彼女たちのコズミック・イラ Phase06:ヒビキ博士の研究成果

アウラはこう見ていたんじゃないかなぁ……という内容となります。原作作中での言動からして、ユーレン・ヒビキを見下していたことは確実ですからね。

ギル少年については完璧な推測です。実は年齢的に両親が健在な可能性のほうが高いのですが、原作では一切言及されていないというもの。物書きとしては見逃せない要素でした。

次回はさらに不穏となります。むしろ事件が起きています。それでは。


ラクスとオルフェたちが誕生してから約3か月後。メンデルでは世界を驚愕させるような発表が公開された。

「どうやら、元気な男の子が無事に生まれたみたいね。」

クライン博士は吉報だと思い、嬉々として研究室で話を口にしていた。一方アウラは、その話を冷めた表情で聞いているのであった。

「ん?アウラ、あまり面白くなさそうにしているけど。何が不満なことが?」
「いえ、別に……まぁ子供が生まれるのはいいことじゃないかしら。」

人工子宮を用いたことによる、完璧な遺伝子情報を有したコーディネーターの誕生。メンデル内に存在していたアウラの研究所とは別の機関で、その実験が成功したと発表されていた。

「もう、アウラってば素直じゃないんだから。同じメンデルから新しい研究成果が出てくるのは、私たちにとってもいいことでしょ。」
「はぁ……あなたは楽観的でいいわね。ユーレンところの研究が、一体どんな経緯で研究を続けていたかを知ったら……ね。」
「えっ、どういうこと?」

はしゃぐクライン博士を尻目に、不機嫌さを露わにしていたアウラ。そんな彼女の言葉に、博士とギルは耳を傾けようとする。

「まぁ、私も詳しくは知らないんだけどね。ユーレン・ヒビキ、ヴィア・ヒビキ夫妻の研究機関は、私たちの研究とは違って寄付を募って行っているものなのよ。」
「寄付?プラントや地球連合の国から支援を受けていたものじゃないの?」
「そう。彼らの研究はあくまでも民間単位のもの。私費で行われている以上、私たちよりもスポンサーに困っていたことだけは事実よ。」

研究所の責任者として、メンデル内部の事情にもある程度は精通していたアウラ。それ故に彼女は、本来聞きたくもないような情報を耳にすることも少なくなかった。

「数年前に建設された新しい研究棟……そういえば、ギルの両親はその関連施設で働いているんだっけ?」
「えっ?うん……多分。僕もそこで手伝いをすることもあるし。」
「へぇ……ギルはいまどんな研究をしているの?」
「今は老化を抑えるための薬を研究中です。持ち出しが許可されている資料だけだったら、アウラに頼まれてここにも少し置いていますよ。」

クライン博士に質問され、特に躊躇いを見せることなく返答を行うギル。アウラはそんな彼の様子に呆れつつも、安堵の表情を浮かべて言葉を続けようとする。

「どうやらギルも、あなたの両親も、ユーレンの研究には直接的に関わってはいないみたいね。」
「えっ、どういう……こと?」
「ちょっとアウラ、もったいぶってないではっきり言ってほしいんだけど!」

無垢な表情で見つめてくるギルと、情報が秘匿されていることに不服そうなクライン博士。そんな2人を尻目に、アウラは神妙な面持ちとなって小さな声でつぶやくのであった。

「あなたたちは……知らないほうがいいわ。つまるところ私たちのしていることだって、現世の神に喧嘩を売っているようなものだというのに。それ以上のことなんて、絶対に……」

自らの所業を顧みて、アウラは自分たちを縛り付ける倫理という楔の必要性を実感する。そして彼女自身は、自らの研究が必ず人類の未来に役に立つものだと自負して、前と進んでいた。

「大体、いくら完璧な遺伝子を有したコーディネイターだといっても、世代を重ねてしまえば他のコーディネイターと同じ問題に直面するのは避けられないというのに。」

例え理論上、最高のコーディネイターという概念で生を受けたとしても、その枠組みの中に収まっている以上は不完全な存在であるというのがアウラの考えでもあった。

「所詮はユーレンもその関係者も、未来の課題に目を背けて現在の名声を求めている愚者に過ぎないのよ。あんなことまでして……一体どれほどの欲深さを……あっ!ごめんなさいギル、別にあなたやあなたの両親までを貶めたいわけじゃないから……ね。」
「う、うん……僕は大丈夫。アウラの言っていることは、なんとなくだけど分かるから。」

静かに怒りの炎を燃やしていたアウラがその激情を滲ませる。しかし、それがギルやその家族に類が及ぶと気付いてすぐに、彼女は冷静さを取り戻して言葉を慎むのであった。

「私たちの研究は人々の未来を考えての研究よ。ラクスもオルフェも、他の子たちもそのために生きてほしいの。もちろん、あの子たちの幸せだって、私たちが守ってあげなくちゃ。」

人道を踏み外すような研究であるならば、せめて生まれてくる子供たちには幸福を与えたい。ヒビキ夫妻の研究について多くを知ってしまったアウラは、自らの行いでは決して子供たちを不幸にはしないと誓うのであった。

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