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『メデイア』 (2008)

『メデイア』

※上演ご希望ございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。著作権は田口アヤコ及びエウリピデスに、上演権はCOLLOLに帰属します。


【上演記録】

2008/04/04~05
COLLOLリーディングシリーズ「recall:2」
メデイア

門仲天井ホール
2008年4月4日(金)〜5日(土)
http://www.COLLOL.jp/recall2/


CAST

永野麻由美(Rel-ay)…………緑の衣裳のメデイア、イアソン

八ツ田裕美…………黒い衣裳のメデイア、アイゲウス

吾妻未来…………白い毛皮のメデイア、乳母

津島わかな(天然果実)…………ブルーの毛皮のメデイア、クレオン

菊地奈緒(elePHANTMoon)…………赤い衣裳のメデイア、使いの者


STAFF

劇作・演出: 田口アヤコ

戯曲研究: 角本敦

照明: d'UOMO ex machina

舞台監督: 吉田慎一(Y's factory)

制作: COLLOL

制作補: 守山亜希(tea for two)

宣伝美術: 鈴木順子(PISTOL☆STAR)

協力: 横浜アートプラットフォーム 急な坂スタジオ
中島和也 木山はるか 氏家綾乃

原作: エウリピデス



愛と、欲望と、労働と、消費、
ということについて演劇をつくりつづけています。


という文章を前回の本公演のパンフレットに書いたのですが、
それはいまも変わりません。


愛と、欲望と、労働と、消費。


そして恋愛と結婚。


こども、についてはよくわかりません。


そろそろわかりたいものだ、と
30代半ばにさしかかるわたくしはおもいます。


奇跡のように、平均年齢29.9歳の女優5人が揃いました。

29.9歳のメデイアが、現代の東京にうかびあがり、

こどもを、殺します。


このできごとが、
お客さまみなさまの現実とぎりぎりと結びつくことを。


COLLOL代表
劇作家/演出家/女優 田口アヤコ

*********

<乳母→メデイア>

乳母→メデイア: 
たぶん、
いま、
思い出す
あーーーー
わかんない、こうしたらよかった、てのはない、ないのかも
アルゴ船が、あんな海の通れるかどうかわかんなかった、岩と、岩の、あいだを
でも抜けて、コルキスに
そう
コルキスになんか着かなきゃよかった

ちがう
あれ、船が、
ちがう、
船のあの櫂?水夫たちの、櫂になる樅の木、ペリオンに生えてる
あの木が切られて櫂になんかならなきゃ、
船が


そしたら
メデイアというおんなは、
イアソンというおとこに、
会わなかった、
会わない、
会わない、
会わない、会わない、
そしてイオルコスなんて行かなかったし、
ペリアス王の娘のあのひとたちに父親を
父親を殺させたんだなあ、あー父親を、
それで、逃げて、そうふたりで
ふたりで
それで、ここはコリントスかーー
イアソンが夫になって、子どもも産まれて、
そんな、
こんな、か、
こんな、暮らすことにもならなかった、

ト書き:  登場人物
乳母 メデイアの。
クレオン コリントスの王。
メデイアの二人の子供
その守役
イアソン メデイアの夫。
コロス コリントスの女たちより成る。
アイゲウス アテナイの王。
メデイア
使いの者

場所  コリントスの、メデイアの住居の前。

<オープニング、乳母>

乳母: ああ天よあのアルゴ船が、コルキスに向かわなければ、
あの青い岩と岩の間を抜けて。
いえそうじゃない、ペリオンの谷に生える松の木が、
櫂となって水夫たちの手に渡らなければ、
ペリアス王のために金羊の毛皮を取ってこようとする水夫たちの手に。
そうすればわたしのメデイア奥様は、イオルコスに漕ぎ渡ってくることもなかった。
彼女の魂がイアソン様への恋に捕らえられることもなかった。
そしてペリアス王の娘たちを騙して父親を殺させ、
このコリントスの地に来て夫と子供たちと共に暮らすこともなかった。
この地ではよそ者とはいえ、市民として認められている。
そしてなにごとにもイアソン様と協力しながらやってこられた。
このように夫と妻の心がひとつである事がなによりの命綱、
しかし今は愛はすべて憎しみに変わってしまった。
情けの契りはなんと弱い。

イアソン様は「ふさわしいご結婚」とやらのために
ご自分のお子様とわたくしの奥様を裏切り、
クレオン様、この地の領主様のお嬢様と結婚しようとしている。
そしてメデイア様、哀れな奥様はさげすみの言葉を吐き出す、
彼の破った誓いに対して、彼の右手で誓った固い誓約に対して、
そして天に向かって神よご覧あれ、と叫ぶ、
イアソン様が奥様になんとひどい返礼をしたか。

いまや奥様はなにも召し上がらず、悲しみに身を投げ出し、
すべてを涙のうちに費やしている。
夫とともにいた日々は間違いだった、と悟ったのだ。
目をひらくこともない、顔を上げることもない、地に伏せたきり、
おしのように友人の言葉にも耳を貸そうとはしない。
まるで岩か、海の波ででもあるかのように。
たまに白いうなじがねじれ、かすかに嘆きのことばをつぶやく、
父のこと、故郷のこと、お家のこと。
それらを捨ててまで付いて来た男に今、すさまじい屈辱を受けているのだ。

可哀想な奥様、悲しい経験を受けて初めて、そのよさを知る、
故郷を出てこなければよかったと。

今ではお子様のことまで憎み、姿を見るのもおいやなご様子、
なにかよからぬことをお考えではないかと心配だ。
この気配は危険だ、彼女が自身を残酷な目に陥れるのではないかと。
私は奥様をよく知っている。


<乳母とメデイア>

メデイア: なんとみじめなあたしの嘆き。
ああああ、死んでしまえたら!
なにがあたしをさいなんでいるというの?
この痛み、叫ばずにはいられない!
呪われた子どもら、呪われた母の子、
父親とともに、家もろとも崩れ去って!

乳母: おいたわしい。
なぜお子たちが父親の罪をも分かち合わねばならない。
なぜ奥様はあんなにお子たちを憎むのか。
ああ、お子たちが怖い目に会われはせぬか、それだけが気がかり。
身分の高い方のお心は、なんときつい。

ト書き: コリントスの女たちよりなるコロス、登場。

メデイア: この頭は雷に打たれよ。
これ以上生きたってどうなる?
ああああ、あたしはあとは死にたいわ、
こんな最悪な生活から逃れて。

コロス: ゼウスさま、地よ、日の神よ、
あの声をお聞きになって?
死はいつか忍び寄るものなのに、
おかわいそうな方。
ねえ、婆やさま、
奥様を外へ、ここまでお連れして。
顔を合わせてお話ししたいの。
何事か、なさらぬうちにね、早く。
お嘆きがどんどん高まってくるわ。

乳母: やってみましょう。
でも、奥様をお連れできるかどうか。
ともかく行って参りましょう。

ト書き: 乳母が家の中に入る。メデイアが家の中から出て来る。

<メデイアの登場>

家から、出てまいりました、コリントスの奥様方。
あなたがたがわたくしを非難しないでいただけるとよいのですけれど。
男の方々のなかには自尊心のために、
ささいなことで名や名声を汚された、とお思いになる方がいらっしゃるから。

ここには男性方のお目はありません、
彼らは、そう彼らはまったく「隣人の気持ちを理解しよう」などと思わないのですわ。
一度目の敵にしたら、それは覆されない。
そしてよそ者は町のやりかたになんとか合わせようとする。
そうしなきゃわたしは「市民」として認められない。
彼の心は頑固で、無作法さは町の意思を逆なでする。

でもわたしは思いがけない災難に出会ってしまい、命をすり減らしているのだもの、
わたしもうぼろぼろ、この世に享けた生を投げ出したいと望んでるの、
ねえみなさん、死にたい。

