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超クリエイティブで現実を動かす~はじめに~

2020年の終わりに、最新刊「超クリエイティブ 発想×実装で現実を動かす」の「はじめに」部分を公開します!!!!様々な困難、不条理・理不尽と向き合ってきた2020年を乗り越えて、2021年をより人間らしい、意味のある一年にするために。クリエイティブの思考法はきっと大切な武器になるはず。少しでも役に立てば嬉しいです。いこう、その先へ。

クリエイティブってなんだ?

クリエイティブという言葉にみなさんはどんな印象を持たれるでしょうか。
かつてはクリエイティブというと、アーティストをはじめ広告代理店やテレビ・エンタメ産業といった一部の業界の特殊な技術だと思われてきました。とんがったデザインのポスターや、かっこいいCMをつくれる人がいわゆるクリエイティブ職のイメージでした。
 しかし今や、さまざまなデジタルツールの発展とともに個人がメディアを持って簡単に発信できるようになり、〝一億総クリエイティブ時代〟とも言われています。自分でHPをつくってデザインしたり、気の利いた文章のブログを書いたり、ユーチューバーとして映像をアップしたりする中、クリエイティブという言葉の印象も、ずいぶん手軽なものとなりました。ともすると、独創的で面白いもの、おしゃれなもの、素敵なものをつくるための表面的なテクニックだと矮小化されて捉えられがちです。

 クリエイティブの本質はそうした演出的なスキルにあるのではなく、「革新的な変化のきっかけをつくり出す」思考法にこそあります。目の前にあるモノや事象に別の意味を生み出し、新しい価値をつくり出す力です。

クリエイティブの思考法

 クリエイティブの思考法が身につくと、世界の見え方が一変します。毎日の暮らしが面白くない、ちょっと刺激が足りないと思っていたとしたら、生活のさまざまな場面や仕事を新しい意味で捉え直すことができます。会社の事業が伸び悩んでいるとしたら、その事業が社会においてどんな意味を持っているのか再定義し、突破口を開くことができる。
 クリエイティブとは、ちょっとやそっとの努力では変えられない凝り固まった社会の現実に、新しい意味を与えることで、未来を切り拓く力です。

なぜクリエイティブが必要なのか

 これからの令和の時代、日本が国際社会における経済競争力を持ち、文化的に、外交的にリスペクトされながら成長していくためには、クリエイティブの力が必要不可欠です。今現在、日本社会で問題とされていることのほとんどは、高度経済成長期という日本が長らく規範としてきたコンセプトの耐用期限切れが原因だと、僕は考えています。

 昭和から平成にかけて、日本は企業も市民も、一丸となって量的成長を追い求めてきました。より速く、より多くの製品をつくり出し、マーケットを拡大し、稼ぐ。1956年の経済白書が「もはや戦後ではない」という、時代の区切りを明朗に告げたその瞬間から、国も、企業も、個人も、「高度経済成長期」という共同幻想を信じてただひたすら、がむしゃらになって努力を続けてきたわけです。

 しかし、昭和という元号がその役割を果たし、平成の世も終わりに差し掛かる頃から、人口の増加と企業の成長を前提とした経済モデルという魔法は、その神通力を失い始めました。加速する少子高齢化、そして働き方改革、GAFAなどグローバルプラットフォームによる情報の寡占化……いくつもの大きな波が重なり合い、日本社会は新しい局面を迎えました。そう、現実を直視すれば、「もはや日本社会は成長期ではない」のです。

