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唯坂詩集

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唯坂優の詩作品集です。ヘッダー・挿絵はアプリ『AI Picasso』様により生成。
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記事一覧

肌ざわり、その恐怖

肌ざわり、その恐怖

新しめの パンを

素肌にそっと 沿わすような

すっさりとした

肌ざわり

具体的には

具体的には 言わない

何を沿わせているかは 言わない

言わない

というか 言えない

何を沿わせているか

言えない

怖かろう

さぞかし 怖かろう

何も

何も分からないのに

無闇に肌ざわりだけはいい

コレのことが

怖かろう

心底 怖かろう

分からないはずなのに

怖いはずなのに

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佃

わからん

佃ってなんだよ

佃煮以外で見たことないぞ

にんべんに



わからん

本当にわからん

いや

ググれば出る

絶対に出る

なんなら『佃』って打った時点で

『佃 意味』みたいな

サジェストが出る

そうに決まってる

でも

僕のプライドが許さない

考えたい

自分で

考えたい

おい

これを読んでいる お前

知っているだろう

佃の意味を

知っているだろう

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メロンを投げる人

メロンを投げる人

メロン投げる人

メロンめっちゃ投げる人

恨みとか

信念とか

背景とかない

ただメロンめっちゃ投げる人

なにも

なにもメロンじゃなくても

知らん

そんなもんは 知らん

高いでしょとか

美味しいのにとか

知らん

わしが買ってきとる

毎朝 市場に出て

一番のメロンを競り落とす

から

高いのも

美味しいのも

わしが一番

よく知っとる

でも投げる

代わりとかない

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パン

パン

小麦粉をこねて、

菌を加えて、

焼く。

これだけの手間をかけて

できるものが

パン

2文字

2文字よ

耐えられる?

私には耐えられない

これだけ頑張って

作った物なのだから

もう少し

大仰な名前であってほしい

いや

具体案は ないが

これだけの

これだけの気遣いと手間とこだわりを

パンという

たった2文字で

片付けないで ほしい

そう願う

わたしもまた

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硬羊

硬羊

羊毛は いつもふわふわで

温かくて

僕たちを 包み込んでくれる

甘えるな

その甘えが

羊の心を硬くした

今日からすべては硬羊

金属と見紛う強靭なる毛

刈れない

バリカンが負ける

火花を散らし

刃が欠ける

羊にだって

リスクはある

刈ってもらえない

暑い

いつまでも

暑い

お前たちが

羊毛に頼り切っているから

お前たちが

羊毛に頼り切ってさえ

いなければ

舞板

舞板

あぁ

見上げよ

板が舞っている

なにか

吹き飛ばされて

慣性にしたがって

飛んでいるのではない

断じてない

あれは

あの板は

舞っている

自らの意思で

舞っているのだ

羽も

エンジンも持たぬ

ただの板

下から見たら

なぜ飛べているのかもわからない

でも

なぜかわかる

あれは

あの板は

飛ばされているのではない

優雅に

余裕を持って

舞っている

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道搗き

道搗き

右脚を踏み出し

粘る

左脚を踏み出し

粘る

その一歩が

また次の一歩が

道を搗く

足腰の弱い老人も

かわいく駆ける幼子も

一歩一歩

ぺたんこ

ぺたんこ

道を搗く

やめてくれ

道が歩き辛くなる

右脚がとられる

左脚がとられる

よろめきついた

その右手

言うまでもなく

粘る

ああ

この咄嗟の手も

道を搗いてしまっている

この僕も

道を粘らせてしまってい

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茶渓谷

茶渓谷

あの谷の底には

お茶畑がある

一面の緑

肥沃な土に抱かれ

ささやかな風が

空から滴る雨粒が

彼らを育てている

でも時に

その愛は行きすぎる

風は谷を抉り

雨は水底に茶葉を隠す

すると何が起こるか

考えればわかること

谷に溜まった雨は

哀れな茶葉から

カテキンを吸い出して

玉露

緑色の水面が風に揺れる

人々は胸を打たれ

持ってきたお茶を谷に流す

敬意を表するよ

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砂人

砂人

遠く

サハラの

ゴビの

タクラマカンの

陽射しに灼けた

砂漠から



立ち上がりたるは

砂人

数え切れぬほどの砂粒が

彼を形作っている

今この時にも

その指先から

ぽろぽろと溺れ落ちる 彼だった砂

今はもう

砂漠に紛れた

ただの一粒

僕はそれを

大事に拾って

ポケットにしまった

そこに向き直ると

もう彼はいない

砂時計が落ちきるみたいに

さらさらと溢れ

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鼻の中

鼻の中

ここは鼻の中です

比喩ではない

ここは鼻の中なのです

ここも

そこも

あそこも

どこもかしこも

きっとあなたの鼻の中

鼻には境界があります

鼻根から

鼻尖までが鼻です

しかしながら

鼻の中には

鼻の中には境界がない

鼻柱と鼻翼に包まれた

何もない空間

それが鼻の中

そして

鼻の中から

鼻の外を隔てる

明確な指標が ない

だからここは鼻の中

あなたの鼻の中

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茶漬世界

茶漬世界

冬が来たからって

雪が降ってくると思ったら

大間違いです

いいかい

今年はね

海苔が降ってきます

ざまぁないね

ゲレンデに子どもたちの泣き声が響くでしょう

ああ そうそう

お茶の雨も降ります

もう お気付きですね

そう 茶漬けです

冷やし茶漬けなのです

世界は

冷やし茶漬けになるのです

いい気味です

ささっと

すすりこまれてしまいなさい

烏賊雪

烏賊雪

降り頻る雪に

黒い染みが見えたら

それが合図

街の灯りが

妙に眩しくて

空の海から誘われた

烏賊雪が降ってくる

凍て渡る冬の朝

ふと見上げた顔の

その鼻に

ポタリ粘液

烏賊の香

降り積もった烏賊を踏んで歩く

そんな通学路

子どもたち 転ぶ転ぶ

ぬるぬるしているから

仕方がない

帰ったらイカリングが待ってる

イカリングが待ってるから頑張れる

そんな

素敵な一日

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種?

種?

なんでも 埋めればいいと思うな

確かに

埋めれば生えるものもある

種を蒔けば

野菜が生える

野菜が育つ

野菜が増える

ありがたい話だ

だからと言って お前

人を埋めるのは 違うぞ

人を埋めても

人は生えない

人は育たない

人は増えない

当たり前の話だ

人は

人はな

人は違うんだ

人はそうじゃないんだ

説明は難しいが

人を埋めても意味がないのだ

だからやめな

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重ね豆腐

重ね豆腐

豆腐を重ねていきます

常々重ねています

五段目くらいで

一段目が 崩れる

重量で

二段目が震えている

次は俺の番だと

その通り

四段目になった

元・五段目の上に

五段目を重ねる

一段目になった

元・二段目が

崩れる

重量で

そのうちに

余裕ぶっているうちに

一段目になった

元・五段目が

震えている

次は俺の番だと

その通り

四段目の上に

五段目を重ねる

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