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【音楽業界に就職したい若者のための基礎講座】第1回「絶好調!?世界の音楽市場は好景気?」

裏方の方、たじまるです。

アンドレ元部長がレコード会社目線の音楽業界について、詳しく解説してくれているので、僕も、音楽業界に就職を考える若者達に向けて、【音楽業界に就職したい若者のための基礎講座】をやっていきたいと思います。

第1回目は、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進む音楽業界を少しマクロ視点で、グローバルマーケットという観点から解説していきたいと思います。

音楽ビジネスと一言でくくってしまうのはかなり乱暴で、音楽市場の中心となってきたCDや音楽配信に代表される原盤録音ビジネス、近年、収益の柱となっているコンサートやフェスなどのライブビジネス、作詞作曲した人の著作物が利用されることによって発生する著作権利用料による音楽出版ビジネス、そして、広義の意味では、アーティストグッズなどの関連ビジネスまで、多岐に渡ります。

音楽に関わる全てを対象にするとかなり広範になってわかりにくいので、第1回は、音楽ビジネスの中心である原盤録音ビジネスの市場を中心に見ていきましょう。

原盤録音ビジネスとは?

原盤とは、「音楽を録音、編集して完成した音源、マスター音源」のことです。この原盤をフィジカルであれば、CDに入れてプレスし販売、デジタルであれば、デジタルデータとして有料配信(もしくは広告をつけて無料配信)することで、収益化します。

これが、原盤録音ビジネスです。

かつては、アナログレコードだったものが、CDになり、その後、携帯電話とインターネットの普及に伴い、デジタルデータとしてインターネットを通じて配信されるようになりました。近年は、毎月一定額を支払うことで、数千万曲の楽曲の中から好きな曲をスマホや聴き放題のサブスクリプション型ストリーミングサービスが普及を始めています。SpotifyとかApple Musicとかです。

世界の音楽原盤ビジネスは、5年連続急成長中

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世界の音楽原盤ビジネスは、CDの販売が中心で絶好調だった1999年に289億ドル(約3兆円)のピークを迎えました。(IFPI)

その後、市場規模は右肩下がりの下降線を続け、2014年に142億ドルの底をつけます。そこから、急成長に転換し、5年連続プラス成長を続け、ついに2019年には、202億ドルまで回復しています。(IFPI)

内訳を見てみましょう。

Physicalというのは、CDやアナログレコードなどのパッケージ商品のことで、2019年に至るまで、毎年減少を続けています。2001年に229億ドルあったパッケージ商品市場ですが、2019年では、44億ドルと5分の1以下になっています。

日本の市場については、次回、解説しますが、日本では、タワーレコードやHMV、TSUTAYAなどのCDショップで、CDを購入できますが、海外に行くと、CD自体、売っているところを探すのが困難なほど、CDが販売されていません。

ちなみに、本国のタワーレコードは、本国HMVも破綻していますが、ご存知の通り、日本のラワーレコードは、NTTドコモとセブン&アイの資本、日本のHMVは、ローソンエンタテインメントで健在です。
(この記事のタイトルの写真は、ロサンゼルスのタワーレコードの旗艦店があった跡地です。取り壊し予定だったのですが、Gibson社が賃貸契約しました)

パッケージに変わって、2004年から現れ、その後成長を続けてきたのが、itunesなどのダウンロード販売でしたが、パッケージの売上減少を補うほどの成長はなく、2014年のピークで、48億ドル。その後は、減少に転じて、減少を続けています。

音楽原盤ビジネス市場の成長を牽引するストリーミング

それに代わって、成長をしているのが、ストリーミングサービスです。

今までは、アナログレコードから、CDへ、CDからデジタルデータへとメディアが変わったものの、楽曲を1曲ごと、もしくは、アルバム単位で購入するというビジネスモデルは普遍でした。