 クリエイティブにできること

 では、低迷する日本が活路を見出すうえでなぜクリエイティブが鍵なのか。例えばここに、なんの変哲もない茶碗があるとします。この茶碗をより高い価値で売ろうとしたらどんなことができるでしょうか?
 一つは、より丈夫な素材でつくるというアプローチがあります。「資源」を活用して商品の魅力をつくり出す方法は、日本においては昔からやりたくてもできないことでした。国土が狭く、鉱物資源の産出量の少ない日本で、資源による競争は武器になり得ません。
 あるいは、同じ時間内にたくさんの人で100個の茶碗をつくって売るというやり方もあります。「組織力」で生産量を上げて利益を高める方法です。昭和の日本企業において、護送船団方式による組織力は大きな力になりました。丸善石油のCM「オー、モーレツ!」(69年)にちなんで生まれた「モーレツ社員」という言葉に象徴されるように、高度経済成長期には多くの働き手が長時間、熱狂的に働くことが正義とされてきました。しかし、人口減少社会を迎えた日本で、そんな仕事の進め方はできませんし、する必要もない。そもそも現代の市場において生産人口で勝負しようとしたら中国と競い合うことになります。そんな勝ち目のない戦いに参入したいとは思わないでしょう。
 三つ目は、保温できるテクノロジーを使って「冷めない」お茶碗として商品価値を高めることもできます。このような「技術力」によって付加価値をつけるやり方もかつての日本が得意としていたアプローチです。しかし、世界の技術力の最先端はもはや日本になく、シリコンバレーあるいは深圳こそが最先端の場所になっています。いや、今となってはこういった物理的な中心地があるという考え方さえもが、もう古いのかもしれません。広大なデジタルの海の中で、あらゆる場所にテクノロジーは散在しているのですから。
つまり、価値を生み出す力として、資源・組織力・技術力いずれの分野も日本は弱くなってしまった。では日本はどういう戦い方ができるのか?

〈この茶碗は宇宙の象徴です〉
突然こう言われたら多くの人がびっくりして興味を持つでしょう。そこにあるもの自体は変わらないけれど、「この茶碗はわび・さびという宇宙の理を象徴する深い美しさを持っています」と、新しい意味を見つけることによって、この茶碗の価値を100倍にも1000倍にもする。こんな魔法のようなことが実際にできるのが、「見立て」です。これこそがあるものの意味を変えることによって新しい価値をつくり出す─すなわちクリエイティブの力なのです。

日本初のクリエイティブディレクター千利休

 その先駆的な存在は、日本初のクリエイティブディレクターともいうべき千利休です。茶碗という誰が見ても変わらない普通のプロダクトに、別の意味を与えることによって美術品としての価値を与えました。あるいは茶室というものをただの狭い部屋ではなく、精神を落ち着け、人と人とが親密かつ平等に向かい合う場として、わずか二、三畳の空間に大きな意味を与えました。そのとき茶室は、空間的な狭さを乗り越えて概念的には無限の広さを手に入れることになります。
 現に今でも、400年以上前に千利休が見出した茶碗の価値は、数百円の日用品ではなく、数千万円、時には数億円という値段で取引きされています。あるものに新たな意味をつけ加えることで価値を高めるクリエイティブな力は、日本に残された最後の国際競争力の源泉とも言えます。

クリエイティブの使命

 そして、このクリエイティブで取り組むべき喫緊の課題とは、高度経済成長期に代わってこの国を駆動する新しい「コアアイデア」の開発です。コアアイデアとは、企業やブランドが、「変化あるいは非連続な成長を生む際に、中心となる考え方」のことです。
 この国はこれからどうやって成長していくのか、この国で生きる我々はどのように生きるのが幸福なのか。この問いに対する答えを、クリエイティブの力で導き出さなくてはなりません。信じられる答えが見つかったとき、少子高齢化はもはや問題ではないかもしれません。国の人口が減るということは、一人当たりの資源や土地がもっと豊かに使えるということでもある。労働時間が減るということは、個人の思考や趣味による創造や、子どもを教育するためにかけられる時間が増えるということでもある。
 人口が増え、経済が成長していくことが正しいという前提さえ取り外せば、先進諸国の中で他に先駆けて人口減少社会に突入した日本は、世界において新しい幸福のモデルケースをつくることができます。クリエイティブの力で幸せな働き方と生活のかたちを示すリーディング・カントリーになれると信じています。

