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わび寂びライカ USA

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もう一度だけ海外へ行くとしたら、いの一番にニューヨークだ。ケネディ空港で拾ったタクシーのラジオからながれるクールジャズに身をゆだね、クイーンズボロ橋が近づくにつれ摩天楼のスカイラ… もっと読む
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影の男

大窓から差しこむ朝日をあびた大男が、ひろびろとしたコンコースのど真ん中で突っ立っている。 肩幅は広くたくましい。逆光にうかびあがったシルエットは、力強さそのもの。だが、影は大きいけれど、弱々しい。 強と弱が一緒になった男の光と影は、世紀末アメリカを象徴しているかもしれない。いまなお世界最強だが、衰退の兆しを見せる黄昏の大国アメリカ。 グランドセントラル駅、午前9時。 朝の通勤客が急ぎ足で行きかうコンコースを見張る。 人の良さそうな黒人の警官がそばにいる。安心してカメラを

神々の大いなる自然

ぞっとして身の毛がよだった。 前を横切ったのは、何だ?  冬眠しそこなったアメリカ熊か。 20メートル先からジッとこっちを見ている。 大鹿であった。 アメリカ西海岸、ヨセミテ国立公園。 12月初め、快晴、前夜の雪がつもり、寒い。 朝から渓谷をひとり歩きまわる。 ヨセミテの象徴たる氷河が削った切りたった岩山、 ハーフドームに圧倒された。 アメリカの大いなる自然には神々が住む。 アンセル・アダムスは、 人っ子ひとりいない冬のヨセミテに居をかまえ永年撮影した。 壮大な大

黒髪の美人

久しぶりに美人に出会った。黒髪の美人。 ラテン系でスペインの血を引いているかも。 サンフランシスコのイタリア系が住むリトルイタリー。 その一角、Mrios Bohemian Cigar Store を探しあてた。 名のとおり昔は葉巻専門店で、今は粋人が通うイタリアン・カフェ。 美人とにこにこ顔の年配婦人がカウンターにいるだけ。 客がひとり、何やら書きもの風情だ。 「ゴッドファーザー」で大ヒットした巨匠コッポラ監督も ここで、脚本に手をいれていたそう。 彼もイタリア系

トンプキンズ広場のジャズ

スイングするビートにのって、サックス、ピアノ、ベースとソロがくりひろげられていく。 たった1メートルの鼻先で軽やかにふきあげているサックスに、スローシャッターを切った。 ジャズがきこえる写真を撮りたかったのだ。 人種のサラダボールのニューヨークでも、その色合いがこく、いろんな階層がまじりあう街、 イースト・ビレッジ。 人種と階級のごったまぜが、この街を時代に先取りするアートの先端発信地とした。 一見バラックと思える実験劇場LaMaMa(ラ・ママ)。 オフ・オフ・オフ・ブ

パンパン・・銃の発射音 ニューヨーク 

わりと近くでパンパン…… 銃の乾いた発射音だ。 夜ふけ、ジャズを堪能したあとのアベニューA、トンプキンズ広場。 麻薬の注射針が道ばたに転がるこの広場の東は夜ヤバイ、と地元の友人。 90年代初めのニューヨークであった。 9番街51丁目、アフガン料理店でケバブと激辛カレーに挑戦した帰りがけ、店の人は交差点を渡るな、と。 通りの向こう側を歩く人の格好はラフで汚い。こちらは小ざっぱり。 9番街より西は危険であった。 このところ、もっぱら国内を歩いている。 もう一度だけ海外へ行