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女性・中小企業のITスキル支援、ベンチャーが人材の裾野拡大に一役

2023年11月に発表された「IMD世界デジタル競争力ランキング」によれば、日本のデジタル競争力は総合32位と前回調査からランクを3つ落とし、過去最低を更新した。労働力人口が減り、先進諸国に比べて低いレベルにある生産性の向上が求められる日本の産業界としては、スピード感を伴ったデジタル化が待ったなしの状況となっている。とはいえDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル変革)が声高に叫ばれる一方で、中小企業を中心にDX対応の歩みは遅い。その大きな要因の一つがIT人材の不足だ。そうした中、ITベンチャーが女性のITスキルを向上させることで転職を後押ししたり、団体に所属する専門家が中小のIT・DX化を支援したりする事例も出てきた。

最短3カ月でスキル習得

IT未経験者でも最短3カ月でITスキルを習得―。

こうしたキャッチフレーズを掲げているのが女性向けDXキャリアスクールの「DXクリエイターズ」。システムの受託開発などを手がけるTRENTE(トラント、東京都渋谷区)がウェブサービスとして2023年11月に立ち上げた。

その狙いについて、システムエンジニア(SE)出身の小川直子社長は「日本はIT人材が不足しているにもかかわらず、女性比率はわずか2割に過ぎない。20〜30代の女性は出産・育児といったライフイベントで将来のキャリアに不安を感じている人が多いのに加え、ITに詳しくない女性はそもそもIT業界への入り方もわからない」と説明する。

TRENTE(トラント)の小川直子社長

しかも単なるオンラインのITスクールではなく、人材の育成からキャリアアドバイザーが受講者に寄り添う形で転職までをサポートする。ITの研修スクールはほかにもあるが、女性だけに絞った転職スクールは珍しく、「我々自身がIT企業なので業界での最短のキャリアパスを提案できる」と小川社長は強調する。

基本的に有料で、月1回の1対1でのコーチングやチャットでの相談サービス、オンラインセミナーを受講できるが、こうしたサービスなしでスクールの動画コンテンツを閲覧するだけなら無料で学べるという。

IT業界の多様性を後押し

小川社長によれば、最近は人材不足だけでなく、IT人材に求められる企業側のニーズも変わってきているようだ。背景にあるのはDXへの対応と「ノーコード」ツールの登場だ。

これまではプログラミングするのに専門知識や理系の思考力が求められ、エンジニアがITスキルを習得するまでに時間がかかっていた。それがノーコード開発ツールを使えば、ドラッグ&ドロップやマウス操作により、ある程度の業務アプリケーションを短時間で開発できてしまう。DXクリエイターズでもサイボウズの「kintone(キントーン)」を使い、ノーコードのアプリ作成を指導している。

「DXの時代になり、プログラミング力だけではなくアイデア力、サービス力がこれまで以上に求められるようになった。IT業界の多様性が進むことで、女性の持つ優れたコミュニケーション力、人に寄り添う力、企画力を生かしていける」。小川社長はこう展望する。

IT顧問サービスの元祖

一方、IT導入やDXの推進に悩む全国の中小・中堅企業に対し、中立的な立場でIT活用による経営戦略やシステムの見直し・導入選定といった助言を有償で提供するのが一般社団法人IT顧問化協会(eCIO、東京都千代田区)。大手IT関連企業出身でIT経営ワークス(同港区)の社長を務める本間卓哉氏が発起人となり、2015年に設立した。今でこそ「IT顧問サービス」の呼び方は一般的になりつつあるが、「うちはその元祖」と本間代表理事は話す。

IT顧問化協会(eCIO)の本間卓哉代表理事

IT顧問化協会では、「業務DX推進士Expert」と協会に認定された個人のIT専門家約100人が中小企業などの支援業務を担当。相談してきた企業に対して協会事務局がまずヒアリングを行い、ニーズや地域性に合わせ、各地に存在する業務DX推進士Expertをマッチングする。

それも導入IT機器の選定といったピンポイントでの助言より、「企業内での業務の流れを洗い出したり、IT利活用の上での根本的な課題解決につなげたり、中長期にわたるケースが多い」(本間氏)。

DXやサイバーセキュリティーでの資格認定も

これに加え、23年4月には同協会の民間資格認定制度として「業務DX推進士」もスタートさせた。企業が社内でDXプロジェクトを推進するための人材を対象とした資格で、ほかのDX認定資格に比べ、「よくある抽象的な内容ではなく、DX化やクラウド活用に必要な業務に焦点を当て、より具体的な内容となっている」(本田氏)とする。希望者は公式テキストを購入した後、ネット上で講座を受講し、認定試験を受けられる。試験は月1回のペースで実施する。

同協会を通じて企業にIT顧問サービスを提供する業務DX推進士Expertは、こうした業務DX推進士の資格取得者が協会の認定オリエンテーションを受講すれば認定される仕組みとなっている。

「業務DX推進士」の認定公式テキスト

サイバーセキュリティーについても業務DX推進士と同時期に「サイバーセキュリティ推進士」の認定資格制度を始めた。「企業がサイバーセキュリティー対応力を向上させる場合、ウイルス対策ソフトを導入すれば済むと言う話ではない。社内で専門知識を持つ人材を育てる必要があり、認定資格制度はその一助となる」と本田氏。これにとどまらず、近い将来には人工知能(AI)活用の社内向け資格制度も視野に入れている。

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