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[破壊力]鳥栖の『ハイプレス』がヤバい理由~2021 J1 12節 鳥栖vs徳島~

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はじめに

 今回は、サガン鳥栖vs徳島ヴォルティスの一戦から、「鳥栖のハイプレス」について分析します。
 序盤に見せた勢いだけでなく、粘り強さも身に付けながら勝ち点を積み上げている鳥栖。現在3位に位置付けているチームにとって、得点源は組織的な攻撃だけではありません。実は、ハイプレスからのショートカウンターで奪っている得点も多いのです。直近の徳島戦でも、先制点はショートカウンターから生まれました。
 なぜ、相手は鳥栖のハイプレスにハマってしまうのでしょうか。

第1章 スコア&スタメン

サガン鳥栖 2-0 徳島ヴォルティス
55'山下
75'仙頭

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 両チームのスタメンは上図の通り。
 強烈なアタッカー陣を抱える名古屋、FC東京に対しては4-4-2を採用していた鳥栖ですが、この試合では今季のベースである5-3-2に戻しました。直近のリーグ戦からは1人のみ入れ替え。
 徳島は、今季新たに加入したCバトッキオが初スタメン。直近のリーグ戦(vs柏 1-5で敗戦)からは5人が入れ替わりました。

第2章 初期配置と徳島の概要

 守備側の鳥栖について見ていく前に、両チームの初期配置と攻撃側の徳島の概要を確認します。

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 鳥栖は、通常の5-3-2ではなく、樋口(10)を前に出して3トップ気味の配置で守備を行いました。狙いは後述します。
 徳島は、ベースは4-2-3-1ですが左SB田向(2)が少し絞った立ち位置を取り、左CHの鈴木(23)は少し高め、右SH小西(7)は内側へ。よって左右非対称な配置になっていました。徳島が、鳥栖が2トップでくることを想定していたと仮定すれば、田向を2トップの脇に立たせることで噛み合わせを外す思惑があったでしょう。田向でズレを生み出し、ライン間にいる二列目3人で出口を作るプランでした。

第2章 ハイプレスの全体像

 ここからが本題。なぜ鳥栖のプレッシングは威力抜群なのか。いかのように6つのフェーズに分けて仕組みを分析します。

①配置
②意志(どれくらいの高さから、どれくらいの強度で)
③守備の基準
④トリガー
⑤追い込み方・奪い方
⑥逆サイドの管理

 ①配置は、前述した通り樋口を前に出した5-2-3気味。敵陣にブロックを組み、ゾーン3まで出てハイプレスを実行(②意志)。相手GKへのバックパスに対してもCFがプレッシャーをかけるため、非常に攻撃的な守備だと言えます。マンツーマンは採用しておらず全員がゾーン。基準はボールの位置にあり、ボールに対して最短距離にいる選手がプレッシャーをかけていきます(③守備の基準)。

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 ただ、片っ端からハイプレスをかけていくわけにはいきません。この状況ならGO、この状況ではステイ、という基準が必要です。基準がないと、CFが100%でプレスをかけているのに味方が連動していないからあっさり前進される、といった場面が出てきてしまいます。逆に全部に対してGOサインが出てしまうと、スタミナが持ちません。
 鳥栖には、全体が群れとなって相手に襲いかかるための基準、「トリガー」がきっちりと設定されています。それは「CBからSBへのパス」です(④トリガー)。相手CBからSBへのパスをトリガーに全体が連動し、高い強度のプレッシャーをかけ奪いにいきます。
 従って、SBへのパスが出るまではステイ。2トップの山下&林(9,8。2トップの右に樋口をくっつけた擬似3トップというイメージなので、2トップという違和感のある表記についてはご了承ください)が、相手アンカー岩尾(8)を消しながら相手CB、GKへ牽制程度のプレッシャーをかけ、中央からの組み立てを妨害。片方が背中で相手アンカーを消しながらボール保持者へプレッシャーをかけ、もう片方がそのアンカーをマークするという守備です(上図参照)。2トップの守備によってサイドへパスを出させ、そのタイミングで全体がスイッチON。
 以上から、中央を封鎖してサイドへ追い込み、サイドで相手に襲いかかるようなプレスをかけて奪う(⑤追い込み方・奪い方)。こういった全体像が見えてくると思います。
 仮にサイドチェンジされたとしても、後ろが5枚なので逆WBがプッシュアップして対応できます(⑥逆サイドの管理)。

第3章 なぜ再現性高くボールを奪えるか

 前章で説明したような全体像があった上で、どのようにして再現性高くボールを奪い、ショートカウンターを繰り出しているのか。⑤追い込み方・奪い方にフォーカスしてより深く見ていきます。

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 SBへパスを出させたら、全体をボールサイドへ圧縮し一気にスペースを狭めて相手を圧迫します。ポイントは、ボール周辺の「第一波」だけでなく「第二波」も用意していること。第二波が必要な理由は二つあります。
 一つ目に、保険の役割。ボール周辺に対してプレッシャーをかける仕組みしか用意されていないと、そこを突破された時の対処法がない。突破された場合、グイグイボールを運ばれてしまいます。第二波を用意しておくことで、第一波を突破されかけたとしても第二波で仕留められる。それが無理でも相手の攻撃を遅らせて、致命傷を負うのは防げます。
 二つ目に、第一波を担う選手の精神的なサポートになること。後ろに第二波が備えていれば、例え自分たちが突破されてもカバーがあるので思い切って奪いにいけます。もし第二波がなければ、前述の通り突破された場合に致命傷を負うため精神的な恐れが生まれ、第一波でさえも高い強度で奪いにいく事はできません。

