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今季好調!鳥栖が「あえて」加える一工夫~2021 J1 4節 清水vs鳥栖~

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はじめに

 今回題材とする試合は、J1第4節の清水エスパルス対サガン鳥栖。新監督ロティーナを迎え、大幅に選手を入れ替えて昨季の低迷からの復活を狙う清水と、金明輝体制で合計4年目、待望のスタートダッシュに成功し、今季のダークホースになりそうな予感のする鳥栖。互いに狙っていたもの、組織立ったプレーを出し合った好ゲームは、両者ゴールをこじ開けることはできず0-0のスコアレスドローで終了。ゴールこそ生まれなかったものの、中身は非常に濃く、見応え抜群の90分だったと言えます。
 この記事では、「鳥栖の攻撃」にフォーカスし、鳥栖の立ち位置の取り方に見える特徴、その狙いを分析していきます。

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第1章 両チームの初期配置

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 まず、清水の守備時、鳥栖の攻撃時の初期配置を確認しておきます。
 清水は5-3-2のブロックで、ブラジル人の2人を最前線に配置。
 鳥栖は、SHが中央に立ち位置を取る4-2-2-2。しかし、純粋な2CHではなく、仙頭は左に寄った立ち位置を取るため、少し左右非対称となっていました。

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マッチアップは上図の通りです。

第2章 最初は同数。そこに意味がある

 ここから、清水の守備を踏まえた上で、具体的に鳥栖の攻撃を分析していきます。

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 清水は、基本的にゾーン2にブロックをセットし、鳥栖の攻撃を待ち構えるような態勢から守備を始めます。時に、特に後半の序盤の時間において、ハイプレスも行っていました。
 一方の鳥栖は、ボール保持を重視。その中で、2CBファンソッコ(20)、エドゥアルド(3)の中間もしくは左脇に松岡(41)か仙頭(44)が降りて後ろの枚数を3枚にして相手2トップに対して3vs2の数的優位を作り出します。自陣の低い位置では、GK朴(40)が2CB間に入ってビルドアップに参加する形も見られました。
 また、ハーフスペースに位置取るSH小屋松(22)、樋口(10)の立ち位置は流動的。反対に2トップの林(8)と山下(9)は、常にDFラインヘ張り付いており、足元へパスを引き出すアクションは少なく裏へ飛び出す意識が強い。SBの中野(47)と飯野(24)は、あまり高い位置を取らずにビルドアップへ参加します。

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 清水は、2トップのチアゴサンタナ(9)、カルリーニョス(10)が縦関係になってボールを持つCBへのプレッシャーとAC松岡(41)のケアを両立。相手が可変をして後ろを3枚にした場合は、右IH鈴木(23)を前に出して(左IH河井は出ない)前線の枚数を2枚から3枚に増やし、3vs3の数的同数にすることで対抗します。
 ここで注目したいのは、そもそも鳥栖が、あえて後ろを2枚にした状態から、松岡or仙頭(or朴)を降ろして(上げて)3枚にする理由です。ここに、鳥栖の狙いが隠れているはずです。
 なぜ、わざわざ2枚にしてから3枚に可変するのでしょうか。相手が2トップなのはスカウティングで分かっていたはず(5バックか4バックかはさておき)ですから、最初から松岡(仙頭)を降ろして3枚にしちゃった方が良いのでは?
 あえて2枚の状態から松岡or仙頭or朴が立ち位置を変化させているのは、「相手のアクションを誘発し、5-3-2ブロックに隙間を作るため」でしょう。最初から後ろを3枚にして、2トップに対して3vs2を作っている状態では、既に数的優位があるため「立ち位置を動かす」ことの必要性が薄れます。更に人を降ろすと、後ろに人が溜まってしまうためです。
 しかし、相手は中央の人口密度が高い5-3-2ブロックを敷いているため、「動き」がないことにはブロックの中へ侵入できず、ゴールから遠い場所へ追い出され続けてしまいます。
 ただ、留意すべきなのは、「鳥栖が、清水の5-3-2を予測していた可能性は低い」ということ。清水は、今季開幕からの3試合において、いずれも4-4-2ブロックを採用していたためです。
 よって、鳥栖が清水の5-3-2を予測していたとは考えにくいものの、4-4-2であっても最前線は同様に2枚であることに加え「動き」無しには相手のブロックに弾き返され続けることは変わらず、鳥栖の「準備したこと」と「ピッチ上でやったこと」の間に大きな差異はないと思われます。
 わざと「中盤から人を降ろす」という工程を加えることで相手のアクション、この試合でいえば鈴木のプッシュアップを誘発することにより鈴木がいた場所が空きます。当然、清水はそのスペースを他の選手のスライドで埋めようとするので連鎖的に他のスペースが生まれていきます。
 このように、最初は2枚にしておいて、後から「動き」を入れることで、相手のブロックに綻びが生まれるきっかけをつくる。ここに狙いがありました。
 また、降りる(上がる)人を固定せず、「松岡、仙頭、朴の内の誰かで3枚にする」形で選手達に自由度を残しておくことで「誰が降りるか、どこに降りるか」が変わるので相手の迷いを誘発できる、という考えもあったでしょう。

