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テーマ:「消費されていくアイデア」

○「前置きになりますが、こちらは対談の形を取った、単なる日常思いついたことの覚え書きです」

●「ある作家の対談集を読んだ際に、『ああ、僕はト書(状況説明文)よりもダイアローグの方がスラスラ読む気になるな。ならきっと、書く場合も同様なのだろうな』と思いあたった次第です」

○「小説を読んでいる時にも、『状況説明なげぇ〜〜!早く会話を、鉤括弧を!』って耐えかねて次の会話文までページを送っちゃったりしてますからね」

●「限界まで潜ってた水棲哺乳類の息継ぎみたいですね」

○「比喩、ありがとうございます」

●「いちいちお礼とか要ります?一人で書いてるんですよね」

○「対談っぽさ、つまりリアリティの追求として書いてます」

●「そういうのも挟まってくると。では早速、テーマ『消費されていくアイデア』について。よろしくお願いします」

○「その前に、一つ脱線してもいいですか。冒頭で『メモ書きですよ』って断りを入れてるのを見て思い出したんですけど、Twitterのプロフィールとかで、大してフォロワーもいないのに、わざわざ『意味があったりなかったり、由無しごとを呟きます。生産性は求められても困ります』みたいな前置きをしてる人って、なんなんですかね?誰に断ってて、勝手に何を困ってるんでしょうか」

●「性格の悪い話題ですね。お酒が進みそうなので注文してもいいですか?」

○「下手すると私にもブーメランが刺さるんですけどね。このメモだって、あるていど読者がいることを想定して、読み物として成立させようとしてるから、前置きみたいなことをしたわけですし。完全にメモだと割り切るなら、そもそも公開する必要すらない。こういうのって、『不特定多数に読んでほしい、ただしつまらないと思われたくない』っていう、希望と予防線の表れなんでしょうね」

●「なるほど。じゃあ『下手すると』も何も、完全なブーメランですね」

○「ところで、今ブーメランって打鍵したときに予測変換で一番上に『ブーメランスネイク』って出ました」

●「どんどん横道に逸れますね。でも、ぜったい検索してねぇだろって言葉が予測変換に出てくること、増えてきてますよね」

○「ぜんぶ自分で書いてると、こうして横道に逸れた発言でも丁寧にレスポンスもらえるから良いですね」

名前を制作するという趣味

●「では、テーマの『消費されていくアイデア』について。不躾で申し訳ないんですが、アイデアが消費されるって、すごく当然のことを言ってますよね」

○「当然、というのは? 例えば売上やシェアを争っている競合企業どうしのアイデア勝負で、片方が打ち出した新商品のアイデアがもう一方に被っていたら、『アイデアを奪われた=消費された』という視点も生まれるでしょう。しかし、その恩恵を受ける大多数の消費者からすると、そのアイデアによって生活が便利になる。また、今はただの消費者でも、将来的に企画屋になるような成長株にとってはそのアイデアはヒントになる。ですから、むしろ『アイデアは蓄積されるもの』とすら言えるかもしれませんよ」

●「確かに、立場によって変わりますね。アイデアで飯を食う側の立場をとっていると、日々さまざまなアイデアが消費されていくように感じるかもしれませんが」

○「はい。つまり先ほど『消費されるアイデア』という構造を『当然のこと』と言ってしまってる時点で、あなたは『自分がアイデアを生み出すサイドの人間=アイデアマンだ』という自負のような、ねっとりした顕示欲を漏らしちゃってるわけです。きっしょいですね」

●「自分と自分で喋ってるのにこんなに言われるんですね」

○「対談におけるリアリティの追求です」

●「本当に対談読んだことあります?」

○「ただ、今日の議題としてはそのポジションで合っています。つまり、今回『消費されていくアイデア』という問題を憂いているのは、自分のアイデアを世に出す前に誰かが発表してしまう、という状況についての愚痴なんですよ」

●「憂いてたんですね。そして愚痴だったんですね。それで、例えば最近だとどんなアイデアが発表されてしまったのでしょうか?」

○「ええ。折口ツワ子です」

●「はい。ご説明を」

○「つまり、これは僕の趣味でもある、キャラクターの名前を制作するという作業なんですが」

●「名前の制作、というと?」

○「小説や漫画の登場人物って、個性的な名前が多いじゃないですか。中には名前の特徴が、そのまま本人のパーソナリティを表すようなキャラクターもいる」

●「ああ、ありますね。例えばー」

○「そう、例えば、『野比のび太』みたいなことです」

●「合ってはいるんだろうけど、あまり彼の名前を『のびのび生きている』的な言葉遊びで捉えたことはなかったですね」

○「老若男女が分かる国民的キャラの方が良いかと思い。普遍性にこだわりすぎて分かりにくくなってしまったかもしれません」

●「そうですね。もうちょっと分かりやすい例で」

○「アンパンマンですかね」

●「ちょっと分かりやすすぎるかな。パーソナリティの範疇超えちゃってるので。名が体を表し過ぎというか。あのキャラクターで『アンパンマン』以外の名前がつくことってあり得ないでしょ」

○「そうですかね?『顔がアンパンな男』以外にも、彼にはたくさんの要素がありそうですけど…例えば『白ジャケット緑ハンチング男』という名前になっていてもおかしくないわけで」

