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【観劇レポ】どこにこんなロマンス落ちてますか ミュージカル「ローマの休日」

今まで見たミュージカルをプレイバックするシリーズ。
今回はミュージカル「ローマの休日」(2020年)。名古屋・御園座公演でマチネ(昼公演)・ソワレ(夜公演)を2本連続で観劇、2020年ミュージカル納めの作品となりました。

概要

オードリー・ヘップバーン主演、不朽の名作映画「ローマの休日」のミュージカル版。原作はご存じの通りですが、実は日本生まれのミュージカルというのは、意外と知られていないかもしれませんね。

大地真央さんと山口祐一郎さんが演じられた初演から約20年。アン王女役に朝夏まなとさん/土屋太鳳さんのW主演、ジョー・ブラッドレー役に加藤和樹さん/平方元基さん(*東京のみ)のWキャスト、アーヴィング役に太田基裕さん/藤森慎吾さんを迎えての再演版です。東京→名古屋→福岡と3か所を2020年から2021年に跨って順演。

ストーリー:あの不朽の名作映画「ローマの休日」。ヨーロッパ某国の王女・アンが一日だけ町へ抜け出し、偶然出会った新聞記者ジョー・ブラッドレーとともに一生に一度の”休日”を過ごすロマンス・コメディ。

1950年代の映画ながら、いまだに根強い人気を誇る不朽の名作。真実の口やジェラート・・・映画で有名なあのシーン・このシーンも舞台に再現。

有名であることを差し引いてもシンプルでわかりやすいお話ですが、笑いあり・感動あり・ロマンスありであっという間の3時間でした。

ちなみに「ロマンス」という言葉は、「ローマ的な=(正統古典であるラテンに対して)民衆的な、俗な」という意味がもともとの意味だそうです。ジョーとの「ラブロマンス」というところだけではなく、「伝統と格式」たる王族のアン王女が、「一般人」としてつかの間の休日を過ごす、このローマの休日は原義的な「ロマンス」でもあるのですね。

日常と非日常

我々にとっての「日常」は王女にとっては「非日常」。アン王女にとっては街中を散歩することでも、ジェラートを食べたり髪を切ったりすることでも、順当に人生を歩んでいれば経験することのないものです。

一方で我々にとっては「王女」というものが非日常。王族の務めを果たす姿も「僕たちが経験することはない」という意味でもちろん非日常ですが、アン王女が「アーニャ」としてローマの町で気ままに過ごすその姿にも「非日常な存在が日常を楽しむ」という非日常を感じることができます。

作品にもよりますが、往々にしてミュージカルは「非日常」を味わうエンターテイメントです。豪華絢爛な舞台や衣装、ストーリー、そして言ってしまえば「歌いながら話す」というのもこの上ない非日常。
この「ローマの休日」ももちろん非日常のフィクションで、決して自分が体験することのないストーリーを味わえるのですが、アン王女の「休日のストーリー」は「我々にとっての日常を非日常として体験する」という、日常と非日常とが交錯する不思議な空間へ観客を誘い込みます

二人のアン王女

王族の責任感を背負いつつ、年相応の純真さ・好奇心を抑えきれないアン王女。朝夏さんと土屋さんが演じるアン王女はそれぞれ魅力的でした。

朝夏さんが演じるアン王女は品位や高貴さがにじみ出た王女。王女であり、皇族・王族という感じ。指先から息遣い、視線まで一つひとつの仕草や言葉から気品があふれていました。歌唱力や声量、ダンスのキレはさすが元タカラジェンヌ。チャーミングでありながら王族たる気品と内面の美しさが舞台を包み込んでいました。

一方で土屋さんのアン王女は品位の中にも抑えきれない天真爛漫さがあふれていました。快活で好奇心旺盛。いい意味でのあどけなさ、少女感。ミュージカル初挑戦だったそうですが、映像作品で活躍されているだけあって、細かい表情づくりはさすがで、歌もダンスも演技もご立派でした。

