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ヴェネツィアの朝

関空発、イタリア行きの便が明後日に迫る中、未曾有の浸水が起きた。
どうやら観測史上2番目に酷い高潮らしい。
こんなタイミングに合わせなくても……と恨んでも、地球相手に勝てる訳もないので、なんとか観光できることを祈り、と言うよりもヴェネツィアの地に足を踏めることを祈り、旅の支度を進めた。

気に掛けてるからなのか、実際大事(おおごと)なのか分からないけれど、高潮のニュースは日本のテレビ番組でも何度も取り上げられていた。
サンマルコ広場は完全に浸水してしまっていて、簡易的に組み立てられた浮橋のような歩道の上を観光客が歩いていた。
高潮の影響で、ヴェネツィアのあらゆる観光名所は閉鎖しているらしく、悲しそうな顔でインタビューに答える新婚夫婦の顔が、近い未来の自分たちのように見えた。

ケチった訳ではなくて、純粋に予算オーバーだったので、飛行機はエコノミークラスだった。
別居のため、お互いの住まいがある関東と関西とを夜行バスで行き来してた我々にとっては、エコノミークラスはあまりにも快適だった。しかも、長時間揺られることに慣れ過ぎたせいで、旅の高揚感を感じる前にあっという間に現地に着いてしまった。

ヴェネツィアは既に夜に差し掛かろうとしていた。目の前に流れるこれは海なのか河なのか。その上を走る水上バスに乗ってホテルに向かった。

ガイドからは、まだ高潮の影響が酷く、明日にならないと観光できるか分からないと伝えられた。外は雨。ゴンドラも運行できるかどうか。話を聞きながら、今更湧いてきた高揚感と飛行機の揺れによる酔いが回って気分が悪くなり、部屋に入ると直ぐに床についてしまった。


朝。まだ日も上がっていない早朝に目が覚めた。妻は隣でまだ寝ていた。日本よりも10度は寒い外に出てみると、雨は止んでいて、船頭が準備を始めていた。

もしかすると……と小さな期待を抱きながら、部屋に戻って妻の寝ているベッドに潜り、明日のことを考えながらもう一度眠りについた。

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