彼、世界のすべて、わたしのすべてを知っている人、
それが一番最低の男になってしまったの、
わたしの夫が。

すべての生命をもったもののなかで、わたしたち女がいちばん不幸な生き物。

第一に、夫を高い持参金によって買わなければならない、
そして身を暴君に預けるの、これはそのお金の話よりひどい。
一番重要なことは、わたしたちの選択がよくても悪くてもおんなじってこと。

離婚ていうのは女性にとって公平には出来ていなくって、
わたしたちの「主人」と縁を切ることはできない。

妻が次にやらなきゃいけないのは、
自分がやってきたやり方とか習慣とかをすべて新しくすること、
そんなことは実家では教わってこないけれど、
預言者だったら、人生のパートナーをどう扱えばいいものか知っているのでしょうけど。

もしもたまたまわたしたちがそれを完璧にうまくやりとげるとしたら、
夫がわたしたちと共に、
そうね拘束なんてしないで、
そしたらわたしたちの一生は幸福なものになる。
そうじゃないなら、ぜんぜん死んだほうがまし。

ね、男のひとは家の中でいらいらしたら、
外に出て、好きなことでもして忘れることができる、
おんなじような友達や仲間のとこに行ったっていいし、
でもあたしたちは彼一人を見てなきゃならない。

そしてあのひとたち、あたしたちは家の中にいて安全で、
でも彼らは「戦争」に行く、なんて言うけど
言い訳みたい
あたしは喜んで三度だって何度だって戦場に行くわ
1回お産をしてみればいい。

でも、ね
ぜんぜんちがう
言っても、しょうがないけど、
このまちには
あなたたちのご実家や、生活のちいさなたのしみや、いろいろおしゃべりするお友達や、
たくさん、あるけど、
でもあたしにはないの。ぜんぜん。
自分の国から出てきて、でも夫に捨てられ、外国で人質になってるみたいに、
母もなく、兄弟もなく、この災難から救ってくれる親切な方もいない。

だから、
わたしひとつだけお願いがあるのですみなさん、ねえ
黙って、いてください。
もし幸運にもあたしがなんらかの方法とか手段、
あたしの夫に返してやれるいちばん残酷なことがみつかったら。
そしてあたしの夫に娘をくれてやるあのクレオン王に、
そして妻になるあの小娘に。

おんなというものはすべてのことにおびえるけれども、
きらりと光る剣にもびくびくするのだけれど、
でもわたしの誠が汚されたときには、
その心の中ほど残忍なものはない。

ト書き: クレオン 登場。

<5 クレオンとメデイア>

クレオン: おう、メデイア、
お前の夫に対して怒りを持ってわめいているな、
わしはお前に、
この地を立ち去り、辺境へ向かうよう命ずる。
二人の子も連れ、
直ちに!
このことだけだ、
わしはお前が国から出るのを見届けるまでは家へも帰らぬ。

メデイア: ああ、なにもしていないのに、すべておしまい。
私の敵はすべての帆を張って向かって来る、
逃れる場所もつかむものもない。
でも、わたしがこんな目にあうのは、
お尋ねします
なぜ私を追放に? クレオン様。

クレオン: 怖いのだ、おまえがなにかおそろしいことを
わたしの娘にするのではないかと。
たくさんの証拠がある、
おまえは賢い女、
多くの悪行にも長けている。
そしていまおまえは夫の愛を失ってひどく傷ついている。
おまえは恐ろしい、たくさんの者がわしに言うのだ、
お前は悪を企んでいる、花嫁に、その父親に、そしてその夫に。
だから事が起こる前の用心。
それがよいのだ、わしがいまお前に憎まれようと、
優しくして後で後悔するよりは。

メデイア: なんてこと。
これがはじめてじゃない、
クレオン様、
でも回数は多いわ、あたしが悪事をはたらこうとしてるとおもわれるのは。
気の利いたひとなら子どもには普通以上の教育を受けさせちゃだめ。
それで多く稼げるわけじゃない、
かえってまわりのひとからは面倒がられる。
賢いことをぐちぐち言ったって馬鹿とか役立たずとおもわれる、「賢い」ではなく。
もし頭のよさがみとめられても、面倒な奴だとおもわれる。
あたし、あたしがいまそんなかんじだわ、
あたしが頭がまわる、ていうことで
あるひとはあたしが悪いことを考えてるとおもう、
あるひとはあたしのことをもったいぶってると思ったり、
その反対だったり、
でもあたし、賢くないわそんなには、
なぜあなたは反対に私を恐れなさるの? なにを企むと?
なんにもないわ、クレオン様。
わたし、わたしの上の方に対してなにか犯罪をおこなうような人間じゃない。
なにか正しくないことをなさった? あなたが、わたしに、
あなたはお嬢さまをいいと思った男とご結婚させただけだわ。
わたしの夫のことは、憎んでいます、でもあなたは、
わたしとしてはこのことについては素晴らしいご判断をなさったとおもいます。
そしてあなたのご幸運を妬んだりはいたしませんわ、
どうぞご婚礼を、みなさまで、
そしてあなたにも大いなる幸あれ!
でも、どうぞわたしをこの土地にいさせてください。
なにか間違ったことをするようなことがあるでしょうか?
わたしは平和が好き、権力のある方に楯突くなんて!

クレオン: お前の言葉はなんともなめらかだ、
しかしそのぶん心の中に抱えた悪がいかほどであるか恐ろしい、
前にも増して、だ。
かっと怒る女、まあおんなみたいにかっと怒る男もだが、
対処するのは簡単だ、
賢い女より、思ったことを隠しておくような。
だめだ、すぐに出て行け、
しゃべるな。
わしの決めたことは変わらない、
お前にはほかに道はないのだ、
われわれのあいだにわしに対する敵意がある以上は。

メデイア: いいえ、お膝におすがりしてお頼みします、
あなたのお嬢さま、花嫁さまにかけても!

クレオン: 言葉を捨てろ。
お前はわしには勝てん。

メデイア: でもこのようにおすがりするのを無視して、罰すると?

クレオン: そうだ。
わしはお前よりも自分の家を愛する。

メデイア: ああふるさとよ、今となってどんなに懐かしいか。

クレオン: わしだってそうだ、
我が子の方が大事だが。

メデイア: あああ、なんてひどいことなの、
人間にとって愛とは。

クレオン: それはめぐりあわせによるのだとおもうが…

メデイア: ゼウスよ、よくご覧あれ、誰がこのかなしみを引き起こしたか。

クレオン: 行け、馬鹿な女、わしはもうこの厄介ごとには関わらん。

メデイア: その厄介ごとにわたしはずっぷりと入っているのです。もうたくさん。

クレオン: すぐにお前は国の外に放り出されよう、わしの家来によって。

メデイア: だめ、ねえ、なさらないで、
お願いですから、クレオン様!

クレオン: 女よ、
そんなことをしてもわしをいらいらさせるだけだ。

メデイア: 追放を受け入れます。猶予をくださいませ。

クレオン: なぜそう力いっぱいわしの手にしがみつくのだ?

