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トドの産業医(5)初めての営業ロープレ

 産業医を取得したと同時に勢いあまって法人を作ってしまったトドの産業医が、将来本当に独立した産業医事務所に育ちあがるまでの道標を書いていきます。
 チラシ、パワポをなんとか作り上げたトド。近いうちに社労士事務所さんにも挨拶することが決まっている。後は営業あるのみだが…本当に大丈夫か?


結論

①診察と営業は全く別物。
 初めて営業をかける前に、可能であれば一度はロープレをして、フィードバックしてもらうのをお勧めします。
②いかに相手に話してもらうか?困りごとをあらわにしてあげるか?必要性を感じてもらえるか?が重要。
③自分なりの勝ちパターンや型がつくまでは、振り返りと練習が必要。


トドの産業医:営業ロープレにチャレンジ

 さて、意気揚々と完成したパワポを眺めては、一人ニヤニヤしているトド。頭の中ではもう契約20社目位になっていた。
 しかし社労士先生との御挨拶の日が近づくと徐々に冷めていく…ぽんぽこ先生から言われた言葉の意味はわかっても、やっぱりまだまだ腑に落ちていない。このままやっていけるんかわし?

 そんなトドにたくみ先生からメッセージが…。
『トド先生、営業ロープレしませんか?』
『ぜ、ぜひとも!』

速攻夜にアポをとり、
ガチンコロープレのゴングが鳴った!


ケース1:製造業50名規模 初めての産業医導入

営業役:トド 社長役:たくみ先生 立会人:オルト先生

それでは早速始めてみることに!
設定としては金属プレス加工業の社長。従業員数が50人になり、初めて導入するが、正直いうと産業医を雇うお金があったら設備投資をしたいと思っているパターン。

「こんにちは!この度はお時間を割いていただきありがとうございます!トド産業保険事務所の只野トドと申します。」
「こちらこそよろしくお願いします。株式会社プレスサービスのたくみです」
「ところで御社は主にどういった業務を中心に扱ってらっしゃるんですか?」

「・・・・・・(カタカタカタ)」
(お?急にたくみ先生が何かを打ち出したぞ?)

「そうですね。ドアの蝶番を作っている会社になりますね」
「ほうほう…というとあれですかね?巻き込まれたり、真夏だと結構熱い場所での作業になるんじゃないでしょうか?」
「うーんまあね。まあでも幸い今のところそんな事故は1回も起きていないからね。」
「今回はどういったことで弊社産業医に会ってみようと思われたんでしょうか?」
「あーまあ従業員が50名超えたからね。なんか法律で決まっているんでしょ?」
「なるほど…確かに法令で定められてはいますよね」
「ただ正直言うとね。うちとしてはそんなことにお金を使うんだったら、もっと人員とか設備に回したいのよね」
「なるほど、ところで産業医っていうのどういうお仕事をするかはご存じですか?」
「いや?名前しか聞いたことないけど?」

「いやあ、そうなんですよね!産業医ってあまり聞いたことないですよね?実は産業医とは…」

ここでトド、すかさずパワポでまとめた内容を語りだす。つっかえつっかえながらも一生懸命説明する!

「それにこれからはメンタルヘルス不調対策にも取り組まないといけない時代になっているんですよ」
すかさず精神科専門医としてメンタルヘルス不調対応も可能であることを必死にアピールする…とにかくトドは熱く語りまくった

「・・・・・・(カタカタカタ)」
た、たくみ先生…なにを打ってらっしゃるんです!?

「えーっと、いかがでしょうか。」
「はあ…なるほどね。」
「それでは後日お見積もりを用意いたしますので、よろしければご連絡をお待ちしております」
「わかりました。今日はありがとうございました。」

「・・・」

「・・・」

「ぶふぇ~え!!!!!!」

トド…口から魂が抜けた。
口の中はカラカラ、変な力が入っていたせいか、腰も痛いし肩も張っている。いざ話始めると、行き先が定まらないふらふらするような感じで本当に余裕がなくなる。でも…なんとかやりきったはず!

「いやあ…先生お疲れさまでした!さすが話し慣れてますね」とまず最初に褒めてくれるたくみ先生!
「ただ先生ね。まず相手の話を聞きましょう!先生はちょっとしゃべりすぎです。あと相手企業の情報を知っておくのは常識ですよ先生

はああああああ!せやったあああああ!

