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9章 前進あるのみ (1)宴の続き(2023.11改)

株式公開に伴い莫大な資金を得たプルシアンブルー社が発表したのが、日本国内4箇所でのデータセンター建設と富山県内での工場建設となった。

青森・三内丸山遺跡に隣接する高台、富山・南砺市、岡山・蒜山高原、鹿児島・志布志湾の4箇所で土地を得て、AI稼働を目的としたデータセンターを建設し、南砺市内でサーバー、端末製造工場とライン工程作業用ロボット工場を建設、日本国内でのIT事業に本格参入するとゴードン会長が株式上場後のネット会見で言及した。

青森・岡山・鹿児島に関しては県知事、市長選が絡んでいるのを人々に想像させた。
栃木では足尾銅山で土地購入の交渉中とゴードン会長が明かす。
「本来なら日本法人も上場する予定でしたが、東証のシステム障害を目の当たりにして上場を断念せざるを得ず、予定していた資金に至らずに購入する土地に制限を加えざるを得なかった」と触れる。この時点においても金融庁へ報告をしていない東証の過失に触れる。

また、ゴードンは高岡市海岸部に建設されたソーラーパネル工場内の映像を公開する。
工場内部は機密情報の塊とされ 通常は社外秘として撮影を禁じるのだが、プルシアンブルー社は惜しげもなく公開した。同社の機密のキモはAIであって、AIそのものは映像では見えないのでバレない。逆に製造ライン上で稼働している数々のロボットの動きを映像で見た生産技術担当者や、ファクトリーオートメーション技術者達が驚く。プルシアンブルー社のFAロボットの動きが「有り得ない」動作を繰り返しているからだ。

「開発設計から製造まで全てAIが担っており、製造工程でヒトは一切関与しないAI製造ラインを実現した」とゴードン会長が説明し、自社製の青く塗装されたアームロボットがアチコチで動いている映像を幾つもHPに掲載して、プルシアンブルー社の先進性を晒して見せた。
「様々なロボットが各ラインで稼働していますが、全てのロボットをAIが操作しています。製造ライン全体をAIが監視して、メンテナンスの必要性まで含めてウォッチしています。 これにより、24時間365日ソーラーパネルを製造し続けております。このFAロボットも全てAIが設計、開発したものです。当社のコア技術ですので現時点での提供は考えておりません。
南砺市に建設するIT機器製造工場でも、このソーラーパネル工場同様に様々なロボットを導入して、設計から製造までAIが担う無人製造ラインを実現します。ソーラーパネル製造技術の応用により 液晶テレビ用モニターや半導体製造も可能ですし、自動車・航空機部品製造、家電製造等への参入も計画中です。あらゆる製品の自社開発をAIを活用して推進してまいります」
ゴードンはサラッと物凄い話題に触れる。
自動車、航空機、家電、半導体を製造する企業になると宣言してしまったが、ネット会見なのでゴードンは話を止めずに先を続ける。製造工程では無人だが、品質検査部門、総務、資材、出荷などの各部門は人手が必要なので、他工場増床分も含めて新たに2千名の富山県内人材の募集を行なうとも述べて、「予定時刻となりました」と言って、ネット会見を終了してしまった。

「AIが開発設計と製造を担う」その箇所にメディアは飛びついた。工場の映像で次々と生産されてゆくソーラーパネルを目の当たりにして、「AIが人に取って代わる」時代の到来を憂いた様な記事を書き殴った。

日中韓、台湾そして米国の5ヶ国の製造業には衝撃となる。プルシアンブルー社が各種製造業へ進出すると宣言したからだ。

「無人無休で製造生産をし続けるので、品質レベルは均一で、おそらく高品質なものとなるだろう。しかも製造までの人件費が掛からないので、海外で生産製造する必要が無くなる」と、現行の製造業の業態とは異なる企業となる可能性を想像し、警戒する。
それでもヒトという生き物は不思議なもので、「完成品の性能や品質を見てから判断しよう」と「結果」を待ってしまう。本格的な秋を迎えるコロナ渦でどの企業も満足に動けないからだろう。

