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目指していたもの、起こっていたこと。~川崎vsガンバ 分析~[第100回天皇杯決勝]

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今回は、元日に行われた天皇杯決勝、川崎フロンターレ対ガンバ大阪の試合をガンバ大阪目線で分析していきます。
ガンバがこの試合で目指していたものを「目的」と「プレー原則」で整理しながら、実際に起きていた事象と照らし合わせて「試合をうまく運べなかったわけ」を探りたいと思います。

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序章 スコア&スタメン

川崎フロンターレ1-0ガンバ大阪
55'三笘
<選手交代>
川崎フロンターレ:
79'ダミアン、三笘→小林、長谷川
85'旗手→車屋
89'大島→脇坂
ガンバ大阪:
73'山本、藤春→渡邉、福田
81'小野瀬→塚元
<イエローカード>
ガンバ大阪:
45+2'パトリック

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川崎は、リーグ戦最終節の柏戦(3-2)からは5人変更、直近の天皇杯準決勝の秋田戦(3-0)とは同じメンバーの11人が起用されました。フォーメーションも4-3-3。
対するガンバは、リーグ戦最終節の清水戦(0-2)から3人、直近の天皇杯準決勝徳島(2-0)戦からは1人が変わった11人が選ばれています。フォーメーションは、今季一度も使っていない5-4-1(3-4-2-1)を採用しており、「vs川崎」色の濃い戦い方を選択しました。

第1章 守備の分析

この章では、まずガンバの守備局面の分析をしていきます。今季絶対的な強さでリーグ優勝を果たした川崎に対して、ガンバはどのようなゲームプランで挑んだのか。各局面での「目的」と「プレー原則」を整理した上でその辺りを見ていきます。

まず、「プレッシング」「ブロック守備」「守→攻」の3局面におけるガンバの狙いを整理しておきます。プレー原則の番号(①、②)は、優先順位を示しています。

[ガンバ大阪のコンセプト]
<プレッシング>
目的:
「危険なスペースを埋めた上で前に人数をかけ、パスを引っ掛ける」
プレー原則:
①5-4-1ブロックをゾーン2で維持し、高重心を保つ。
②徐々に前へ人を出して圧力をかけ、入ってくるボールを迎撃する。
<ブロック守備>
目的:
「ゴール前を固めて、相手がブロック侵入を図ったところで引っ掛ける」
プレー原則:
①ブロック内に入ってくるボールを5+4で迎撃し、スペースを潰して奪う。
②迎撃を掻い潜られても、最終的にはゴール前の人海で跳ね返す。
<守→攻>
「素早く前線に配球した上でより効果的なプレーを選択する」
①パトリックをターゲットとし、そこへ人数を集めて起点を作る。
②スペースが残されていればカウンター、消されているならボール保持。

以上のようにガンバのゲームプランを整理しました。この記事では、以上の項目に基づいて分析していきます。

<プレッシング>

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キックオフ直後の時間帯、ガンバはゾーン2で5-4-1ブロックをセットした状態から川崎に対してプレッシャーをかけ、ボールを奪いに行く姿勢で守備を行いました。
5-4-1で2ライン間を人海で埋めることによる危ないスペースのケア(原則①)。スペースを埋めることで後方で短いパスを回させ、後ろの人海から人を前に出して行ってそのパス回しを狙い撃つ(原則②)。この二つを両立することがガンバの狙いでした。

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プレッシングのかけ方は、上図に示したとおり。後ろから人が出て行って相手を掴んでパスコースを潰していき、ブロック内へ入ってくるボールを迎撃。もしくはミスを誘う。
実際、前半の立ち上がりは何度かゾーン2でパスを引っ掛けることが出来ていました。
狙い通りにボールを奪えたら、<守→攻>のプレー原則で示したようにまずは最前線のパトリックに当てて、パトリックの近くへ宇佐美や倉田が集まって起点を作ります。そこからカウンターに行けるならGO、無理ならボール保持に切り替えて攻撃を組み立てます。
ただ、川崎の攻→守の切り替えも迅速なので、パトリックで起点を作ってからではカウンターを打つのは難しい状態でした。