メデイア: わたしに、この1日をください、
追放の前に準備を、子どもたちになにをしてやったらよいか、
その父親はそんなことなんにもしてくれないのです。
彼らを哀れんでやってください。
あなたも人の親でしょう。
子どもたちに優しさを見せてくださってもいいではありませんか。
わたしは私自身のことは、追放になったってどうでもいいんです。
彼らの、不幸な彼らのために泣いてくださいませ。

クレオン: わたしの気質はまったく支配者向きではない、
優しさをみせて痛い目を見たのもたびたびだ。
そしていまも、
なにかやばい失敗をしでかしそうな気がする、
とはいえ女よ、
お前の要求を受け入れよう。
しかし警告しておくが、
明日の日がお前とお前の子をこの国の国境の内に見たなら、
死罪だ。
かならず。
このときは許そう、
あともう1日だけ。
1日ではお前も恐ろしいことはできまい。

<メデイアの策略1>

状況は最悪。誰も否定しない。
でもものごとすべてがそういうわけじゃない、そうは考えないで。
まだ新婚の二人には試練があるの、この原因のあの父親にも。
あたしがあの男のご機嫌をとる?
なんかもらうとかたくらみなしに?
あたしがあの男と言葉を交わしたり、すがりついたり?
でもあいつずいぶんなばかだわ、
あたしに、この1日を許すなんて。
1日、あたし3つの死体をこしらえることができるわ、
あたしの敵、あの父親、あの小娘、そしてあたしの夫。
いまかんがえてるのたくさん、殺す方法がありすぎて。
どれを最初にやったらいいかわかんないわ、ねえみなさん。
あたし新床に火をつけてやる?
それか忍んでいってするどい剣で息の根を止めてやる?
ひとつだけ、でもね、やっかいなの
もしあたしが屋敷にしのびこんで準備してるとこを捕えられたら。
あたしは殺されあいつらの笑いものにされる。
いちばん最短の道は、あたしがいちばんよく知ってる、あれ、
毒を使って殺すことだ。
そうして、それであたしたちがうまくあいつらを殺したら。
どの町がわたしを受け入れてくれる?
だれか安全な土地と家を与えて助けてくれるかしら?
ないわ。
てことはあたしちょっと待たなくちゃ。
もし助けになる砦が現れたら、
あたしはこの殺人を慎重にすすめる。
でももし状況がまずくてやらなきゃいけなくなったら、
あたしは剣をとってそして、あたしは死ぬだろうけど、
あいつらを自分の手で殺す、いちばん極限の道を進む。
あたしがいちばんにあがめる女神ヘカテ、
あたしの部屋の奥にいらっしゃるあの神にかけて、
誰にもあたしを傷つけたり笑わせたりしない。
にがく悲惨なものにしてやるわこの結婚。
クレオン家の結婚、あたしをこの土地から追い出そうとしたことも含めて。
ね、メデイア、あんたの才能をぜんぶつかうの。
あんたははかりごとと陰謀の女。
やばいとこに入るの!
そう 勇気がためされてる。
何をされたかはっきり思い出して。
あんたはイアソンなんかに傷つけられるべきじゃない。
あんたは高貴な父の血筋、
太陽の神様ヘリオスがあんたのおじいさま。
あんたはどうしたらいいかわかってる。
そして、そして、あたしたちは女だわ、
ノーブルなことはできないけど、
もっとも巧みなやり手、あらゆる種類の悪には。

ト書き: イアソン登場

<イアソンとメデイア1>

イアソン: 思えば初めてじゃないな、
お前の荒々しさがどうしようもなくなるのは。
この土地に居続けることも出来たろうに、
お前の上の者の言うことを聞いていればな、
おまえは馬鹿なおしゃべりで追放されるわけだ。
おれはかまわない、
言いつづけろ、イアソンは卑怯な男だと。
しかし王家の人間に対してあの言葉、
追放くらいで済んだのがよかったくらいだ。
俺は王の怒りを静めようといろいろと手をつくした、
おれはおまえにここにいてほしかったからだ。
しかしおまえはおろかな振る舞いをやめず、
王家の皆様に対して反抗しつづけた。
その結果、追放。
しかしそれでもおれはおまえたちへの愛を失ってはいない、
おんなよ、
おまえは金もなく子供らとともに異国へ行くであろうから、
なにか必要なものは無いか。
なにかと困難なこともあるであろう、
おまえがおれを憎んでいたって、
おれはまったくおまえに悪い気持ちは持っていないのだ。

メデイア: 極悪の、大馬鹿野郎!
こんなもんだわあたしがあなたに言ってあげられるのは、
口から出せる言葉なんて、
あんたがした卑怯な行動に対してはね、
よくも来れたわね?
あんたはあたしにとって一番の敵だっていうのに、
それは神さまにとってもだわ、そしてあたし、すべての人間にとって!
これ大胆さとか勇気とかそんなんじゃないわ、
「愛してる」っていいながらひどい目にあわせた人間に
面と向かって話が出来るなんてね、
人間の行動の中でいちばんひどい、あの
恥知らずってやつよ。
でもよく来てくれたわ、
まあこれであたしの気も楽になる、
あんたがいかにひどいか罵ってあげればね、
あたしが言うことなんてぜんぜん応えないでしょうけど。
じゃ、いちばんはじめから始めましょう。
あたしはあなたの命を救った、
あんたといっしょにアルゴ船に乗ってたすべてのギリシャ人が知ってることだわ、
火を吹く牡牛をくびきにつけ、死の畑に種をまくよう申し付けられた
あのときのこと。
竜が見張る金羊の毛皮、
眠らずに見張っているその竜をあたしが殺した、
そしてあたしが死から救って差し上げたんだわ。
あたしは父や故郷を捨て、あなたに附いてきて、
ペリアス王の治めるイオルコスに、
分別よりも愛をえらんだってことだわ。
あたしはペリアス王の命も落とし、
ひどいやりかたでね、
そう彼自身の娘たちの手で殺させたのよ、
そして一家を滅ぼして差し上げた。
このようにあたしに世話になっておきながら、
なんて卑怯な男、
あんたはあたしを侮辱し、
あたらしい結婚を準備し、
あたしたちには子供だってあるのに。
子が無ければね、まだあなたが結婚したいっていう気持ちも
わからないではない…
あんたが破った誓い、
あんた、あのときの神さまはもういない、とか
世界には新しい掟ができた、とか
そんなことを考えてるの?
あんたはあたしに対して誓ったのよ。
あああたしの右手、
あんたよく握ってくれたわよね、
あたしのひざといっしょに、
こんなひどい男にね!
あたしが持ってた希望も打ち砕かれたわ!
でも今となっては、
「お友達」とでも思いましょうか。
あなたがお望みのように。
そうしたらあたしの質問にちゃんと答えてくれるかしら。
あたしがどこに行けばいいって?
わたしの父の家? わたしがあなたのために捨ててきた。
それかペリアス王の娘たちのところへでも?
素敵にもてなしてくれるでしょうね、
彼女たちの父親を殺したあたしのことを!
どうしろっていうの?
あたしは血縁のものを敵とし、
べつに傷つけるつもりもなかったあの娘たちにも恨まれている。
ねえ、まちがいなくあなたはあたしをしあわせにしてくれた、
このギリシャの女の中でいちばん、
この、あなたにしてあげたことによってね。
ああみじめだわ、
あなたはなんて素晴らしく誠実な夫なんでしょうね、
あたしを国から追い出し、
知らない土地へ、
そう捨てるのよね、捨てられた子供たちと一緒にね!
新しい花婿さまにはさぞ素晴らしい評判がつくわね、
彼の子は乞食!
彼の命を救った元妻も物乞い!
ああゼウスさま、
なぜ男っていうものにはっきりとした印をつけてくれなかったの、
その男を信用していいものかどうか?