「あとね先生。まずは困りごとをちゃんと聞きましょう。今回のケース、僕としては実は長時間労働の人がいて気になっているケースだったんだけれども、先生全く聞かないんだもん。困りごと、気になっていることについては、きっちり炙り出すのが肝ですよ。だからちゃんと『今回産業医を選ぶにあたって、どういった産業医さんを希望しますか?』とか『それはどういったことが気になるからでしょうか?』『健康診断や長時間労働など、気になること、心配していることはどんなことでしょうか?』とかきっちり聞かないといけないですよ」
「た…たしかに言われてみれば…」
「あとね先生。今回のケースはメンタルヘルスのニーズはないです(笑)。ニーズがないのに押し売りしちゃだめですよ。先生だっていらないものを押し売りされたらいやでしょ?

たたたたしかに!

「あとね先生。ちゃんとお金の話もしないとだめですよ。先生方は最初みんな嫌がりますけどね。必ずちゃんと話をしないと!そうしないと何をしに来たのかわからなくなるし『1週間後にお伺いの電話を差し上げますね』とか言っておけば電話をする口実にもなるんですから…」

「そうかあ…そうすればよかったなあ…」
オルト先生がチャットで
『お金の話をきちんとしないと逆に相手から警戒されるかもしれませんね』
とコメントしている…確かにそうだなあ。

<今回のケースで学んだこと>
①相手のことについて調べておくのは常識!
②相手のニーズ、困りごとをちゃんと聞く!
③自分の強みに無理やり寄せない。
④きちんとコストの話に触れること。


ケース2:IT企業50名規模 初めての産業医導入

営業役:たくみ先生 社長役:トド 立会人:オルト先生

さてさて今度は選手交代。

さーてさっきやられた分、やり返しますぞ~。

今回はトドが苦しんだスネ夫社長をまねてみます。
IT系、従業員50名。初めての選任。取引相手は超大手。社長自らがオリジナルのセクハラ対策(匿名相談室)を行い、長時間労働、パワハラ、セクハラの発生はない。
社長のニーズはあくまで
①プライベートでメンタルヘルス不調を起こす社員のフォローをお願いしたい
②コストは可能な限りかけたくない

それでは第2回戦スタート!

「初めまして、本日はお時間を作ってくださりありがとうございます。タクミ産業医事務所のたくみでございます。」
「ああええ、こちらこそよろしくお願いします。社長のスネ夫です。」
「早速ですが社長。今回はどういった経緯で産業医の選任をお考えになったんですか?」
(お、早速来たな?)
「いやあ…従業員が50人になったしねえ。他の経営者からもそろそろ産業医を決めなって言われてねえ。別に急いでないんだけどね。」
「なるほど、社長は産業医に対してどういったことをしてほしいと望んでいますか?」
「そうねえ。まあ時々従業員がメンタル不調?になるんだよねえ。まあ会社のことはなくて、プライベートのことなんだけれどもね。だからそういったときにちょっと話を聞いてほしいって感じかな?それ以外はなにも問題はないんだよ。パワハラもセクハラもないしね。長時間労働者もゼロだからね。」
「社長、パワハラとセクハラがないこと、長時間労働の社員さんもいらっしゃらないこと、それは本当に素晴らしいことだと思います」
(すかさず持ち上げてくれるたくみ師匠の合いの手に、トド、本当に気分が良くなり始める)

「そうそう。だから僕としてはなんだ?えっと委員会?安全なんちゃら?あれいらないと思うんだよ。あんなことする時間があったら仕事してほしいわけ。先生、あれなしにできない?」
「いやあ社長!確かに『なしにしたい』というお気持ち、そのお気持ちは大変良くわかります。」
「そう。だからさ。あれゼロにできない?」
「ゼロにはできないんですよ社長」
「なんで?なぜする必要があるの!?時間の無駄でしょ。」
「可能な限りコンパクトにすることはできると思います。幸いパワハラも長時間労働もない状況。本当に問題点が出てきたところについてはきっちり社長と話し合いつつ、何もない時はスムーズにすすむよう努力いたします」
「はあ、でも30分とか1時間くらいかかるんでしょう?」
「30分もかかりません」
「そかそか…で、コストはどうなの?メールで言ったけど僕はコストに厳しいからね…

月1万でお願いしたいんだけど」

1だよ1 Do you understand?

