日本対コロンビア_1

日本対コロンビア 分析 ~南米の強豪に五分。しかし勝つために足りていない重要なモノ~ [キリンチャレンジカップ2019]

2014年のブラジルでは1-4敗戦、4年越しの再選となった2018年のロシアでは立ち上がりにコロンビアのC・サンチェスが一発退場で、一人多い状況になったこともあって、何とか大迫のヘッドで2-1勝利。GL突破に繋がりました。そして今回は、アジアカップで日本が3-0で破ったイランの監督を務めていたカルロス・ケイロス監督が監督に就任した新しいコロンビアとの親善試合です。良い勝負はしましたが、0-1で敗戦。五分に戦えたが、勝てなかった理由、両監督の采配の差を分析していきます。

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アジアカップまでの課題はこちらで分析しています↓

ゴール 日本 0 : 1  コロンビア

コロンビア 64' ファルカオ(PK)

スターティングメンバー

日本は、森保体制では初出場の山口、昌子が先発、酒井宏樹が招集されていないので右SBには室屋が入り、A代表初招集の札幌でプレーする鈴木がCFを務めます。コロンビアは、ハメス、ファルカオ、ムリエル、サンチェス、ミナ等世界的な知名度を誇る選手たちがスタメン入り。

日本 守備 ~森保監督の戦術か?選手のインテリジェンスか?~

まずは日本の守備からです。

マッチアップはこの通りです。

両チームが4-4-2なので、がっちりハマる噛み合わせになっていますが、上図のように、コロンビアはボランチのバリオスが2CB(ミナ、サンチェス)間に下りて、3バック化し、日本の2人の第一プレッシャーライン(鈴木、南野)に対して3対2の数的優位を獲得し、前進しようとしていました。それに対して日本のプレッシングを見ていきます。

このように、第一プレッシャーラインの2人(鈴木、南野)は、相手ボランチを消すバックマークプレスでCBにプレッシャーをかける守備が上手く、常時それができていました。次に、この試合で多く見られたシーンを紹介します。

右CFの南野が左CB(サンチェス)にバックマークプレスをかけて、左SB(マチャド)にパスを誘導。そして、左SB(マチャド)がボールを持つと、右SHの堂安も、相手ボランチを消すバックマークプレスをかけ、左SBに日本の右SBの室屋がボール奪取を狙っている左SHのムリエルにパスを入れるか、CBにパスを戻してもう一度組み立て直すか、という選択を迫る、というシーンが多く見られました。

上図は9分5秒のシーンで、南野がバックマークプレスで左CBから左SBにパスを出させ、堂安もバックマークプレスをかけて先ほど書いた2つの選択肢を迫り、左SBは左SHのムリエルにパスを入れたので、狙い通り室屋がインターセプトしてボールを奪いました。このシーンは、とても素晴らしい、連動して相手の次のプレーを限定し、ボールを奪えたシーンです。また、

この図のように、CF、またはSHが、バックマークプレスでボランチを消しきれないシーンがありました。この図で言うと、ボールを持っている左CB(サンチェス)から、ボランチ(レルマ、バリオス)へのパスコースが2つあるので、(3バック化しないこともあります)南野が、消しきれない状況です。その時は、ボランチが出て行ってマークし、相手ボランチにパスを出させないようにし、消していました。

ここまでの説明をすべて重ねると、この図のように、CF、SH(右SHの堂安のみ)、ボランチの3重層で相手のボランチを消している、ということが分かります。では、相手ボランチを消すと何が良いのか、ということですが、もう一度この図をご覧ください。

まず、ボールを前に運ぶ、相手のブロックに進入する手段として、「パス」「ドリブル」の2つがあります。

この図のように、中央から日本のブロックに進入するパスルートは、ボランチだけです。なので、ボランチを消すことで、中央からのパスでのブロック進入を防ぐ事ができます。そして、「ドリブル」でのブロックに進入するルートは、CBの持ち運びです。それも、2トップが対応できていたので、「パス」「ドリブル」どちらの手段でのブロック進入ルートを消せているので、中央封鎖をすることができたことになります。なので、中央を封鎖しているのでコロンビアは、サイドから攻めるしかありません。このようにして、コロンビアの攻撃をサイド、サイド、という外回りの攻撃にさせていました。

ここまでの守備を見ていくと、中央ではCFがバックマークプレスで相手ボランチを消し、サイドでは右SH堂安がこちらもバックマークプレスでボランチを消し、CF、SHが消しきれないポジションに相手ボランチがいればボランチがマークして消し、中央封鎖でコロンビアの攻撃を外回りにさせた、というものですので、組織的であることが分かります。

