見出し画像

戦術的駆け引きが繰り返された首位攻防戦~ガンバ大阪対川崎フロンターレ 分析~[2020 J1]

全文無料公開。面白いと感じていただければぜひ投げ銭200円お願いします。

久しぶりとなってしまいましたが、試合分析をnoteに書いていきます。題材とするのは、8月1日に行われたJ1第8節のガンバ大阪対川崎フロンターレの一戦における「ガンバ攻撃、川崎守備の局面の戦術的駆け引き」です。この試合は、暫定ではあるものの1位・2位対決となりました。結果は川崎フロンターレが1-0で勝利し、7連勝。この試合の前まで4連勝をしていたガンバ大阪でしたが、5連勝はならず。

もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

序章 スコア&スタメン

ガンバ大阪0-1川崎フロンターレ
川崎:48'大島

スクリーンショット 2020-08-03 19.48.24

ガンバは、今シーズンの基本型である5-3-2を採用。ここ2試合(広島戦、神戸戦)はメンバー外となっていた小野瀬がスタメンに復帰した以外は、前節神戸戦と同じメンバーとなっています。
GK東口、3CBは左からキムヨングォン、三浦、高尾。WBは右に小野瀬、左に藤春。アンカーに井手口、IHに矢島と小野。2トップは渡邉と宇佐美。
川崎もシステムは今季の基本型になっている4-3-3。前節からのメンバー変更は二人で、守田・下田に代わって田中・大島が起用されています。
GKチョンソンリョン、4バックは右から山根、ジェジエウ、谷口、登里。中盤は底に田中、その一列前に大島と脇坂。左WGに旗手、右WGに家長。最前線は小林。

第1章 駆け引きの分析

では、試合分析に移ります。まず、ガンバの攻撃、川崎の守備の局面について。

スクリーンショット 2020-08-03 19.48.35

基本的な配置は上図の通り。川崎は、時々敵陣でのハイプレッシングを行うものの、多くの時間帯は自陣にブロックを組んで守備を行いました。WG家長、旗手は高めの位置をとるので主に4-3-3の並びです。
ガンバは3-1-4-2の並び。右CBの高尾(27)は、積極的に攻撃参加を行うのでSBのような役割を担っています。

スクリーンショット 2020-08-03 19.48.45

川崎は後ろの4+3で2ライン間にフィルターをかけつつ、WGが高い位置をとって外切り。サイドを使う選択肢を削り、中央に誘導する形で、リバプールのマネ・サラーのような守備でした。
この川崎の守備に対して、ガンバがどのように対抗したのでしょうか。前後半に渡って行われた戦術的な駆け引きを分析していきます。

スクリーンショット 2020-08-03 19.48.53

ガンバにとってラッキーだったのは、外切りを行う相手WG旗手、家長(30,41)と、それに伴う全体の守備が緩かったこと。相手WGは自分の背中を「ボカす」のみであり、徹底して外切りをするわけではなく、コースを消したところからプレッシャーをかけてくるわけでもない。
そのため、相手WGの外切りを剥がすことはあまり難しくなかったのです。右では高尾(27)が広がってパスを受けたり、三浦(5)から小野瀬(8)へサイドチェンジが入る。左ではキムヨングォンがボールを持っている時に藤春が少し降りて角度を作ってパスを引き出す。ガンバはこのような少しの工夫で相手WGを突破し、ボールを前進させることが出来ていました。
また、相手WGの背後を使えた場合に、そのWGの戻りが遅い。加えてWGの背後に侵入された時のIH大島、脇坂(10,8)のカバーリングも強度が高くないので、スペースがある状態で攻撃することが可能でした。川崎の、WGの外切りに伴う周辺状況の整備がされていなかったことはガンバにとってプラス材料だったのです。
そのため、サイドのトライアングルで数的優位を作り、コンビネーションで崩しにいけます。

スクリーンショット 2020-08-03 19.49.03

(右サイドは高尾(27)、矢島(21)、小野瀬(8)のトライアングル。左サイドは藤春(4)、小野(11)、宇佐美(33)のトライアングル。)
上記のように「WGの外切り」を上手く剥がせたことによって序盤の時間帯に上手く攻撃できたガンバ。
しかし、前半のうちに川崎も守備対応を微妙に変化させ、修正してきました。
その修正は「パスが出る前からSB登里、山根(2,13)が大外の相手WBを気にする」というものです。クーリングブレイク時に監督から指示があったのかもしれませんが、前半の中盤の時間帯から両サイドのSBが大外を気にするようになっています。
大外から前進されていたので、「先に大外を消してしまおう」という修正でしたが、この修正に対してガンバは再び解決策を見せます。
もう一度両チームの配置の噛み合わせをご覧ください。

