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1冊のイラスト技法書ができるまで【メイキング】

フリーランスでデザインや映像制作をしている高原さと申します。

このたび本を出すことになりました。
タイトルは「1本の線からはじめる 絵の描き方教室」です。
発売は本日2024/3/27となっております。

絵の描き方や学び方を教えてくれる本であり、いわゆる「イラスト技法書」というジャンルの本です。

人生で本を出すのは実はこれで2冊目です。1冊目に出した本「基礎から実践まで全網羅 背景の描き方」が奇跡的に売れたことにより2冊目を書くことができました。

1冊目の執筆がめちゃくちゃ大変だったのに、懲りずにまた本を書いてしまいました…。

内容の良し悪しについては読んでいただいた方に判断いただくとして、この記事ではこの本ができるまでの過程に焦点を当てて、途中で悩んだことや制作秘話を紹介したいと思います。

新刊の具体的な内容はこちらの動画で紹介しています。


技法書作りの最大の壁とは!?

書籍の執筆、特に技法書や専門書を作る上での最大の壁は
とにかく書くのが面倒くさいこと!!

これは1作目を書いたときに実感したことで、執筆するまではわからなかったことです。同じことはプログラム関連の書籍を書いてるエンジニアの方も言ってました。

曰く「あんな面倒くさいこと誰もやりたくない」だそうです(笑)

イラスト技法書の場合だと載っている絵がたくさんあるので、まず単純にたくさん絵を描くのが大変です。

解説の文章と絵を対応させないといけないので普通にきれいな1枚の絵を描くときとは別の手間があります。

また、こうした技法書や専門書は書き下ろしになることが多いので、完成して出版して初めてお金が入ります。

数か月、あるいは数年間、モチベーションを維持して書下ろし原稿を完成させることができるか、これが個人的に思う技法書執筆の最大の壁だと思います。

この最大の壁に気が付かず、1冊目では無策で執筆に臨んでしまったため、執筆が意図せずに長期化して死にそうになりました。

そこで2冊目となる今作では企画・構成の段階から物量や内容をしっかり把握し、最大のクオリティでなるべく多くの物量を出せるように考えました。(にもかかわらず完成までに2年以上かかりましたが、、、)

もしこれからイラスト技法書を書く方がいれば、「面倒くさいくらいがなんだ!」と思わずに、全体の物量の見積もりと、執筆中のメンタルケア、執筆期間中の収入の確保など、企画段階で執筆体制をしっかり整えることをおすすめします。

今回は編集者さんに事前にこの点を相談をしておき、月に1回進捗の相談会を開いてもらいメンタル面も含め全面的にサポートしてくださいました。

企画会議

ここからは具体的に企画から完成までの過程を振り返りたいと思います。

まずは企画!どんな本にしようか編集者さんと話し合いました。
初回の打ち合わせで、「初心者向けの線画の本」にしたいという点で話が一致しました。

前作が「背景」がテーマで、しかもデジタルでの厚塗りが主な技法という少し難しめの内容だったので、今回はもう少し初心者向けの本にしたいというのが出発点でした。

自分としては、本を書く機会は人生でそう多くはないと思っていたので、1冊で長く学べる体系的な内容にしたいという思いがありましたので、最初の案で行くことになりました。

企画の概要が決まったら目次を箇条書きで出してみて、本の全体の構成を考えます。
長すぎるので初期案を一部だけ抜粋しました。

1章 とにかく描いてみる
・ペンの持ち方
・描く時の姿勢
・線の引き方
・直線を描く
・曲線を描く
・図形を描く(まる、三角、四角)
・図形を組み合わせて家を描く
・図形を組み合わせて木を描く
・図形を組み合わせて猫を描く
・図形を組み合わせて人を描く
(コラム)QAとかチップスとか考え方とか絵の実用例と???

2章 パーツの形を覚える
・パーツ参考(配布資料、レイヤー移動で)
・身の回りのモノをパーツに分ける
・木のパーツを分解する、覚える
・家のパーツを分解する、覚える(住宅とビル)
・人のパーツを分解する、覚える
・服のパーツを分解する、覚える
・パーツを覚えるのは漢字練習と同じ
(コラム)

当初は今の構成よりももっと簡単な内容で、丸や三角などの図形の組み合わせでパーツのパターンを覚えて、それを使って絵を描くという技法を紹介するつもりでした。

この方法は確かに簡単に描けるのですが、自分が実際に描いてる描き方とあまりに違いすぎて、なんだか読者に情報を隠しているような気持がしてきました。
結局少し難しくなることを覚悟して自分がやっている描き方で行くことにしました。

