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[リーグ最少失点]札幌は天敵?鳥栖が嫌がる『個人戦』~2021 J1 14節,15節~

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はじめに

 J1序盤戦、強烈なハイプレスや組織的な攻撃、歴史的に受け継がれてきたハードワークを武器にリーグを席巻しているサガン鳥栖。中でも失点数の少なさはリーグナンバーワン。16試合を消化した時点でたったの7失点しか喫しておらず、その強固かつアグレッシブな守備は勝ち点3の源となっています。
 守備の仕組みについては↓の記事で分析しているので詳細は譲りますが、その緻密な守備のどこに、攻略する余地があるのでしょうか。サッカーに完璧な戦術は存在せず、どんな戦術にも必ず弱点があります。今回は、いくつかのチームの鳥栖に対する対抗策を見た上で、最も効果的な攻略法について考えていきます。

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第1章 ケース①:J1 14節 大分トリニータ

 最初に、14節で大分が用意した攻略法について見ていきます。

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 大分は、3-4-2-1ベースの左右非対称システムを採用。3CB三竿(3)、坂(4)、小出(15)を右にスライドさせた形です。
 一方、この試合の鳥栖は普段よりも少し低めの位置に5-3-2ブロックをセットしました。大分の「疑似カウンター」と呼ばれるような、自陣に相手を引っ張り出してからのひっくり返しを狙うビルドアップを封じ込むためのプランだったのでしょう。

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 左右非対称であるため、右と左で若干の変化が見られましたが、狙っていたのは「5バックへの数的同数の有効活用」でした。
 右サイドでは、右WB松本(7)がウインガーのような高い位置を取ることで、相手左WB中野(7)をロック。右SB気味に振る舞っている小出(15)に対して、相手3センターの横スライドで対応させます。

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 相手3センターを外へ引っ張り出し、ボールへ寄せて来る左IH仙頭(44)の背後に右シャドー町田(8)が降りる。右CH羽田(47)もサポート。加えて、右WB松本(7)とCF高澤(9)は裏を狙う。
 ライン間でビルドアップの出口を作ろうと試みる町田に対し、相手左CB中野(47)が食いついてきた場合はその背後が空くため、高澤や松本のダイアゴナルランで背後スペースを狙う。
 重要なのは、前線に松本、町田、高澤、渡邉、香川の5人を5レーンに一人ずつ並べ、5バックに対して5vs5の数的同数を作っていること。従って松本は左WB中野と1vs1、高澤はCBエドゥアルド(3)に対して1vs1。DFラインの背後における1vs1では、突破できた瞬間に決定機になるため攻撃側に優位性があります。
 背後スペースを消すためにステイした場合は、町田がフリーになるため町田に縦パスを通せばビルドアップ成功。この時も前線は5vs5の同数ですから、大分は相手の5バックを晒した状態で攻撃することができます。
 そもそも左WB中野が「松本によるロック」という前提条件を破壊し、小出に対して縦スライドでプレッシャーをかけてくるのであれば、松本が中野の背後で完全フリー、1vs0の状態になるので一発で背後へ蹴り込めばいいわけです。

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 左サイドにおいては、左WB香川(2)がビルドアップを助ける立ち位置を取ることで相手右WB飯野(24)を引っ張り出し、背後へスペースを創出。そこへ左シャドー渡邉(16)が走り込む。人への強さはある反面、特段の敏捷性やスプリント力があるわけではない相手右CBファンソッコ(20)に対し、スペースがある状況で渡邉をマッチアップさせれば優位性を得られる。こんな思惑があったと思われます。

 以上の通り、大分は鳥栖の5バックに対して5トップを当てて最前線に5vs5(1vs1が5つ)の数的同数を用意。その前提条件に左右の配置のズレを上乗せさせ、得られる優位性を最大化するためにマッチアップをオーガナイズすることで5vs5の優位性を最大化する狙いを持っていました。
 2CH下田、羽田の立ち位置も非常に正確であったため高い頻度で鳥栖の5バックを攻略するかと思われましたが、プレスを誘発した後の掻い潜る局面でミスが連発。あと一歩でチャンス、という場面でのミスが多く、思ったようにチャンスを作ることはできませんでした。
 しかし、戦略の観点において大分が準備したものは、非常に優れていたと言えます。