『超クリエイティブ』とは

 本書のタイトルに『超クリエイティブ』と冠したのは、これまでに世に出たクリエイティブの本と3つの意味で決定的に違っているからです。
 一つは、クリエイティブの力を、従来のイメージを超えて、汎用性の高い思考法として再定義していること。ビジネスパーソン、あるいは学生、どんな方でも仕事やプロジェクト、乗り越えたい課題がある方であれば誰でも使うことができ、仕事や人生をより良いものに変える、ひいては行き詰まった現実を超克して社会を次のステージに導く思考法として新しい意味を持たせています。
 次に、クリエイティブの核心を「コアアイデア」という概念で刷新しているからです。ものごとの本質を見抜いたうえで、〈状況を一変させる考え方〉となるのがコアアイデアです。例えば、アップルという企業の成長には「すべての人のクリエイティビティを解放する」という思想が、あるいはスターバックスにおいては「サードプレイス︱職場でも家庭でもない、心からリラックスできる第3の居場所」という価値がコアアイデアとして機能してきました。クリエイティブと言ったときに、このもっとも重要なコアアイデアを生み出す方法、いわば思考の型をインストールできるようお伝えします。
 最後に、クリエイティブの役割を、「発想」と「実装」の両方を含んだ「現実を動かす」力として捉えている点にあります。面白いアイデアは誰もが一度は思いつくかもしれませんが、それが個人の脳内で完結してしまえば妄想ですし、パソコンで企画書をつくっただけでは世界を変えることはありません。アイデアは「発想」した後に、必ず「実装」する─すなわち現実世界で実現しなくてはならないのです。当然アイデアが優れたもの、誰もが思いつかない意外性のあるものであればあるほど、実装することは簡単ではありません。本書ではそのための組織づくり、チームビルディングにまで踏み込んで論じています。

 クリエイティブディレクターの条件

 2007年に博報堂という広告代理店に入社して以来13年、プロのクリエイター、クリエイティブディレクターとして生きてきて、はっきりとわかったことがあります。それは、コアアイデアは生み出せる人と、そうでない人がはっきりと分かれるということです。プロのクリエイターを見ても、前者は2割に満たないでしょう。このコアアイデアを生み出すことができるかどうかが、クリエイターの仕事における根幹になれる人と、枝葉に終始してしまう人を分けます。それは自ずと収入や組織における地位にも影響し、コアアイデアを生み出せるかそうでないかで、報酬は桁が一つ変わります。
 この差分は別に能力が優れているかどうかではなく、コアアイデアを発想する思考の型を持っているかどうかの違いから生まれます。もし今のあなたが、アイデアの発想や企画力、クリエイティブなセンスに自信がなかったとしても諦める必要はありません。クリエイティブへの飽くなき渇望があれば、トレーニング次第で、誰しもがコアアイデアを生み出し、実装する側にまわることは可能だからです。
 そんな力を身につけるには、単なるアイデア発想術のようなハウトゥーでは用をなしません。クリエイティブの歴史や本質を教養として咀嚼したうえで、コアアイデアを生む思考法を体にインストールすることが、職種や業界を問わずに仕事に使える実践力に結びつきます。

今こそクリエイティブの力が必要だ

 図らずも、コロナショックによって、人類は未曾有の変化の時代に突入しました。これまで当たり前とされてきた常識もルールも、毎日のように更新され続けます。テクノロジーの進化は加速し、あらゆる無駄がカットされ、効率化されていきます。モラルの感覚もアップデートし続け、かつては問題として扱われることのなかった事柄が大きな議論を呼ぶこともあります。人口動態の大変化が社会の諸制度を揺るがせていることは言うまでもありません。
 あらゆる場面で見通しの立たない時代において、私たちが現実を動かし、生き残るための力─それがクリエイティブなのです。

変化に巻き込まれる側から、変化を起こす側へ。
自らが人生を変え、現実を動かし、社会を良くする。
あなたにとって、本書がそんな可能性を見つけるための最初の一歩になることを願ってやみません。

超クリエイティブー発想と実装で現実を動かす

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