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【観劇レポ】私達は生き方を選べる ミュージカル「FACTORY GIRLS」

ミュージカル観劇レポ。2023年下半期第一弾は「FACTORY GIRLS」大阪公演です。

タイトル通り、工場で働く女性たちの物語。時代の先端を行く憧れの象徴としての「ファクトリーガールズ」でもありながら、その光の裏にある影を描くストーリーは、史実をもとに作られているそうです。

お久しぶりのキャストから、気になっていたキャストまで揃っている豪華なメンツ。ホンマにこの会場(大阪城WWホール)でキャパ合ってるんかと叫びたくなる気持ちは抑え、観てまいりました。

観劇日は大阪前楽、前から11列目でした。近い!

「女性」

立ち上がる女性の物語であり、女性の権利が認められていなかったという時代背景ですので、「女性が、女性の」という面はどうしても強いメッセージとしてあります。

この手のストーリーだと、フェミニズムチックで苦手という人も一定数いると思うのですが、個人的には、あくまで「権利を認められなかった属性の一つ」として、女性という取り上げられ方をしてるだけなので、作品自体が過剰な女性礼賛のようなものではないように感じています。春に観た「マリー・キュリー」も同じですね。

現代では、もちろんまだまだ男性と女性に、性差以外の社会的な差はありますし、加えて男女だけでなく、代表的にはLGBTQであるとか、障がい者であるとか、いわゆるマイノリティの立場に置き換えて感じるところもあるのかなと思います。

主人公のサラは、その格差に真っ直ぐ立ち向かい戦う。おかしいことはおかしいと、声を上げる。
もう一人の主人公ハリエットは、男性社会の中で立ち上がる女性像として、ある種「利用されている」ことを頭の片隅に置きながらも、少しずつ積み上げてきたものが男性社会の前に脆いことも理解していて、なんとか今ある種を育てようと奮闘する。
いかにして自分たちの自由を守るか、ふたりの女性の戦い方は異なりますが、その交差点を中心に描かれています。

自由とは自分の人生の選択に責任を持てること

主人公のサラが言うセリフです。いいセリフだと思いました。

これは実は、自分が求めているものは何?自由?じゃあ自由って何?みたいな、明確な答えがない中で出てくるセリフでして、押し付けがましいメッセージではないのも良いです。

「自由」っていうと、ともすると「ワガママ」になりがちなものですが、自由には責任が伴う(これもあまり行き過ぎると過度な自己責任論に陥りがちですが)。この物語の時代においては、そもそも自由の選択肢自体が女性には多くないという事実はありますが、自由と責任、選択したことに対して真っ直ぐ向き合うことの大切さ、このあたりは現代にも刺さるメッセージだなと思います。

ペンという剣

noteを書いている端くれとして、言論、あるいは言葉を綴ることによる戦いというのはやはり胸がときめくもの。

2幕ではサラとハリエットが図らずも誌面バトルを繰り広げることになり、これは辛く悲しいところでもありますが、男女関わらず、読み書きができることが決して当たり前ではない時代に、ペンで、言葉で戦うというのは熱い。

一方、鉛や刃物でなく、ペンで戦うというのをぜひ某国に教えていただきたいと同時に、言葉やペンもまた、鉛や刃物と同じく、人を傷つけることができてしまうことも、努々忘れてはならないと思いました。

キャストとお役談

まず主人公サラは、ちえさんこと柚木礼音さん。お見かけは「マタ・ハリ」以来の気がする。
力強い腕っぷしの強そうなたくましさ、迷いながらも正義感を持って周りを引っ張るリーダーシップは、やっぱりお似合いになります。さすが。今回前から11列目で観劇したのですが、改めて拝見して、足が長い(そこ?)。ハリエットへの全幅の信頼と尊敬、それゆえのすれ違いの細やかな空気感操作も卓越してます。

もう一人の主人公と言えるハリエットは我らがソニン様。
女性工員の生活をリアルに綴る誌面の編集長として、ファクトリーガールズの憧れでありながら、男性社会の中でようやく手にした女性の光を消すまいとするあまり、結果的に男性社会に良いように使われてしまう、非常につらい立場。こういう葛藤のある役、そりゃあソニン様しかいないよね(褒めてます)。基本的に冷静なキャラクターですが、終盤のストライキのシーンでの叫びはさすがソニン様。

サラ、ハリエットの背中を押すアビゲイル、実咲凜音さん。いやーいい役だ。ミュージカルで初めてお見かけしたんですが、名前の通り凛とした感じが素敵。サラとは違うたくましさや気高さがある。
終盤では労災で突如亡くなってしまうのですが、「マリー・アントワネット」でランバルが亡くなるシーンくらい衝撃的でした。普通に演出じゃなくてトラブル起こったのかと思った…。アビゲイル…。

ルーシーは清水くるみちゃん。アビゲイルとともにサラとともにある友人。もう、マリー・キュリーに続き僕の心を潤してくれる存在。今や僕はくるみちゃんの虜です。メガネをクイクイする仕草とかいちいちかわいいんだ。主人公の横で存在感を放つ役を2作続けて見たので(そしてそんな役がお似合いなのですが)、いつかくるみちゃんがメインの作品でも観てみたいな。

