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因果関係 vol.2 #46

ビジネスにおける「因果関係の思考技術」の続きです。前回は以下をご覧ください。

今回は「因果関係」把握のステップからスタートします。

1.因果関係を考えるステップ

適切に因果関係を考えていくことは難しいですが、ビジネスにおいて問題解決をしようと思えば、「その原因はこれだ」とある程度言い切れるものを見つける必要があります。

これに関する万能の特効薬というものはないですが、以下の3つのアプローチは特に有効となります。

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・分解して考える

「マンションで定められた曜日以外の日にゴミが放置されている」という事象の要因を考えてみます。

その際には、まずは「マンションで定められた曜日にゴミが出される」ための必要な条件セットを考え、それを踏まえて、思いつくところから洗い出していきます。

また、それらの条件に当てはまらないケースがないかを考えることも必要です。

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・さらに問い続ける

『5回の「なぜ?」を繰り返えす』

これは、「トヨタ生産方式」の生みの親である大野耐一氏(元トヨタ自動車副社長)の言葉です。

※詳しくは『トヨタ生産方式』(ダイヤモンド社刊)参照)

この考え方は、問題についていきなり解決策を考えるのではダメで、問題に対しては、5回「なぜ?」(Why?×5回)を繰り返さないと、本質的な問題を発見できないし、本質的な解決策も、出てこないというものです。

たとえば、生産財メーカーにおいて「売上げが伸びない」という問題があったとします。ここで「営業を強化しよう!」というのは簡単ですが、これでは問題の解決になっていません。

「営業を強化しよう」と一口に言っても、その打ち手は営業マンを増やす、営業マニュアルを整備する、営業
管理システムを導入するなど無数にあります。

どの打ち手を選べばいいのか、「営業が弱い」という一因だけではなんとも選びようがありません。原因究明が甘く、具体的な解決策が見えてこないからです。

そもそも「営業が奮わなかった」→「営業を強くすべき」は一対一で対応した問題解決策ではありません。

「営業が奮わなかった」原因が実は「商品が顧客ニーズに合致していなかったから」だったとしたら、いくら営業を強くしても、売上げが伸びることはないのです。

1回の「なぜ?」で真因(大元となる原因)を特定できることは稀であり、真因を追究するには、少なくとも5回は「なぜ?」を繰り返さないといけないというのがトヨタ流の考え方です。

「売上げが伸びない」という問題について言えば、以下のような感じです。

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「顧客の意思決定権限部署が変わっていた」が真因であることがわかれば、打ち手は

顧客の最新意思決定部署・者を正しく把握する

そのうえで、

正しい意思決定部署・者にアピールできるよう営業活動を行う

となります。

そして、具体的にはどうすれば顧客の最新意思決定部署・者を正しく把握することができるのかを考えていきます。

ポイントは、本質的な問題を発見できないと、本質的な解決策が出てこないということです。

5回の「なぜ?」は、真因を探る象徴的な思考姿勢と言えます。付け焼刃の解決策は応急処置的なものでしかなく、ともすれば見当違いな解決策にもなりかねません。

「なぜ?」を繰り返し、本質を見落とさないようにしたいものです。

・因果の構造を捉える

ある企業で次のような事象が表面的に観察されたとします。

①課長が忙しい
②部下に対する課長の指導の仕方がよくない
③部下のスキルが低い
④部下のモラールが低い
⑤課の業績がよくない

これらには、相互に何らかの因果関係がありそうです。

これらを構造化して因果関係を整理するとより高次の原因に対応する方策も考えることができます。

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より抜本的な打ち手を考える際には、因果をつなげて考えること(因果の構造化)はとても有用です。

因果の構造化のメリットとしては、以下が挙げられます。

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ポイントとしては、

まずは粗くつくって、その後に細かい部分をつなぐ
最後に重要なところを抜き出す

というプロセスが挙げられます。最初から完璧を目指さないことが大事です。

2.因果関係を考える際のチェックポイント

因果関係は、通常観察された事象からその関係を推定するに留まります(仮説)。

その推定の過程で錯覚を起こし、因果関係を誤って認識してしまうことがあります。

その代表的な陥りやすい錯覚のパターンおよびビジネスを進めるうえで気を付けなければならない錯覚のパターンは以下のとおりです。

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・直感による判断

出会ってから結婚までの期間が短い(原因)と、離婚してしまう可能性が高い(結果)

直感的には、納得しそうですが、実際はある程度調査してみないと分かりません。

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・第3因子の見落とし

競合が進出したから(原因)、売上げが低迷した(結果)