イアソン: 女よ、
おれはそんなにしゃべりに来たわけではないが、
おまえの攻撃をかわす必要があるようだ。
おまえは自分の親切をがあがあ言い立てるが、
俺がおもっているのはな、
アプロディテだけだ、神の中でも人間の中でも俺を救ってくれたのは。
おまえがかしこい知恵を持っているとおもうから言うのだが、
愛の女神がその矢によっておまえを動かし、
俺を救うようにさせたわけだ。
まあそんなにぐちぐちとは言わん。
たしかにお前は、俺を、救ってくれた。
しかしその見返りをお前は受けているはずだ、
はっきりとな。
第一に、
お前は今ギリシャに住んでいる、田舎ではない、
そして正義と法というものを学んだ、
力ではなく。
そしてギリシャ人はいまやみなおまえのことを「賢い」と知っている、
お前は名声を手に入れたのだ。
もしお前が世界の果てに住んでいたなら、
だれもおまえのことなど口にしない。
おれのやってることについてもうすこしくわしく話してやろう。
この話をし始めたのはおまえだ。
おまえは王家との結婚に対してずいぶん怒っているが、
ここに示そう、
第一に、おれは賢い選択をした、
第二に、ちゃんとじぶんのやってることはわかっている、
第三に、これはおまえと子供たちのためなのだ。
まあ落ち着け!
イオルコスからここへ越してきたときには
いろいろと大変なこともあっただろう、
しかしより大きな幸運を授けようというのだ、
王の娘との結婚以上にいいことなんてあるか?
おれにとってもここは異国だ。
これは、おまえが腹を立てているように、
お前に飽きたわけでも、新しい花嫁が欲しいわけでもない、
むやみに子供の数を増やしたいわけでもない。
いまいる子で充分だ、不平があるわけではない、
おれの目的は、もっといい暮らしがしたい、ということなんだ
それが第一だ、
人は金のない友人なんか欲しくない、
俺は子供たちを家柄相応に育ててやりたいのだ、
おまえの産んだ子供らに兄弟をつくって、
彼らを同様に扱い、
一族が一緒になって幸福になろうというのだ。
おまえはこれ以上子供は要らないだろう?
おれだって、新しい子供らが今いる子供らを助けてくれればいいと
おもっているのだ。
これが悪い計画か?
おまえも夜の夫婦生活のことで不平を持っているのでなければ、
いやとは言わないだろう。
しかしおまえら女というやつはセックスさえうまくいっていれば、
すべてオーケーだと思い込むのだ、
不幸だな、
おまえはいちばんよい道を避けて通ろうとしている。
人間、子を持つのにほかの方法があればよいのに、
おんなという性なしに。
そうすれば人類の問題はなくなるだろう。

メデイア: あたし、おおかたのひととは考えが違いますから。
あたしにとっては、
口先だけがうまい人間は罰を受けるべきだわ。
彼が約束を破ったらね!
だからやめなさいよ、ぐちぐち言うのは。
たった一言であなたを参らせてあげる。
もしあなたが卑怯者じゃないなら、なぜ結婚の前に
あたしの了承を取らなかったの?
あなたの家族を欺く前に。

イアソン: たしかによく手伝ってくれたろうな!
さきにこの結婚のことを話しておいたなら。
今でさえかっかと怒っているんだからな。

メデイア: そうじゃあないわ。
あなたは最近になってようやく
田舎出の女と結婚してるのが体裁が悪いっておもいはじめたのよ。

イアソン: おまえはそう信じ込んでるようだが、
女のために結婚するのではない、
さっきも言ったように、
お前を守り、俺の子供らに王家の兄弟をつくってやりたかったのだ、
家を守る砦として。

メデイア: お金がある暮らしでも、幸せじゃないならいらないわ、
あたしはあたしの心を傷つける富なんか欲しくない!

イアソン: おまえの思い込みを変えてもっと賢くなれないのか?
そんな考えはまったく無駄だし、お前自身を傷つけ、不幸にするだけだ!

メデイア: ええ、どうぞあたしを侮辱なさいな、
あんたは暖かいお家があるけれど、
あたしは味方も無い辺境に行くのよ。

イアソン: おまえがじぶんで招いたことだ。
だれにも不平を言うな。

メデイア: どこが?
新しい奥様をもらってあなたをお捨てした?

イアソン: 王家に対して呪いをかけただろう。

メデイア: ええ、そしてあなたのお家にもね。

イアソン: これ以上おまえとこのことについて言い争うつもりはない、
しかしもし俺から金やなにか子供らの助けになるものが欲しければ、
言うがいい、
なんでも与えよう、
友人にも手紙を書いてやろう、
よいようにしてくれそうな友に。
この申し出を断るような愚か者ではないだろう、女よ。
怒りを忘れろ、これがおまえにとってよい選択なのだ。

メデイア: あなたのお友達からの助けなんて要らないわ、
あなたからなんてなんにも、
なにも欲しがりません。
悪人からの贈物なんてあたしたちのためにはなりませんから。

イアソン: 神はご覧になっているだろう、
おれがおまえと子供たちに対して
できるだけのことをしてやろうとしたことを。
しかしおまえはよい待遇もおまえの友人もはねつける。
こんなことをしても痛みが増すだけだぞ。

メデイア: 行きなさいよ。
早く帰ってお屋敷で花嫁といちゃいちゃしたいんでしょう!
行きなさいよ、新しいベッドにね!
予言は本物にしてやる、
あんたがめそめそ泣くような結婚にしてあげるわ。

ト書き: イアソン、退場。

<8 コロス1>

分かれる、河の流れ
変われと、世界は転ずる
おとこは、くちから裏切り、
天への、誓いむなしく
うわさは、我をうごかし
名声を、もたらす、
純潔がおんなを壊し、
いまはもう、縛る舌無し

古い詩人の唄はわたしたちの不誠実さをうたった、
吟遊詩人たちをつかさどるアポロンは、わたしたちに「唄の才能」をお与えにならなかった
しかしわたしは男たちに負けずにうたう、
おとことおんなのことは、うたってもうたっても尽きない。

狂ったこころで父親の家を出、
あの岩を抜けてわたった、
そして見知らぬ土地で、しかし夫も無く、あわれなおんな、
流浪のひと、侮蔑され、差別され。

誠が去った、いちど誓った誓いの。
ギリシャ中を探したって、もう、ない、
天に誓った、もうない。
そして祖国は閉じられ 天は荒れ狂う。
家には別の妻、新しい花嫁が、迎えられる。

<会話1>

A: でもさ、

B: うん

A: もし自分が結婚してだよ、
で結婚してて、だんなが、ま だんなっていうか相手がさあ、
浮気したらどーする??

B: いやー
その、時と場合によるんじゃないの

A: え なんかさあ、
じぶんより若いおんな~とかだったら すっごい やじゃない?

B: んーでもさあ、あたし浮気されたことあるよ?

A: え

B: やべつに だんなじゃなくて彼氏だけど、

A: え それってなんでわかったの?

B: いや、まあー、それで、振られた


<会話2>

A: 許せないこと。。

B: あ 浮気。

A: えでも鼻毛のほうがやだなー

B: それレベルちがくない?
あーでもハゲてきたりするのはそれはそれで、
つらいよね
あたしは ハゲ だめだから。

A: なんかさあ、友達に会ったときにー紹介してくれない、とかは?

B: えそれはよくあるんじゃない?
べつに相手が急いでたーとか、

A: いやなんか、こないだすっごい変で、

B: 彼氏?
え その友達って女?

A: うん

B: えーそれはなんか、あれなんじゃないの。。

<会話3>

A: 結婚はさあー
ま、安定はするよね

B: お金とか

A: そう

B: もう恋愛しなくていいっていうのもいいよねー

A: え でも恋愛しつづけるっていうかさあ そのだんなに、
好きなきもちが大事じゃないのー?

B: いやー 恋愛は、エネルギー、いるよー

A: うんー まあ、

B: 一生にいちどの、みたいな

A: うん 一生にいちど ねえ… 結婚?

B: いや恋愛。

A: 結婚は?

B: どーなんだろー

<アイゲウスとメデイア>

ト書き: アイゲウス、登場。

アイゲウス: メデイア、元気か? ごきげんよう!
これ以上のあいさつはないな、友人に対しては。

メデイア: あなたもお元気? アイゲウス、聡明なパンディオンの息子!
どこへ行ってたの? この土地に寄ったのね?

アイゲウス: アポロンの古き神殿から。

メデイア: なぜにお社に?