スクリーンショット 2020-08-03 19.49.14

ガンバは前線に二人のWB(4,8),IH(11,21),CF(33,39)を配置しているので6トップのような形。そのため、川崎の2CBジェジエウ、谷口(4,5)はガンバの2トップに釘付けにされます。その時にSBがパスが出る前から大外のWBを消そうとすると、SBとCBのギャップ(いわゆるハーフスペース)が広がるので、IHのランニングによってそのスペースを突くことが可能に。
最初の狙いどころが「大外」だったのが、相手の微調整によって「SB-CB間」に変化したということです。
ここで、「SB-CB間」を活用したシーンを一つ紹介します。

スクリーンショット 2020-08-03 19.49.25

25:00~のシーンです。キムヨングォン(19)から裏へ走った宇佐美(33)に対してロングフィードが出るものの、少しパスが長くチョンソンリョン(1)にキャッチされたこのシーン。鍵となるのはガンバの前線と川崎のDFラインの駆け引き。
この時、川崎がプレッシング気味だったということも影響しているかと思いますが、パスが出る前から大外に張る左WB藤春に対して右SB山根(13)が食いつくことによってSB-CB間が広がります。それによってIHの小野(11)が噛み合わせ上フリーになるのですが、右CBジェジエウ(4)がスライドして小野につき、強引にハメ込みにいきます。そのため、宇佐美が2CB間でフリーに。そこを見つけたキムヨングォンからロングフィードが入りました。
このシーンのように、特に左サイドで何度かSB-CB間を有効活用できた場面はありましたが、前半に限ってはまだあまり回数は多くなく、駆け引きによる優位性をフル活用できていたわけではありませんでした。
しかし、前半の駆け引きによって得た優位性が持続していた後半になると、前半よりも上手く駆け引きを利用できるようになりました。

スクリーンショット 2020-08-03 19.49.35

後半は、井手口(15)と入れ替わってアンカーポジションに入る回数を増やしていた矢島(21)から小野(11)に縦パスが入るシーンが複数回あり、宇佐美(33)から藤春(4)へのサイドチェンジが入った後に内側の小野に入るシーンもありました。その中には、小野がペナルティエリア内でパスを受け、シュートを狙うビッグチャンスになったシーンも。
このようなプレーが増えてくると、川崎も再度微調整を行います。SBの意識の方向を大外ではなく中央に向け、よりSB-CB間に立つIHを気にするようになりました。
対するガンバも負けじと対抗。今度は相手SBがIHを気にすることによって開く「大外」から攻撃していきます。
ゴールが決まらないものの、戦術的な駆け引きで常に川崎の一歩先を行っていたガンバ。しかし、後半途中から、前半から行っていた「駆け引き」によって得た優位性を活用できなくなってしまいました。

第2章 駆け引きの行方

なぜ、ガンバ大阪は駆け引きによる優位性を活かせなくなってしまったのか。
僕は、「選手交代」だと考えています。ガンバは60分、65分、80分というタイミングで選手交代を行っていますが、結果に大きく影響したのは65分と80分でした。

60'小野→倉田
65'渡邉→遠藤,矢島→福田
80'小野瀬→パトリック

まずは、65分の交代から。
ガンバは48分の失点後、焦りが出てきたのかビルドアップのミスが増えてしまいます。そのタイミングでの遠藤投入というのは、「落ち着いてボールを回して攻撃しよう」というメッセージがあったと思われます。ガンバのプレースタイルや宮本監督の試合中のコーチングからすると、この選手交代はとても納得がいくものです。しかし、不味かったのは選手の配置でした。
遠藤が2トップの一角に入り、その相方を小野瀬が担当。宇佐美が左IH、福田が右WBに。
CF遠藤が中盤に降りてきて組み立てに加わり、左IH宇佐美も下がってボールを触りにくる。最前線に残った小野瀬もターゲットマンのようなタイプではない。そのため、基準点がないままどんどん低い位置に選手が下がってきてしまう現象が発生し、引き続き低い位置でのボールロストが見られました。
明確なメッセージを発するための遠藤投入という決断は良かったものの、必要以上に選手の配置をいじってしまったがために、シンプルな交代ならば得られていたはずの効果も得られませんでした。宮本監督なりの意図があったと思いますが、遠藤を入れるならシンプルに矢島と交代(矢島も良いパフォーマンスだったのですが...)し、アンカーに遠藤、右IHに井手口という形で良かったと思います。
前線に立つ人が少なくなり、低い位置でのボールロストも改善されず。この段階から、駆け引きによる優位性を失ってしまいます。