第2章 ケース②:J1 15節 鹿島アントラーズ

 この章では直近の15節で鹿島アントラーズが用意していた攻略法について。

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 鹿島はベースが4-4-2で、2トップの荒木(13)と土居(8)が縦関係でした。
 鳥栖も2トップの山下(9)と本田(23)が縦関係となる5-3-1-1。大分戦よりも高い位置にブロックをセットし、普段通りのプレッシングを行いました。

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 鳥栖は、2トップの山下(9)と本田(23)で中央を封鎖し、2人の脇へ流れる相手左CB町田へのパスにIH樋口(10。上図と対応)が縦スライドでプレッシャー。それに連動して全体が圧縮していきます。

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 鹿島は、大分のように5バックに5トップをぶつける形ではなく、前線の選手がユニットとして動きをつけながらビルドアップの出口を作っていく考え方でした。
 後ろは基本4バックですが、時に左CHレオシルバ(4)が2CBの中間に降りたり右SB廣瀬(22)が内側に絞ったりして3バックに可変し、相手2トップへ数的優位を生み出す場面もよく見られました。
 上図に倣って左サイドを例にするならば、前線はCF土居(8)はDFラインに張り、ポストプレーやコンビネーションへ備える。左SH白崎(41)が左ハーフスペースで縦パスを引き出し、トップ下気味の荒木(13)が2ライン間を動き回り、相手のボール方向へのスライドに生じる隙間を突く。右SH(27)松村は、常にDFラインの背後を狙う。
 荒木に対しては、土居がいるため真ん中のCBエドゥアルド(3)は無理。エドゥアルドに対するカバーリングの必要性と自分の背後のスペースを虎視眈々と狙っている松村の存在により、左CB中野(47)も出ていけない。3センター樋口(10)、松岡(41)、仙頭(44)はボールへボールへ、の意識でスライドするため、その流れに逆らう直線的に降りる動きには対応しづらい。
 つまり、土居と松村が相手CBエドゥアルド、中野をロックする役割を果たすことで、荒木を解放する。
 前述のシチュエーションでは考えにくいですが、相手CBがロックを無視して前に出てくるのであれば土居や松村が裏のスペースを攻略できる。

 大分の前線に1vs1を複数準備し、優位性を得た状態での1vs1を増やす方法ではなく、よりユニットとして前線でダイナミズムを出しながら相手のハイプレスの隙間を縫っていく考え方でした。
 ただ、ユニットでの打開を挑むと、必然的に「組織vs組織」の構図となります。この図式でいくと、鳥栖の守備もリーグ随一の強度と緻密さを誇っているためにある種鳥栖の土俵で戦っている状態が生まれます。実際、現状の鹿島のスカッドでは鳥栖のプレス強度に耐えうるスペックを有している選手が多いわけではないため、ハイプレスに捕まる場面の方が多く見られました。