サービスの劣化が真因であるにもかかわらず、たまたま競合の進出と売上げの低迷が同時期だったため、双方に因果関係がある勘違いしてしまう場合があります。

競合の進出が売上げの低迷に拍車を掛けた可能性はありますが、そもそもの原因はサービスの劣化にあるので、この点を解決しないと問題が解決することはありません。

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・因果の取り違え

悪い仲間と付き合うようになったから(原因)、たばこを吸うようになった(結果)

もちろん、その可能性もありますが、因果が逆の可能性も否定できません。

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・最後の藁

アルバイトの電話対応が悪かったから(原因)、社長への抗議となった(結果)

アルバイトの電話対応が結果のトリガーになっていますが、真因は度重なる不手際にあります。

深掘りができてないと、小手先の解決策で済ませてしまう可能性があります。その場合、時間が経つと、また同じ問題が再燃します。

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3.スキーマ

ここまで、4つの錯覚について見てきました。

パターンを4つに整理しましたが、これらの錯覚には共通して働いている要因があります。それは「スキーマ」と呼ばれるものです。

スキーマとは、さまざまな物事に対して「その人が無意識のうちにしてしまう、ある決まったものの見方、考え方」のことです。

たとえば、あなたがバスに乗ったとき、運転手が女性だった際、「あ、女性もバスを運転するんだ」と思ったとします。これは「バスの運転手は男性」というスキーマが、知らず知らずのうちに働いているから、このような感想を持ってしまいます。

ステレオタイプや偏見はスキーマの一種です。ステレオタイプは、ある対象に対して一般的に受け入れられて
いるイメージや概念を指します。

たとえば、「日本人観光客は、メガネを掛けてカメラを下げている」というイメージは、海外での日本人観光客に対するステレオタイプなイメージだと言えます。

偏見は文字どおり「偏った考え」であり、非好意的ニュアンスが強いものです。スキーマは、ステレオタイプや偏見も含んだ、幅広い概念です。

スキーマは、次のような現れ方もします。

ある経営者がビジネスの先行きに問題を抱え、落ち込んでいるとします。そこに友人が現れました。彼は事業改
善についてアイディアを出し、「まだ何とかなるから、がんばれよ」と告げます。次に、別の友人が現れました。彼女は、「もっと楽観的に物事を見たほうがよい」とアドバイスをします。

さらに、別の友人は、「日曜日に教会に行って、お祈りをしなさい」とアドレスしました。

最初の友人は経営学的に、次の友人は心理学的に、最後の友人は宗教的に問題を捉えたと言えます。

このように同じ問題を前にしても人によってアドバイスが異なるのは、それぞれが築き上げてきた経験や知識がそれぞれに異なるために、異なったものの見方・考え方をするためです。

このスキーマがあるために、よく考えずに短絡的に結論を導き出してしまうことがあります。その結果、先に挙げたような落とし穴に落ちてしまうことになります。

しかし、スキーマがもたらすのは弊害ばかりではありません。ある程度スキーマがあるからこそ、考える時間を短縮したり効率的に考えたりすることができます。

すべてのスキーマを取り払ってゼロから全部考え直していたら、非常に時間がかかることになります。

したがって、スキーマを完全な悪と考えたり、意識しすぎたりするのは間違いです。スキーマの存在を知って、
それと上手につきあっていくことが大切となります。

4.目的と手段の関係

目的と手段の関係に関して、ビジネスにおいてよく陥りがちな不都合な状況となるパターンは以下のとおりです。

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・真の目的が共有されない

A社は、修理サービス部門の当事者意識やモチベーションを高め、顧客満足度アップにつなげるため、それまでのコストセンターであった修理サービス部門をプロフィットセンター化した。
その結果、修理サービス部門は、売上高を上げるため、必要以上に製品検査や修理を行うようになり、逆に顧客の不興を買うようになった。

なぜ、このような結果となったのでしょうか。

この事例の真の目的は顧客満足度アップでした。しかし、その目的が十分に認識されていなかったために、修理サービス部門がかえって顧客の不満足につながるような行動をとってしまうことになりました。

目的が不明確だったり、十分にコンセンサスが得られていなかったりした場合に、このようなことが起こります。

・手段の目的化

Bさんが人間ドックを受診したところ「体重が少し多く、このままでは生活習慣病につながりかねない」との指摘を受けた。
家族の顔も頭によぎったBさんは、早速食事制限と運動によるダイエットを開始した。見る見るうちに体重が減っていくことに気をよくしたBさんは、ダイエットの面白さに目覚めたこともあって、ますます食事制限と運動にのめり込んでいった。その結果、体重は確かに減ったものの、栄養不足で倒れてしまい、数日間入院する羽目になってしまった。

Bさんに何が起こったのでしょうか。

この事例では、「健康」という目的を忘れ、「ダイエット(体重減)」という手段の実行自体が目的化しています。目的をはっきり認識していたら、ある程度体重が減ったところで、過度のダイエットはやめていたはずです。

