厚底がくれる自信
平成の厚底文化はなんだったのだろう?
90年代に流行した靴…というと世代によって違いはあれど、なんとなくイメージするのは厚底ブーツを思い浮かべる方は多いのではないだろうか?
私のツイッターでも当時の靴の画像を載せると私と同世代から若い世代にかけて反響はある。
それだけ90年代の厚底靴はインパクトの強い流行だったのだろう。90年代~00年代にかけて青春時代を過ごした私にとっても厚底靴は愛すべき流行だった。今回はそんなインパクトの90年代の厚底文化について語りたいと思う。
◆厚底靴の歴史
そもそも厚底靴とはなんなのだろうか?
身長を高く見せるという点では、ハイヒールと同じ印象を持つかもしれないが、厚底靴とハイヒールは異なる。履くと踵の部分が爪先の7cm以上持ち上げられる形状のハイヒールに対して厚底靴の特徴は踵だけでなくつま先にも厚みがあるのが厚底靴だ。
当時の厚底靴の画像を見ると、一見ただのサブカルチャーの一つに見えるかもしれないが厚底靴には深い歴史があるのだ。
海外の厚底靴の歴史は深く、最初は古代ギリシアの劇場に登場する重要人物を目立たせる為に使われていた。その後は日本の花魁のように16世紀のベニスで高貴な生まれの男娼や高級娼婦を目立たせるのに使われる。18世紀のヨーロッパでは裏道の泥や汚物を避けるのに履かれ、古代中国での京劇でも使われていた。
日本における代表的な厚底靴として三枚歯の花魁下駄がある。18世紀中頃京都島原発祥と言われ、その後江戸吉原にも伝わった遊郭の高級花魁が用いた下駄だ。
時代劇などでなんとなく見たことがある方もいるのではないだろうか?
黒塗りで非常に重く、花魁道中で転倒するとその前の茶屋に上がって総振舞を行わなければならない慣わしがあり転倒は最も恥ずべきこととされ、歩く練習が必要があった。
そして時は流れ、ロンドンでハードロックやヘヴィメタルのアーティストのファッションとして流行していたブーツが元になった「ロンドンブーツ」が、1970年に細野勝氏により考案された。
底は厚めではあるが、後に流行した厚底ブーツほどではなくとも90年代後半のような厚底靴ブーツと似た形をしている。
当時流行していたベルボトムのパンツ(パンタロン)と組み合わせて脚を長く見せるファッションが流行したのと、野口五郎さんや沢田研二さんがこぞってこのファッションを取り入れ、さらに流行に拍車をかけた。
また意外かもしれないが、靴デザイナーの久我浩二氏も1980年代後半に厚底ブーツを提案しており何気に単発的に厚底ブーツが繰り返し流行していたのと、厚底靴の長い歴史があったことに驚いてしまう。
転倒に気をつけて歩き、そして自分を目立たせる…という点では昔も現代との感覚とリンクしていて面白い。
◆全身のバランスを意識し始めた90年代
厚底靴が本格的に登場する前は、足を長く見せる為の必須アイテムは「ハイヒール」だった。
バブル期にとって欠かせないディスコブームも要因の一つだろう。1991年の「ジュリアナ東京」の登場により「ハイヒール」も流行の的となった。当時、「お立ち台」でジュリ扇(羽付き扇子)で踊り狂う時のドレスコードがミニスカやボディコンだったが、そこにより足を長く見せるた為に「ハイヒール」が仲間入りするのは言うまででもないだろう。
そんな中、93年から「コギャル」が生まれ女子高生も徐々に世間から注目を浴び始めるが、まだ厚底ブーツが流行していないこの頃はウエスタンブーツやサーファーから流行したシープスキンブーツが主流だった。
また93年頃から本格的なスーパーモデルブームが到来し、8頭身ボディに憧れる女性が徐々に増えてきたのも90年代初期~中期にかけての特徴だ。
そして95年から本格的に厚底靴ブームを迎えることになる。このブームの立役者ともいえるのが我らの女神、安室奈美恵こと安室ちゃんだ。
当時、愛用のエルダンテスの厚底ブーツでパワフルでキレのあるダンスを踊る安室ちゃんの姿は話題になる。
もともと小顔で非常にバランスの良い体型の安室ちゃんだが、小柄な安室ちゃんをさらに引き立てたのが厚底ブーツだった。
また、安室ちゃんの158cmという日本人の平均的な身長はさらに親近感と憧れを覚え、厚底靴ブーツは瞬く間に人気となる。
この頃から「ギャル」のマストアイテムとして厚底ブーツは定番となり、90年代後半はつま先から踵までのソールが一体になったタイプが主流になっていった。
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▪90年代後半のギャルの厚底ブーツ
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一方で原宿系ではヴィヴィアンウエストウッドが流行し、その代表的なアイテムとして「ロッキンホース・シューズ」があった。
その木馬に似た木底の厚底靴でぽっくりのような靴は、ヴィヴィアンウエストウッドの不朽の名作となる。
日本では元JUDY AND MARY のYUKIさん、千秋さんなど多数の人気アーティストが愛用していたこともあり、価格が高いのにも関わらず「ロッキンホース・シューズ」は日本でも大ブレイクする。
特に「ロッキンホース・バレリーナ」は着脱の面倒くささとはお構いなしに憧れの靴として登り詰める。
また「ロッキンホース・シューズ」ではなくとも原宿系でも「厚底靴」は人気になり、定番化していった。
小柄なYUKIさんや千秋さんが足元にボリュームある靴を履く姿は大変可愛く、そのキュートな姿に憧れた方も多かったと思う。
系統関係なく全体的に90年代も様々なファッションが流行ったが、皆「全身のバランス」を重視して厚底靴を履いているのが興味深い。それほどファッションと「靴」の関係が強まった時期とも言える。
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▪90年代後半のZipperや原宿系の厚底靴
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◆00年代ではより靴そのものが主役なり、再びハイヒールが返り咲く。
厚底靴というと90年代の厚底ブーツをイメージしてしまうが、なんだかんだ00年始めまで厚底靴は人気だった。
1999年からジワジワと注目されていた厚底スニーカーも2000年にはインパクトのある見た目も含めて「バッファロー」を筆頭に大人気になる。
00年初めに青春時代を過ごした私と同年代の方はこの厚底スニーカーが記憶にある方も多いのでないだろうか?