図形を組み合わせて描く描き方はメインではなくなったものの、簡単な絵の描き方として完成稿にも残っています。



1冊目を出した後はあまりの大変さに、「もう本は一生出さない!」と正直思っていたのですが、2年くらい経つと性懲りもなく、また書いてもいいかなという気持ちになりました。

ちょうどその頃、2冊目の本を作ろうという話を今の担当の編集さんにいただき、まずはざっくり相談しましょうということで、今の企画ができました。

喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことですね。

ちなみに1冊目の執筆に至った経緯についてはブログのほうにまとめてあります。


執筆前はやる気満々

企画と構成ができたところで、テスト原稿を作りました。

テスト原稿は目次の中から数ページ選んで原稿にして、原稿の雰囲気や物量、実際に描けるかどうかなど、色々試してみようというものです。

これは今作の編集者様から提案いただいたやり方で、これをやったおかげでかなり本書の雰囲気を掴めたように思いました。

これが実際に書いたテスト原稿です。完成稿とは絵がかなり違いますね。

ただいくつか問題がありました。まず原稿が細かすぎる…!

恐ろしいことに、散々執筆の面倒くささを想定することの重要さを説いておきながら、この時の自分は実際の執筆の物量を1/2くらいに少なく見積もっていたように思います。

前作は1/5くらいで見積もっていたので、マシにはなっているということでしょうか…
なんとか無事に執筆は終えられましたが…

なぜこうなってしまうかというとにかく実際の執筆に入るまでは「なるべくいい本にしたい!」という思いから物量マシマシにしてしまうのです!!

執筆前はやる気満々、執筆中は五里霧中、執筆後は意識朦朧といった感じです。

目次とテスト原稿ができたところで、出版社のほうで企画が正式に通過しました。企画が通ったらもう逃げられない!いよいよ原稿を書かなければなりません。

絵柄ってなんだっけ

テスト原稿の問題点として指摘されたものとして、絵柄の問題がありました。
「ちょっと絵の癖が強いかも?」という感じの意見を編集者さんからもらいました。
今回の本は初心者向けで多くの人が手に取れる内容を目指していました。なので絵柄もあまり癖がなく、万人受けしそうなものがいいという話になり、本書のための絵柄を改めて考えることになりました。

いくつかスケッチを描いてみて、編集者さんと絵柄の方向性をすり合わせました。


方向性としては2枚目の絵のほうがいいということになり、最終的には完成版のようなアニメっぽい少ない線で描かれた絵に落ち着きました。

こちらが完成版の絵柄です。
最終的にはアニメっぽい線画が一番見本としても綺麗で学習しやすいだろうということでこうなりました。

普段アニメの仕事でキャラクターの絵を描くこともありますが、線画の絵のタッチや絵柄についてあまり深くは考えて決め込んだことはなかったので、個人的にも勉強になりました。

少し脱線しますが、こうしたキャラクターもののイラストの場合、絵柄という言葉は、キャラクターの「顔」のことを指しているか、画面のルック(見栄え)のことを指しているかのどちらかの場合がほとんどのようです。

結局のところ顔と見栄えが勝負というのは、ちょっと嫌な感じがしますが、確かに一番最初にそこが目立つのは間違いないので、そのあたり分析して絵柄を考えました。

これが自分の絵柄!というよりは、読者の目線で描きやすい、見やすい、描きたいと思う絵柄に落とし込んだ感じです。



まずは文章を書け!(?)

執筆作業はまず文章から始めました。
文章を書くほうが絵を描くよりも早いですし、すでに目次とテスト原稿で全体像は掴んでいます。

目次の大見出し一つに対して、小見出しを2~4個つけていきます。
見開き1枚に一つの見出しと考えたときに、ちょうどページを4ブロックに分割するイメージです。

これを大まかなレイアウトの基準として、小見出しを考え、それぞれの文章を先に書いていきます。

最初の文章はグーグルドキュメントに書いていきました。以下は初めに書いた原稿の抜粋です。

1-5C
図形を組み合わせてキャラクターを描いてみよう
<図形を重ねて輪郭を作る>
先ほどは輪郭は一つの図形のみでしたが、次は複数の図形を組み合わせて輪郭を組み合わせてみましょう。描き方は簡単で図形を重ねて形を作るだけです。ここでは簡単なキャラクターを描いてみます。顔は丸の周りに耳と髪のパーツを付けるイメージです。体は雪だるまのように2つの図形をつなげる意識で描きましょう。コツはパーツ同士の大きさと重なりです。

<雪だるまに手足を生やす>
雪だるまの顔と体の形を置き換えて、さらに図形を足すことで人間の形にしてみましょう。頭を大きく、足を長くするのがコツです。一つ一つの図形の形を点と線の意識で丁寧に描くとキレイな絵になります。