以上が、ガンバが<プレッシング>の局面で行っていた守り方と狙っていたものです。
では、対する川崎はどのように攻撃を行ってガンバの守備を攻略しようとしたのでしょうか。

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川崎のビルドアップのベースはボール保持と4-3-3。
しかし、田中(25)や守田(6)が頻繁にDFラインヘ降りたり家長(41)が中盤へ顔を出す、三笘(18)が中央へ入ったりと選手達は流動的に動きます。ある程度ランダムに立ち位置を変動させることによって、相手を混乱させ、ずれを生み出して前進する糸口を作る狙いです。

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加えて、ショートパスだけではなく時々最前線のダミアン(9)へのロングボールを意図的に織り交ぜます。それによって相手DFラインに「背後を突かれる恐怖」を植え付けて押し下げ、2ライン間のスペースを広げる目的です。
以上の「立ち位置を変動させながらのボール保持」と「ダミアンへのロングボールによるDFラインの押し下げ」の二つを組み合わせたビルドアップを行います。

前述したように、序盤はガンバのプレッシングによって何度かゾーン2でパスを引っ掛けられる場面があった川崎。しかし、ガンバのプレッシングの弱点を突いてチャンスを作り出す場面も同様に生まれていました。
弱点とは、「相手がプレッシングをかけてくる時、相手MFラインの背後はスカスカになる」ということです。

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上図をご覧ください。ガンバのプレッシングは後ろからどんどん人が出て行って相手を「掴む」特徴があることは前述したとおり。それは、反対に考えれば「相手を掴んだ選手の背後は空く」ということ。
ガンバがプレッシングを仕掛けるときは常に「前へ、前へ。人に、人に。」でした。その分ボールを持っている選手の近くにあるパスコースは潰すことができるものの、皆んなが人を掴みに行くのでスペースを埋める役割を担う選手がいない。実際に、図に示したように人を掴みに行くCH矢島(21)、山本(29)の背後が無防備になっている場面が頻繁に見られました。
よって、「相手がプレッシングをかけてくる時、相手MFラインの背後はスカスカになる」。川崎は、立ち上がりから相手MFラインの背後で大島や家長らをフリーにしてガンバのプレッシングを外し、チャンスを何度も作っていました。

序盤、何度かゾーン2で奪うことが出来ていながら、反面プレッシングをひっくり返されて大ピンチも作られていたガンバ。総合的に見て、<プレッシング>の局面での守備はメリットよりデメリットの方が大きくなってしまっていました。
よって、前半15分を過ぎたあたりから、ゾーン2でのプレッシングを捨て、自陣に引き込まざるを得なくなったのです。

<ブロック守備>

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自陣に押し込まれたガンバは、5-4-1でブロックを組み、まずは<ブロック守備>の原則①に示したようにブロック内へ入ってくるボールを迎撃することを狙います。もし迎撃守備を突破された場合は、5-4-1の利点である「後ろの人数の多さ」とJ1屈指のゴールキーパー東口の力でなんとか凌ぐ。
ボールを奪うことが出来たら、前述のように<守→攻>のプレー原則に基づいて自分達で主導権を握ることを目指します。
しかし、実際には押し込まれた状態から主導権を握り返すことはできず、反対にずっと川崎に攻められ続ける展開になっていきました。
理由として、ガンバの<ブロック守備>における弱点を二つ挙げます。

①「どこで奪うか」がボールの近くと遠くで揃っていない
②エリア内での役割分担の曖昧さ

この二つが原因で、押し込まれた状態から陣地回復ができず、苦しい時間帯が続きました。
まずは①から説明します。
①は、ガンバがプレッシングで抱えていた問題と同じです。ボールに近い選手が相手を掴みに行くものの、ボールから遠い選手は連動しておらず、MFラインの背後(2ライン間)がスカスカになってしまう、という現象。
プレッシングの局面と同じように、ボールに近い選手達のみで人を掴みに行ってしまうことでMFラインの背後に大きなスペースが空いてしまい、そのスペースで川崎の選手にフリーでボールを受けられるシーンが何度も見られました。
②は、エリア内に侵入された後の守備対応で発生していた問題です。詳しくは後に実際のシーンを用いて説明しますが、誰がどこを守るのか、が明確になっておらず、不用意にシュートチャンスを与えてしまっていました。
また、これはエリア内に侵入される原因となるプレーからの影響を強く受けるので、①とも密接に関係しています。

