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世界でたった1つの資本主義

□景色
ICT(情報通信技術)革命によって起こったグローバリゼーションは、情報伝達コストを引き下げた。先進国の企業群は中心で工程を設計・管理し、生産を世界中の数百もの下請け業者に分散させ、主な下請け先となった中国やインド、インドネシアなど新興国の技術や制度、知的資本の蓄積を加速させ、高い経済成長を促した。結果、世界の所得不平等は弱まり、欧米とアジアの経済力は均衡を取り戻してきている(下図 *ジニ係数は高いほど不平等/低いほど平等)。

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このグローバリゼーションはアジアの台頭と同時に技術的・制度的つながりを起点とし、新興国に資本主義をすみずみまで浸透させた。例えば中国は、地主勢力の排除と民族自決を同時に達成する社会主義革命を経て、このグローバリゼーションを迎え、現在は生産の大半を民間所有の資本、土地を用いて行う、労働者の大半は賃金労働者である、生産と価格設定の決断の大半を分散化する典型的な資本主義国、と定義できる。

□本

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『資本主義だけ残った —世界を制するシステムの未来』
ブランコ・ミラノヴィッチ みすず書房 2021年

目次
1 冷戦後の世界のかたち
2 リベラル能力資本主義
3 政治的資本主義
4 資本主義とグローバリゼーションの相互作用
5 グローバル資本主義の未来

要約
今や世界中が資本主義であり、私たちは同じ経済原理、同じルールに基づき、営利を目的とする同じ言語を理解する。代わりとなる社会経済システムは無い。
資本主義を大別すると、アメリカ型のリベラル能力資本主義と中国型の政治的資本主義とに分けられるが、ともに人々の格差を拡大させ、富裕者の腐敗を増大させ、止めることができないでいる。
資本主義の深化により私たちは、市場で他者から買ったもので自分のニーズを全て満たすことができるため孤独な一人となり(原子化)、私たち自身が互いに他者となり自身の持てるものを最大限に商品化し他者のニーズを満たしていく(商品化)。誰もが苦痛や快楽、損得の優れた計算機のごとく、お金のために何でもサービスを互いに売りあっているのだ。
資本主義の覇権は絶大で、利己心や財産の所有欲に訴えかけることで人々を組織化し、分散した形で富を生み出し、地上の人間の平均的生活水準を何倍にも高めたが、この経済的成功はもっと良い暮らしを送り、もっと長生きできる一方、道徳のみならず幸福すら増えることがないといった矛盾をさらに深刻なものにした。人々の態度はますます洗練されたものになり、思慮深くなり、ますます私利私欲でのみ動くようになっている。

□ひとりごと
後日、音声公開予定

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