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最近の大学病院の問題から学ぶ事

岡山大学や東京女子医科大学の体制を問題視する記事が続いている。

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過去には旭川医大や日本大学でも同様の問題が取り上げられているが、程度の差はあれ日本の多くの組織で類似の構造があるのではないかと思われる。
いわゆる”帝政”が敷かれた場合はそれを変えるには大きな力が必要であり、旭川医大や女子医大の事例を見てもそう簡単には覆らないのが現状である。

この帝政はいかにして構築されてしまうのか。

ニューヨークタイムズのベストセラー著者 ダニエル・ピンクは、
「人を動かす、新たな3原則」(講談社)の中で、人に影響を与えるための二つのアプローチとして「優位」「信望」をあげている。

優位の確立:人から有力で権威があると思われるので、影響を及ぼすことが出来る。
信望の収集:人から尊敬、賞賛されるので周囲に影響を及ぼすことが出来る。

これはつまるところ
”支配型ヒエラルキー(Dominance hierarchy) ”
”尊敬型ヒエラルキー(Prestige hierarchy)”の違いである。
(Current Opinion in Psychology Volume 33, June 2020, Pages 238-244)

支配型ヒエラルキーでは、リーダーが指示命令・威圧・攻撃・論破し、褒美と罰により周囲を操作する。
これによりリーダーに従う”空気”に支配された集団は、科学的・合理的思考さえ捻じ曲げて、全体に適合している結論しか受け入れないことで現実と乖離して狂い始める。そしてこの”空気”に従わない者への嫌がらせ・攻撃・圧力を行い”同調圧力”を形成していく。

その集団の中では一見論理的な議論をしているようでも、リーダーの意見にそぐわない意見が潜在的に排除されていき、次第に可能性が閉ざされて特定の方向しかないという“空気”が醸成される。

この画一的な集団では※エコーチェンバー現象が生じ、もはや周囲からかけ離れた存在になっていることすら気づけていない状況に陥る。

この集団では外部から問題が指摘されてもそれでもリーダーの指示を仰ごうとする。なぜなら人は不確かな状況に直面すると、ある種の支配的なリーダーを求めて秩序を取り戻そうとする(=不安を他人の主導力で「埋め合わせ」する)生き物だからである。

人は皆自分の判断は正しいと信じている。
だからこそ、その信念に反する事実が出てきたときに、自尊心が脅され、おかしなことになってしまう。

このような組織では問題が明るみになり崩壊してから皆決まってこう語る。
「あの時はああるするしかなかった」と

人は自分の信念と相反する事実を突き付けられると、多くの人は自らの過ちを認める事はせず、事実の解釈を変えることで自己を正当化しようとする。
そのため「ああするしかなかった」と自己正当化するのである。

アメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガーはこれを「認知的不協和理論」としてまとめた。
認知的不協和は自らが意識しない限りその自覚が難しく、自己正当化の解釈まま生涯を終える人間も多い。


マキャベリは”ある君主の賢明さを評価するに際して一番の方法は、その人物がどのような人間を周りに置いているかを見ることである”と述べた。
支配型ヒエラルキーがもたらす問題は、単にリーダーだけの問題ではなく、そんなリーダーを求めるチーム・組織の問題でもあるのだ。

誰かにとって都合のよい虚構が”空気”をつくり、その”空気”に一致する解釈が展開されていく。そして多数決の場を反対意見を破壊するための場とすることで皆が同じ見方をするのが正しい方向なのだという文化を形成する。
この”空気”こそが支配装置なのである。

これは我々日本人が太平洋戦争で辿ってきた、異なる思想の排除がもたらした悲劇と同じ構図である。
なぜ歴史から学べないのだろうか。
多様性のある組織がなぜ大切なのかを理解しないのは教育のせいなのだろうか。もしそうであればどうすれば教育出来るのだろうか。

帝政の構築を早い段階から防ぐためには下記の事を守っていく必要があると考えられる。

・集合知を要する複雑な問題の解決に対しては、多様性のある集団でアプローチしていくこと
・一部に権限を集約化をさせない体制を構築すること
・データ分析に基づいた論理的思考と数値に基づいた客観的指標を目指した戦略を持つこと
・常に反対のアイデアも考える姿勢を持つこと
・誰か特定の個人のための”空気”が出来ていないかを常に問い正すこと

自己の利益を追求する”テイカー”が現れ、周囲の者がこれを怠ると容易に組織は空気に流される。テイカーにはテイカーの対応が必要であり、客観的に見て良くない方向に向かわないよう、スタッフ一人一人が日頃から上のような点に注意して行動していく必要がある。

ドイツの哲学者ヘーゲルは次のように語った。
「我々が歴史から学ぶことは、人間は決して歴史から学ばないということだ。」

それでも我々は過去の失敗から学ばないといけないのである。

※エコーチェンバー現象:自分と似た思想を持った人々が集まる場(特にSNSなど)にて、自分の意見が肯定されることで、それらが正解であるかのごとく勘違いする、又は価値観の似た者同士で交流・共感し合うことにより、特定の意見や思想が増幅する現象のこと


<参考文献>
多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
著者:マシュー・サイド、ディスカヴァー・トゥエンティワン出版
「超」入門 空気の研究 日本人の思考と行動を支配する27の見えない圧力
著者:鈴木 博毅、 出版:ダイヤモンド社
ソーシャルメディア・プリズム―SNSはなぜヒトを過激にするのか? SOCIAL MEDIA PRISM. 著:クリス・ベイル 訳:松井信彦. みすず書房
事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学. ターリ・シャーロット 著 上原直子 訳. 出版:白揚社
GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代  著者: アダム・グラント 出版:三笠書房


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