アイゲウス: いかにして子孫を得るかをたずねにだ。

メデイア: まあ、今までお子さまなしで?

アイゲウス: 子に恵まれずだ、これも何かの神さまのおみちびきなのだろう。

メデイア: 奥さまは? 結婚したことがないわけじゃないわよね?

アイゲウス: 共寝する妻がいないわけではない。

メデイア: アポロンさまは、お子については何と?

アイゲウス: そのお言葉は深すぎて人間には理解しかねる。

メデイア: そのお答えを聞かせてくれないかしら?

アイゲウス: もちろんだ、あなたのかしこき知恵を拝借したい。

メデイア: で、神様はなんとおっしゃったの?
教えて、聞いてもよろしければ。

アイゲウス: 「ワインの入った革袋の先をほどいてはならぬ。」

メデイア: あなたが何をするまで? もしくはどこかへ行くまで?

アイゲウス: 「家に帰り着くまで。」

メデイア: ではこの土地にはどうしてお寄りになったの?

アイゲウス: ピッテウスという男がいるだろう、トロイゼンの王の。

メデイア: ペロプスの息子ね、信心深いひとだって聞いてるわ。

アイゲウス: 彼とこの神託の謎ときをしようとおもったのだ。

メデイア: あの人なら賢くて、そういうことの経験も深いでしょう。

アイゲウス: それにあいつはおれの一番の親友だ。

メデイア: そうね、うまくいって、あなたの望みがかないますよう!

アイゲウス: しかしなんだかあなたの顔は、泣いたのか?

メデイア: アイゲウス、わたしの夫は最悪の男。

アイゲウス: どうした? もっとくわしくあなたのご不幸を話されるがよい。

メデイア: イアソンは裏切ったのわたしを、
ひどいやりかたで私を裏切ったの。

アイゲウス: 彼が何をしたのだ? もっとシンプルに話してくれないか?

メデイア: 彼は違う女をあたしのかわりに家の主人としたの。

アイゲウス: なんと、いくらなんでもそんな恥知らずなことをしたのか?

メデイア: したのよ。一度は愛したあたしを、今はぽいと捨てた。

アイゲウス: それは一時の情欲にかられてか、
それともあなたと寝るのに飽きたとでも?

メデイア: ひどい情欲よ。もう彼、家族に対する誠実さなんてない。

アイゲウス: もうそんなことなら気にするな、彼はそういう男なんだろう。

メデイア: 彼の欲望っていうのは、王の娘と結婚することなの。

アイゲウス: 誰が娘を彼なんかにくれてやるんだ? その先を。

メデイア: クレオン王よ、このコリントスを治める。

アイゲウス: それは、理解できない、だがあなたはお可哀相な。

メデイア: わたしの人生は破滅よ、
それにね、あたしこの国から追放になるの。

アイゲウス: 誰が? これはさらに不幸なことになってるわけだ…

メデイア: それもクレオン、あたしをコリントスから追い出すのは。

アイゲウス: イアソンはそれに対してなんにもしないのか? まったくわからん。

メデイア: 彼はなあんにも、でもそうさせるつもりに決まってるわ。
ねえ、あたしあなたのおひげとおひざにすがって頼むわ。あなたの助けが必要なの。
あわれみを、この不幸な女をかわいそうにおもってよ、
あたしを友もなく追放させるようなことをゆるさないで。
ねえ、受け入れてくれない? あなたの国に、お家に。助けが必要なの。
あなたがあたしの頼みを聞いてくれたら、
そしたらあなたの子どもが欲しいっていう望みも
きっと神さまにかなえられるわ あなた死ぬまで幸せに暮らせるわ!
あなたは知らないでしょうけど、
ここにあたしがいるっていうことはすごいラッキーなことなのよ。
あたしあなたの子の無い暮らしを終わらせてあげる。
子どもが授かるように、
あたしそういう薬を知ってるの。

アイゲウス: わかった、あなたの願いは喜んで聞き入れよう。
第一に神々へのつとめとして、
そしてあなたが授けようと約束した子宝のために。
このことではいやはや、困り果てているのだ。
しかしどうしたものか、
もしあなたがおれの国へ来たならば、道にもかなうこととして
必ずあなたの盾となろう。
これはしかし先に言っておくが、
おれがあなたをこの土地から連れ出すわけにはいかない。
あなたがどうにかして自力でおれの家まで来れば、
そこでは安らかに暮らせよう、
おれは誰にもあなたを渡さない。
というわけで、この土地からはひとりで抜け出してほしい。
わたしの友人たちから咎められるようなことはしたくないのだ。

メデイア: そうしましょう。でも誓ってもらえる?
あつかましいようだけれど、

アイゲウス: おれを信じられない? なにかひっかかるか?

メデイア: 信じてるわ、でもペリアス家は敵、クレオンもそう。
誓いがあれば、あなたはわたしを渡さないでしょう、
彼らが追いかけてきても。でも単なる言葉だけだったら、
神かけた誓いがなかったら、
彼らの使者のうまい言葉にあたしを引き渡してしまうかもしれない。
あたしは弱い、彼らは富と権力を持っているけれど。

アイゲウス: 聞いてよくわかった。うむ、あなたがそう望むのだから反対はしない。
たしかにおれにとっても、
あなたの敵たちに対して確かな理由を持つのだから、より安全だろう。
では、誓うべき神々の名を挙げられよ。

メデイア: 大地の神、わたしの祖父、太陽の神、それにすべての神々をひとつにして。

アイゲウス: いかにし、いかにせぬと? それを言ってくれ。

メデイア: 国からわたしを追い払うようなことはしない、
どんな敵がわたしを連れ去ろうとしても、あなたが生きている限り、
進んで引き渡すようなことはしない、と。

アイゲウス: 地の神に、尊き日の神、およびあらゆる神々に誓って、
そなたの言われることを守る。

メデイア: オーケー。もしこの誓いを破ったときのお覚悟は?

アイゲウス: 誓いを破った者の、当然受けるべき罰は覚悟の上。

メデイア: ではご無事のご旅行を。すべてがうまく行ったら、
あたしもあなたのとこにすぐに行くわ。
すべて思ってることをやり遂げて、欲しいものを得たら。

ト書き: アイゲウス、退場。

<メデイアの策略2>

ゼウス様! ゼウスの娘正義の女神ディケー様、そして太陽の光よ、
そしてみなさん。あたしは勝つわ。もう足をふみだした。
今あたしは確かな見込みをもって、あたしの敵にこの罪の代金を払わせてやる。
だってこの男、すごくちょうどいいとこに、あたしがいちばん困ってるときに
あらわれてくれた、わたしの計画の港みたいに。
彼にあたしの命綱をくくりつけて、アテナ様の都に行く。
今あたしはあなたがたに、計画ぜんぶをお見せします。
聞いて、たのしくはないかもしれないけど。
あたしは召使を一人やってイアソンにあたしのとこに来てって頼む。
彼が来たら、あたしはいいかんじに言うの、
あたしあなたと同じ考えになったわって。
王家との縁組、彼があたしを捨ててやろうとしてる、
それはすっごくいいことだって、
すっごく有益で最高の選択だって。
あたしは子どもらをここに置いてもらうように頼んで、
子どもたちを残して敵の手で育てさせるためじゃないわ、
あたしあの娘を殺す道筋にするつもりなの。
贈り物を子どもらに持たせて使いにやって、
花嫁に追放しないでくれ、ってお願いしに行かせるの、
最高の織物のドレス、そして純金の冠。
もし彼女がそれを手にとって身につけたら、
彼女は痛々しく死ぬわけ、彼女にふれた者もおんなじように。
あたしがその贈り物に仕込んだ毒で。
この先、でも、あとにとっときたいわ、
あたし、あたしが次にやらなきゃいけないことは。
あたしは子どもたちを殺すの。
だれも彼らを救うことはできない。
あたしはイアソンの家のものぜんぶをこわしつくして、この土地を離れる。
自分自身の愛する息子たちの殺人の罪から逃れて、
もっとも邪悪なことに手を染めた罪から。
あたしの敵どもの笑い声なんて耐えられないの、
みなさん。
こういうことなの。
生きててどうなる? 故郷もない、家もない、不幸から逃れるすべもない。
あたしのまちがいは、あたしが家を出てきたとき、
ギリシャのコトバを信じたことだわ。
彼は、神があたしを助けてくれる、かならず
あたしにしたことの報いを受ける。
彼はもうあたしの子どもらの生きてる姿を見ることもない、
そして新しい花嫁に子どもを産ませることもできない、
だって彼女は私の毒で死ぬんだもの。
だれにもあたしを弱い、価値の無い、おとなしい女だなんて思わせない。
ええ、その正反対、敵を傷つけ、お友達には親切。
そんな人間が一番の勝利の道を生きるのだわ。

