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本が出ました(『教育改革を「改革」する』)

 僕の初の単著が、本日(12/15)発売となりました(全国の書店にも並んでいます)。

 タイトルは『教育改革を「改革」する』。

 矢継ぎ早に「流星群」のように降り続く「教育改革」に負けない学校になるためには、どうしたらいいのか。
 文部科学省と広島県教育委員会で20年、教育改革をし続けた著者が問う、学校をもっともっと、「自由な場」にするための書。

(帯より)

 noteで書いてきた内容も一部含まれますが、大半は新しく書き下ろしたものです。巻末には、軽井沢風越学園校長の岩瀬直樹さんとの対談を収録。
 推薦コメントは、日本を代表する研究者かつ学校の支援者である、3人の先生からいただきました。

◆ 教育行政官としての見識と行動する市民の良識が生んだイノベーションの里程標(秋田喜代美先生:学習院大学教授)
◆ 学習科学、ラーニング・コミュニティ、ラーニング・エコシステム、リサーチマインド……、これからの教育の道標となる本(田村学先生:國學院大學教授)
◆ 「壊す」「創る」教育改革から「遺す」実践改善へ、「改革」観をアンラーンする問題提起の書(石井英真先生:京都大学准教授)

(帯コメントより)

 以下、本書の「はじめに」と「目次」をそのまま抜粋します。

はじめに

 この本を手に取っていただき、ありがとうございます。寺田拓真と申します。
 これまで、文部科学省でキャリア官僚として約10年間、広島県でも約10年間、基本的には「教育改革」の仕事をしてきました。国では、日本全体の教育改革のグランドデザインを描く仕事、広島では、「学びの変革」と銘打った教育改革や、広島叡智学園という全寮制公立中高一貫校の開校プロジェクトなどを担当してきました。また、全国でこれまで100回以上、教育改革に関する講演や研修会の講師も務めてきており、自分のことを一言で表現するのなら「教育改革者」(Educational Reformer)ということになるんだろうと考えています。
 さらに、2021年には、立命館アジア太平洋大学(APU)の特別研究員を務め、同年の8月から1年半、全米トップの教育大学院であるミシガン大学教育大学院の修士課程に留学して、学習科学や教育テクノロジーについて学んできました(本書の原稿の多くは、アメリカで書いたものです)。自分でも相当変わった経歴だと思いますが、ここまで人生を教育改革(特に公立学校の改革)に捧げた人は少ないと思いますし、国・地方・世界という三つの視点から教育改革に取り組んできた人は、日本にほとんどいないのではないでしょうか。

 そんな「教育改革者」の僕ですが、今の僕の願いはこうです。

   「『教育改革』をしない、教育行政官になりたい」

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 そもそも、僕には夢があります。それは、

   「子どもの自殺をゼロにする」

 ということ。皆さん、2022年に、何人の子どもたち(小中高校生)が日本で自殺したか、ご存じですか?

 それは、512人です。

 つまり、一日一人、さらに言えば二日に三人に近いペースで、子どもたちが自ら命を絶っているんです。これって異常じゃないですか?しかもこの数値は、減るどころか増加しており、2022年が過去最高の人数です。

 僕らが何の気なしに過ごしている毎日に、日本のどこかで一人か二人の子どもが、首を吊ったり、電車に飛び込んだりして、自殺している。このことを考えると、僕はいつも、胸が張り裂けそうな気持ちになります。
 だってまだ、たかだか数年か、十数年しか生きてきていないわけです。その間に、世の中に絶望してしまう。そんな酷なことなんてないと思いませんか?

