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混乱時こそロジカルシンキングで流言蜚語に惑わされない

100年前の関東大震災発生後「朝鮮人が井戸に毒を入れた」という噂が広まり、自警団が結成されたり、実際に外国人を虐殺する事件がかなり発生した。

震災後、警察機能が失われ、新聞社もダメージを受けたため発行できず、何が正しい情報で何がデマなのかという判断がつかなかったことが要因の一つ。

寺田寅彦『天災と日本人』を読んでいたら、そんな混乱時にこそロジカルシンキングで惑わされないようにしようと書かれていた。

たとえば市中の井戸の一割に毒薬を投ずると仮定する。そうして、その井戸水を一人の人間が一度飲んだ時に、その人を殺すか、ひどい目に逢わせるに充分なだけの濃度にその毒薬を混ずるとする。そうした時にはたしてどれだけの分量の毒薬を要するだろうか。〈中略〉いわゆる科学的常識というものからくる漠然とした概念的の推算をしてみただけでも、それが如何に多大な分量を要するだろうかという想像ぐらいはつくだろうと思われる。〈中略〉そういう事は有りえない事ではないかもしれないが、少しおかしい事である。

寺田 寅彦; 山折 哲雄. 天災と日本人 寺田寅彦随筆選 (角川ソフィア文庫) (pp.26-27). 角川学芸出版. Kindle 版.

今回の能登半島地震でも同じ様な流言蜚語が飛び交った。私が見聞きしただけでも
1)中国人窃盗団がガラスを割って侵入し、主が避難して居ない家々から現金を盗んで回っている

2)瓦が落ちた家の前にブルーシートを置き、使ったら詐欺的な金額で売りつける

3)外国人と思われる男女4〜5人が自販機を破壊し現金や中の飲料を盗んだ

4)県外ナンバー〇〇〇〇のハイエースは窃盗団 ※1)の派生系

と様々なバリエーションのデマ、フェイクニュースが飛び交った。そして、引用した寺田寅彦氏のエッセイのように考えると、驚くほど現実ではありえないことだと容易に想像がつく。

上記4つをそれぞれ考えてみる。

1)そもそも中国人窃盗団という存在が怪しい。中国は世界第2位の経済大国。ITを使ったサイバーな窃盗ならあり得るかもしれないが、能登の過疎地域でリアル窃盗したってたかが知れている。

2)これは実際に富山県で発生しているらしいが、これを被災地全域でやるには割に合わなすぎるだろ。仮に複数グループの悪人がいたとして、10件分のブルーシートを準備し、手当り次第に置いたとしても、支払う家はほとんど無いと思われる。

3)自販機あらし窃盗団。避難所の高校に設置されている自販機を壊し、現金を盗んだとされている。まず、高校に設置されていることから売上金は冬休み前に回収されている(はず)。そして、自販機の日販平均は1日2千円程度と考えると、いかに割に合わない犯罪かがよくわかる。多くても1万円程度の売上金を苦労して破壊して山分けしても一人あたり2千円ほど。

4)SNSが発達した弊害で、写真を撮って拡散が容易になり、県外ナンバーを見たら悪人と思えが広まりやすくなってしまった。そんな目立つ車で犯罪しないでしょ。割に合わない。

と、混乱時の不安を煽る系情報の多いこと。冷静になって考えてみると、目立つ割に得るものが少なすぎてありえないよな、と思えるトンデモ情報の多いこと。

で、実際に起こった事件はこちら。みかん6個を盗んだらしい。

デマやフェイクニュースと比べると「なんてかわいいんだ」と思ってしまった。

とにかく混乱している時期こそ「それって本当?」「冷静に考えるとありえないな」と考える癖をつけておかないと、と思える出来事たち。

ただ、100年前と進歩していないところが絶望的でもある。

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