第3章 集まっているのか、集めているのか

 この章では、後ろを3枚にして鈴木のプッシュアップを誘発した後、どのようにボールを運んでいくか。この部分について見ていきます。

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 上図のような位置で仙頭(44)がパスを受けた場合、左SH小屋松(22)、左SB中野(47)が仙頭の近くに立ち位置を取ります。その時、2トップ林(8)&山下(9)は降りて来ないため2ライン間で出口を作るアタッカーがいない状態になってしまいます。「ボール周辺・後ろに味方が集まりすぎている」と言えそうな状態です。ボール保持を重視し、チームとして組織的にボールを運んでいくことを目指す鳥栖にとっては、ポジションバランスが崩れていることと同じ状態であるため、あまり好ましくないように思えます。
 しかし、本当にそうでしょうか?この少し特徴的な立ち位置の取り方の意図を分析していきます。
 考えられる選択肢としては、以下の3つでしょう。

①意図的に選手を集めている
②過度に選手が集まってしまっている(ポジションバランスを失っている)
③両方の側面がある

 僕は、③だと考えています。つまり、意図的にボール周辺へ選手を集めている側面がありながらも、過度に集まってしまっている側面とが隣り合わせに存在している。
 まず、「①意図的に選手を集めている」側面について。自分達がボール周辺へ選手を集めれば、相手の選手も同じように集まってきます。よって「近く」の人口密度が高まり、「遠く」の人口密度が低下します。具体的に「遠く」とは、DFラインの背後と逆サイドの二つです。相手は5-3-2(予め予測していた可能性が低いことは先述の通り)であるため、短いパスの連続による中央突破だけは中々難しい。
 しかし、少し極端にでもボール周辺へ選手達を集めてしまえば遠くがガラ空きになるので、近くを飛ばして一気に遠くのスペースまで持っていく選択肢が生まれます。
 ボール保持がベースにあり、「近く」におけるプレス回避能力を有した上で、「遠くのスペースへ向かって縦に速く」という別の選択肢を持っておくことで攻め方の幅、相手の守り方に対しての対抗策の幅を広げる。こんな狙いがあって、「意図的に選手を集めている」のだろうと思います。
 2章で触れた「2枚から3枚への可変」と同じように、わざとボール周辺・後ろのエリアへ多めに選手を配置することでボール方向への「相手のアクションを誘発」し、元いた場所が空くように仕向けている。そのための一工夫である、と考えられます。

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 実際に、この試合においては後述する②の側面も影響し、ボール周辺でプレスを外してそのままブロック内へ侵入していく回数は少なく、チャンスの多くは中盤を経由して逆サイドに展開し、相手がブロックを組み直す前に中央のアタッカーが2ライン間へ侵入するという流れから生まれていました(上図2つを参照)。
 以上のような狙いがあるという前提に立てば、選手起用&配置にも合理性が見出せます。2トップに裏抜けや泥臭さ、空中戦に強みがある林と山下が先発起用されていることから「一気に遠くまで持っていく」ことへの意識が感じられますし、SB中野&飯野があまり高い位置を取らないことには(リスク管理だけでなく)、「前に出過ぎないことで、相手WBが食いついた時に生まれる背後スペースが広がる」という考えがあるのかもしれません。

 反対に、「②過度に選手が集まってしまっている(ポジションバランスを失っている)」とはどういうことか。時に「意図があるとはいえボール周辺・後ろに選手が集まり過ぎている」場面があるということです。

