枯れ寂び
突風で駅舎がぐらっと揺れ、
それまでのぽかぽか陽気が一転、
気温が急降下した。
ぶるっと体が犬みたいに震えた。
根室ちかくの花咲駅。
最果ての無人駅であった。
まわりに家もない、人っ子ひとりいない。
冷たい雨が額にぽつり、空模様がくるくる変わる。
元車掌車の駅に潜むこと3時間。
上りも下りも列車1本来ない。
牛が草を食み、何さまかと、じっとこっちを見つめている。
馬に話しかけたニーチェのごとく牛に話しかける気もおきない。
狂ってもいないし、哲学者でもないから思索にふけることもない。
ただボーと何もしない、何も考えない、何の欲もない。
空っぽを楽しんでいる。
これが悟りの境地か。
否、枯れ寂びただけか。
永年、花咲で乗った人も降りた人も見たこともない、
とは根室駅前のジャズ喫茶のご主人。
客は誰? 哲学者か、それとも枯れ寂び爺か。
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