春風ひとみさん演じるオールド・ルーシーは本作のストーリーテラーでもありますが、くるみちゃんと春風さんおふたりの仕草や話し方が似ていて、ルーシーというお役をお二人で作られてきたのが伝わりました。ルーシーの母役でもあるので、親子感もあります。
個人的に、春風さんとちえさんのシーン(サラの母からの手紙)は、マタ・ハリの二人を思い出して一層ジーンとしました。春風さんのこういう愛に溢れた役、ほんとうに素敵。

マーシャ役・平野綾ちゃん。実は観劇ではお見かけするのは初めて。声優さんやけど、レディ・ベスとかで主演もされてて、そのイメージがありました。さすが声優さんで、声に感情と表情がある。男社会の中で、「どうすれば女性が生き抜けるか」という意味である種「男性が求める女性らしさ」を使いこなす役で、これもまた当時の女性の生き方だったんだと思います。

グレイディーズ・谷口ゆうなさん。「天使にラブソングを」でもめちゃくちゃいいお芝居をされてて印象的でしたが、本作でもグレイディーズの個性あふれる空気感を作られていて、目が離せないキャラクター。ぜひもっと色んな作品でお見かけしたいし、もっとご活躍をいただきたい。

ヘプザベス役、松原凜子さん。ヘプザベスは結構衝撃的な役で、サラたちの敵にもなる女性。いがみ合う仲のマーシャとはまた異なる部分で、「男性に求められる女性」の生き方を苦しみながら体現している役だと思います。困ったら体売っとけ、ではないですが…そういうリアルでストーリーの影の部分を映し出していると言いましょうか。勝ち気な性格だったのに、終盤の心を搾り取られたような佇まいは心に迫るものがある。勝ち気な性格も、自分を守る鎧だったのかな。

フローリア、この役は代役で杉山真梨佳さん。いやー、ほんとに舞台を繋げてくれてありがとうの気持ち。中止から翌日に舞台に上がって演じきることはそうそうできるものじゃないし、この3年で演劇界が学んだ、誰にでも起きうる急遽の休演、そしてそれを回避するためのスウィングをはじめとする体制づくり、そんなことを思って見てしまいました。役自体は気弱な女の子ですが、徐々に背すじが伸びて前に歩き出そうとする感じが、この作品のメッセージの一つを体現していると思います。

ベンジャミン、水田航生くん。足長いな(再びそれか)。少なめの男性側キャストで、ハリエットの味方をしたい気持ちがある中、おじにも逆らえないという板挟み的なところもあるお役ですが、基本的には夢を追い語る青年。いい子だけど、ちょっと痒いところに手が届かない感じの役。

シェイマス、寺西拓人くん。「マイフェアレディ」以来かな。どこか影があり、なにかを腹の中に潜めているような雰囲気を作っていました。出番は決して多くないですが、「移民」という側面から登場することで、格差や差別に苦しむ立場を別の角度から映し出すという意味で、単なる女性礼賛のストーリーにならないような重要な役だと感じました。

アボット役、原田優一さん。いやー、歌上手いのにコメディも完璧ってズルいよね。歌唱力と演技の振れ幅。工場オーナーであり、女性たちからすると悪役なのですが、観客目線ではどこか憎めない中間管理職。スクーラーに比べるとプリプリしてるので威圧的な怖さはないけど、そこはかとなく狂気的な怖さは感じる。

スクーラー役、戸井勝海さん。こっちが本ボス。女性どころか全ての人間を見下しているかのようなボス感。男性社会、特に当時の政界の空気感を代表する役どころ。戸井さん自体は初めましてだと思うのですが、いいヴィランでしたね。

総括

立ち上がる女性の物語ではあるものの、どんな風に生きるのか、生きたいのか。それを選ぶのは自分自身の自由と責任であると、現代にも通じる普遍的なメッセージのある作品でした。

音楽や演出もかっこよく、ロックなテイストが印象的で、工員たちの糸を紡ぐところをダンスで表現するシーンは圧巻でした。一幕、二幕ともに終わり方がTHEミュージカルという感じで、分かりやすいとも感じます。

カーテンコールでは、千穐楽でもないのに最後にちえさんから簡単に挨拶もしてくださいました。比較的小さめの舞台に、アンサンブルさん含めてズラッと並ぶと結構圧巻でした。

一部公演で中止もありましたが、東京、福岡、大阪と、無事に大千穐楽を迎えられたようでよかったです。しばらく公演中止ラッシュは落ち着いていましたが、やっぱりつらいですね…ほんま流行り病はそろそろ退いてもろて。

いやー、豪華なキャストでええもん観たなぁ。ストーリーの当時の時代のリアルを思い起こすと、決して前向きなメッセージだけではない部分もありますが、舞台で各キャラクターが体現する、「生き方を自分で選ぶ」という力は、心に残るものがありました。

下半期一発目。とても良き。

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