僕は、アジアカップ決勝の分析で、「プレー原則」がないので、選手の中で共通理解がなく、組織的なプレーができていない、と書きました(よければ、この記事の最初にリンクを貼っていますので、ぜひ読んでみて下さい)。しかし、この試合では組織的なプレー(守備)ができていたのなら、アジアカップから修正されている、森保監督がプレー原則を落とし込み、戦術を構築した、と考える事ができます。しかし、この試合も、事前に森保監督、スタッフによって構築された戦術でプレーしていたことはないと思います。なぜなら、まだ触れていない、左サイドの守備が、ほったらかしだったからです。

左サイドの守備 ~対応はできていたが、スムーズでないのはなぜ?~

ここまでは、右サイドの守備について書いてきましたが、ここからは左サイドの守備を分析します。まず、左サイドの守備における重要事項からです。

はい、上図のように、左SHの中島は、基本的に下がる守備はしておらず、前残りをしようとするので、守備での貢献度は低いです。なので、中島の背後で、フリーでコロンビアの右SB(パラシオス)にパスを受けられていて、左SBの佐々木が、1対2の数的不利になっています。では、この状況をどう日本は解決したのでしょうか。

このように、左ボランチの山口が左サイドにスライドして対応していました。しかし、こうすると、2ボランチがスライドすることになるので、右ボランチの柴崎の右脇に大きなスペースができてしまいます。なので、その柴崎の右脇に展開されてしまうと、決定的なチャンスを作られてしまうでしょう。しかし、

この図のように、右SHの堂安が内側に絞ることで、山口、柴崎、堂安の3ボランチのようになり、柴崎の右脇のスペースを埋めていました。

ではここからこの試合の日本の守備が、森保監督らスタッフが構築した戦術でない理由を説明します。まず、中島が下がらないことで、左ボランチの山口がスライドして対応したわけですが、この山口のスライドがスムーズではありませんでした。山口のスライドは、「俺がスライドしないとしゃーないんかな・・・」というような感じで、明らかに曖昧で、想定外のハプニングが起こったかのように見えました。しかし、中島がこのようなあまり下がっての守備をしないプレイヤーである、ということは、選手も、監督もスタッフも理解しているはずです。ユベントスのC・ロナウドとマチュイディの関係や、リバプールのWGとIHの関係とは、中島と山口の関係は、大きく違っていました。

ではここで、そのユベントスとリバプールという、世界のトップレベルのクラブの、前残りするSH/WGの背後で相手SBにボールを持たれたときの対応を見てみましょう

まずユベントスは、左WGのC・ロナウドは、全く下がりません。なので、相手の右SBに、C・ロナウドの背後で自由にボールを持たれます。しかし、ユベントスのアッレグリ監督は、そんなことは当然理解しているので、きちんと左IHのマチュイディにスライドして対応する、というタスクを与えていますし、この図には書きませんでしたが、右WGにディバラではなくベルナルデスキを起用した場合には、この試合の堂安のような、内側に絞ってスライドした第二プレッシャーラインの右脇のスペースを埋める戦術も落とし込んでいます。

そしてリバプール。図のように、WGが攻め残りするために、SB-CBのパスコースをバックマークで消し、自分が戻らなくて良い状況を作っています。しかし、90分の中で、100%これが遂行できるわけではなく、もちろんSBにパスを入れられてしまうこともあります。ですが、そうなった時の対応、戦術も落とし込まれていて、相手SBにパスが入れば、すぐにIHがスライドして対応します。相手SBにパスが入りそうになった時点でIHが相手SBの方にスライドを始めているシーンもあり、徹底されています。

この2つのチームの事例のように、予め、攻め残りするSH/WGの背後で相手SBにパスを受けられたときの戦術をしっかり落とし込んで入れば、スムーズに対応することができます。なぜなら、練習からその戦術の落とし込みに取り組んでいるわけですから、この試合の山口のように「予想外の出来事」と感じることはなく、予測ができ、想定内の出来事だからです。両チームとも第二プレッシャーラインがスライドして対応する、という日本代表と同じことをしていますが、その事態の対応策を落とし込んでいて、予想外の出来事になっていないことが大事なわけです。この試合では、この左サイドの守備が、失点に繋がったりすることはありませんでしたが、これから当然中島はチームの中心選手として起用していくわけですから、中島の背後をどうケアするのか、というのもこの日本代表の課題です。

ここまで、日本の守備は、森保監督はじめスタッフによって構築された戦術でプレーしていたわけではない、ということを書いてきました。では、全て選手の判断なのでしょうか。僕は、そうなのではないか、と考えています。南野、鈴木、堂安のバックマークプレスは、元々出来る選手ですし、堂安は内側に絞ってスペースを埋めるカバーリングもできます。そして、ボランチのCF、SHが相手ボランチを消しきれない時にマークして消すプレーも、そこだけ落とし込んでる、ということは考えにくいので、山口と柴崎の判断、インテリジェンスという可能性が高いと思います。