同日、スーパー・ネットスーパーを事業とするPB Mart社が、衣料製造と販売にも乗り出すと社長の平泉里子がアナウンスする動画をホームページ上に掲載した。
富山駅駅ビル、新宿駅構内の店舗、蒲田駅ビルの3店舗がアンテナショップとしてオープンし、PB Martのネットスーパーでの衣料品の販売配送も始めるという。
この動画が大きく取り上げられたのが「デザインと縫製をAIが行い、生産をベトナム企業に委託する」という箇所、「AI」が関与する下りだった。

工業製造品と同じように衣料業界関係者も様子見「待ち」の姿勢になるのだが、衣料品は一歩だけ踏み込んでいた。既に生産が始まっているカジュアル服の数点をモデル・・杏と樹里とモリの長男次男が身に纏っている写真が「SAMPLE」として、HP上で掲載していた。流石に下着類はマネキン人形が着用していたが。
コロナでパッタリ途絶えてしまったモデル業界で、売れっ子モデルの平泉姉妹が身に纏っているのが若者たちの目に止まる。平泉姉妹の登場でモリの子供達も「新人モデルか?」と勘違いされてしまう。火垂と歩は髪型やポーズ、表情作り等等、杏と樹里に散々イジられたので それなりの仕上がりとなった。

「PB Martの社長は平泉姉妹の母親なの?」と言う話題も含めて、プルシアンブルー社上場後の事業拡大の発表は、コロナ期間だけにもの珍しいものとなり、様々なメディアが取り上げてゆくようになる。

ーーーー

日曜夕刻、羽田空港の国際線ターミナルに到着したモリ一行の全員が、PB Martの新衣料ブランド「pb」を身に纏っていた。

東南アジアへ同行するメディア数社が、外務省・宮内庁の面々と記者・カメラマンとの出で立ちとの違いを痛感しながら、遠目からカメラで撮影していた。モリは白シャツにカーキ色のワークパンツにスニーカーという、息子が撮影で着用したのと同じものを纏い、女性は白いブラウスにデニムスカートやジーンズなど各自で好きな出で立ちになっていた。元CA5名とタイ陸軍兵士2名なので、7名はスタイルも姿勢も良かった。

モリと玲子と、玲子の親類縁者となる由真の3人は、この日夏日となった暑さで、だらけた格好で椅子に座っていた。
王家や王族と面会するので持参する衣装が半端な量では済まなかった。そこへ季節外れの夏日となり、駐車場からターミナルまで荷物を運ぶだけで汗をかき疲れてしまった。

「なぜ、皆デニム生地を纏っているのか?」
疑問に思った記者たちは立っている元CAの5人に声を掛け、訪ねた。岡山出身の岡田さんが待ってましたと応える。

「岡山はアパレルメーカーが多いのはご存知ですか?学校の制服の7割が岡山で作られているんです。倉敷市児島と井原市は日本のデニムの聖地とも言われています。私達が纏っているのは、岡山で縫製されたジーンズやシャツなんです」

すると栃木出身の結城さんが身を乗り出す。
「明日から王族の方々にお会いしますが、私達はモリも含めて5名が結城紬の着物姿で面会し、パーティーに望みます。日本の伝統工芸のPRも兼ねての演出となります。東南アジアにもバティック染めやタイシルクなどの服飾文化がございます。双方の伝統工芸品同士の共演を洒落てみようと言う趣向です」

岡山デニムを始め、岡山県内のアパレル会社に製造委託するのは上位ブランドの「pb」で、東南アジアの会社に委託するのは、汎用ブランドとなる「PB」となる。モリとCAが纏っているのは上位ブランド(・・とはいえAIデザインとネット販売が主流である分、安価なのだが)だった。
身に纏っているメンバーが身長があってスリムというのもあって、よいPR材料になると、衣料部門顧問に就任した杏と樹里の平泉姉妹が考えた。

栃木・小山市、結城市の結城紬はユネスコ無形文化遺産に認定されている。着物は高額なのでネット販売に向かず、女性用のバッグやポーチの表面に結城紬を使った商品を​pbブランドとして生産委託し、販売する。
岡山と栃木と聞いた記者達は悟る。これも県知事選対策なのだろうと。

