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読書レビュー『ピース』


はじめに

こんにちは、Takaです。
今回は樋口有介の『ピース』を紹介します。
私の読書レビューには幾度となく登場している樋口有介の作品です。初出は2006年と結構昔です。積み本が無くなってくると、好きな作家の古い本を買ってしまうのは、読書家あるあるだと思います。

概要

タイトル|ピース 新装版
作者  |樋口有介
出版社 |中央公論新社
発売日 |2021/8/20

感想

本作は、樋口有介お得意の青春ミステリーの雰囲気を持った、少し変わった作品です。主人公の平島梢路は、叔父とともにスナック「ラザロ」で切り盛りする寡黙な青年です。と言うことで、ここまでは『ぼくと、ぼくらの夏』や『海泡』に出てくる主人公と雰囲気は似ています。これらの主人公たちと違って、今回の主人公は最後まで熱いシーンが描かれることがありませんでした。“青春ミステリー”という通り、これまでの樋口有介作品では、斜に構えつつも若さゆえの真っすぐさを持った人物像で描かれることが多かったのですが、この主人公は最後までミステリアスな印象を持ち続けました。正直、「犯人なのでは?」と考えながら読むほど、これまでの主人公感とは離れたキャラクターでした。

また全体的な物語も少し他の作品とは違いが出ています。相変わらず読みやすい文体であることには変わりありませんが、敢えて皆までは語らないスタンスが取られています。他作品では、最後の最後に事件の裏側まで説明して、どんでん返しを演出する手法が多いですが、今回は謎を謎のまま残す演出がされます。またそれが結構多いため、主人公どころか、登場人物が最後まで見抜けない終わり方をします。考察が好きなタイプの人には楽しい演出ですが、娯楽小説として楽しんでいる私には、少し満足できない気持ちがありました。

少し風変わりな作品になったことについて、新装版では作者の当時の心境が追記されています。当初は『少しひねった定番青春ミステリー』を書くつもりだったものが、『かなりひねくれた青春ミステリー』に仕上がった顛末が書かれています。体調や心境によって作風が変わるなんて、改めて作家も人間なんだなと感じる一方、結果的に傑作と呼ばれるんだから、めぐりあわせとは不思議なものです。

おわりに

今回は『ピース』を紹介しました。
読みやすい作品ではありましたが、私的にはもっと定番作品の方が好きでしたね。結局私はハッピーエンドを好むタイプなので、敢えて謎を残して不完全燃焼な雰囲気を作るのはあまり好みではありません。樋口有介の代表作的な感じですが、個人的にはあまりおススメしたくない作品でした。

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