AIでサル・イノシシなど出没検知→担当者に即時メール配信、日本遮蔽技研がサービス展開、不法投棄や盗難対策にも
ベンチャー企業の株式会社日本遮蔽技研(福島県本宮市)がサービスを提供するAI(人工知能)画像認識技術を使ったユニークなリアルタイム害獣出没警報システムが広がりを見せている。サルやイノシシによる農作物被害が増える中、2023年度に入って地元・福島県内の自治体との利用契約を相次ぎ締結。さらに適用分野は野生動物に限らない。同社によれば、自治体や企業から廃棄物の不法投棄や太陽光発電パネルなどの盗難被害対策での相談が寄せられているという。
◼️クラウドAIが害獣の種類を判定
「あいわなクラウド」と名付けたこのシステムは2021年11月にサービスが開始された。実はこれに先立ってAI画像認識でワナの檻に入った動物の中からイノシシを特定、メールで担当者に警報を発信すると同時に、自動で檻の扉を落とす「あいわな」というシステムを実用化済み。環境省が富山県で行ったイノシシの生態調査向けなどに採用された。ただ「あいわな」の場合、監視カメラやイノシシを判別するAI画像認識ソフトの入ったパソコンなどの電力源に太陽光電池パネルと蓄電池を採用しているため、システム全体の単価が高い。そうなると、自治体としては予算を確保するのがなかなか難しい。
そこでクラウドコンピューティングを活用し、低額な料金で害獣の種類(獣種)の判定と出没警報を発信できる「あいなわクラウド」を新たに開発した。仕組みはこうだ。まず野外に設置する特注のトレイルカメラに内蔵する近赤外線センサーが物体の接近を検知し、画像を撮影。静止画データを携帯データ通信でクラウドサーバーに送信し、サーバー側のAIが獣種を判定する。それが顧客側であらかじめ設定した獣種に合致する場合、顧客側の複数の担当者に出没を知らせる画像付きメールが即時配信される。
これまでのAIによる獣種判定は現場に据え付けた監視カメラのSDカードに画像を記録するやり方のため、定期的にSDカードを回収に行く必要がある。その上、リアルタイムで出没警報の発信もできなかった。「あいわな」と「あいわなクラウド」は、こうした獣種判定+即時メール配信の機能が競合システムとの差別化につながっている。トレイルカメラは電源として単三電池12本を使用し、同社の試験によれば約6カ月を経過しても電池の消費量は半分だったという。
判定できる獣種は今のところイノシシ、サル、シカで、害獣ではないタヌキも追加した。企画営業部の木戸幸也部長によれば、判定精度は「80%以上」。他県で要望が強く、福島県内でも最近目撃情報が相次いでいる「クマへの対応も進めていく」としている。
◼️JAふくしま未来が地域貢献目的に購入
福島県内の自治体との間で「あいなわクラウド」の利用契約が増えてきているのには理由がある。JAふくしま未来(福島市)が2022年度の地域貢献事業としてこのサービスに着目したためだ。農家が果樹のサル被害などに悩んでいることから、あいわなクラウドのトレイルカメラ計90台を購入、管轄する県北・相馬地域12市町村に寄贈を行った。実際のシステム運用費は各自治体の負担となるが、すでに飯館村や本宮市ではそれぞれ10台が稼働を開始。2023年9月時点で福島市、南相馬市などでも日本遮蔽技研とのサービス契約を済ませている。
前出の富山県でも「あいわな」2台による環境省のプロジェクトが6月に終了したものの、それ以降は「あいわなクラウド」のトレイルカメラ5台がイノシシ調査用に稼働中だ。
さらにかつて日本遮蔽技研が本社を置いていた郡山市の2023年度チャレンジ新製品に「あいなわクラウド」が認定されたことで、お墨付きが得られた格好。郡山市ではウェブサイトなどで認定新製品をPRするとともに、市としても害獣の生態調査に向けた試験導入の検討を始めている。
◼️リアルタイム監視で広がる用途
そもそも「あいわなクラウド」は害獣対策を狙いに生み出されたものだが、思わぬニーズも出てきた。「不法投棄や盗難現場のリアルタイム監視に使えないかという問い合わせが自治体や企業から寄せられている」。代表取締役副社長兼事業本部長の平山貴浩氏はこう話す。
実はこのシステム、獣種判定の後、目的とする獣種の場合だけメールを配信するのではなく、設定変更をすれば、人や車も含め近接センサーに反応した全ての画像を顧客に送信することも可能。この機能を生かして、使い道がさらに広がってくるかもしれない。¶
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