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香川の漆、藍のこと。徳島阿波踊り空港発ANA282便羽田行き


「旅先で書く」
と決めて早々こんな状況になり、とても久しぶりになってしまった。

とある映像作品制作で生まれ故郷の香川へ行ってきた。育ったわけではないので、帰ってきたと言うにはちょっと恥じらいがある。


伝統工芸の中でもなかなか海外へ魅力を伝えづらい漆。そしてその中でも知名度としては輪島や越前などより知られていない

香川漆器。


松平藩の豊富な財源のもと、独自の5技法が特徴の作家性の強い産地。

今回は一緒に仕事をコラボレーションとしてものづくりをした香川漆芸の漆芸作家として活動する松本光太さんを密着する。
作品だけではなく、人柄、育った地域、周りを囲む環境を通して、
日本の工芸の持つモノを大切にする心、モノを楽しむ表現、モノを伝える言葉、を海外に伝えたいと思った。

ある縁がきっかけで知り合い、お仕事をしてきたが、ずっとzoomでやりとりをしてきて会うのは今回が初。
香川漆器の祖、玉楮象谷の銅像探索に戸惑っていたら、高松瓦町駅から乗る始発の琴電に乗り遅れそうになる。

車で見送られる中高生を傍目で
に、中途半端に古新しい岡本駅のベンチで佇んでいると、松本さんが迎えに来てくれた。
初対面。すごいことやなー。

これから1日半、自分が立てた弾丸の撮影プランと、松本さん提案のロケ地にヒィヒィ言うことになるのだが、会うなり車内で工芸のこと、漆器のこと、ご家族のこと、話に花が咲く。


アトリエに着き、撮影前のコーヒータイムなんてそのままカメラを回しても良いくらい熱い話が聞けた。

映像クリエイターの山田氏も早朝、いや夜中の三重から駆けつけてくれて、いざ撮影スタート。
使い込まれた道具や漆を硬化させるムロなどにワクワクしつつ、松本さんのインタビューやスタッフの方との制作の日常を撮りためていく。


松本さんはとても柔軟だ。
自身の作品や香川漆器についての考え方にも、まず受け入れて解釈し冷静に判断しもがきながらも新しいことにトライし続けている。今回の僕との仕事も漆芸作家さんとしてはなかなか受け入れづらい内容だったが、面白そう!と楽しんでくれた。
スタッフさんや周りをサポートしてくれる人のやりとりを見ても、その柔軟さが彼の魅力を一層後押ししてくれている。

撮影慣れしてきて、顔を作り出した頃に休憩タイム。
ふらっと寄ったうどん屋の釜玉ぶっかけうどんが美味しい。



インタビュー後半は盆栽園の敷地内にあるアートギャラリー。
高松は盆栽の産地。松本さんの作品にもとてもマッチする。香川で生まれた自分としては香川とはどういうところか、を伝えたい。瀬戸内芸術祭などで盛り上がってきたとはいえ、決して海外では知られていない香川県の自然、風土とは何か。そこで育って生まれてくる松本さんの作品とは何か。



作品の魅力が第一という前提条件は変わらないが、
地域がつくる工芸というものに土地・暮らし・人の背景は欠かせないし、それを込みで追っていくのは実に楽しいしやりがいがある。
モノが器だとしたらそれがその機能以上に、哲学が込められて存在感を纏う。



商店はないよ、という言葉にビビりながらもダッシュで買い出しを済ませて、最終のフェリーに乗り込んで男木島へ。
ここは松本さんも関わった「漆の家」がある。人間国宝の方の生家を香川漆器の技法でリノベーションしたプロジェクト。今回ここにお世話になることに。
買いすぎた食料と撮影機材を背負って、雨に濡れた坂道をおじさんたち3人が駆け上がる。
乱列した屋根瓦と猫の視線、島の魅力を感じながら到着。



半ば、いよいよここまできてしまったなと言葉に出さずとみんなが思いながら、撮影の打ち合わせを済ませて今日を終える。
漆芸作家、映像クリエイター、デザイナー。
扱う手段は違えど、ものづくりへの瞬発力、熱量の度合い、仕事のパートナーへの考え方などそれぞれ共通しているものが多かった。撮影は撮る側撮られる側ではなく、クライアントも含めて同じチームでものを作っていくことを改めて感じさせてくれた。漆黒の島の夜。



あいにくな天気が、雲の降りる島の風景を演出してくれた。
漆のもつ独特な湿度や水分を汲み取ってくれたような天然のスモークは、漆を扱うひとに似合う。
山田氏の多大な協力のもと、撮りためた美しい景色と生き様を見返し、次のステップへとつづく。




今回は香川編とは別に、刺し子作家の木内しおりさんを追った東京下町・月島佃編との対比を映像化する。その話はどこかの旅のタイミングで言葉にしたい。

場所や環境は違えど、それぞれのものづくりに至る結晶はどこから生まれてくるのか。
それが、クライアントさんのコンセプトに乗せて、見るひとに伝わると良いなと思う。


徳島阿波おどり空港で羽田行きの搭乗時刻を待つ。

なぜ徳島かというと、この機会に少し時間をとって、藍のルーツを探りたいと思い藍づくりを垣間見た。

お繋がりのある東京八王子の野口染物店さん、江戸時代より日本橋の老舗浴衣店を支えてきた彼らがつかう藍染の蒅(すくも)は、徳島県上板の佐藤阿波藍製造所さんの藍への愛情の結晶を使っている。


ご主人が丁寧に藍を乾かす姿を眺めながら、蒅づくりへの熱を少しだけ垣間見た。今度は蒅づくりが佳境を迎える秋に訪れたい。


そして、美馬市脇町。藍の豪商が吉野川を利用して商いをしてきた町。


もしかしたら、あの蒅がここの藍屋から江戸の紺屋へ船に揺られていたのかもな、、、なんて想像するだけで胸がキュンキュンする。
うだつの町並みの中、夕立が止むのを待ちながら良い塩梅にリノベーションされた珈琲屋で思いを馳せつつ、そんなことを妄想する。


「うだつがあがらない」
って言われんように、いや、言われても良いけど、自分では満足できる生き方ができるように、ひとつひとつの出会いを大事にしたい。

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