手段の目的化はビジネスの場面でも比較的頻繁に起こります。例えば、環境が変わり、不要な業務となっているにもかかわらず、その業務が継続されている場合があります。その業務の本来目的が忘れ去られ、その業務をやること自体が目的となっているケースです。

・予期せぬ副産物

A社は、徹底した成果主義を打ち出すことで、従業員の動機づけを狙った。四半期ごとに目標を定め、3か月後にその結果をレビューする。このレビューの結果を昇進昇格やボーナスに大きく反映させるというのである。

この施策を講じた場合、どのような副作用(副産物)が想定されるでしょうか。

以下のような副作用(副産物)が想定されると思います。

・長期的視点に立った行動をとらなくなる
・チームで達成した成果を個人の手柄にしてしまう
・責任は人に転嫁する
・目標設定の際、すぐに達成できるような低い目標を置いてしまう 等

ある目的を果たすために取った手段が思わぬネガティブな副産物を生む場合があります。どのようなことが起こりそうかある程度想定して、その対策を考慮しながら物事を進める必要があります。

5.因果関係を証明する難しさ

因果関係を100%特定することは非常に難しいです。ここでは、「原因を網羅することの難しさ」と「第3因子が存在しないことを証明することの難しさ」についてもう少し考えてみます。

・原因を網羅することの難しさ

前回ご説明した「単純な因果関係」のなかで、「昼食で食べたカキにあたって腹痛を起こした」という例を紹介しました。ですが、「腹痛の原因はカキだ」ということに疑問を差しはさむ余地もあると思います。

話を簡単にするために、ここでは腹痛を胃痛であると仮定します。胃痛の原因としては、精神的なストレス、長時間の空腹、栄養不足、食べ過ぎから、それらに由来する胃炎、その他アレルギー、食中毒などが考えられます。

しかし、これですべての原因を網羅したとは言えないはずです。世の中に未知の病気はたくさんあるし、思いもよらないところに胃痛を起こす原因が潜んでいるかもしれません。

因果関係を100%正しく特定するためには、原因として考えられることをすべて挙げ、そのなかから最も正しいと思われるものを選び出し、さらには実験などを行って因果関係を証明しなければなりません。

しかし、ここで考えたように、原因を網羅することは非常に困難です。すべての原因をチェックできないとすば、漏れているもののなかに決定的な原因がある可能性も否定できないません。

この難しさゆえビジネスでは、100%の証明に時間を使うのではなく、類推・推量にも頼りながら、80%程度
の証明を目指すほうが効率的なのです。

・第3因子が存在しないことを証明することの難しさ

因果関係を証明するのに必要な要件である「第3因子が存在しないこと」を証明することもまた難しいです。

一般に、「存在することを証明するよりも、存在しないことを証明するほうがはるかに難しい」と言えます。幽霊の存在などはその最たるものです。事件捜査の「アリバイ」も、そこにいなかったことを直接証明するのではなく、他の場所にいたことをもって、そこにいなかったことを間接的に証明します。

因果関係の第3因子も、存在しないことを証明するのは容易ではありません。

これはビジネスでは無論のこと、自然科学の分野などでも同様です。

たとえば、あるたばこ会社は、「喫煙が肺ガンの直接の原因となるのではなく、喫煙(正確には喫煙を招きや
すいストレス体質)と肺ガンの共通の原因となる第3因子の遺伝子が存在するのではないか」との仮説を提唱しました。

すなわち、「その遺伝子を持つ人は、ストレスを感じやすく、たばこなどの嗜好品に依存しやすい。一方で、その遺伝子はガンの発現に何らかの形で関与している」というのです。このような遺伝子がまったく存在しないと証明することは、容易ではありません。

6.まとめ

前回と今回のビジネスにおける「因果関係の思考技術」のまとめです。

・因果関係

「因果関係の把握」は特に問題解決において、重要な思考技術
「なぜ、こういう現象が起こっているのか。その原因は何か。」という問いかけを常に行う姿勢を身につける必要がある

・因果関係といえる条件

①時間的順序が正しいこと、②相関関係が存在すること、③第3因子が存在しないこと の3つ視点でチェックが必要

・因果関係を見極める-推量・類推の重要性

数値データやヒアリング、一般常識に加え、それまでに蓄えた知識や経験を総動員して、8割方正しいと思えるまで推量・類推すること
より多くの人が「確かにそうだろう」と思えるところまで説明できれば十分

・因果関係の留意点

因果関係のパターンを押さえ、陥りやすい落とし穴に気をつけること


参考文献・引用:
「[新版]MBAクリティカル・シンキング」グロービス(ダイヤモンド社)
「[新版]問題解決プロフェッショナル」齋藤嘉則著(ダイヤモンド社)

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