では、ガンバの<ブロック守備>の問題点が実際にはどのような形で表れていたのか。そして川崎がどのようにしてその弱点を突いてチャンスを作っていたのか。実際の場面を二つ用いて説明します。

まずは、14:00~の場面です。
この場面は本格的にガンバが自陣へ閉じ込められる時間帯よりは少し前の場面ですが、<ブロック守備>における問題点がよく分かる場面でした。
大まかな流れはこうです。
[1]川崎が敵陣左サイドでボールを保持。ボール保持者である守田に対して山本が前に出てプレッシャーをかけ、連動した倉田、小野瀬が守田からパスを受けた旗手に寄せる。伴って、高尾が横スライドで三笘をマーク。
[2]山本、倉田が前に出たことで空いた2ライン間のスペースで田中が受け、前に飛び出した大島へ。
[3]大島が裏を狙ったダミアンへスルーパスを通す。
[4]ダミアンが三浦のスライディングタックルを交わして右足シュートを打つが、東口がキャッチ。

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[1]では、上図のようにボールに近い山本(29)、倉田(10)、小野瀬(8)、高尾(27)が前に出て行きました。それにより、山本と倉田の背後(2ライン間)、小野瀬の背後、高尾の背後のスペースが空いています。
この場面のようにボールに近い選手が連動して前に出ていく場合、全体が呼応してボール方向へスライドすることが不可欠です。しかし、ボールに近い選手だけで奪いに行ってしまったので、結果的に相手へ複数のスペースを与えてしまうことになりました。
そして、守田→旗手→田中で2ライン間のスペースへ侵入されます。これが前述した問題①「『どこで奪うか』がボールの近くと遠くで揃っていない」です。

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次に、2ライン間へ侵入された直後の[2]について。この時、ボールに近い選手だけで行われたプレッシングを剥がされた上に、三浦(5)がダミアン(9)にピン留めされており、矢島(21)のスライドが間に合っていない(これもボールに近い選手だけでのプレッシングの影響)ので中央が無防備な状態になってしまっています。そして、三浦と高尾(27)のギャップに侵入したフリーの大島(10)へパスが渡ります。

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[3]では、パスを受けた大島(10)に三浦(5)が寄せざるを得ません。しかし、後手に回っているため大島には前を向く余裕があり、三浦が大島へ寄せたことで瞬間的にフリーになったダミアンへスルーパスが出ます。
三浦がダミアン、大島に対して1vs2の数的不利で対応することを強いられており、かなり危険で、対応が難しい状況になっていることが分かります。

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そして最後の[4]です。抜け出したダミアン(9)に対して三浦(5)が早いタイミングでスライディングをしてしまい、切り返されてシュートを打たれました。このシュートは東口(1)の正面に飛んでいるのですが、三浦を交わしたことでダミアンは完全なフリーになっているので、ゴールが決まっていても全くおかしくない場面でした。
この場面では、三浦の対応に問題②「エリア内での役割分担の曖昧さ」が表れています。三浦がスライディングをせず、冷静にファーへのシュートコースを切っていれば、ニアは東口が守れていたので「的確な役割分担」によって決定的なピンチになるのを避けられていたはずです。ギリギリのタイミングではスライディングをすることも必要ですが、この場面では三浦のスライディングは早すぎていました。
とは言え、完全にプレッシングを外され、ボール保持者が余裕を持った状態でエリア内へ侵入されたことが、三浦の対応を引き起こした前提条件になっていることは忘れてはなりません。

