見出し画像

【エッセイ】お弁当を作ることで少しだけ自己嫌悪から立ち直った話

「うわっ、おいしい!」
 自分の料理を誉めるなんて自画自賛も甚だしいのですが、その時は心の底からそう思いました。本を見ながら2時間以上かけて作ったおかずたち。見た目はいまいちでも味はおいしい。その時、私は料理する楽しさと達成感を感じていました。
 
 皆さんはお弁当作りが好きですか。
 私は正直苦手でした。でも今はお弁当を作り続けて約半年経ち、それを楽しんでいます。けれどその前には何度もやってはやめを繰り返してきました。

 お弁当作りに何度も挫折した一番の理由は「仕事」です(本当に言い訳ですが)。私の勤務先は、世間から見れば常に安定して定時に帰れると思われていますが、実は定時で帰ったことはほとんどありません。異動先の部署によっては出張やイベントも多く、海外出張の時は1回につき2週間近くも不在の時もありました。そうなるとせっかくお弁当の材料も冷蔵庫の中で腐らせてしまいます。また残業も多く、帰宅後に翌日のお弁当のおかずを作るのは体力的にも精神的にも辛く、徐々にフェードアウトしていきました。

 お弁当を作れない自分に自己嫌悪を感じたことは幾度もあります。乱れた食生活も自覚があります。コンビニのお弁当も段々おいしいと感じなくなってきました。どうにかしなければ、頭では分かっているものの、なかなか行動に移せないまま自分に苛立つ日々を送っていました。
 
 それではなぜまたお弁当を作り始めたのか。理由は単純、今年1月の健康診断の結果です。とは言っても深刻な問題ではなく、予防のためといった方が正しいのですが。ただ、せっかくなのでこの際、根本的に食生活を変えようと心に決めました。けれど、これまでの自分の行動パターンを考えると、同じことをしても続きません。一人暮らしで家事をし、仕事に行き、夜遅く帰る生活。身体を休ませることを最優先する生活の中でいかに食事に関する時間を設けるか、そこが大きな課題でした。
 
そんな時、本屋さんで1冊の本と出会います。
 
『つくおき』

 それはその名のとおり作り置きのレシピで、6~8品程度を2時間くらいで作るものです。例えば、日曜日に作ればそれをお弁当として持っていけるし、夕食のおかずにもなる。これなら平日に料理する時間はほとんどなくても大丈夫かもしれない。私の心に一筋の光が見えた気がしました。
 
 まずはやってみて、しんどかったら1回だけでやめればいい。そう思い、ページの最初に掲載してある7品に挑戦してみました。鷄のかぼちゃクリーム煮、肉みそ、ひよこ豆のトマトカレー煮込み、玉ねぎチーズのオーブン焼き、切り干し大根の梅肉ごま酢あえ…今まで作ったこともない料理ばかり。材料や調味料を揃え、本の手順通りにやっていきます。大量の野菜を切って下準備をするだけでかなりの時間をかけながら、本とまな板を行ったり来たりして作業を進めました。お皿にどんどん切った野菜が盛られていきます。
 ようやく長い下準備が終わると、調理に入っていきます。出来る限り丁寧に、レシピには忠実に調味料などを入れていきます。煮込んだり、炒めたり、焼いたり。
 そしてまず1品目ができました。何となく本の写真に近いものが出来上がった気がしました。まだ残り6品も残っているため、すぐにコンロへ戻ります。2品目、3品目、少しずつおかずが増えていきました。

 出来上がったものからテーブルの上に並べます。おかずたちはどんどんテーブルの面積を占めていきました。すべてのおかずを作り終わった時には慣れない作業にかなり疲労困憊の状態でしたが、「全部自分で作れた」そんな自信が私の中でいっぱいになりました。
 
 翌日の月曜からおかずを詰めたお弁当を持っていきました。自分で作ったお弁当は思っていたよりもおいしく、ずっと辛かった胃もたれもなくなりました。何となく身体の調子も良くなったような気がします。少しずつ痩せてもきました。イライラも減ったような気がします。毎日同じようなおかずでも自分が作ったものならおいしいと感じるのはなぜでしょうね。
 何より自分自身が驚いたのは、翌週も作り置きを作ろうと思い、実際にお弁当を作ったこと。そして半年経った今も週末の作り置きは続き、それをやらないと気が済まないくらいにまでなっています。ようやく、私はこれまで料理することが苦手だったのではなく、時間の使い方が下手だったことが分かりました。
 
 もしかしたら様々な理由でいつかまた今のお弁当作りをやめるかもしれません。でも今までのような自己嫌悪にはもうなりません。なぜなら、私にはこの半年間お弁当を作り続けてきた自信があるから。だから、やめたとしてもきっとまた再開することができるから大丈夫、そう確信しています。
 
 これは私がお弁当を作ることで少しだけ自己嫌悪から立ち直った話。同じような経験がある人にとって、ほんの少し希望を感じてもらえれば何よりです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?