ほかに道はないの。

それがあたしの夫を傷つけるいちばんの方法。

そうあたしがいちばん不幸な女。

ト書き: イアソン 登場。

<イアソンとメデイア2>

イアソン: おまえが言うから来たぞ。
おまえがおれをいかに憎もうとも、
話くらいはしよう。
さあなにを望む、女よ。

メデイア: イアソン、
あたしが言ったことをゆるして、
あたしの怒ったりしたこと、許してくれるわよね、
あんなに仲良かったこともあるあたしたちだもの。
あたし、ひとりでぶつぶついろいろ考えてみたの、
バカだわ、どうして一番よいとおもってくださる方たちに対して
戦おうとしたりするのか?
なぜあたしはこの地の一番えらい方と夫に対して
敵となるのか、
お姫様との結婚で、
あたしの子どもたちに兄弟をつくってくれようというのに。
なにを嘆いているの?
なにが起こったのかしら?
神さまはいいようにしてくれているのに?
あたしに子どもがないとでも?
異国の地で助けが必要な身だというのに?
こんなふうに考えて、わかったの、
あたしはすごくばかだったわ、
なんにもないのに怒ってばっかりいたってことだわ、
で、今はあたし
受け入れて、認めることにしたの、
あなたがよく考えた上でしたことを、
この結婚をあたしたちのためにしてくれようとしてることを。
そうあたしがばかだったの、
あなたの計画のこと、なんにもわかってなかったわ
あなたのお手伝いをしなくちゃ。
新床にお仕えして、あなたの花嫁さまと仲良くお話しする。
そう、あたしたちは女だから、
悪人とまではいかないけれど、
まあそんなかんじよ。
だからあなたもあたしたちのことをわかって、
子どもっぽい怒りに怒りを返すことはなかったのよ。
あたしわかったの、
あたしが馬鹿だったわ、今は正しい道が見える。
子供たち、子供たち、ここにきて、お外に、おいで!
お父さまにご挨拶、
あたしといっしょに、もういままでの喧嘩はおしまい!
もうなんにも問題はないわ。
お父さまの右手を取って、
ああ、でもなんだか先のことが。
わたしの子どもたち、
長生きしていつまでもそのかわいい手をさしのべてくれる?
不幸なあたし!
ああ涙がこぼれる、
ぞくっとするの
お父さまとの長いあらそいがおわるというのにね、
涙が、とまらないわ。

イアソン: よく言ってくれた、おまえ。
もういままでのことは水に流そう。
女が怒るのは自然なことだ、
自分の夫がほかの女と結婚しようとしたら。
しかしおまえの考えはいいほうに変わったのだな、
まあ時間はかかったが、
この計画をしっかりわかってくれたようだ。
これでこそ分別のある女にふさわしい。
子供たち、
お前たちの父は、おまえたちのために一番よい道を考えてやる。
神の助けもあろう、
すべて安心するがよい。
いつか、
おまえたちの新しい兄弟とともに、
このコリントスの地で一番の地位をも持とう。
大きくなったらな。
すべてお前たちの父は考えているのだ、
神様方もおまえたちの上に微笑んでいる。
早く大きくなって、おれの敵どもをばったばったと斬り殺してくれ!
おい、おまえ、
なぜそんなに悲しげに泣くのだ、
白い頬を背けて、
なにか気に入らないことをおれが言ったか?

メデイア: なんでもないの。
こどもたちのことをかんがえてたの。

イアソン: しかし、あわれなおまえよ、
なにを子供らのことで嘆くことがある?

メデイア: あたしがこの子たちを産んで、
あなたが彼らの今後のために祈ってくれて、
かなしくなったのよ、
このあとどうなるのだろう、って

イアソン: なにも恐れるな!
すべてよいようにしてやる!

メデイア: そのとおりだといいなとおもうわ。
あなたのことばを信じてないわけじゃないの。
ただおんなって、生まれつき弱々しくてすぐ泣くのよ。
でもお呼びしたご用件のうち、いくつかはもう言ったけど、
まだあるの。
この地の領主さまがあたしを追放してしまいたいとおもっているのだから、
それが一番いいことだとおもうの、
あたしはどこかに行くわ、
領主さまやあなたのおじゃまにならないようにね、
だってあたしのことを敵だとお思いなのだもの。
あたしはこの土地から去るわ。
でも子供たちだけはあなたの手で育ててほしいの
クレオン様に、彼らを追放しないよう頼んで。

イアソン: できるかどうかはわからないが、
まずはやってみよう。

メデイア: そうそれでね、
あなたの奥様にも、お父さまに子供たちが追放にならないように
お願いしてくれるよう頼んでほしいの。

イアソン: もちろん大丈夫だろう、
彼女にはそうさせる。

メデイア: ええ、同じ女のひとりなら。
でもあともうすこしお手伝いをさせて。
子供らに、彼女への贈物を持たすわ、
贈物は、いままで見たこともないような綺麗なものよ。
素晴らしい仕立てのドレスと、金づくりの冠。
ねえだれか、
早くあれをここに持ってきて!
彼女は一つだけじゃなく無限の幸せを手に入れるのね、
あなたという最高の夫、
そしてわたしの祖父、太陽の神ヘリオスからの宝物。
これは花嫁さまへの贈物、
子供たち、
手に持ってね。
幸せな高貴な花嫁さまに差し上げるの。
予期しない贈物を彼女は受け取るのね。

イアソン: 馬鹿だなおまえは、
なぜこんなものを手放そうとする?
王家にドレスや黄金がないとでも?
とっておけ、そんな必要は無い!
おれの妻はおれを大切に思ってくれているのだから、
おれの頼みはこんな財宝がなくとも聴く、
もちろん。

メデイア: 止めないで!
神様でさえ贈物を好む、
人間にとっては黄金は千の言葉よりも価値をもつわ。
わたし、子供たちの追放を免れるためなら命だってさしだすわ、
黄金なんてなんでもない。
さ、子どもたち、
すてきなお屋敷に行って、
あなたのお父さまの新しい奥様にお会いするの、
わたしのご主人様にね、
そしてここにいられるようお願いするのよ。
そしてこのご衣裳を渡してね、
これがいちばんだいじなことなんだけど、
この贈物を直接お手にお渡しするのよ。
さ、急いで行って。
そしてうまくいきますよう、
あなたのお母さまにうれしい知らせを持ってきてちょうだい!