今回のストリーミングは、音楽原盤ビジネス史上初のユーザが楽曲を所有せず、聴きたいときに、聴くというモデルです。Youtubeのように、広告がつく代わりに無料というモデルもありますが、メインのビジネスモデルは、Spotifyに代表される月額定額制のサブスクリプションモデルです。

わずかですが、2004年から、ストリーミングサービスがグラフにも現れています。

この頃すでに、Napsterはじめ、いくつかのストリーミングサービスは、存在していました。が、当時は、まだ、スマートフォンがなく、インターネットのスピードも、携帯電話の通信速度も今と比較にならないほど遅かったこともあり、聴きたいときに、ネットからストリーミングで聴くというスタイルは普及せず、聴き放題のサービスに楽曲を許諾するレコード会社も多くなく、サービスとしての魅力もイマイチでした。

ところが、通信速度が飛躍的に向上し、スマートフォンが一気に普及すると状況は変わりました。

このムーブメントのきっかけとなったのは、2008年にスウェーデンでサービスを開始し、2020年9月時点での有料会員数が1億4400万人にまで成長したSpotifyの存在でした。

インターネットの通信速度の向上は、ユーザの利便性やビジネスチャンスを広げると同時に、ネット上でのファイル共有を容易なものにしたため、結果として、海賊版、違法ダウンロードが蔓延し、音楽のセールスに打撃を与えました。

特にスウェーデンは、世界最大の違法ファイル共有サイトPiratebayを運営する反著作権団体の本拠地が置かれるなど、違法ダウンロードが頻繁に行われており、音楽のセールスの低下が、近隣のヨーロッパの国々と比較しても著しい国でした。

スウェーデンの音楽業界が、海賊版違法ダウンロードによる音楽セールスの減少に悩まされていた中で、「海賊版サイトよりも軽く動く、より便利で合法なサービスを提供することで、海賊版サイトを撲滅し、権利者に還元する」ことを目的に作られたのがSpotifyだったこともあり、大手レコード会社も契約を締結したことで、一気にユーザを増やし、その後、他の国に展開していき、急成長を遂げました。

※経営理念として海賊版の撲滅を掲げるSpotifyは、優れたサービスの構築により、発足から5年間で海賊版の利用者を著しく減少させたとしていますが、世界中で一般人に普及する一方で、発祥の地スウェーデンでは、未だに国民の20%が違法ダウンロードサイトにアクセスしているというデータもありますので、この件は、また機会があれば別で解説します。
cf.Streaming Piracy Remains Constant in Sweden, Despite Boost in Legal Consumption
https://torrentfreak.com/streaming-piracy-remains-constant-in-sweden-despite-boost-in-legal-consumption-190902/

今では、AppleもグーグルもアマゾンもSpotify同様のサブスクリプション型音楽ストリーミングサービスを提供するようになっています。

このサブスクリプション型ストリーミングサービスがパッケージやデジタルダウンロード販売の減少を補って余るほどの急成長することで、世界の音楽原盤ビジネス市場の成長を牽引し、全体市場規模をついに200億ドルを超えるところまで復活させています。

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すでに、Ad-supported streams(広告付き無料ストリーミング)とSubscription audio streams(サブスクリプション型ストリーミングサービス)をあわせたストリーミングからの売上は、全体の56.1と半分を超えました。フィジカル(パッケージ)とデジタルダウンロードの売上減少は止まりそうにないので、今後もサブスクリプション型ストリーミングサービスが音楽原盤ビジネス市場の大半を占めることでしょう。

まとめると、世界の市場は、パッケージ売上の減少で、市場規模がどんどん小さくなっていきましたが、ストリーミングサービスという新たなビジネスモデルが現れて、一気に拡大することで、急激に回復し続けているというのが現状です。2020年の数値はまだ発表前ですが、おそらく、この音楽原盤ビジネス市場については、コロナ禍においても、引き続きプラス成長を維持していると予測されています。

次回は、日本の音楽原盤ビジネス市場について解説します。



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