄前後の圧を計測する方法で調べてからステントを置くかを調べることもあります。今回の研究では見た目 VS FFRで死亡・再治療・心筋梗塞の発生率について評価しています。

FFRを行ったほうがステントを置く数も少ないし、死亡等も少ないという結果でした。ちゃんと適応を吟味してPCIをする時代になってきていますね。若手循環器内科医の修練の場が減ってきているのではないでしょうか。。

目的: 急性心筋梗塞(MI)と多枝冠動脈疾患を有する患者において,非梗塞関連動脈への経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は死亡またはMIを減少させる。しかし、Fractional Flow Reserve(FFR)を用いた選択的PCIが、血管造影のみを用いたルーチンのPCIよりも優れているかどうかは不明である。今回の試験では,急性心筋梗塞と多枝病変を有する患者において,非梗塞関連動脈病変に対するFFRガイド下PCIと血管造影ガイド下PCIを比較することを目的とした。

方法・結果: 急性心筋梗塞と多枝冠動脈疾患を有し,梗塞関連動脈のPCIが成功した患者を,非梗塞関連動脈病変に対するFFRガイド下PCI(FFR≦0.80)または血管造影ガイド下PCI(50%以上の径狭窄)に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは,死亡,MI,再血行再建までの時間の複合とした。合計562名の患者が無作為化を受けた。そのうち60.0%が非梗塞関連動脈病変に対して直ちにPCIを受け、40.0%が同じ入院期間中に段階的治療が行われた。非梗塞関連動脈に対するPCIはFFRガイドPCI群64.1%、血管造影ガイドPCI群97.1%で行われ、FFRガイドPCI群ではステント使用が有意に少なかった(2.2 ± 1.1 vs 2.5 ± 0.9, P < 0.001 )。追跡期間中央値 3.5 年(四分位範囲 2.7-4.1 年)において,主要エンドポイントは,FFR ガイド下 PCI 群では 284 例中 18 例に,血管造影ガイド下 PCI 群では 278 例中 40 例に発生した(7.4% 対 19.7%; ハザード比 0.43; 95%信頼区間 0.25-0.75; P = 0.003 ).死亡は,FFR ガイド下 PCI 群で 5 例(2.1%),血管造影ガイド下 PCI 群で 16 例(8.5%),MI はそれぞれ 7 例(2.5%)と 21 例(8.9%),予定外の再灌流はそれぞれ 10 例(4.3%)と 16 例(9.0%)に発生した.

結論 :急性心筋梗塞と多枝冠動脈疾患を有する患者において,非梗塞関連動脈病変の治療として,FFR ガイドによる選択的 PCI 戦略は,血管造影による径狭窄に基づいたルーチン PCI 戦略よりも死亡,MI,再血行再建のリスクに関して優れていた.

‌スクリーニング大腸内視鏡検査における9分と6分の抜去時間による腺腫見逃し率の減少 多施設共同無作為化タンデム試験

Zhao S, et al. Reduced Adenoma Miss Rate With 9-Minute vs 6-Minute Withdrawal Times for Screening Colonoscopy: A Multicenter Randomized Tandem Trial. American Journal of Gastroenterology [Internet]. 2022 Nov 25 [cited 2023 Jan 7];Publish Ahead of Print.

私は大腸内視鏡検査を一度だけ受けたことがあります。結構痛くてお腹も張って苦しかったです。検査中は「早く終わってくれ…」という気持ちにもなるのですが、こちらの論文はゆっくり引き抜いたほうが腺腫の見逃しは少なかったよと被験者の思いに逆らうようなデータを示しています。
多施設研究ですので、単施設より信憑度は高まります。鎮静してでも、ゆっくりやったほうがよいってことなんでしょうかねぇ。

はじめに: 9 分間の平均離脱時間(m-WT)が最適な腺腫検出率(ADR)と関連するとしばしば報告されているが、スクリーニング大腸内視鏡検査に関する無作為化試験では、9 分間の m-WT が腺腫見逃し率(AMR)や ADR に影響を与えることは確認されていない。

方法: 多施設共同タンデム試験を11施設で実施した。無症状者733名を、9分休薬後6分休薬するセグメントタンデムスクリーニング大腸内視鏡検査(9分先制群、9MF、n=366)またはその逆(6分先制群、6MF、n=367)に無作為に割り付けた。主要アウトカムは病巣レベルのAMRであった。

