見出し画像

渋谷駅でおっさんに反撃した思い出

長男が三歳のころ、産後初めて実家に行った。
妊娠中も乗り物を利用した大移動をしなかったので、四年ぶりくらいの上京だった。
子どもも三歳になり、飛行機や鉄道の長旅にも耐えられるだろうと二人で出かけたのだった。

着替えなど嵩張る荷物は宅配便で先に送り、必要最小限の手回り品をボストンバッグに詰めて、羽田から品川に出て山手線に乗り換えた。
千葉の実家に行く前に、渋谷に立ち寄り(今でもあるの?)SHIPSで買い物をすることにしたのだ。
ちょっとついでのつもりだった。
子どもを連れて東京の街を歩いたことなどなかったのに、今思えば無謀だったかもしれない。

平日の昼頃なので車内はさほど混雑しておらず、息子と私は座席に腰を下ろし、持ってきた絵本を開いた。
車窓から子どもの目を逸らすためである。

久しぶりに電車に乗って、しかも幼い子ども連れで感覚が鈍ったのか、思ったより早く駅に到着してしまった。
ベルが聞こえてから、子どもを抱いて慌ててホームに降り立った。

渋谷の駅からどこをどう歩いたかすっかり忘れてしまったが無事店に到着し、私と夫のTシャツや子どもの服を買った。

その時もらった小分け袋がいまだにとってある。
亡き後に、おばあちゃんったら、こんな袋後生大事に取ってあって!と可燃ゴミ袋に投げ入れられるレベルだ。

それから千葉の実家に向かうべく、渋谷駅に戻り券売機の前に来た。
夕方のラッシュにかかっていなかったし、今ほど混雑する駅でもなかった(渋谷は大人の街だった)ので、並ぶ人もなかった。
まだSuicaがなかった時代。

券売機にお金を投入しようとすると、三歳の息子が

ボクがやる〜

とくずり始めた。
少し前に地元の出雲市駅で、見送りのため駅構内に入場した時に券売機で切符を買わせたことがあった。

後ろに並んだ高齢のご婦人が

あらまあ、可愛らしげなこと。なんでも自分でやりたいわねえ。

と見守ってくださった。
それを覚えていたのかどうか…

しかしここは列車の待ち合わせが一時間もある田舎の駅ではない。
券売機を幼い子どもに使わせるなんて、無理ゲーにも程がある。
浦島太郎でもそのくらいはわかる。

けれども息子は早朝から遠出して、混み合う街を引きまわされて疲れ切っていた。
混まないうちに千葉に向かい、車内で寝せようと思っていた。
眠たいのもあり制止してもなだめても、いっこうに聞く気配がない。

ボクがやる〜〜

全身全霊で暴れまくる。

幸いなことに、後ろに誰も並んでいなかった。
それなら…
と、小銭を辿々しい手に握らせた。
小さな掌で、ひとつずつチャリーンと入れてはキャッキャと喜ぶ。

ふいに、後ろの方から男性の怒り声が響いた。

そんなこと子どもにやらせてんじゃねえよ!

振り向くと、いつの間に長い列ができその真ん中あたりに怒り声のおっさんがはみ出して立っていた。
私は急いで続きを自分でやり、切符を買ってから列を離れ、おっさんの方に向き直り、メエと睨んだ。
そして言った。

並んでなかったからやらせたんです。
こんなわずかな時間も待てないんですね。
大変ご迷惑をおかけしました、ごめんあそばせ!

それから子どもとボストンバッグを抱えて改札に向かった。


これツィート(X?)したら、四方八方から槍や石が飛んで来そう😆
三十年も前だもの、時効ね。



※ヘッダー画像は我妻あかねさんよりお借りしています。
ありがとうございます♪

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?