ト書き: イアソンと子供たち、退場。

<使いの者とメデイア>

コロス: 何度かあたしは
おんなの身にはむずかしすぎるといわれるような
たいそうなことを考え
問題を論じても来ましたの。
あたしたちにも、知の女神はおとずれる、
おかげで知恵をわけあたえてくれる、
みんながそうとは言わないけれど、
でも数は少なくっても
知の女神に会った女っていうのもいる。
子を産んだことの無い身は
子を持つよりしあわせと言えましょう。
なによりも人の身に恐ろしい不幸の種は、
子を失うということ。
いろんな不幸のある上にまた、
子を亡くさねばならぬという、
このいちばんの悲しみを、
神様方が人間にくだしたもうたは何のため。

メデイア: みなさま、もうずいぶん長く、ことが起こるのを待ってるの。
あちらの家でどう事が起こったか。
ああ、見てください、
あそこへイアソンの家来がやってくるのが見えます。
息をはずませたあの様子、
何か真新しい悲劇を知らせようというのでしょう。

使いの者: あなたはなんというおそろしいことをなさいました、メデイア様、
お命を守るため、逃げられませ!
船でも、車でも、猶予はなりませぬ。

メデイア: なにごとが起こったのです、私に逃げよ、とは?

使いの者: 姫君様と父君のクレオン様が、たった今、あなたの毒薬で殺されました!

メデイア: 素敵な知らせね。
となれば、知らせてくれたお前も、今よりあとは恩人、そして友人の一人ともなるわ。

使いの者: 何と? ご正気ですか? ご正気ですか奥様?
あなたはご王家に対しあのような狼藉をはたらき、
その知らせを聞いてお喜びとは、おそろしくはないのですか?

メデイア: 何とでも言えますが、そのおまえの言葉に対する返答は。
まあかっかと焦るのはおやめ、友よ、
そしてあたしに話をしてちょうだい。
彼らはどう死んだの?
あんたは二倍ものよろこびをあたしにくれるわ、
その死が残酷であれば残酷であるほど。

使いの者: あなたの二人のお子様が父親と共に花嫁の部屋に入ってきたとき、
わたしたち召使すべて、
あなたのご不幸を嘆いていたわたしたちは喜びました。
わたしたちは、
あなたと あなたの夫が 争いをやめた と 思ったのです。
ある者はお子たちの手にキスし、ある者は子供たちの金色の髪に。
そしてわたしもあまりのうれしさに、
子どもらについて女たちの部屋に入りました。
そこには奥さまが、いまわたしたちがあなたの代わりにお仕えしている、
彼女は二人の子供を見るまでは、イアソン様だけをみつめていました。
しかし目をおおって顔をそむけなさる、
子どもたちが入ってくるのをいやがったのです。
あなたの夫は彼女の機嫌をとろうとして言いました。
「おまえの血縁のものに冷たくしないでくれ。
怒りをしずめ、顔をわたしたちに向けてくれ。
近しくおもってくれ、おまえの夫の愛するものたちを。
この贈り物を受け取り、父君に子供らを追放しないよう頼んでくれ、
わたしのために。」
彼女はその衣を見るとがまんできなくなって、夫の頼みをすべて承諾しました。
そして子供たちと父親が部屋を出るとすぐに、色あざやかなドレスを着てみた。
そして黄金の冠を巻き毛の上にのせる。
明るい鏡の中で髪の毛を整え、その自分に笑いかける。
立ち上がって、部屋の中を歩いてみせる。
ふりかえって、なんどもなんども、つま先立ってみせる。
しかしそれから耐えられぬおそろしいながめ。
顔色が変わり、足がからまり、うしろに、ななめによろめき、
椅子に倒れ込むことでかろうじて床にくずれることをまぬがれる。
それを召使の中の一人の老女はおもったのでしょう、
パーンの神かなにかの熱狂の様子だと。
そして神に祝祭の叫びを上げた。
彼女のくちびるから白い泡が流れ出し、
顔色が青ざめ血の気が失せるのを見るまでは。
それからかわりに前の叫びに答えるがごとく、
泣き叫ぶ大声を上げたのです。
そしてすぐに一人の召使が彼女の父親の部屋に行き、
もう一人は彼女の新しい夫の部屋に、花嫁の悲劇を告げに。
家中がバタバタと走る足音で満ちる。
そして、
かわいそうな彼女は意識を取り戻し、目を見開き、
おそろしいうめき声を上げる。
彼女は二重の痛みに攻撃されたのです。
黄金の輪は彼女の頭のまわりにおそろしい火を吹き、
あのすてきなドレスは、あなたの息子たちからの贈り物、
白いやわ肉に食い入ります。
すべては燃え上がり、彼女は椅子から立ち上がろうとし、逃げようと、
頭を振ってあちらこちらに、その冠を振り落とそうとする。
しかしその黄金の冠は固くからみつき
髪の毛をゆするとその分炎が燃え上がる、2倍の高さにも。
床に倒れ、すべて力尽き、もう父親以外には見分けもつかないでしょうありさま。
目玉はもう顔にのっていない。
あたまのてっぺんから血がしたたり落ち、火とまざって、
彼女の肉は骨から溶けて、たいまつから落ちるろうのように。
見えない毒の歯に食い荒らされ、見るに耐えない。
わたしたちはみなおそろしくて遺体にふれられず、
同じようになるかも、と。
しかし彼女のあわれな父親が災厄をかえりみず体を抱き上げ、
用心もなく、入ってくるとたんに。
そしてすぐに嘆きの声を上げた、抱きしめ、キスして
「ああ不幸な娘、
どの神がお前をこんなはずかしめに、
そして私に残したのだお前を、もうわしは死に近いのに。
ああ私もお前といっしょに死のう、私の娘!!」
しかし嘆きと涙を止めて、彼の老いた体を起こそうとしたとき、
絹のドレスがからみつく、月桂樹につたいのぼるアイビーのように。
そしてひどい戦いが始まる。
彼はなんとか起き上がろうとする、しかし彼女は彼をかたくつかんで妨げる。
力を入れれば、老いた肉が骨から剥がされる。
ついにみじめな彼は負け、最後の息をし、
この惨事にはどうすることもできなかった。
彼らは死んで、となりあって横たわり、
娘と彼女の老いた父親と、なんとあわれな光景。
あなたの運命については、わたしは何も申しません。
あなたはすぐに知るでしょう、あなたをおとずれる罰を。
わたしたちは死すべき命、これが最初ではない、命が影のようであるとおもうのは。
そしてためらいなく言いましょう、
かしこく弁論に長けた人ほどおそろしい咎を負う。
祝福されて生まれた者などいない。
富がころがりこんでくるような人でも、すこしばかり運がいいというだけ、
決して神に授けられた幸せではない。


メデイア: みなさん、わたしのやるべきことはもう決まってるの。
あたしの子どもらを殺す、できるだけ速く、
そうしなきゃここから逃げられない。
あたしがためらうことであたしの子どもらをもっと汚い手にわたすわけにはいかない。
あの子たちどうせ死ななきゃならない、あの子たち、
あたしが産んだんだからあたしが殺す。
ほら、武器をもつの、あたし!
おそろしいことだけど、やらなきゃいけないの。
ほら、不幸なあたしの手、剣をとって、
とって、あんたのみじめな最後にむかうのよ!
ひるんじゃだめ、おもいだしちゃだめあの子たちを愛してたことを、
そのかわりに、今日1日だけあの子らのことを忘れるの。
そしてあとでとむらう。
あんたがあれを殺したって、あれはあんたのもの。
ああなんてふしあわせな、あたし。

子どもたちの声: お母さん。おかあさん 
おかあさん。
お母さん。


<イアソンとメデイア3>

イアソン: 女たちよ、
恐ろしいことを仕出かしおったメデイアは中か、逃げ失せおったろうか?
地の下か、天上にでもゆかねばならぬ、王家に対して犯した罪を免れようためには。
この土地を治める一家を殺しながら、わが身は罰も受けず、
この家から逃がれてゆけるとでも思っているのか。
しかし、気に懸るのはあいつよりは子供らのこと。
あの女には、彼女が傷つけた者らが仕返しをする、
おれがここに来たのは、おれの子供らの命を救おうがためだ。
母親の、神をも恐れぬ所業の仕返しに、血縁の者らが、
あの子らをどうにかせぬとは限らぬからな。

コロスの長: あわれなイアソンさま、ご自分の不幸の度合いをご存じもない!
そんなことを言っていられましょうか。

イアソン: 何だ? ということは、
彼女は俺まで殺そうというのか?