また、[3][4]でもう一つ注目してもらいたいのがパトリックの立ち位置です。後手に回った守備対応によって空いた矢島の左脇のスペースに家長が走り込んでいたので、危機を察知した最前線のパトリックが下がってスペースをケアしています。この危機察知のみを見れば良い守備だと言えますが、チームとしてはどうでしょうか。パトリックがスペースを埋めるために下がっていることは、奪った時の頼りどころが無くなる、というのを意味します。<ブロック守備>の問題が<守→攻>にも連鎖して悪影響をもたらしていたということです。

もう一つ、29:10~の場面も紹介します。
一連の流れはこうです。
[1]川崎が敵陣右サイドの深い位置でボールを保持。
[2]山根がドリブルで藤春を突破してゴールライン際をえぐり、マイナスへクロス。守田がスルーしてダミアンがシュートを打つが東口の正面。

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まず[1]から。上図を見てもらえれば分かるように、この場面でも14:00~のシーンと同じように、問題①「『どこで奪うか』がボールの近くと遠くで揃っていない」が発生しています。ボールを持っている山根(13)、近くにいる家長(41)に対して藤春(4)、山本(29)がかなり近い位置まで接近して対応していますが、その二人以外はボール方向へスライドしておらず、中央に複数の大きなスペースが空いています。藤春-キムヨングォンの距離が離れているので藤春の背後を突かれるとキムヨングォンのカバーリングは間に合いません。そして山本-矢島、キムヨングォン-三浦の距離も離れていうため、2ライン間にもスペースを与えてしまっています。よって、川崎にとってはガンバのブロックを崩すための糸口が3つある状態です。

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次に[2]です。藤春(4)が山根(13)に縦方向へドリブル突破をされてしまいます。
この時、前提として藤春はドリブル突破を許すべきではありません。その上で、前述したように藤春-キムヨングォン(19)の距離が離れているためカバーリングができず、山根にフリーでクロスをあげることを許しています。守備において必須である、危機に備えたリスク管理が出来ていない状態でした。
もう一つ、問題②「エリア内での役割分担の曖昧さ」です。山根がドリブルでゴールライン際をえぐっているタイミングで、キムヨングォンはDF-GK間へのパスコースを消しています。しかし、DF-GK間はゴール前に戻っている三浦、高尾らで十分に対応が可能でした。一方で、マイナスは矢島が戻るには距離が遠く間に合わず(山根に突破される前の立ち位置に問題あり)、誰もケアできていません。そのためマイナスへクロスが入り、守田のシュートをブロックするために三浦がずれたので、スルーした先に待っていたダミアンがフリーでシュートを打つことができました。14:00~と同じように、最終的にゴール前で真ん中のCB三浦が1vs2(この場面では守田、ダミアンに対して)に陥るという致命的な状況になっており、大ピンチを迎えました。

この一連の流れでもパトリックの立ち位置に注目してください。14:00~と同じく押し込まれるが故に自陣深い位置へ下がってしまっており、カウンターの起点が無くなっています。<ブロック守備>から<守→攻>への鎖が途切れており、この試合で目指していた「自分達で主導権を握る」ことへのチケットを手放しているのです。

以上から、ガンバの<ブロック守備>に生じていた2つ問題点が大ピンチに直結していたこと。二つの問題点に影響されて押し込まれ続ける展開になったことでパトリックの立ち位置が下がってしまい、<守→攻>にも支障が出ていたことが分かって頂けたかと思います。
よって、川崎は好きなようにスペースを突いてゴール前に迫り、奪われても迅速な切り替えで即座に奪い返してまた攻撃、というサイクルを繰り返していくつもチャンスを作ることが出来ていました。前半のうちに2,3点が決まっていても全くおかしくない展開で、ガンバは東口に救われ続けた最初の45分間でした。

