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01:ブラック企業のブラックリストにでも載ったか?

バカ丁寧にお辞儀だけはした。面接を担当した人事部長とやらが沈滞した空気のままの会議室の扉を開き、迷い込んだ犬でも追い出すかのような手振りで俺を廊下へと誘導する。扉から廊下に出る際、視線を逸らしたまま感情の一切籠もらない声で「また御縁があったら」と呟かれたので、今日の面接もダメだったに違いない。

何しろ、最初から断り文句のような説明が続いた。俺の経歴や回答から、「内の会社には合わない」という言うがための材料を始終探し続けており、もし内に入社したら、という前提の質問は1つも出てこなかった。

断られる事には慣れてはいるものの、それでも自宅に届くA4用紙1枚のバカ丁寧だけど冷たい拒絶の文言を見る度に心が削られていく。「俺みたいな奴どうせ求められてないからな」って予防線を張った上で臨んではいるから、いちいち落ち込んだりはしないし、明朝体のフォントで丁寧に繕った拒絶の定型文を見る度に、「あ~、やっぱりな!」とスグ呟けるくらいには強くなっている。

でも、それでも20代の頃と違い、30代を過ぎてからは、断り文句が目に入る度に、まるで世の中から置いてけぼりを喰らうような感じがする。

今日、面接に臨んだ会社は「ブラックで有名な会社だから、営業職志望だったら誰でも受かるよ」という希望の持てる噂を聞いていただけに、こんな感じになるとは……。

あ~、やっぱりダメージを受けている。

面接先の会社が入るビルを出ると、海沿いの工業地帯を走るモノレールのようでモノレールでない、電車のようで電車でない、新交通システムと呼ばれている海横線の産業通り駅へと歩いて行った。

海横線は高架軌道の上を走る交通システムの為、駅も路線も地上から10メートルくらいの高さにある。新交通システムとやらが走る高架軌道の側面の壁も低く、辺り一帯の景色に加え海まで見通すことが出来て、この景色目当てにただ乗るだけのカップルもいるらしい。本当かどうか知らないけど。

海横線に乗ると、俺は海側の窓から遠くを眺めていた。

もう14社連続で不採用だ。

幾ら不景気とは言え、就職先が見つからずに困っている人でも嫌厭するような、ブラック寄りの受かりやすいはずの会社を狙ってこんなに落ちるのは異常だ。過去にやらかした事のせいでブラックリストにでも載っているのだろうか? それとも、潰しの利かない30代の就活はこんなものなのだろうか? 金融危機後に非正規労働者の待遇が問題になり、国を挙げて対策をしたのでは無かったのか?

まあいい。

それにしても海横線から見る海は何だか心地良い。運搬船に漁船に釣り人に対岸の工業地帯のクレーンに、工場夜景には落第しそうな白い建物をボヤーっと見ていたら、段々、今日の面接の失敗など、どうでも良くなってきた。

自宅最寄り駅のT駅で降り、99円ショップで惣菜2つにおにぎりを購入すると、幽霊が出るという噂のあるボロっちいにも程がある病院を通過する。橋の手前で曲がり川沿いを数十メートル歩いた先のコインパーキングの隣に、ボロっちいにも程がある病院がマシに見えるボロボロなアパートがある。

ココが俺の自宅だ。

なお、隣のコインパーキングにも、同じタイプのボロボロなアパートが建っていたが、住人の寝煙草で半焼した為、今の姿になった。(大家によるとコインパーキングにした方が上がりが良くなったそうだ) 

なお、ボロボロなアパートだったお陰で煙りがあっという間に他の部屋にも伝わり、皆スグに逃げ出す事が出来た為、怪我人すら出なかったのは幸いだった。

<続く>


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