コロスの長: あなたのお子たちは死んだ、殺された、かれらの母親の手で。

イアソン: ああ、何を言っている?
おれをぶっこわす気か、女たちよ!

コロスの長: すぐにわかるでしょう、お子たちは、もういない。

イアソン: どこで殺した? 家の中でか、それとも外でか。

コロスの長: 門をお開けになれば、命なき息子たちが眼に入りましょう。

イアソン: 召使ども、すぐに閂をはずせ、
二つの不浄のものを見たいというのだ。
子供らの遺体とその下手人のあの女、
あいつはただではすまさぬ。

ト書き: イアソンは家のドアを開けようとする。
メデイアが、現れる。
竜に引かせた、翼のついた馬車に乗って。

メデイア: なにをそうがたがた門を揺すって、閂を外そうとなさるの?
死んだ子どもらと、それをしたあたしを探そうとしてるんでしょ?
やめて、そんな無駄なこと。
あたしにご用がおありなら、そう言えばいいのに。
でも手で捕まえることはできないわ。
このような乗物を、父上の、そのまた父上に当る太陽の神様が、
敵の手を逃れるよすがにと、あたしにくださいましたから。

イアソン: ああ忌まわしいやつ、神々にも忌み嫌われるであろう、おれだけでなく、
すべての人間にとって、
おまえは自分の我が子を手にかけ、おれを子無しの身に陥れた!
こんなことをしながら、どうして天地を仰ぎ見ることができる?
おまえはとんでもない罪を犯したというのに?
死んで滅びろ!
おれはいまわかった、
あのときは正気ではなかった、
おまえを家から連れ出し、野蛮な土地からこのギリシャに連れてきたときには。
あのときからおまえは呪われていた、
じぶんの父親、じぶんを育てた祖国を裏切った。
しかし神々がおまえに報復する。
おまえは実の弟を殺して、美しいアルゴ船に乗り込んだ。
それがすべての始まりだ。
おまえはおれと結婚して、俺の子まで産んで、
そしてかれらを殺した、愛されないからと言って。
ギリシャのおんなにはこんなことをするやつはいない、
だがおれはギリシャのおんなではなくおまえを選んでしまった、
最悪の、破滅をもたらす、結果がこれだ!
おまえは牝ライオン、女ではない、
生まれながらにもっとも残忍な存在!
しかしいかに罵ったってお前には傷すら残さないだろう、
それがおまえの図々しさだ、
失せろ、恥ずべき、子殺しめ。
おれはこの運命をひとり嘆き悲しむ、
おれは新しい花嫁に子を産ませることもできない、
生きている子どもたちに話しかけることもできない、
おれの子、育てた子、
おれは彼らを失った。

メデイア: 話が長いわね。
いくらでもそのお言葉には答えてあげるけど、
父なるゼウス様がもし知らないっていうのなら、
あなたがあたしにどんな恩を受け、どんなお返しをなさったか。
あたしとの縁を切って、あたしをあざ笑いながら、自分は楽しい生活を送ろうだなんて、
ばかね、
あのお姫さまも、あのクレオンも、
あんたに娘をやって、あたしをこの土地から追い出そうなんてね。
お呼びなさいよ お好きなように、牝ライオンとでも、妖怪とでも、
あなたの心の中心を、あたしはばらばらに打ち砕いてあげたんだから。

イアソン: ああ、そういうおまえもやはり悲しいはず、俺と同じく不幸なはず。

メデイア: もちろん、でも、でもこの痛みはあなたに嘲り笑われないためのもの。

イアソン: 子供らよ、なんという邪悪な母親を持ったのだ。

メデイア: 子供たち、あなたたちが命を亡くした原因、父親の罪はなんと重いことか?

イアソン: おれの手でない、そう彼らを殺したのは。

メデイア: いいえ、あなたの非道さと新しい結婚がもと。

イアソン: 本気でおもってるのか、結婚が子殺しの理由になるなんて?

メデイア: 想像してみれば、夫を失った女の悲しみを。

イアソン: 分別を持った女ならば。
でもお前はすべてを悲劇とする。

メデイア: でも子供たちは死んだ、つらいでしょう!

イアソン: 彼らは生きている、あああたましいとなって、
お前の罪の上に復讐するだろう。

メデイア: 神様はどちらが悪いかご存知。

イアソン: ああご存知だろう、最低のお前の心根もな。

メデイア: あたしを憎めば! もうあなたのいやらしい声なんてたくさん。

イアソン: おれも同じだ。別れるのはたやすいこと。

メデイア: どうしましょうか? どう? 早くそうしたいのよ!

イアソン: 死んだ子どもたちを葬らせてくれ。嘆かせてくれ。

メデイア: そんなのもちろんだめ。あたしは彼らを自分自身の手で埋葬するのだから、
ヘラ様のご神域に連れてくの、敵たちが墓を暴いたりしないように。
そしてこのコリントスの地に厳粛な祭りと神聖な儀式を設けるわ、
俗悪な殺人の代償に。
あたしは、アテナイへ行く、アイゲウスの住んでる、あのパンディオンの息子の。
あなたは、その身にふさわしく、みじめにおびえながら死ぬわ、
アルゴ船の残骸が頭から落ちてきてね、
あなたの「結婚」の悲惨な結末をみながら。

イアソン: 子供らの死を受けた復讐の女神と、殺人という罪に対する正義の女神が、
お前をぼろぼろにするだろう。

メデイア: どの女神があんたなんかの言葉を聴くって言うの?
誓いを破り、人を欺いたあんたの!

イアソン: は! 穢れた人でなし! 子殺しの女!

メデイア: お家へお帰りなさいよ! あんたの妻を土に埋めてあげたら?

イアソン: ああ…二人の息子を、奪われた。おれは行く。

メデイア: あなたのかなしみは始まったばかり。年を取るほどつらくなるわ!

イアソン: 子供たちよ、最愛の。

メデイア: それは母であるわたしの言葉、あんたなんかに言う資格はない。

イアソン: それならなぜ殺した?

メデイア: それはあんたをかなしませるためよ。

イアソン: 可愛らしいその子らのほほに触れたい、この腕に抱かせてくれ!

メデイア: いまごろ子供らに語りかけたって、いまになって大事にしたって、
あんたはさっきまでは彼らを放り出したのよ。

イアソン: 神かけて、頼む、その俺の子のやわらかい肌に触れさせてくれ。

メデイア: むりよ。あんたのことばは空にむかってるようなもの。

イアソン: ゼウスよ、聞こえますか?
わたしはこのように穢れた子殺しの母親から拒否されるばかり。
すべてのちからをふりしぼって、わたしの嘆きと懇願をあなたがたに届けたい。
天よ、わたしの息子たちを殺したこのおんなは、
彼らに触れることも、葬ることも、ゆるさない。
おお、わたしは子など持たねばよかった! おまえの手にかかって殺されるくらいなら。

<コロス5>

コロス: もろもろの事の司よ
オリュムポスなるゼウスの神は。
神々は、思わぬごとく、事々を成したもう。
思われしことは成らずて、
神明は、思われぬこと遂げたもう。
今もまた、そのようになりしかな。

メデイア: オリュンポスの高みにいらっしゃるゼウスは、
すべてのことに手を下し給う。
神は、しばしば、
人間の望みとは反対のことをしてくださる。
こうなってほしい、とおもうことは
満たされない、
神はその道筋をご存知である。
この物語のように。

(幕が降りる)

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