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 「近く」に味方・相手を集めて「遠く」を空ける、という狙いがあったとしても、逆SHまで低い位置にいる場面が多く、流石に「集まり過ぎ」と受け取れる場面も多く見られました。
 そうなると、ボール周辺で「2ライン間に侵入できる」状態を作れても2ライン間に人がいない(2トップの立ち位置の固定性も一因)ので侵入できない。ゴールへの最短ルートを捨ててしまっている状態です。
 逆SHまで後ろに下がっている必要はないと思いますし、「遠く」を強調した2トップの人選であっても、もう少し「近く(2ライン間)」を使うアクションがあった方がゴールへ近づく回数は増えると思います。
 以上から、ポジションバランスが崩れ過ぎている場面も見られたため、狙い通りのアクションが大部分を占めているわけではなく、「過度に選手が集まってしまっている(ポジションバランスを失っている)」という側面がまだまだあるのも実情だと考えます。
 26:50~では、左でのビルドアップにおいて小屋松が降りてエドゥアルドから受けるも、後ろ向きだったため相手のプレッシャーを真っ向から受けてしまい、中央の仙頭に入れるもロスト。ショートカウンターをくらい、カルリーニョスにネットを揺らされるもオフサイドでノーゴール、という場面になっています。ボール周辺に味方と相手を集めた状態の中で、相手も集めることのデメリットが出た形で第ピンチを迎えました。

第4章 39:45~

 4章では、3章まで分析してきた鳥栖の狙いがよく分かる39:45~のシーンを紹介します。

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 ハーフウェイライン付近右で右CBファンソッコ(20)がボールを保持している状況ですが、上図のように飯野(24)、樋口(10)、山下(9)らがボール周辺に位置取っており、それに合わせて相手もボール方向へ人数をかけています。相手は5-3-2なので近くと真ん中のスペースが埋まっているため、樋口や山下、林(8)、小屋松(22)がランニングで「遠く」のDFライン背後を狙う。加えて逆サイドには仙頭(44)と中野(47)。ファンソッコは近くを飛ばして逆サイドの仙頭へロングボールを配球します。

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 ファンソッコ→仙頭(44)で敵陣左の深い位置へボールを運んで相手を押し込み、仙頭→中野(47)→小屋松(22)で更に深い位置(ポケット)へ侵入。

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 小屋松(22)へのパスゴールライン際をえぐってから、5-3-2の構造上空きやすい手前のスペースへ戻し、受けた仙頭(44)のアーリークロスから山下(9)がヘディングシュート。ゴール右隅へ向かう際どいシュートだったものの、GK権田(37)のセーブに阻まれる、というチャンスシーンでした。

 ボール周辺に味方・相手を集めた上で遠くの選択肢を作って逆サイドへ展開、相手がブロックを組み直す前に押し込んでしまって、手前からのアーリークロスで決定機。まだDAZNにアーカイブが残っているので、実際に見てもらえるとよりわかりやすいかと思いますが、鳥栖の狙いが非常によく分かるシーンです。

第5章 後半の修正

 最後に、後半に金明輝監督が行った選手交代と、恐らく修正されたであろうポイントについて。
 まず、後半の開始から、SHが効果的なポジションを取る回数が前半よりも増えました(回数は、あくまで主観です)。先述したような必要以上に後ろに降りてしまっている場面が減り、2ライン間で縦パスを引き出してボールを前進させるプレーが見られるようになりました。
 それによってチーム全体がより良いポジションバランスでプレーできるようになったことは、清水を押し込み続けた一因でしょう。
 また、62分の選手交代(林→本田)も効果的でした。山下と本田が縦関係のようになり、本田が2ライン感を衛生的に動き回ることでより一層ビルドアップがスムーズになっていました。
 この2つの変化を踏まえると、金明輝監督も、3章で言及した「近く・後ろに集まり過ぎる」現象が気になっていたのかなと僕自身は推測しています。

終わりに

 ここまで鳥栖の攻撃の設計、考え方について見てきました。Mシティのようないわゆる「ボール保持型」のチーム、ボールを握ることで試合の主導権を握るチームと毛色は似ている鳥栖。しかし、Mシティらがしきりに、ポジショナルプレーに紐づく「5レーン」や「ポジションバランス」という言葉で論じられる一方で、鳥栖なりの「ポジションバランス」があるとするなら、それは少し違ったものであるように思います。一般的な「ポジションバランス」を若干崩し、「近く」と「遠く」を強調したものが鳥栖流の「ポジションバランス」なのかもしれません。
 この試合の清水を押し込み続ける様は見事でしたが、やはり課題は決定力でしょうか。もちろん権田のナイスセーブは光っていましたが、相手を圧倒し、再現性を持ってチャンスを作れた試合だっただけに勝ち点3をとりたかったところ。既に5得点を挙げ大勝する試合も作っているので、いかに継続してその得点力が発揮されるか。そして、相手に対策された中でどれほど再現性高くチャンスを作り続けられるか。鳥栖、今後も要注目です。

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 最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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