本作はアン王女の成長が描かれる作品でもあります。王族としての誇りと責任を感じながらも、「普通の女の子」へのあこがれを捨てきれない王女。たった一日だけですが、「普通の休日」の経験を通して一人の人間として、王族の一員として、そして一人の女性として成長する姿。

朝夏さんのアン王女は、気品と高貴さに磨きがかかり、王女というより女王の雰囲気すら感じ取れました。土屋さんのアン王女はまさに子どもから大人へ、女の子から女性へ。
劇中でジョーの部屋から出るときに扉を開けてもらうのを黙って待つ姿など、コミカルに描かれる場面もあった「気品」を、飾りではない本物の「気品」に昇華させたような、オーラの演技とでもいうべき空気感がやんごとなかったです。演技で高貴さを演出できるなんて、本当に俳優ってすごいですよね(今更)。

キュンです

王道ラヴ・ロマンスなストーリーですが、王道というのはいつの世も人の心を虜にするもの。アンは王女の身分を隠し、ジョーは王女のスクープを狙い、序盤・中盤こそ二人の関係は本音や本当を隠したものなわけですが、次第に互いの心の底にある者に惹かれ合ってく。

たった1日でこんななるか?と、現実を見るとまあそうですが、フィクションなんやから細かいことはいいじゃない!この世に必要なのはいつの世もトキメキ、キュンですよ。指でハート作ってる暇があったらこの作品を見てください。

ミュージカル・舞台での醍醐味は「空気感」。二人の「いい感じ」になる空気。でも立場上別れは必須と悟る時の空気。ステージだけでなく観客席を含めてその空気感で満たされる。それを創り出すのは、キャストだけでなく照明や小道具、舞台にかかわる全ての結晶なのです。ああ、やっぱり生の舞台っていいよなあとしみじみ感じます。

楽しいカーテンコール

ミュージカルの醍醐味の一つはカーテンコールだと思っています。僕はカーテンコールだけでごはん3杯はいけます。

カーテンコールと言えば役者さんたちが順番に出てこられるのがメイン。特に主要キャストは劇中の、そのキャラクターの印象的な楽曲を用いながら登場されることが多いです。2,3時間の舞台を凝縮したような瞬間でとても好きなのですが、この「ローマの休日」のカーテンコールはそこに「楽しさ」が詰め込まれているのが印象的でした。

役者さんたちが順番に出てくると同時に、踊りだしたり、アーヴィングは写真を撮ったり。ジョーは役者さんたちの陰からコミカルに現れます。役者さんたちが笑顔でカーテンコールをされている様子が、ミュージカルファンにとってどんなにうれしく、どんなに輝いて見えることか。

しんみり感動の舞台もいいですが、こうして楽しく笑顔で終わる舞台は本当に心が満たされます。そしてただの「どんちゃん騒ぎ」ではなく、アン王女のカーテンコールはしっかり感動的に美しく。階段の上から降りてこられる朝夏さん/土屋さんの美しさ…。最後は美しく、その体に会場の拍手をすべて受け止めて幕が閉じました。
僕はいつもたいていカーテンコールでボロ泣きしているのですが、「ローマの休日」は(例にもれず泣いてましたが)すごく楽しい気持ちで見納めました。

どこにこんなロマンス落ちてますか

猫の手も借りたい師走のさなか、夢のような時間に誘ってくれたミュージカル。僕にとってまさに素晴らしい”休日”でした。

電車で大阪へ帰りながら、ミュージカルを見終えた後の充足感に包まれつつ、どんな世界線に生まれたらこんなロマンスに巡り合えるだろうと、少し悲しくなりました。僕だってジョーみたいにイイ男になりたい…!(血涙)どこかにこんなロマンス、落ちてませんか。落ちてないですよね。知ってます。

コロナ禍の中、無事全公演を終えられたとのことで本当に良かったです。再演されればぜひまた見に行きたいです。その際はぜひ大阪公演もお願いします…!

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