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良い家。(いいいえ)

祖父は死ぬまでに5回家を建てた。
最初の二回は、自社の従業員の為。
次の二回は自分の息子達の為。
そして、最後に自分の住む家を建て替える為。

祖父は自分の家を建て替える時、
図面を引くところから始めた。
僕もまだ高校生で、二人して夜な夜な設計図を書いていたものだ。
建築士の資格なんかない。
けれど、ひたすら図面を描いた。

一年かけて図面を作ると、建築会社を交えての打ち合わせになった。
我々が描いた、図面を参考までにきちんとした建築士さんがしっかりした図面を作成する。
しかし、祖父はダメ出しを事あるごとに繰り返した。
廊下の幅が5センチ狭い、階段の段差が高すぎる、
など細かなことをひたすら、2年かけて直させた。

「5回家を建てたが、本当にいい家を建てられたと思ったのは最後だけだよ」

祖父は言っていた。

「家を建てる奴の殆どが、今ばかり見るんだ。生きてるんだよ。家も、中に住む奴も。家がかっこよく年とれるような家。住む奴が楽しく年とれる家が、いい家だと俺は5回目にしてようやく思っている」

そんなことも話していた。
この言葉は、心に響いたし、
コンサルや会計の仕事でも、
見えない時の経過を意識しよう、と学んだ。

先日、東京国立近代美術館で
日本の家〜1945年以降の建築と暮らし〜
を観ました。

斬新な家からオーソドックスな家まで、さまざまな家の模型や図面が飾られていて見所満載。
建築関係の勉強をしているのだろう学生さんが、メモをひたすら書いているのもちらほら見かけて、「頑張れ、こちとら負けねーぞ」なんてやる気の触発を受けてました。

ただ、奇抜な家や面白い構造の家を見れば見るほど、
祖父の言葉を思い出したのも事実。

見た目も構造も地味かもしれないけれど、
何年たっても住みやすい。
家も優しくくすんでいく。
そしてそのくすみが美しい住宅こそ、素晴らしい建築なんじゃないかと改めて感じました。

今なら東山魁夷の展示物も多く観られるので、
国立近代美術館おススメです。

教えてくれたパンナコッタ夫人、ありがとうございます。

#コラム
#エッセイ

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