ここまで分析したガンバの問題点は、サッカーにおいての普遍的な話でもあります。ガンバであってもなくても、これらの問題は守備組織の機能不全につながります。

<後半の修正>

前半、高い位置でブロックを維持してボールを奪うことを目指していたものの、結局は自陣に閉じ込められることになってしまったガンバ。宮本監督は、後半開始直後に大きな決断を下し、戦況を打開しようと試みました。
後半の開始から再び高い位置にブロックを設置し、前からボールを奪いに行った流れでの「5-3-2へのシステム変更」です。後半開始から8分が経過した53分から前線をパトリックと宇佐美の二枚にし、中盤を矢島(中央)、倉田(左)、山本(右)のスリーセンターにしました。前にかける人数を増やすことによって相手のDFラインに対して圧力がかかりやすいようにし、再び高い位置で守備を行う狙いです。
しかし、当然ですが前述した「ひたすらに人を掴みにいくことでMFラインの背後がスカスカになる」という根深い問題は引き続き存在しています。ハーフタイムもしくはテクニカルエリアからの微調整で解決できるようなディティールの問題ではなく、「自分たちはどう守るのか」という大枠の部分で生じている問題だからです。
そのため、システムを変更したものの大きく戦況が変わることはありませんでした。しかも、再び前に出て守備を行うことは先制点の献上に直結してしまいます。
川崎の先制点は55分。DFラインの背後へ抜け出した三笘が決めたゴールです。このゴールのきっかけはガンバのプレッシングでした。

ガンバが前に出て行き、敵陣右サイドで嵌めて川崎にロングボールを蹴らせます。しかし2ndボールへの対処が中途半端になりマイボールにしきれず、反対に相手にカウンターを食らってしまい、三笘に抜け出されて失点。
ロングボールを蹴らせるまでは良かったものの、2ndボールへの準備(蹴らせたときの立ち位置、2ndボールに対する反応の仕方)が良くなく、あっさりと相手ボールにしてしまいました。
これも、選手達の意識がボール、ボールになっていてカバーリングを用意できていないことが問題なように見えました。

先制されたことでより前に出なくてはならなくなったガンバは、63分にシステムを4-4-2へ変更、73分には2枚替えを行い、捨身で点を取りに行くことになります。

第2章 攻撃の分析

この章ではガンバの攻撃について分析します。守備の分析がかなり長いので、攻撃は短めにいきます。
まず、ガンバの攻撃局面、<ビルドアップ><崩し><攻→守>で狙っていたものを整理しておきます。

[ガンバ大阪のコンセプト]
<ビルドアップ>
目的:
自分たちで主導権を握ってボールを動かし、前進する。
プレー原則:
①テンポよくボールを動かし、中盤でプレッシングを外す。
②プレッシングを外すのが難しければパトリックにロングボールを蹴り込む。
<崩し>
目的:
個々人の特徴を活用して、最適な方法でゴールに迫る。
プレー原則:
①近い距離で選手同士が関わり、相手を操作してポケット侵入を狙う。
②コンビネーションでの打開が無理ならパトリックにアーリークロスを送る。
<攻→守>
目的:
即座に切り替えて、最低限相手を遅らせる。
プレー原則:
①ボール近辺の選手は相手に強く圧力をかける。
②ボールを逃されたら全体で下がってブロックを再建する。

以上がガンバの大まかな狙いでした。

<ビルドアップ>

まずビルドアップの局面から見て行きます。

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守る川崎は、基本的にゾーン2で4-3-3ブロックをセット。そこから三笘(18)、家長(41)が外切りを行い、ダミアン(3)との3トップで相手3CB(27,5,19)にプレッシャーをかけ、それに全体が連動して嵌めることを目指します。

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ガンバはプレー原則に示したようにボールを保持し、自分たちが主導権を握って攻撃することが一番の狙いでした。
しかし、この試合では川崎のハイプレスに苦戦しほとんどパスを繋いでボールを前進させることはできていません。リスク回避でパトリック(18)を目掛けてロングボールを使う場面が多くなっていました。この点に関しては、ある程度ゲームプランで想定していた事だったと思います。
加えて、パトリックはジェジエウ(4)に対してあまり空中戦で勝つことが出来ませんでしたし、仮に2ndボールを味方が拾えても、ボールの近くに選手が集まりすぎるなどでポジションバランスが悪く、効果的に攻撃する場面を作れませんでした。

