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行列の出来る北町のお奉行所~ようかん~9日目
「へえ! あんたたち二人がねえ! いいじゃないか、いいじゃないか」
早速、お雪の話を聞いて、お千代が満足げに大きく頷く。
「でも、十三日を過ぎて淳之介様が死んでなければ……だけど」
少し恥ずかしげに俯いて、お雪は母にそう伝える。
「……女の魅力……を、あんたが使うのは無理だからねえ……」
美人と名高い自分に少しも似たところのない、小柄で赤ら顔の猿のような顔立ちの夫を、小さく可愛くま
行列の出来る北町のお奉行所~ようかん~10日目
翌朝、まるまると太って美味しそうな鯖の味噌煮が膳の上に乗っているのを見て、貞吾郎が目を見開く。
「……これ……船頭さんにおだしする鯖じゃねえのかい」
「それはそれ。これはこれですよ、旦那様。船乗りの皆さんには、もっと美味しそうな焼き魚、ご用意してますから」
お千代がにこにこと笑って、貞吾郎を座らせる。
「今日の朝餉はお雪が作ったんですよ。食べてやってくださいな。旦那様、お好きでしょう?