第3章 vs鳥栖の最適解とは

 ここまで2チームのそれぞれ異なる考え方の攻略法を見てきましたが、結局のところ鳥栖が一番嫌がる攻撃とはどんなものでしょうか。それは、大分と鹿島で言えば、大分に近いものだと考えます。要するに、「3CBの其々に対して1vs1を用意し、『個』でバトルする回数を増やす」ということ。二つ理由があります。
 一つ目に、前述した「組織vs組織」の構図、つまり鳥栖のボールサイド圧縮への真っ向勝負は得策とは言えない。鳥栖のハイプレスの性能から考え、接近戦を挑むと狩られ放題になりかねない。鳥栖のハイプレスを凌駕するようなプレス耐性を備えている選手が大部分を占めるようなチームであれば、話は別。しかし現状J1の中でそんなチームは決して多くないはずです。
 二つ目に、3CBは高水準の万能型ではない。ファンソッコには球際の厳しさがあり、エドゥアルドにはカバーリング能力の高さ、中野にはスピードや対人の強さがあります。しかし3人とも特別身長が高いわけではなく、とてつもないフィジカルやスピードがあるわけでもありません。現時点ではチームとしての練度やGK朴のカバー範囲の広さもあって「個」の質を「組織」として補い合う関係が成り立っているから堅守が築けていると言えます。
 以上から、相手チーム目線とすれば「組織vs組織」ではなく「個人vs個人」の勝負を仕掛け、3CB其々の不足しているクオリティを炙り出すような戦略。これが鳥栖が最も嫌がる攻撃だと考えます。
 当然チームによって所有している選手は全く違っており、出来ること出来ないことも様々です。ただ、「個人vs個人」の勝負を挑めるチームの方が鳥栖に対する相性は良いであろうということです。

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 具体例を挙げるとすれば、例えば3-4-2-1で、大分と同じように5バックに対して5トップをぶつける。

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 相手2トップに対しての数的優位を活用して3CBで相手IHとWBを引っ張り出し、相手3CBと3トップの3vs3が強調されるような局面を作り出す。
 そして、レーンの概念に囚われず、3トップがユニットとして3CBを攻略することを目指す。ここで「さっきの話と違う」と感じる方がいるかもしれません。前章で「ユニットで打開を挑むと組織vs組織になるから不得手だ」と書いたばかりですから、当然でしょう。
 しかし、結局のところ「ミックス」です。「個人vs個人」のニュアンスが主体であったとしても、選手間の相互作用が失われては意味がありません。従って「個人vs個人」のバトルを前面に押し出したとしても、ユニットでプレーする必要がある。
 混同してもらいたくないのは、だからといって「個人vs個人」と「組織vs組織」が並立した存在ではありません。前者の方が優先順位は高い。「3CBの其々に対して1vs1を用意し、個人戦を仕掛ける」というアイデアが大前提にあった上で、ユニットとしてプレーする要素が乗っかるイメージです。
 例えば上図のように、ボール側のシャドーは相手右WB飯野(24)の背後のスペースへ斜めに走り込み、CFは真ん中のCBエドゥアルド(3)をロック。反対側のシャドーが斜め前に降りてライン間でパスを引き出す。
 レーンの概念を尊重し、各レーンに一人ずつ立つ状態に固執してしまうと3CBに掴まれてしまう。レーンが云々というよりかは「CBをロック×斜めで突き刺す」イメージで3トップがプレーし、3CBの届かない場所を突く回数を増やせるか否か。
 この攻略法を実践するには、後方のビルドアップ能力はさることながら、裏へ抜けるスピードやキープ力、フィジカルでゴリ押しできる力があるアタッカーが必須になります。意図的に1vs1を作って勝負させる設計なので、食いついてくる相手を単独でグイッと剥がす能力が求められるからです。端的にまとめてしまえば「質的優位」です。
 そして、鳥栖の3センターは非常に広範囲をカバーするため、素早く逆サイドへボールを持っていければスライドの遅れを誘発することができる。従って、端のCBからGKへ戻して、GKからスムーズに反対側の端のCBへ送り込んで鳥栖の2トップの脇へ、というプレーが可能であれば、尚更良いと思います。

 以上を踏まえると、鳥栖が次に対戦する札幌は、この攻略法を実践するにはピッタリのチームではないかという予想を立てられます。システムも同じ3-4-2-1で、チームとしてのベースがあった上でパワフルで技術のある外国人選手が揃っている。その他には、マリノスのようなチームもアタッカー陣の抜群のスピードやスキルを前線に押し出してプレーするチームですので、鳥栖がとても嫌がる相手なのかもしれません。

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 最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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