 正直言って、僕個人としては、国際的な学力調査における日本の順位がどうなったとか、国内の学力調査の広島の順位がどうなったとか、そんなことは半分どうでもいいと思っています。そんなことよりも、僕は、とにかく子どもたちの自殺をゼロにしたいんです。
 「毎日一人の子どもが自殺している」という事実は、教育に携わる人たちにとって、究極の「不祥事」だと思います。教師だけではなく、保護者はもちろん、地域の人たちも含めて。だって誰一人として、その子のことを救えなかったわけですから。
 「どんな環境で生まれ育ったとしても、子どもたちが絶望しない社会を作ること」は、すべての大人たちの責任であり、また、「万一絶望してしまったとしても、もう一度希望を持たせられるような存在となること」は、すべての教育関係者の義務だと思うのです。
 僕は、「学校」というのは、一言で言えば、子どもたちに「安心」と「成長」を提供する場だと考えています。そして、この二つは並列ではありません。まず「安心」、その上での「成長」。
 子どもたちの自殺をゼロにするのは、学校だけでできることではありませんが、一方で、僕自身を含め、教育に仕事として関わる者は、ある意味では「最後の砦」として、「毎日一人の子どもが自殺している」という事実をとりわけ重く受け止め、自分たちがすべきこと、そしてできることは何かを考えなくてはいけないと思っています。家にいるのがどんなにしんどくても、地域にも自分の居場所がなくても、学校に来れば安らげる。安心して、友達や先生と一緒に、成長できる。僕は学校をそんな場にしたいんです。

 だから、僕の教育に対するビジョンは、一言で言うと次の通りです。

   学校を、もっともっと「自由な場」に。

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ここで、最初に書いた、「『教育改革』をしない、教育行政官になりたい」に戻ります。20年近く教育改革の仕事を続けながら、ずっと感じてきた違和感があります。それは、教育改革を進めれば進めるほど、上記のゴールから遠ざかっていっているような気がするのです。「それは教育改革の中身と進め方次第なんじゃないか?」。そう思われた方も多いと思います。確かにそういう部分もあるとは思うのですが、何かそれだけではないような気もするのです。そしてアメリカに来て、この違和感の謎が解けました。
 大学院のある授業で、僕は「教育行政官として、教育改革の仕事をしてきました」と自己紹介しました。すると、クラスメートの反応が、異常に冷たい。苦笑いをしているクラスメートさえいます。なので、授業が終わった後に、なぜなのか聞いてみました。彼らの回答は、次のようなものでした。

 「ごめんごめん。でも、何で誇らしげに『私は教育改革をやってきました』って言うのかなって思って。行政が主導する教育改革って、学校現場のリアリティからかけ離れていて、教師を振り回すだけのものってイメージが強いからさ。教師は毎日、目の前の子どもたちのために改善を続けているわけでしょう?でも、行政が『教育改革』って言った瞬間、なんか自分たちの方にスポットライトを当てさせて、外へのアピールのために学校を使おうとしている感じがするんだよね。うがった見方なんだけど、でもアメリカは特にそういう傾向が強いからさ。」

 ……そうか、そういうことだったのか。もちろん僕は、外へのアピールとか、自分が目立つために教育改革を行ってきたわけではありません。しかし、「教育改革」には、こうした問題が、いわば「システム」として組み込まれているということに、このとき初めて気付かされました。「教育改革」を強引に進めれば進めるほど、学校現場の心は離れていってしまう。しかし、「子どもの自殺をゼロにする」という僕の夢と「学校を、もっともっと『自由な場』にする」という僕のビジョンは、学校現場の主体的な取組なくしては絶対に実現できません。だから、このとき僕は、

   「教育改革」をすることなく、教育を改善し続けていく行政官になろう。

 そう決意しました。

 特に昨今は、これまでにないほど教育改革が「流行化」しており、文部科学省や教育委員会といった教育行政からは、様々なプランやビジョンが「流星群」のように降り注いでいます。また、メディアや産業界を中心に、深い分析や具体的な考察もなく、単なる印象論や一般論で、「学校に破壊的イノベーションを」「時代から取り残された教師たち」と、学校や教師を批判する主張が蔓延しており、そしてこうした批判が社会からも広く受け入れられています。しかし僕は、そんなトップダウンや外圧による教育改革には、教育を本当に変えることはできないと考えています。なぜなら、それはある意味では僕がこれまで「教育改革者」として、やってきてしまったことでもあるから。
 今こそ教育は変わらなくてはいけない。僕もそう思います。ただしそれは、「誰かに変えられる」のではなく、「自ら変わるもの」でなくてはいけない。大切なときだからこそ、そんな「現場発」の教育改革が必要だと思うのです