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 さらに重要なのは、「圧縮の仕方」です。第二波まで用意されている事が前提条件としてあった上で、圧縮しているだけでボールを奪うことは出来ません。現代サッカー、どのチームも守備側のプレッシングを剥がすための仕組みを持っているため、勢いだけの守備ではあっさり攻略されます。
 鳥栖のボールサイド圧縮には「四方を塞ぐ」仕組みがあります。上図に示したように、パスを受けた相手左SB田向(2)に対して右WG樋口(10)が中切りでプレッシャーをかけ、アンカー松岡(41)は中央へのルートを塞ぎ縦パスが入ったら圧縮(両者共に左を塞いでいる)。右CBファンソッコ(20)と右WB飯野(24)が縦パスを迎え撃つ(前方を塞ぐ役割)。更に、相手左CB石井(5)へのバックパスにはCF林(8)が対応できる位置に立ち相手アンカー岩尾(8)へは逆CF山下(9)がついていく(両者は後ろを塞ぐ)。タッチラインが右を塞ぐ。
 このように、前後・左右、つまり四方を塞ぐプレッシャーのかけ方をすることで相手の逃げ道を奪っているのです。逃げ道がないから、必然的にボールを奪えるということです。

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 一度で奪えなかったとしてもボールサイド圧縮を続け、より一層スペースを狭めて相手を囲い込みんで奪いにいきます。

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 ボールを奪えたら、目指すのはもちろんショートカウンター。意識しているのは「逆ハーフスペース」で、密度の高いボールを奪ったエリアから素早くボールを逃がし、CFもしくは中盤の選手が逆ハーフスペースに入ってそこでパスを受けようとします。もちろん、奪った勢いでフィニッシュに行ける状況ならそっちを選択します。

 ボールを奪う過程において、全体の献身性や強度の高さは当然のことながら、特筆すべきは2トップの林&山下の守備貢献度の高さでしょう。ボールから遠い方のCFがボールの近くまでスライドして相手アンカーを抑えるという守備は、豊富な運動量と献身性が要求されます。世界を見渡しても、この守備を継続して行えるFWはそう多くはいません。しかし、山下と林はそれをやり続ける。それだけでなくプレスバックもしてくれる。2人の抜群の献身性が鳥栖のハイプレスの原動力となっているのは間違いありません。
 また、エドゥアルドがDFラインの真ん中にいることで、プレッシングを剥がされてもエドゥアルドがカバーしてくれるという安心感と、GK朴の守備範囲の広さも強気な守備を可能にしている大きな要因でしょう。

第4章 vs徳島

 徳島戦においては、通常の5-3-2に微調整を加え5-2-3気味にしたことが功を奏しました。

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 徳島は、柏戦でも左SB(柏戦では、田向ではなくジエゴがスタメン)が内側へ絞って左右非対称の配置でビルドアップしていました。そのため鳥栖側は、徳島の左SB(2)が特徴的な立ち位置を取ってくることは想定済みだったはずです。だから通常の2トップだと田向にズレを生み出されると考え、樋口(10)を前に出したのでしょう。
 この徳島対策により、樋口が田向を待ち構えている状態を作れたため田向にボールが入ってもズレは生まれず、むしろプレッシングが嵌めやすくなっていました。
 徳島の方も後半は純粋な4バックにして対抗していましたが、鳥栖のハイプレスを攻略するには至らず。鳥栖側が大きく上回っていました。
 名古屋、FC東京と対戦した2試合では4-4-2を採用しており、この試合も含め、ベースの5-3-2に固執せず相手に合わせて自分達のやり方を最適化させる試合が複数あるのは、柔軟性の現れでしょう。

第5章 55分 先制ゴールのシーン

 ここまで見てきたハイプレスの実例として、徳島戦の先制ゴールの場面を紹介します。

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 徳島はアンカー岩尾(8)がDFラインの真ん中へ降りてビルドアップを行っています。鳥栖はゾーン3でブロックをセットし、睨みを利かせている状態。

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 真ん中を閉めている状態で真ん中に縦パスが入ってきたので、左中野(47)が迎撃し右CH松岡(41)と左CH仙頭(44)が圧縮。3人で即座にスペースを潰してボール奪取に成功します。

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 奪ったボールを右WG樋口(10)へ繋げ、樋口から左へ流れたCF山下(9)へ。山下はファーストタッチを完璧に決めて、右足でニアへシュート。リフレクションがあってコースが変わりゴールイン。
 ブロック内へ入ってくるボールに対して迅速に圧縮してスペースを潰し、ボールを奪ったらショートカウンター発動。素早く樋口へ逃し、2トップが体の向きがゴールに向くように整えながら裏へランニング。最後の山下のシュートまで全てがうまくいったシーンでした。
 このシーン以外にも、横浜FC戦の2点目もハイプレスによる敵陣でのボール奪取から生まれています。

おわりに

 今回は、鳥栖のハイプレスとショートカウンターについて見てきました。しっかりと合理的で具体的な仕組みが落とし込まれており、必然的にボールを奪える守備になっており、だからこそ再現性高くショートカウンターへ持ち込める。鳥栖の守備には、欧州のチームを見ているようなモダンな雰囲気があります。Jリーグの中でも屈指の精密さでしょう。13試合を消化した現時点で、鳥栖のハイプレスを攻略できる仕組みを見つけ実際に得点を奪った、というチームは未だ存在しません。この事実が鳥栖のハイプレスの機能性の高さを証明しているのではないでしょうか。
 逆に言えば、列記したトリガーの設定や四方を塞ぐ追い込み方はハイプレスを行うにあたっての必須要素となっており、抜け落ちていればそのチームがハイプレスを機能させることは難しい。Jクラブにとって、鳥栖の機能的でモダンなハイプレスはお手本のような存在だと言えるかもしれません。

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