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「一人しかいないんだから」

夕食前、配膳の準備をしている時のこと。

厨房から配膳車が届くので、食器を一つ一つ取り出して、入居者ごとに、お盆に乗せていきます。食事形態や禁止食などが一人一人異なるので、間違いがないように並べないといけません。その間にも、例えば、トイレの希望があったり、転びやすい方が立ち上がって歩き出そうとすることがあれば、準備の手を止めて対応する場合もあります。特に焦る時間帯です。

「ご飯まだなの?」

そうした中、ある方の声が聞こえました。更に気が急くのを感じたその時、90歳代のJさんが、「一人しかいないんだから」と、なだめるように言われました。

Jさんは、毎日、何度も繰り返し、「今日帰れますか?」と職員に話しかけてこられます。時には、「ここに用事はないんだから帰らせてよ!」と激高されることもあります。

ユニット型特養は、ひとつのユニットで生活する複数の入居者に対し、基本的に介護員が一名しか配置されません。世間一般はともかく、業界内や、同じ施設の他職種ですら、その過酷さへの理解がないと常々感じていた私は、Jさんの言葉に驚きました。同時に、現場の実態について、Jさんの方がよっぽど分かっていると複雑な気持ちになりました。

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