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[イベントレポート] 日本と台湾のパブリックデザインの今 |記念トークイベント#3

「未来の花見:台湾ハウス」記念トークイベント。3回目は「パブリックデザイン」をテーマに開催されました。ファシリテーターに台湾在住のノンフィクションライターで日台の事情に通じる近藤弥生子さん、スピーカーに、日本から持続的にイノベーションが起こる生態系(エコシステム)を研究し実践するRe:public Inc.(リ・パブリック)シニアディレクター/ YET代表の内田友紀さん、台湾からは政府と市民が双方的に議論できるプラットフォームを提供するPDIS(Public Digital Innovation Space)デザイン顧問の張酷媜(チャン・ハオティン)さんを迎えて行われました。

6回を予定するトークイベントで一番申し込みが多かったのが今回。それだけパブリックデザインは多くの人の関心を集めているということです。
 「公共のためのデザインと、とても広い意味を持つ概念だと思う」と近藤さんは冒頭に指摘します。「日本も台湾も多様性のある社会が重視され、同時に誰も取り残さないインクルーシブが大事になっている。その意味ではできるだけ多くの人が議論すべきテーマ」。そして、今回のスピーカーであるチャンさんが行政サイドから、内田さんが行政と協働される民間サイドで活動している点で、違った立場から話が聞けることが興味深いとしました。

PDISは台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タンさんが2016年に創設した組織で、政府の各省庁の窓口となる公務員からデザイナー、エンジニア、研究者までと様々なバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。直面する社会・環境問題や、相談を持ち込まれたテーマに関して「協作会議」という会議を開き、政府、市民、そしてそのテーマに関連するあらゆる人たち、いわゆるステークホルダーが一緒に集まって討論していく。そのプラットフォームを用意するのが主な活動です。

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画像提供:PDIS

「オープンガバメント(開かれた政府)であることが大前提で、公共的なことは政府だけが決めてやることではなく、政府のトビラを開いて関わる人全員が参加して討論して解決策を探していく」とチャンさんは説明します。まさに台湾では、市民自らがパブリックデザインをつくっていくという意識が根付いているようです。また、PDISの活動を通して「あらゆる課題をデザインシンキングの手法で考える」という、政府にこれまで取っていなかった解決手段を導入することに成功しました。

具体的な事例として紹介されたのが、故宮博物院のネットサービス。チケットをネットで販売してきたが、使い勝手が良くなく、その改善策が同院から依頼されました。チャンさんたちは協作会議を開き、来館者、それに博物館学を研究する学者や学生、それにチケット販売に関わるスタッフなど、関係者を一堂に集めてワークショップを行い、討論していきました。

「RAY(Rescue Action By Youth)5.0」というプロジェクトでは、大学生と夏休み期間中に政府のデジタルサービスの見直しに取り組みました。大学生が市民へインタビューを行い、デジタルサービスに対する感想や不満などを集め、検証していくもので「ある学生は、子育て中のお母さんが子供を抱いたままの状態では片手しか使えないことに気が付き、スマホを片手だけで操作しやすいシステムの開発が必要だというリポートを上げてくれた」。

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画像提供:PDIS

参加した学生からは「チーム内に絆が生まれた」「デザインシンキングのプロセスが体験できる貴重な時間だった」といった感想が聞かれ、一方政府のデジタル担当からは「ユーザーが何を考えているのかがよく分かった」「自分たちのシステムの不備や改善点が見つけられた」と、双方にとって大きな収穫があったそうです。

「私たちは完璧な結果は求めていないし、具体的な解決策を見出そうともしていない。議論できる場を提供し、議論に参加した人たち全員が納得できるソリューションを見つけていくのが目的」。そして、参加することで「政府に委ねるのではなく、自分の力でパブリックデザインが描くことができる」と気がついてもらうことが最大の狙いとチャンさんは語ります。