政府専用機に乗り込むと、富山空港から乗って来た。プルシアンブルー社のゴードン会長を始めとする21名のエンジニア、技術者達もデニムシャツやジーンズを制服の様に纏っていた。
政府専用機が飛び立つと機内のミーティングエリアに21名とモリ一行の5名が写真撮影を行なおうとしていた。ジーンズ着用者はカメラに背を向けて、ジーンズのリアポケットのデザインを見せて、pbブランドの商品だと知らしめていた。​
この写真が同ブランドのポスターに使われる。
社員には制服のように支給されるので、社員、特にエンジニアは服を購入しなくなってゆく。

機体が飛び立ちベルト解除されると、エンジニア達が酒宴を始める。
富山のホタルイカの沖漬や鱒ずし、かまぼこと富山の地酒が外務省と宮内庁、そして記者達にも配られる。「上場記念です〜」と社員が言いながら配り歩き、誰もがゴキゲンな顔をしている。

個人名義では上場の恩恵を一切受けていない議員のモリと学生の玲子もご相伴に預かって飲んでいた。最初の到着地はブルネイでイスラム教の為に街へ飲みに行けないから、という社員たちの「言い訳」だった。

モリのこの日の臨席は一行のマネージャー役となった志木佑香で、外務省、宮内庁、マスコミの4チームの連絡係が集ってブリーフィングを済ませて席に戻って来た。
「あら、冷酒なんてあるんですか?」
新潟出身の志木が舌なめずりしながら席に座る。

「連中が持って来たんだ。富山と金沢の酒で申し訳ないんだけど」ワインクーラーの中の四合瓶を見せるとグラスを持って頷いたので、注いだ。「あ〜美味しい・・」
本当に旨そうに呑むなと思いながら、鱒ずしとホタルイカの沖漬けを勧める。
「ありがとうございます。夕飯前に出来上がっちゃいそうですね」
「そうだね・・」
互いにグラスを取って、重ねて音を立てる。

「パーサーの方にお会いました。吉田さんで良かったですよね?」
「うん。宜しくお願いします」と頭を下げる。

吉田嬢は千歳基地から岩国に来年転属するのが決まっている。岩国基地は米国海兵隊の基地も兼ねていて、英語の堪能な吉田嬢に白羽の矢が立った。政府専用機がコロナで使われなくなったというのもある。
そこでプルシアンブルー社で彼女を引き取り、志木のチームで採用して貰おうと企んだ。

「彼女、英語だけじゃないんですね。アラブ語とペルシャ語は流石に弊社にも居なかったな」

「自衛隊が中東に派遣した頃だったから・・」

「なるほど。で、アジアの次は中東なのかな? そうなったら、私はお役御免になるんですか?」
そう言って上目遣いを使う。一応は公衆の面前なのだが。

「アジアは当社の生命線です。これは未来永劫揺るぎませんよ」

「だってさ、良かったね 玲ちゃん」
後ろを向いて志木が言うので驚いた。2人の席の合間に玲子の顔があった。話を聞いていたのだ。

「タイ語とベトナム語を佑香さんから習ってます。先生もアジア重視なんですよね?」
ジト目で玲子が言うので頷く。何時からそんな話になったのだろう?

「そのうちにAIが多様な言語をマスターして、自動翻訳機能を身につける。そうなったら語学を学ばなくても・・」
「そりゃ甘いわよ、コザック」
昔の源氏名で呼ばれたのでモリは黙った。当然ながら当時バリで餌食となった外務省の里中だった。
「お楽しみの所、申し訳ありません。新任の紹介に伺いました。今後モリ議員の連絡係となります、櫻田です。玲子ちゃんも宜しくね」

「はい。先生の秘書を目指してます、源 玲子と申します。宜しくお願い致します」
玲子が立ち上がっていうので驚いた。
養女で秘書って・・まぁいいかと思う。空きっ腹で日本酒で酔ってるのかもしれない。

「こちらこそ宜しくお願い致します。櫻田詩詠です。ディープフォレストの私設ファンクラブの会長もやっております。モリ先生、後でサイン下さい。願わくば、熱い握手もお願いします」

そう言われて咄嗟に右手を出す。パアッと花が咲いたような笑顔になったと思ったら、両手でグッと挟まれて櫻田の上気した頬を涙がつたった。
CAに負けず劣らずの外観をした櫻田に視線が集中してしまう。

玲子と志木は互いに目を合わせて「要注意人物」として外務省の櫻田を認識した。

(つづく)



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