 モヤモヤしている教育関係者の皆さん。この本は、そんな皆さんの「元気」と「勇気」のために書かれた本です。この本を通じて、一緒にそのモヤモヤを探究し、学校をもっともっと「自由な場」にして、そして最終的に、「子どもの自殺」をこの世界からなくしていく、そんな旅の「仲間」になっていただけたら、これほど嬉しいことはありません。

2023年11月
寺田 拓真

               (目次)
はじめに

1 20年間、教育改革をし続けて
1-1 テレビの企画で、イジメを受けている中高生と対談して
1-2 DV(家庭内暴力)を振るう小学校教師の父親を持って
1-3 養護学校から小学校に戻って感じた息苦しさと違和感
1-4 「挫折」こそが、人を育てる
1-5 「教育の機会均等」が招く「不公平」と「一億総教育無責任社会」
1-6 「省利省益」を超えろ
1-7 東日本大震災の被災地をアポなしで回って
1-8 広島県教育委員会への転職と「もったいない」
1-9 40歳を過ぎてアメリカの教育大学院へ
1-10 マイノリティになる経験
1-11 「論理的現場主義」と「人生のVSOP」
コラム① コロナ禍にアメリカで過ごして
コラム② 子どもたちをアメリカの公立学校に通わせて

2 教育改革「流星群」に負けない学校になるために
2-1 トップダウンの「教育改革」からボトムアップの「実践改善」へ
2-2 教育改革「流星群」に負けないために
2-3 「僕の/私の教育改革」を描くための15のワーク
2-4 教育改革と、教育者・教育改革者の人生
2-5 教育観の転換とは、人生観の転換「ではない」
コラム③ 「個別最適な学び」が持つ、子どもたちを「取り残す」力
コラム④ 「個別最適な学び」と、学習科学

3 学校を、もっともっと「自由な場」にするために
3-1 「壊す」→「創る」→「遺す」
3-2 変えるべきは、学校のインフラストラクチャー=「学校文化」
3-3 改善を阻む、「四つのリソースの欠如」
3-4 必要なのは、教師の「真の専門職化」
3-5 学力テストの二つの改革:結果→プロセス、部分→全体
3-6 教師の「真の専門職化」のコア、「リサーチマインド」の育成
3-7 「ラーニング・コミュニティ」と「学校の民主化」
3-8 教育行政は、「コンシェルジュ兼プロデューサー」へ
3-9 学びの生態系:ラーニング・エコシステム
3-10 管理職の皆さんへ:「Festina lente」
3-11 孤独な子どもたちを救うために

おわりに

巻末対談  岩瀬直樹×寺田拓真「学校が子どもも教師も成長できる場になるために」
教師の自律性をいかに取り戻すか
これからの授業を考えていく上で核となる「ラーニングエクスペリエンス」という発想
成長実感が教育を、社会を変える
教員間の協働、コラボレーションの難しさ
教師の専門性って何?

 この本のゴールは、単に「僕の考えを知っていただくこと」ではありません。そうではなく、教育を内側から、現場から変えていく旅の「仲間」になっていただくことです。本の中には、お一人おひとりが「僕の/私の教育改革」を描いていただくための「書内ワークショップ」も盛り込みました。最後に僕の連絡先も書いていますので、感想やご依頼など、いつでもご連絡いただいて大丈夫です。

 20年にわたり公教育の「中」で改革を進めてきたからこそ、見えるものがあります。また、世界には教育改革「失敗」の歴史が山積しています。それらを踏まえ、学校現場の「リアル」を無視・軽視した改革論に警鐘を鳴らしながら、改革の必要性と進むべき方向性を整理した、そんな日本の教育改革を「次のステージ」に上げるための書です。
 とはいえ、「教育改革者」のため(だけ)に、この本は書かれたわけではありません。この本が目指すのは、学校の先生をエンパワーし、一人ひとりが「僕の/私の教育改革」を描いていただくこと。そして、その実現、さらにはその先にある「社会変革」に向けて、社会総がかりで力を合わせていくことです。

 学校の先生はもちろん、教育に関心を持つすべての方々に読んでいただきたい。改革を進めたい人、改革に疑問を感じる人、どちらにも、感じていただけるものがあるはずです。

 ともに進み続けましょう。

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