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教員もまちに出よう!「教員副業コーディネーターまちまち」の活動

公務員は副業禁止。根拠も知らずなんとなくそう思っていたが、それは誤解だった。公務員も、もちろん公立の教員も副業していい。むしろ、することを期待する制度がある。そんな制度を活用しようと動き始めた公立学校教員たちがいるということで、名古屋市のNPO法人「教員副業コーディネーターまちまち」代表の柴山恭毅さんに話を聞いた。

お話を聞いた柴山さん。子どものころからサッカー好き。もうすぐ3児のパパになる。

公務員は副業禁止ではない!?

-まずはどのような活動をしているか教えていただけますか?
まず最初に知ってほしいのは、「公務員の地域貢献活動制度」というものです。これは、従来からの公務員の副業の規制を緩和したもので「地域貢献活動」と言えるものはその活動を認めていきましょうというものです。ここでいう「地域貢献活動」とは、農業の収穫作業、スポーツや文化活動の指導、幼児の保育や様々な教室、高齢者の支援、など公益性の高い活動や、非営利法人での活動のことです。これらを認めることで、地域の活性化と職員のスキルアップにつながることが期待されています。
私たちは、まずはこの制度を広く知ってもらうことから始めると共に、担い手が必要な地域団体と、本業以外にやりがいや自分らしさを見つけたい教員を結びつける活動をしています。

-そのような制度があることは全く知りませんでした。
この制度は全国にあるはずですが、そもそも公務員は副業禁止と誤解されている方がかなり多いと思います。元々「禁止」ではなく「制限」です。講演や執筆をしている教員が多くいるのは皆さんご存知の通りですし、不動産投資なども認められてきました。それに加えて、さきほど言ったように、公益性の高い活動が新たに認められました。また、報酬を得る副業も禁じられてはおらず「営利企業等従事許可願」(自治体によって異なる)という申請をして、基準を満たせば許可は出ます。

資料:地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について(総務省通知)

とはいえ、それらの許可基準がまだ曖昧で、何がOKか何がNGか、公表している自治体は全体の2割だけ、6割は基準自体が未設置、2割は基準があるはずなのに未公表、という状態です。ここまで「公務員」全体の話をしていますので、教員ではどうかと言うとまだまだ前例は少ないですね。まずはこういう制度があることを、教員にも、それ以外の方にも知っていただくのが最初の活動で、主にinstagramで発信しています。

https://www.instagram.com/machimachi.npo よりキャプチャ

-まずは発信ですね、その次は?
次に、興味を持ってくれた教員や地域団体に、どうすれば実現するかを詳しくご紹介し、必要であれば、副業するための手続きや準備/受け入れるための準備、などをお手伝いすることもあります。僕自身も、報酬は得ないので必須ではないのですが、NPO法人として活動するにあたって名古屋市に副業許可願を届け出てみました。どうやら名古屋市内の教員でこの制度を使ったのが初めてだったみたいで、行政側も探り探りなところがありました。この例のように、まだ社会に定着していない仕組みなので、個別のやりとりが今後も必要だと思っています。

なるほど、地域団体側のニーズはどうなんでしょうか?
地域団体にも様々なニーズがあります。単発のお祭りやマルシェのような時に手伝ってほしいであったり、人と関わるのが得意な人が継続的に関わってほしいなど。教員の方とは、公式LINEやinstagramでつながり、地域団体の情報を出すと共に、教員の希望も聞いてコーディネートできそうなところを一緒に探すようにしています。

-まだ具体的な事例をひとつご紹介ください
教員ではなく市役所職員の例ですが、名古屋市職員の伊藤さんは地元の一宮市で、都市公園を住民目線で提案する市民団体の代表をしています。活動を通じて、公務員という仕事の責任感を再認識したり、思いがけない人との出会いが考えの幅を広げてくれたりするそうです。何より、本職で培ったまちづくりのスキルやノウハウを活かしたり、次世代へ想いを伝えられたりする瞬間が、かけがえのないサードプレイス的な時間になっているそうです。

我慢でもなく、退職でもなく、別の選択肢をつくりたい

-この活動をとおして、どういったことを目指しているのでしょうか?
教員という仕事にやりがいを感じられなくなったときや、物足りなくなったときに、収入や安定を得るための手段として割り切って我慢して続けるか、完全に退職してしまうか、その極端な二択ではない、別の選択肢を用意したいと思ったんです。

例えば、習字が好きで人に教えるのも好きな先生が、本業とは別に習字教室のようなものを開いてもいいし、スポーツ好きな人は部活動の地域移行に合わせて地域のサークルで指導者をしてもいいですよね。仕事の中に打ち込めるものが見出せなくなった時、その外側にやりがいや自己実現があってもいいんじゃないかと思うんですよね。

-たしかに、働き方に柔軟性や選択肢が生まれますね。
そして、そうした活動は、純然たるいわゆる「趣味」ではなく「副業」のように、誰かに何かを提供する活動であってもいいと思うんです。得意なものの活かし方は人それぞれだと思うので。さきほど説明したように、「公務員は副業禁止」という誤解が広まってしまっていると思うので、教員が社会で活動しようとする時にすごく高い壁があります。民間企業の副業と同様に、信用失墜行為の禁止、職務専念の義務、守秘義務、などがありますが、これは当然守った上での活動になります。もう少し堂々と活動できるようになるといいですよね。