結果: intention-to-treat解析により、9MFは病変レベル(14.5% vs 36.6%、P < 0.001)および参加者レベルのAMR(10.9% vs 25.9%, P < 0. 001)を有意に減少させたことが判明した。001)、進行腺腫見逃し率(AAMR, 5.3% vs 46.9%, P = 0.002)、多重腺腫見逃し率(20.7% vs 56.5%, P = 0.01)、高リスク腺腫見逃し率を検出効率を損なうことなく6MFの検出率(P = 0.79 )とした。さらに、腺腫の偽陰性率(P = 0.002)および高リスク腺腫(P < 0.05)、監視スケジュールの短縮率(P < 0.001)も9MFで低く、それに伴って9分対6分のmWTでADRが向上した(42.3% vs 33.5%、P = 0.02)。m-WTとAMRの独立した逆相関は、ADRを調整した後も有意であり、一方、9分間のm-WTはAMRとAAMRの独立した保護因子であることが確認された。

考察: 9分間のm-WTはADRを増加させるだけでなく,スクリーニング大腸内視鏡検査のAMRとAAMRを検出効率を低下させることなく,有意に減少させる.

RACING試験における糖尿病および動脈硬化性心疾患患者を対象とした中強度のスタチンとエゼチミブ配合の高強度スタチンの比較評価

‌Lee YJ, et al. Moderate-intensity statin with ezetimibe vs. high-intensity statin in patients with diabetes and atherosclerotic cardiovascular disease in the RACING trial. Eur Heart J. 2022 Dec 19:ehac709.

RACING試験は、動脈硬化性心疾患;ASCVDの治療において、中強度スタチン+エゼチミブ併用療法は高強度スタチン単剤療法の代替となりうるかの検証を目的とする医師主導の非盲検無作為化試験です。ロスバスタチン10mg+エゼチミブとロスバスタチン20mgを比較して、結果は非劣性でした。

どういうことかというと、著者によれば「高強度スタチン療法を要すると考えられるが、副作用のリスクが高い、またはスタチン不耐の患者では、スタチンの用量を倍増するのではなく、できるだけ早期に中強度スタチンへのエゼチミブの併用を考慮するアプローチを支持する」とのことです。

RACINGの本試験はこちら

今回の研究は、RACING試験参加者から糖尿病;DMを有する人だけで比較してみた、というサブグループ解析です。結果はDMがあっても非劣性のままだったよ、というものでした。

そもそも本試験のロスバスタチンの量がとても多いので、この研究をそのまま日本の実臨床に当てはめることはできません。過去にASCVDがある人はThe Lower is Betterといわれていますので、スタチンの増量が難しい場合は選択肢になるかもしれません。

目的: 本研究では、糖尿病(DM)と動脈硬化性心疾患(ASCVD)を有する患者を対象に、中強度スタチンとエゼチミブ併用療法と高強度スタチン単剤療法の効果を比較検討しました。

方法・結果 :本解析は,RACING試験のDMコホートにおける,事前に特定した層別化サブグループ解析である。主要評価項目は、3年間の心血管死、主要心血管イベント、非致死的脳卒中の複合とした。全患者のうち、1398例(37.0%)がベースライン時にDMを有していた。主要アウトカムの発生率は、エゼチミブ併用療法と高強度スタチン単剤療法に無作為に割り付けられたDM患者において、10.0%と11.3%だった(ハザード比:0.89、95%信頼区間:0.64-1.22、P=0.460)。耐容性に起因する試験薬の中止または減量は、各群でそれぞれ5.2%、8.7%に認められた(P = 0.014)。1年、2年、3年後のLDLコレステロール値<70mg/dLは、エゼチミブ併用療法群では81.0%、83.1%、79.9%、高強度スタチン単独療法群では64.1%、70.2%、66.8%の患者で認められた(すべてP<0.001)。全集団において,主要アウトカム,不耐性による投与中止または減量,LDL コレステロール値 70 mg/dL 未満の患者の割合に関する DM 状態と治療法の間に,有意な相互作用は認められなかった.

結論:RACING試験集団で観察されたエゼチミブ 併用療法の効果は,DM患者においても維持されていた。本試験は、DMおよびASCVD患者において、高強度スタチンが耐えられない場合、あるいはLDLコレステロールのさらなる低下が必要な場合、中強度スタチンとエゼチミブ併用療法が適切な代替療法であることを支持するものであった。

臨床試験登録: ClinicalTrials.gov, Identifier:NCT03044665.

編集後記;三連休初日。私と長男、次男は嘔吐下痢に倒れました。マキシマムスタンダードプリコーションをしていた妻だけ最後まで健在でした。外来でも腸炎症状の方がよく受診されるようになりました。みなさまも手洗いなどの感染対策に加え、ご家庭に嘔吐下痢対策予防セット(手袋、バケツ、次亜塩素酸水など)のご準備をおすすめします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?