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タイ人でさえ腹を壊すメニュー

 最近は言われなくなったが、以前はタイを始め東南アジアは氷で腹を壊すとよく言われたものだ。90年代のガイドブックには「氷は入れないで飲んだ方がいい」と堂々と書かれていたり。それなら歯も磨けないし、水道水で洗った食器だって危険だ。前職の接待では日本から来た客人が「これ、飲んでも/食べても大丈夫ですか」と訊いてくることがあった。タイ料理を所望しておいて。でも、それに対して言えることはただひとつだと思う。

「知らねえよ」

 法的にはいろいろな処罰や救済はあるのだとは思うが、少なくともタイでは基本的に食中毒になってもそれは自己責任であることが多い。補償はまず期待できない。だから、口に入れる前、入れたあとに違和感があれば絶対に食べない。ただそれだけだ。

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 しかし、最近はどこもだいぶきれいになった。幸い、ボク自身は一度も食中毒になったことはない。腹を壊すことはあるけれども、重度の食中毒はいまだにない。

 上記画像のグンチェーナンプラーといった生ものの料理もタイにはある。日系企業の駐在員はこういった生ものを避けるほど徹底した人もいるが、こういうメニューは案外腹を壊すことがない。結局は運というか。特に外国人は水が変わることで腹を壊しやすい。

 では、タイ人は胃腸が強いのかというと、そういうわけでもない。そもそもの話で言えば、タイ人だって屋台などで食べて腹を壊したり、食中毒になることはしばしばある。

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 タイ人でも腹を壊すケースはだいたい決まっている。ボクの中の統計では、下記の食材が「3大タイ人でも腹を壊す食べもの」である。

・ホイ・ナングロム

・プー

・プラーラー

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 まず、ホイ・ナングロム、つまりカキに関しては、日本人も好んで食べる日本の生ガキとは違う。オイスターバーや、上記画像のような岩ガキっぽい、タイの海鮮料理店で食べる大粒の生ガキでは食中毒に遭う可能性がかなり低い。腹に来るのは主に小粒のカキだ。

 たぶん日本のように加熱用、生食用に分けられていないので、そんな小粒のカキを生で食べて腹を壊すのはわかる。しかし、オースワンといった、日本語に訳すなら「お好み焼き風カキの卵とじ」みたいな、ちゃんと火の通った料理でさえ腹を壊す。

 そのため、ボクは基本的には小粒のカキは極力食べないようにしている。それほどおいしいと思わないのもあって、食べたい衝動に駆られることもない。大粒の生ガキは食べるけれども、これも臭いを確認し、かつ口に入れて飲み込むまで、結構慎重に味わっていたりする。そこまでして食べる必要があるのかどうかはわからないが。

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 この画像は北部料理のラープ・ディップだったような。生の豚肉のサラダだ。案外こういうのは腹を壊さないが、実際には北部や東北部では野生動物などを生で食べることで、年に何人か食中毒というか、感染症かなにかで亡くなっている。日本の生もの取り扱いのように衛生管理をちゃんとしていないし、野生動物の臓器までも生で食べるので、そりゃあ命がけでしょう、といった感じか。

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 この画像は妻の実家近くの市場で撮ったもの。下はたぶんタウナギとかだと思う。その上はカメでしょう。タイでカメを食べるのだろうか。聞いたことはないけれど、イサーンではあるのかもしれない。

 こういったややアグレッシブな食材がタイにはある。これでもベトナムやカンボジアと比較すればおとなしい方だ。先のプーもそうだ。いわゆるサワガニのことで、真っ黒に腐っているというか、発酵しているようなサワガニを使う。これがよく当たってしまうのだが、タイ人によってはソウルフードでもあるので、やめられないようだ。

 サワガニは近年はタイでは捕れないらしく、ミャンマーの養殖物を使っているという噂だ。主にソムタムに使う食材である。ソムタム注文時にプーを入れないように言っても、前の人が入れていれば洗わずにクローク(臼)で叩き始めるので、そのエキスが残っていればアウトだったりする。まあ、当たるほどの量だと口にする前に臭いでわかるとは思うが。

 プラーラーは小魚を発酵させた調味料だ。タイの発酵食品は今でこそ量産などでしっかりとした技術で作られるが、以前は発酵と腐敗が紙一重で、完成するかしないかは運次第とまで言われた。だから、プラーラーなんか、かつては爆弾でしかなかった。

 強力なバージョンではプラーラーとサワガニを組み合わせたソムタム・プー・プラーラーも存在する。田舎などでは自家製のプラーラーもあって、新鮮なものは結構おいしい。しかし、バンコクの屋台で鮮度のいいプラーラーはそう見かけない。プーもそうだ。バンコクでソムタム・プー・プラーラーのおいしいものに、ボクは出会ったことがない。

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 近年はとにかく食中毒だとか、そういう事態はタイで見聞きする分には少なくなったと思う。20年以上前は生野菜も危ないなんて言われた。畑の土や水に赤痢菌が混じっていて、そこで作られたキャベツなどが全部汚染されており、それを食べて広域集団食中毒もあったらしい。

 今はそこまでの危険はないけれども、衛生観念はやはり生食を前提にして食材を扱う日本人とは全然違う。食品管理衛生法は屋台でさえ、場合によっては日本よりも厳しい項目があるくらい。しかし、実際に現場で法令通りに運用されているかどうかはまた別の話だ。以前よりは遵守されているとは思う。

 上記の画像はある海辺のバンガローで、新鮮なイカを出してくれたときの写真だ。イカは寄生虫が多いので、切り方などに注意を払わなければいけない。魚介類の生食に慣れていないタイ人が適当に切っただけの生ものは怖い。もてなすためにわざわざ用意してくれる気持ちはありがたかったが、ボクは一切れだけパフォーマンスで食べて、あとは手をつけなかった。

 結局、食べるか食べないかは自己判断だ。強制されて食べるわけではない。もし手足を縛られて無理やり口に入れられ、それが原因で食中毒になったら、たぶん相手の責任にすることはできるだろう。ただ、そのケースだと違う事件になると思うけれども。

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