次に、80分の選手交代について。
こちらの交代は、シーズン再開後毎試合のように行われており、定石手となりつつある長身FW(渡邉、パトリック)を投入したもの。この交代では、同じく毎試合起こっている「放り込み以外の手段を自ら捨ててしまう」現象が今回も起きていました。
ビハインドなのでFWを投入するのは当然の選択であり、長身FW投入によって放り込みが重視されるのも当然。でも、手段が放り込みしかない状態では相手も対応しやすくなります。放り込み以外の手段を捨ててしまったことで、駆け引きの優位性がほぼ完全に失われました。
更に、前述したように65分の選手交代によって後ろにいる選手が多すぎる状態になってしまったので、パトリックが孤立。放り込みさえも効果が大きくなくなっていました。
また、終盤には三浦を上げてパワープレーをしていますが、得点には至らず。

この二度の選手交代によって、駆け引きによる優位性を失ってしまい、攻撃の歯車が噛み合わなくなりました。ただ、単純な采配ミスではありません。試合展開に沿った判断に基づいた采配であるものの、その采配のディティールが甘かった、ということです。遠藤を入れるだけではダメ、パトリックを入れるだけではダメ。選手を活かすための「周辺環境」がいかに重要で必須なのかがよく分かる試合となりました。

この章の最後に、川崎についても少し。川崎が後半立ち上がりの48分に先生ゴールを取ったからこそ、ガンバの駆け引きによる優位性の喪失を誘いました。詳しくは書きませんが、先制したことによって川崎がボールを保持している時にガンバが食いついてくれるようになったので、より一層川崎のパスワークが活きる展開に。
前半は相手に主導権を握られるも、後半最初のチャンスをモノにしたことで一気に主導権を引き寄せてしまった。川崎の試合巧者ぶりも光っていました。

第3章 駆け引きの今後

ここまで攻撃におけるガンバと川崎の駆け引きについて分析してきました。この試合、先手で駆け引きを行っていたのはガンバ。
しかし、気になるのは「全体として意図を持って駆け引きができていたのか」ということです。なぜかというと、相手に合わせた具体的なアイデアがあるのかが不透明だからです。
ここまでの宮本ガンバの試合を見ていると、自分たちのやりたいプレーは明確にあるものの、相手に対して柔軟性を持って攻撃しているようにはあまり感じられませんでした。質の高い選手が揃っているのでプレスを剥がしたり、スペースを見つける・使うことは上手いと思います。ただ、チーム全体で共通の狙いを持って相手の守備の弱点を使いにいくことはまた別で、その部分がガンバは弱いと考えています。
常に「相手に対する柔軟性」を持って「対相手」のアイデアを全体で共有、実践に移せるかが、戦術的な目線で見た時に今後のシーズンの鍵を握るポイントになるでしょう。

終章 総括

第1章
・ガンバが3-1-4-2で攻撃、川崎は4-3-3で守備。
・川崎WGの外切りをシンプルに回避することに成功。
→大外で数的優位を作って攻撃。
・川崎はパスが出る前からSBが相手WBを気にする形に微調整。
→これを逆用し、噛み合わせ上フリーになるIHを活用してチャンス創出。
・今度は川崎SBが内側のIHを気にするように。
→ガンバは大外からいく。
・ガンバが常に駆け引きで優位性を得ていた。
第2章
・ガンバは選手交代によって駆け引きによる優位性を喪失。
・65分渡邉、矢島→遠藤、福田
→「落ち着いて攻撃しよう」というメッセージの遠藤投入だったが、必要以上に配置を変化させたことによって効果は得られず。
・80分小野瀬→パトリック
→「放り込み以外の選択肢を自ら捨ててしまう」現象が発生。
→65分の選手交代によって後ろに人が溜まっている状態なので、パトリックも孤立。
・川崎の試合巧者ぶりが、ガンバの駆け引きによる優位性の喪失を誘発した。
第3章
・チーム全体で意図を持って駆け引きをしていたのか?
→個々人のレベルは高いが...
・これまでの試合だと、相手に対する柔軟性はあまり見られていない。
・「対相手」がシーズンの鍵を握る。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

ここから先は

122字

¥ 200

ご支援いただいたお金は、サッカー監督になるための勉強費に使わせていただきます。