「パブリックデザインをデザインするとは、“わたし”の関心事が“わたしたち”の関心事になること」と話し始めたのが内田さんです。もはやパブリックデザインはパブリックセクター(公的機関)だけの役割ではない時代だと言い切り、様々な社会課題が絡み合ういま、それぞれのセクターにとって重要なテーマだと語ります。しかし、役割が分化した習慣が身についている私たちには行動変容が必要だと話し、それを実践するケースを紹介してくれました。

地域における文化的・歴史的・地域的資源を見つけながら循環させる「地域循環共生圏」という考え方の取り組み例としては、福井市で小さなデザインの教室「XSCHOOL」を開校。また環境省と連携して全国5カ所で人材育成を行う「migakiba」というプロジェクトを実施しています。

XSHOOLは、都市・郊外・農村、地域産業・デザイン・行政など、普段の生活では隣り合わせることの少ない人々が集まり、「共視」できるビジョンを描くプロジェクトインキュベーションです。例えば、地場産業である繊維産業を起点に、その土地の文化・風土を探索し、地球環境への影響を学び、携わる人の生業のゆくえ、技術の組み合わせの可能性など、様々な次元で考察を重ねます。五感をいかしたプロセスと、専門の異なる人々によるディスカッションを経て、地域の資源をいかしたプロジェクトが立ち上がってゆきます。例えばクラフトツーリズムが始まったり、地元企業に研究部門が共同設立されたりなど、様々な形で知恵や人の循環が起きているそうです。

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画像提供:Re:public

「Make Our City」という取り組みは、シビックテックコミュニティのCode for Japanとともに取り組む、“市民が、自分たちが必要なサービスやプロジェクトを、行政や企業とともに主体的に作り上げられる”という考え方のプラットフォームです。どこにいても、誰でも、街づくりに携われる状況、また、各地でつくられたサービスを他の地域の人も参照できる姿を目指しています。「今までは行政がつくったサービスを市民が使う=Citizen as a consumer modelだったが、これからは市民がクリエイターとしてサービスをつくりながらどの地域でもシェアできる=Citizen as a creator modelに変わっていく」という街づくりの姿を提示します。

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画像提供:Re:public

そして、パブリックデザインは、生活のレベルから社会の仕組みまで、皆で変化を目指すことではないかとして、「草の根のindividualの動きと、行政などをはじめとする組織や仕組みとの、間を繋ぐ“コレクティブ”の役割が重要である」とまとめました。内田さんは、まさに様々な場所でコレクティブの役割を果たしているのでしょう。

両者のプレゼンから、互いに立ち位置が異なりながら、やろうとしていること、そして目指す目標が同じことであることが明らかになりました。ただ、同時に同じ悩みも抱えているようで、「行政に任せずに自分たちがつくり手になっていこうと語っても、これまで染みついた態度が変わるのはなかなか大変」と内田さんが言えば、「利害関係が衝突する事例となると特に難しい」とチャンさんも同意しながら、「まずは場の信頼関係を築くことに注力する。互いに一歩引いてもらい、相手の話を聞いて理解してもらった上でベストな解決策を一緒に考えていくようにしている」と語ります。

そして、「互いの経験をシェアして連携していけたらもっとより良い活動になっていける」とチェンさんが内田さんに呼び掛けると、内田さんも「立場が違うからこそ、学び合える部分も多い。渡航が自由になったら、ぜひ行き来したい」と応えました。

それを聞いた近藤さんは、「日台のパブリックデザインが交流を始めるキックオフの瞬間を今日のオーディエンスとともに目撃できた」とイベントを結びました。

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開催情報(イベント終了)
「未来の花見:台湾ハウス」 京都展
日付:2021年10月23日(土)-11月7日(日)
時間:10:00~18:00
会場:ザ ターミナル キョウト(入場無料) 
   京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町424番地
TEL :075-344-2544
公式サイト :https://www.taiwannow.org/jp/program?id=1

主催|経済部工業局
実施|台湾デザイン研究院
協力|財団法人文化台湾基金会、公益財団法人日本デザイン振興会、ザ ターミナル キョウト
キュレーター|Plan b、Double-Grass
アドバイザー|method inc.

■東京会場展の動画