<崩し>

崩しの局面に関しては、ラスト20分以外、ほぼ到達していません。序盤に何度かあり、一度パスワークからゴール前までボールを運んだ場面があったものの攻め切れずに攻撃は終わっています。

<ラスト20分の攻撃>

73分に山本と藤春に変えて渡邉(39)と福田(14)を投入し、勝負に出たガンバ。システムは63分から採用している4-4-2で、後ろの人数を削って前に人数をかけ捨身でゴールに迫りました。

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この終盤の時間帯、川崎のプレー強度も落ちており、ハイプレスを外してボールを前に運び、敵陣で押し込むことに成功します。<崩し>のプレー原則にも示したように近い距離感でパスを繋いで相手を操作する攻撃にパトリック(18)へのアーリーを織り交ぜ、何度か大きなチャンスを創出しました。
しかし、よく観察すればシュートコースにはしっかりと川崎の選手が立っており、相当際どい場所にシュートが飛ばないと決まらない、というものが全てでした。
「押し込んだ時間は、川崎から点を取るには十分ではなかった」。もちろん結果論ですが、単なる感想ではなく、論理的な視点からもそれが言えます。

終わりに 試合の総括&解決策

ここでは、試合を総括し、解決策を現実的な目線で考えてみたいと思います。

まず、ガンバの宮本監督はこの試合をどのように展開したかったのでしょうか。

↑は、宮本監督の試合後コメントの一部を要約したものです(全文はここから)。各局面のプレー原則で示したように、川崎を抑える対策を実行した上で「自分達で主導権を握る」スタイルで試合を戦いたかったことが分かります。スタメンに選ばれた11人を見てもそれは明らかです。
しかし、実際にはそうはいかなかったことはこれまで書いてきた通りです。また、僕の考えでは現実的にガンバが主導権を握ることは難しかったと思います。カウンターに徹する戦い方を選択し、そのための準備を行い、メンバー選定を行っていれば、もしかしたら試合は変わっていたかもしれません。
ただ、そこはチームの中に存在する前提条件を考慮する必要があるのではないでしょうか。チームのこれまで取り組んできたものを当事者として骨の髄まで知っている宮本監督としては、自分達のスタイルを最後の最後で曲げるという選択はかなりリスクのあるものだと考えたのではと想像します。
なぜなら、選手達をフィジカル・メンタル両面で最高な状態で試合へ望ませるためには、一体どんな方向性でチームを導くことが最適なのか。テレビで試合を見ているだけでは理解できるはずのない、チームのストーリーが非常に大きく影響しているはずだからです。

最後に、解決策についてです。これまで書いてきたように、この試合で主に露呈した守備の問題については、手直しで改善できるものではありません。大枠の守備の仕方から整理していく必要があります。ただ、現実的にそれが行われる可能性はほぼゼロでしょう。また、現在のやり方で一定の結果が出ている以上、大枠から変えてしまうというのが効果的であるとも思えません。
じゃあどう解決していくのか。これはガンバのプレスリリースを見れば分かります。結論は、選手補強です。昨季開幕前にはフランスからDF昌子を、直近では韓国代表MFチェ・セジョンを獲得。高尾、福田、山本が台頭するなど世代交代の要素もありながら、毎年質の高い即戦力を補強しています。
よって、クラブとしての方針は「戦力補強による底上げ」。従って、現実的な目線で解決策を考えるとするとこの方針に倣うことになります。
解決策としては、「個々人の質の向上によってチームの攻守の質を上げ、組織に生じていた穴を解消する」でしょう。組織の穴を一つずつ埋めていくアプローチではない事はほぼ間違いありません。ですから、機能する選手の組み合わせを見つけた上で、優れた「個」を持つ選手たちが秘めている力を最大限に発揮できるように細かい部分を整備する。2021シーズンはより選手達が思い切りプレーし、爆発できるようなチーム構築、組織の整備が必要になります。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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