そして最後に、65分から香川が入り、香川の上手いプレッシングによって、ロングボールを蹴らせることができたシーンがあったのですが、香川のプレッシングに全体が連動して奪いに行く事ができておらず、後ろの反応が良くなかったことも気になりました。点を取りにいかなければならない状況で、最前線の選手が効果的はプレッシングをかけているので、そこは全体が連動して、ボールを奪いに行ってほしいな、と思いました。

コロンビアの修正 ~ 試合を決めたケイロス采配~

ここまで書いたように、問題があったとはいえ、日本は無失点で試合を進めていました。しかし後半、コロンビアのケイロス監督は、しっかり日本の弱点を見抜き、修正を施します。

後半、ケイロス監督は、何度も「右サイドを使え!」という声であったり、中島の背後を指さすようなジェスチャーで指示を出していたようです。なので、前半の45分で、日本の左SHの中島は守備時下がらないので、右サイドで数的優位の状態で攻撃できる、そこでボランチが対応してきたら中央にスペースができる、という事を見抜いていたのでしょう。しかし、この日本の左サイド狙いよりも、効果的な修正がありました。それが、57分の選手交代です。

57分 ビジャ→ サパタ

このサパタという選手は、セリエAのアタランタでプレーしていて、リーグ戦最初のゴールを取るまでには時間がかかりましたが、そこからはゴールを量産しているフィジカルがとても強いストライカーです。この選手交代で、サパタとファルカオの2トップになり、トップ下でプレーしていたハメスが右SHに入り、4-4-2になりました。

サパタが入った後、サパタが日本の2CB(冨安、昌子)に張り付き、日本のDFラインを上げさせず、押し下げていました。サパタが2CBを張りつけていることで、2CBは、前に出て行くと、サパタとどちらかのCBが、1対1になる、というとても危険な状況になるので、ファルカオについて行く守備ができません。なので、失点シーンは、サパタが冨安を張りつけ、昌子は距離が遠かったので2人共ファルカオに寄せる事ができず、ファルカオにライン間でフリーで受けられ、左に開いたサパタに繋がり、サパタの精度の高いクロスの流れから、冨安がサパタのシュートをブロックしたところでハンドを取られ、PK。ファルカオに決められました。このケイロス監督の見事な修正で、コロンビアが決勝点となるゴールを決めました。

日本 攻撃

では日本の攻撃について。

日本は、コロンビアと同じようにボランチの片方が2CB間に下りて3バック化し、コロンビアの2人の第一プレッシャーライン(ハメス、ファルカオ)に対して数的優位を獲得してビルドアップを優位に進めるようなことはしていました。

しかし、その数的優位を作り出して1人のフリーを作ったことはいいですが、それを生かすコンセプトや、プレー原則はなく、効果はあまり出ていませんでした。なので、攻撃のコンセプトとしては、良く言えば選手の個性を生かす、悪く言えばプレー原則がなく、選手に丸投げ。僕は、後者の方が近いと思います。後方でボールを回している間に、ライン間にポジショニングしている堂安や南野が縦パスを引き出し、そこに入れて、コンビネーションでの中央突破を狙う。上手くいっているシーンを見ると、魅力的な攻撃なのですが、それしかバリエーション、崩しの手段がないので、どうしてもアタッカー任せになってます。これだと、今回のコロンビアのような力のあるチームだと、とても激しいマークにアタッカーが自由を奪われ、攻撃が停滞し、点を取る手段がなくなってしまいます。W杯で勝つためには、もちろん今の攻撃も魅力的ではありますが、もっと組織的な、相手の弱点を突くであったり、攻撃側にとって重点である幅を取ってからのインサイドレーン攻略、というような攻撃戦術が必要になります。

そして、ビハインドを負ってから、香川、乾、小林、鎌田と攻撃的な選手を4人投入しますが、その選手たちにどんなタスクを与えて、どのように崩してゴールを狙うのか、という狙いは見えず、それでも香川がコンスタントにボールに触ったり、狭いスペースでパスを受けたりして、チャンスを作ることはできていましたが、ここでも選手のアイデア任せなので、もったいない感じがしました。

総括

守備 CF、SH(堂安)、ボランチの3重層で相手ボランチを消す、という守備を見せたが、左サイドの中島の背後のケアが、対応できたとはいえど曖昧に行なっていたことから考えても、森保監督、スタッフが構築した戦術でプレーしていたのではなく、選手の守備のインテリジェンスによって行われたもの、という可能性が高い。また、コロンビアのサパタ投入などの修正に対しての修正はできず。

攻撃 ボランチの片方が下りて3バック化し、相手の2トップに対して3対2の数的優位を作る、という工夫が見られたが、その数的優位を生かすプレー原則は見られず、アタッカーの個人能力、コンビネーションに依存した攻撃は変わらず。ビハインドを負った後にも香川、乾、小林、鎌田という攻撃的なキャストを投入するが、その選手たちをどう生かすか、という狙いは見られず、アタッカーの能力を最大限に生かすことはできなかった。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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