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12.どうして、こんな理不尽な目に遭うのか。

高山にクビとクビの理由を報告すると、「お前らしいわ!」と言って大笑いしていた。その後、再就職活動をするものの、いつも通りスグには決まらず、段々、元の堕落生活へと戻っていった。

酒の誘惑には耐えたが、競馬の誘惑には負けそうになる。だが、サッカークジに没頭する事で、何とか耐えていた。サッカークジの場合、サッカーの試合を分析するという作業を挟む事が出来る為、同じ賭けであっても、射幸心を散らすというか覆い隠す事が出来る。

何しろサッカークジの場合、分析対象となるチーム数が全部で30チーム~40チームあり、1度の試合開催でメインの賭けだと13試合、計26チームの分析が必要になる。そして、俺はそもそも大学までサッカーをやっていた事もあって、サッカーの分析そのものが楽しい為、延々と没頭する事が出来る。競馬の場合はそうはいかない。レース数が多すぎるのだ。

だが、この時は不運に見舞われる。何と、サッカークジが当たってしまったのだ。それも600万円超という額だ。お陰で、就職活動に対するモチベーションがだだ下がりしてしまった。折角、再起を図るべく地道に頑張ろうと努力しているにも関わらず、競馬から気を逸らすべく没頭したサッカークジで1等が出る。

どうして、こんな理不尽な目に遭うのだろう。それも600万円超という微妙な額。どうせなら億当てさせてよ! 神様!

高山に報告するとやっぱり笑っていた。

「ハイエナコさんにも報告しろよ!」と言われたので、ハイエナコさんにも報告した。すると、「田島っち、今から内に来なさい!」と姉(ねえ)抜きした低いドス声。その声色で、叱られに行こうと覚悟した。

夕方17時頃、横浜N町にあるハイエナコさんのお店に行った。ハイエナコさんのお店は20時~21時くらいに営業を開始する。俺がお店に着いた時、ハイエナコさんは1人でその日に出す料理の下準備をしていた。タオルを首に巻きながら、鍋でおでんを煮込んでいる。

少し前まで青色だった髪の毛が、鮮やかな紅に変わっていて、ほんの1週間前に訪問した時と比べて、若干痩せてシュッとしていた。つなぎの服に、多分後から刺繍したと思われる、天使と呼ぶには平和島な賭博師過ぎるおっさんに羽が付いている。

「ちーっす」
「あ~、田島っち、ちょっと手伝って」
と言われ、里芋の皮むきを手伝う事になった。

既に下準備がされてるみたいで、皮を絞ると面白いように剥ける。ボール一杯の里芋の皮を剥きながら、平和島な天使を揺らしながら包丁でネギを切るハイエナコさんに報告。

「あの~、サッカークジで一等が当たるという不幸に見舞われまして……」

「高山さんに聞いたわよ。もう、悪戯な神様よね」
「はい」
「でもダメよ! それ定期預金に入れなさい!」
「あっ、なるほど」

それが良いと思った。その上で、定期預金の通帳を高山かハイエナコさんに預けて、途中で解約出来ないようにする。

「俺、そうしますわ。で、定期の通帳を高山かハイエナコさんに預けようと思います」
「そうしなさい」

平和島な天使を揺らしながら猛スピードでネギの小口切りを終えると、ハイエナコさんはデカい図体に似合わん料亭の女将みたいな丁寧な手付きで、切り干し大根を小さな器に分け始めた。

「田島っち、それラップして、トレーに載せて、冷蔵庫に入れておいて」
「はい、分かりました」

その後、「ギャンブルだけは止めなさい!」という説教をおかずに夕食をご馳走になると、最後に、伊勢山皇大神宮の「勝守」を頂いた。

開店時間が近づき、スタッフさんが出勤してくると、「田島っち、いい、神頼みでも何でもするのよ。ここが踏ん張りどころだからね」という姉(ねえ)入りした快活な声に励まされお店を後にした。


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