「いやあ、なるほど!なかなか勉強になります社長!」
「だって社労士さんとか税理士さんだって月3くらいなわけだよね。で、社労士さんは就業規則、税理士さんは決算とか手伝ってくれるわけだ。だからまあそれに対しては払うよ?で、先生は何をしてくれるわけ?なんとか委員会だってすぐに終わるんでしょ?他の会社からは月3でお話しされたけど、それでもお断りした位だからね

(この質問はトドが苦しんだ質問だった)

「なるほど、社長がそのようにお感じになるのももっともでございます」
(ここまできて思うが、タクミ先生はほんと相手とぶつからないなぁ…)
「ところでちょっとお話が戻るかもしれませんが、先ほど社長はメンタルヘルス不調の方のフォローをお願いしたいとおっしゃっていましたね?」
「そうね。でもそれ仕事の問題じゃないから、プライベートの問題だけどね」

「ええ、ところで社長、復帰された社員さんのパフォーマンスはいかがですか?」
「ん?」(この質問は正直予想外だった)

「社長、復帰された社員さんは、みなさんいきいきとお仕事できていますか?」
「いや…うーん…まあそういわれれば、結構また休んじゃったりすることもあるなあ。あとはまあ、思ったほど体調いまいちなことも結構あるかもしれん」
「なるほど社長、実はそういった問題は本当によくあるんです。多くの場合主治医は『日常生活が可能なレベル』で復職の許可を出されることが多いんです。なので本当に復帰させて良いのか?職場の状況をきちんとわかっている者が医学的に判断する必要があるんですね。さらに戻るとしてもどんな配慮をすれば、また休まずにすむか?いきいきと社員さんが働けるか?判断する必要があるんです」
「ふむ…確かに言われてみればその必要性はありそうだなぁ
「そうなんです。その判断を下すのが我々産業医のお仕事なのです」
「なるほど…」(なんとなく腑に落ちた感じがした)

「あとは大変申し訳ございませんが、産業医も医者である以上、お伺いすると機会損失が生じます。本来であれば外来などに費やせる時間を、社長のために捧げるわけです。このためどうしてもある程度の対価を頂くことになるわけです」
「うーん…でもなあ…月1万でお願いしたいけどねえ」(ちょっといじわるしてみた)

「かしこまりました社長!であれば月1万でいきましょう!」
「ほんまに!?」(ええ!?いいのたくみ先生?)
「ただ私がお伺いするときは訪問料として4万頂きます。そうすれば社長のご期待通り、ランニングコストは1ですみます
「ええ~そうきたかあ…でも4はなあ…ちょっと持ち帰って考えてもいい?」
「かしこまりました。それでは1週間後にまたお伺いのお電話をさしあげますので、よろしくお願いします。」

「・・・」

「・・・」

「ぶふぇ~え!!!!!!」(トド2回目)

「いやあ、お疲れさまでした。トド先生ロープレうまいですねえ。」
 いやいやたくみ先生、なんかまだまだ余裕がありますやん。
 チャット欄を見るとオルト先生のコメントが流れている。
『イニシャルコストを下げて、オプションで回収する。最近のサブスク戦略と同じですね』
 なるほど…確かにそうだなあ。

<今回のケースで学んだこと>
①交渉相手とは争わないこと。
 イメージは社長の右腕として何ができるか一緒に考えるスタイル。
②「困ってない?」ならば切り口を変えてみること
 ⇒「復帰された社員さんのパフォーマンスはいかがですか?」
③お金の話に触れるときは…。
・まず相手に「それならば(産業医が)必要だな」と思ってもらうのが大切
・顧問料に拘らない。訪問料、オプションなど柔軟に考えて、
 相手が気にしている部分について可能な限り満たしてあげる
 ⇒「かしこまりました社長!であれば月1でいきましょう!」
・訪問料については機会損失についての話にふれること。


トド気づく 営業ロープレは必須!!
(少なくともトドにとっては…)

その後もう1セットずつロープレを行ったが、トドはへとへとになってしまった。特に2セット目では途中で頭が真っ白になって一瞬フリーズしたレベルである。

『これは本格的に営業を始める前に、もうちょっと練習を積んでおかないと詰むなぁ…』心底そう思った。
診察室の中ではむしろ話をかなり聞く方だが…こと営業場面になるとどうしてこんなにも焦って、べらべらしゃべりすぎるんだろう…。

こと営業については本当にそう…。

ただたくみ先生も言っていた。
最初からこんなに話せるようになったわけではないと、
沢山の社長と会い、営業をかけ続け、
聞かれる質問、社長が気にしていること、
うまく営業がはまるパターン、
何度も繰り返す中でちょっとずつ掴めるようになるんだと。
あと意外と労働衛生コンサルタントの口頭試問の勉強が、しゃべりの勉強として有効なこともあると…。

うーん…なるほどなあ…。
いつの日か本当に独立できるように
トドは今日も動き続けます。

PS
オルト先生。今度は先生も一緒にロープレしましょう!


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