●「ダサすぎる衣装が話題になったDVD『アンパンマンとはじめよう!まねっこダンス』の話はやめてください。誰がわかるんですかそれ」

○「まぁそういう、『名は体を表す』を地で行ってるキャラクターを作りたいわけです。特に意味はない、頭の体操というか、ほんとただの趣味なんですけど」

●「なるほど。テーマを決めない限り、無限に作れそうって思っちゃったんですけど。語感の良さ、つまり『名前っぽさ』と両立させているわけですかね?」

○「そう、それがなかなか難しい。常にトランプを携帯してるキャラを作ろうとして、古家 不曲(ふるや ふずみ)というキャラを考えたことがあるのですが」

●「語感は悪くないですが、別に名前っぽさは無いですね。客観的に見て、漫画のキャラクターがせいぜいってラインですかね。もちろん趣味ですし、それで十分、及第点なんでしょうけど」

○「こちらは姓にあたる『古家』が『フル・ハウス』ってことでフルハウス、『不曲』も同じで『曲らない=ストレート』ってことでストレート。どちらもポーカーの役を表してるわけです」

●「なるほど。まぁわかります(自分なので)。よく考えると、古家というのは実際に存在する苗字ですし、リアリティもありますね。『不曲』の方は微妙ですが」

○「そちらは字面のリアリティを犠牲にして、キャラクターのバックグラウンドを補強しました。つまりですね、不曲くんの父親は、妻が不曲くんを妊娠したことをきっかけに夜の寂しさから仕事仲間と遅くまでポーカーに興ずるようになった。おまけにポーカー仲間を通じて知り合った女性と不貞まではたらき、妻の追求を前にしてあえなく白状。家庭仲は冷え切り、ついに離婚。養育費を受け取りながらも、女手ひとつで我が子を育てあげることへの心労たるや。母親は皮肉と訓戒を込めて、せめて元旦那のように性根の曲がった人間にはなってくれるなと『不曲』を命名したのです」

●「落語か?」

○「ジャムおじさんって…韻を踏みながら喋ったほうが良くないですか?」

●「彼のジャムは別にラップのJAMるではないです。JAMおじさんだと大昔にフリースタイルダンジョンでラスボス務めてた伝説のジジイみたいになってくるから。ノーモーションでいきなり脱線するのやめてください」

時代にあったメディアでアイデアを練りたい

○「まぁ、そんなこんなで『折口ツワ子』ってわけですよ」

●「説明した気になってます? できてませんよ」

○「勘のいい人ならもう察しがつくかと思うんですが、哲学キャラってことですね。『哲学』を分解して、折口ツワ子。キタコレ!と思ったんですが」

●「折口も不自然じゃないですし、ツワ子というのも実名でありそうな。調べてみると、映画監督で『朝烏ツワ子』という方が実際にいらっしゃいますね。それで、『折口ツワ子』は? 何かの作品で公式に使われちゃってたってことですかね?」

○「いやぁ…Twitterのプロフィール名にしてる人がいたんですよ」

●「あぁ〜〜、それは、悔しい。一般の方とはいえ、思いついたのが自分だけではなかったとハッキリ証明されたわけですね」

○「『そんくらい別に良いじゃん』って人もいるとは思うんですが、趣味だからこそ、その程度でも許せないわけです。完全なボツ案です。こうなるとむしろ、せめてなにか有名作品のキャラとでも被りたかったという(笑)。集合知とすら言えるネットに誰もがアクセスする時代なので、『今までにないアイデア』のハードルは凄まじく高くなってますよね」

●「ハードルはもちろん高くなってると思いますが、アイデアの表現方法そのものが複雑になってきていることも考えた方が良いかもしれませんね。今回のアイデアは、テキストだけで再現できてしまうために、思いついた時点でSNSのプロフィールにしたり、私小説のキャラとして登場させたり、世の中に発表する方法が非常に簡単じゃないですか。表現方法がシンプルでコストの低いアイデアは、氾濫しやすい」

○「そうですね。例えば今って、動画制作なんかのハードルも昔より低くなってますよね。画一化されたパッケージがあって、トランジションも充実してて、ソフトやアプリをインストールするだけで誰もが凝った動画を作れる。そうやってアウトプット可能なメディアがどんどん複雑なものになっていく」

●「文字よりは動画の方が、当然『複合的なアイデア』が求められる。キャラクターのアイデア、シナリオのアイデア、背景や撮影方法のアイデアなどを組み合わせた総合芸術ですから。ただし表現のコストが高いぶん、アイデアが消費されていくスピードは緩やかになるわけですね」

○「文字というコストの低いメディアで考えるから、簡単に再現されてしまう、か。そういえば漫画アプリのユーザーコメント欄で『〇〇のパクリじゃねーか』なんて発言が目立つようになって久しいですが…。そもそも時代に合わせたメディアを土台としてアイデアを練らないといけないってことですね」

●「しかし最初から『漫画で考える』『動画で考える』って、なかなか難しいですよ。例えばショートムービーを作ると考えたとき、まずはシナリオをプロットに起こして…って自然と『文字で考える』ことを基本にしてるわけですし」

○「『最初からそれで思考する』というのは、生まれてからその媒体でコミュニケーションをとることが自然だったネイティブの特権かもしれませんね。TikTokとかインスタのリールやストーリーとか、動画で保存し、動画で発信し、動画でコミュニケーションをとる世代が、『天才的なアイデア』を盛り込んだ動画を発表する…この先、どんなことになるんでしょうかね」

●「ところで、全然脱線しなくなりましたね」

○「あっ…。えーと、厚生年金を『好青年金』と変換すると、まるで爽やかイケメンにだけ課せられる税金のようで楽しい気分になりますね」

●「せめて文脈と関係のある脱線にしてほしいんですが」

○「こんなふうにゴチャッとしたアイデアでも表現できる柔軟性を持ってるから、やっぱり私は文章という媒体が好きって話ですね」

●「クソみたいなアイデアでも量産できちゃうというデメリットも発見されましたけどね」


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