-そうですね。別の側面もありますか?
教員の経験を増やすことにもなると思います。教員は世間を知らないと揶揄されたりしますが、否定できないと感じることもあります。例えば農業の現場の苦労、福祉の現場の工夫、そうした実社会の現場で起きていることを授業で教えるのであれば、実際に経験することも必要だと思います。一方で、地域団体の人たちから教員を見ると、子どもの相手がうまいとか、真面目にやってくれるから安心感があるとか、そう言ってくれて、信頼されているとも感じます。地域団体と教員とをうまくつなげていきたいと思っています。

やりがいを見出す活動は色々あっていいと思う

-柴山さんはどうしてそう思うようになったのでしょうか?
多くの人と同じように僕も、教員の離職やメンタルダウンが増えているという報道や、身近にもそういう人がいて、自分でも何かできることがないだろうかとずっと考えていました。そんな中で、この「公務員の地域貢献活動制度」を知り、これで副業ができるようになれば、教員の生き方や働き方にも幅が広がると思ったんです。

僕自身、教員になったきっかけは、自身が小学生のときの部活の先生に憧れて、自分もそうなりたいと思ったからです。スポーツも好き、子どもたちも好き、安定した仕事、そうしたものに憧れました。名古屋市では2年前、小学校の部活動も地域移行しましたが、部活動指導を楽しんでいた教員仲間の「やりがいがなくなってしまった…」という気持ちはよくわかります。僕は部活動指導がなくても楽しんでやっていますが、それと同じように、やりがいを見出す活動は色々あっていいと思うのです。

-人によってやりがいを見出す点は人それぞれですものね
もう一つ転機になったのは、とても仲良くしていた後輩が退職してしまったことです。その時期、僕は今の活動を構想し始めて、一緒に活動しないかと彼を誘ったその日、その後輩は退職することを決めて僕に報告しに来たんです。僕は副業コーディネーターの活動を誘おうとして、彼は退職の報告をしに来た。偶然にも同じ日で、お互いに「もっと早く教えてあげれば!」「もっと早く知りたかった!」となってしまいました。その後輩は転職し、今、NPOの副代表になってくれています。

教育行政において、なくてはならない存在になっていきたい

-これからしていきたいことを教えてください
直近では、まずは情報発信ですね。このような制度があること、公務員や教員も副業をしていいことを多くの人に知ってもらい、そして興味を持つ人を増やしていきたいです。地域で活動したことのない教員には、ハードルが高いと感じる人も多いかもしれません。ですが、意外と地域は開かれていて、多様な関わり方があります。例えば、あるフリースクールの運営者は教員に対してあまりいいイメージを持っていなかったそうですが、僕と知り合ってから、教員のイメージが変わったと言ってくれました。そういったイメージも変えていきたいですね。

-ほかにもありますか?
もう一つ取り組みたいのは、まだ具体的に副業などは考えていない、現時点でアンテナを高く張っているわけではない人へのアプローチです。「働き方に関する自主勉強会」のような形で、自分の働き方や生き方、それに対する現状の満足度や課題感などを振り返るワークショップを開発して、実施したいと思っています。僕自身が悩んで考えてきた経験を元に作ってみたものがあります。内容としては、効率的に働くための時間の棚卸のワーク、自分がしたいことを見つめ直すワーク、という構成になっています。色々な学校を訪問して、実施させていただきたいなと考えています。ワークショップを通じて副業に興味が湧けば、その後コーディネートしていくことも可能です。

-きっかけを提供すべく足で稼ぐということですね
そして着実に実績を積み上げていき、ゆくゆくは名古屋市やこの地域の教育行政にとって、なくてはならないNPOだと思ってもらえるような存在感を作りたいですね。全ての教員に副業を勧めているわけではなくて、必要な人に届けばいいと思っていますが、働き方や生き方を考えた時にパッと思い浮かべてもらえたり、気軽に相談に乗れるような存在になれたら嬉しいです。

https://www.instagram.com/machimachi.npo

最後にパーソナルな質問になりますが、ここまで進んでくるのは勇気が必要だったのではないでしょうか?
僕自身もこれが副業であり、今まさにチャレンジしています。小さい子どももいるし、もちろん教員としての仕事もあるし、家族に迷惑はかけられません。周りの人に「働き方を見つめ直しましょう」と言うからには、自分自身がチャレンジしていなければ響きませんよね。だから今はやれるだけやってみようと思っています。通勤電車の中と、寝る前の時間、限られた中でギュッと濃密な時間になっています。正直、誰か手伝って!と思うこともありますが、自分にとってすごく楽しいことだからエネルギーも湧いてくるし、時間はあまり関係ないかなと思います。

今後の活動について、NPOという組織で仲間と話し合っていると、自分一人では考え付かなかった色々なアイデアが出ます。なので、活動内容はまだ色々と変化すると思いますが、働き方の選択肢を広げて教員の離職者を減らし、生き生きと働く教員を増やすという目標はぶれずに進んでいける自信はあります。

<編集後記>
このお話を聞くまで「公務員は副業禁止」となんとなく思いこんでいましたが、この取材で誤解が解けました。副業もそうですが、今、民間企業では「アルムナイ」(「卒業生」という意味。退職した社員とゆるやかに交流し即戦力として再雇用する動き)が話題ですよね。そのように、組織で働くことが今より柔軟になると、働きやすくなり、喜ぶ先生も増えるだろうなと思いました。ありがとうございました。聞き手・文・編集:すーじー/鈴井

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