そして2000年は厚底サンダルも人気だった。特に2000年の厚底サンダルの代表格はなんといってもくり抜きサンダルだったと思う。
ローリン・ヒルが「sky」というブランドのくり抜きサンダルを履いていたことにより、この真ん中をくり抜いた個性的なサンダルは2000年の夏の定番となった。
また厚底サンダルに関しては2010年に再びリバイバルしているところも興味深いところだ。
00年代始めを全体を通して見ると90年代よりもさらにデザイン性を求めるようになっていき、主張がある靴が話題になったと思う。
その一方で00年に入るとコンサバも流行して、今度は厚底が薄くなりヒールも細くなっていった。また原宿系のファッションも以前より徐々に厚底靴を履かなくなり時代が少しずつ変わった気がする。
コンプレックスをカバーする為の身体を含めた「全身のバランス」を重視した90年代だったが、00年代に入ると靴も含めてのファッションとしての「全体のバランス」へさらに変化していったように私は感じる。
00年代初めに流行したコンサバ系にしてもセレブカジュアル系にしても森ガールにしても足元が厚底靴ではやはり靴だけ浮いてしまい、靴そのものの形が見直されていった。
90年代のブーツと比較しても分かる通り、形そのものが「キレイ目」に変化しているのが印象深い。
03年からのセレブブームも翌年以降からさらに加速し、90年代のスーパーモデルブームのような海外セレブブームが流行した。
レディ・ガガやジェニファー・ロペス、パリスヒルトンなど人気のセレブを挙げたらキリがないが、彼女たちの身に纏う派手なファッションや奇抜な靴は日本でも話題になる。
2010年代に向かうにつれて、さらに90年代とは一味違う進化した靴が多数登場していった。この時代のファッション性を最重視した個性的な靴は今見てもなかなか面白いものがある。
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▪2000年厚底サンダル
▪2000年の厚底スニーカー
▪年代別ギャル靴広告
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▪02年以降の流行りのブーツ
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▪赤文字系美脚ブーツ
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◆令和で再燃するかも入れない厚底文化
しかし何故ここまで流行ったのだろうか?
私の場合、甲高幅広なのもありハイヒールよりも当時は厚底靴の方が好きだった。
足が痛くなりにくい割には身長は盛れたのが一番の理由だと思うが、とにかくあの視線が高くなる感じがいつもの自分より少し自信ついて心地良かった。
正直、厚底靴は異性からモテない靴だったが、それでもそんなこととは関係なしに強気で履いていた時が懐かしい。
平成から令和にかけては以前のような極端にヒールの高い靴や厚底靴はほぼみかけなくなった。時代もあるとは思うが、近年の流行のスカート丈からのバランスからみてフラットシューズの方がバランスが取りやすいのもあるからだろう。
私も厚底靴は履かなくとも、最近ではヒールの靴をお出かけの時にぐらいにしか履く程度になってしまったが、たまにヒールの高い靴やウエッジソールを履くと、ほんのりと厚底靴を履いていたような当時の気持ちに近づき気合いが入る。
コロナ禍で外出を控えてる最近では、ローヒールがより人気になっていきているが、一方で若者の90s~00sのファッションカルチャーが注目されている。令和では厚底靴がどのようなポジションに扱われるのだろうか。もしかしたらもう一度、青春時代の流行回帰を目の当たりに出来る日が来るのかも…なんて思うと当時を過ごした者としては少し不思議な気持ちと楽しみが込み上げてくる。
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