細かいところは後から直すつもりで、とにかく原稿の全体像と各項目で伝えたい内容を一旦文章にしてしまいます。

これで本の全体像をある程度短い時間で掴むことができます。初めの文章だけの原稿は1か月程度で書き終わりました。

弱点としては図の解説を後から入れるので、文章やレイアウトの直しがたくさん発生することです。


ラフ原稿が読めない

文章の次にラフで図を描きながら文章を配置していきます。
ここからはPhotoshopで作業をしました。


あらかじめ書いておいた文章のブロックを用紙に配置しながら図を描いていきます。
この段階で全体のボリュームやどんな図解が入るかはおおよそ掴むことができます。

なんとなくできた感じがするこのラフ原稿ですが、問題点がありました。
何かいけそうな気がするが、よく見ると全然わからない、という問題です。


例えばこのラフ原稿を見てください。ここから図が完成した状態をイメージできるのはこれを書いた自分だけでしょう。

完成原稿はこちらです。

御覧の通り、図解の清書ができた後に文章や構成含めたくさん修正をすることになりました。
編集者さんには多大なご迷惑とお手間をおかけしてしまいました…!申し訳ございません!

とはいえ、とにかくこの段階で全体の構成、文章、図の内容はざっくりですが決まりました。あとはひたすら図解を清書していくだけです。

描いても描いても終わらない!

ラフ原稿が終わったら、前から順番にひたすら図を清書していくわけですが、全体の物量を把握しているとはいえ、それを予定通り進められるかはまた別の問題!

描いても描いても全く終わりません!

ラフ原稿が上がったのが、2023年の2月頃で、図解の清書の作業は3月から本格的に開始しました。
当初6月末までの3か月間で上げることを目標にしていましたが、実際に6月までに上がった絵は半分程度でした。

時間がかかってしまった原因は、今作で初めて取り入れた漫画の解説になります。読むだけでも楽しく、わかりやすい本にしたい!という思いで入れましたが、慣れない漫画原稿の清書作業は特に難航しました。

フリーランスの仕事を平行していたこともありますが、最終的にすべての図の清書が上がったのは2023年の9月末頃でした。

予定より倍以上の時間がかかってしまい、刊行スケジュールを大幅に遅らせてしまいました。ここでも編集者さんには多大なご迷惑をおかけしてしまいました!申し訳ありません…!(2回目)

終わったのに終わらない修正作業

原稿が上がってもまだまだ終わりではありません。
大変お待たせした編集者さんにデータを渡したら、文章と図の編集をしてもらいつつ、修正の作業をしていきます。

編集者さんから受けた文章や図でわからない部分への指摘に回答しながら、図の直しやクオリティのアップの作業は自分のほうで進めていきます。

ここでラフ原稿段階であいまいにしていた内容の不明点が明らかになり、編集者さんを悩ませてしまったようです。

図の清書段階ではスピード重視で描き飛ばしてしまった部分や、原稿の最初のほうと最後のほうで絵が変わってしまった部分などを時間の許す限り直していきます。

結局2023年の年末は、原稿の修正作業に費やすことになりました。
ちなみに2022年の年末も前述のラフ原稿を書いていたら年が明けました。

今年の年末こそ休みたい…!

難航する表紙イラストの制作

図や文章修正作業と並行して表紙のカバーイラストの作業も進めました。
これが思いのほか難航します。

今回は1枚の完成した絵ではなく、キャラクターのイラスト1枚をメインにしつつ、背景には本文の図解をちりばめたような構成にしようという話になりました。

ひとまず大ラフでいくつかアイデアを出してみます。

タイトルや本文の絵を乗せるためにはある程度の余白がある絵が望ましいと考えました。
また顔が大きく映るような構図は避けることしました。
本作は自分の作家性を押し出したような本ではないので、キャラクターの顔が大きく映っていると手に取る人を選ぶ印象になるかと思ったからです。

大ラフの中から、良さそうな案を2つ選んでラフを描いてみました。
それがこちらの2枚です。

どちらも悪くなかったのですが、自分も編集者さんも決め手に欠ける印象だったので、もう2~3案出してみようということになりました。

想像だけではアイデアが出ないので、自分で鏡でポーズをとったり、デッサン人形や3D人形を動かしたりしていいポーズがないか探します。

立ちポーズや、奥行きのあるポーズも見たいという話がでたので、手前に鉛筆を突き出した技法書らしいカバーと、立った状態のポーズを2つ描きました。


しかし案を増やしたことで、さらに迷ってしまうことになってしまいました…!アイデア出しは難しい!

最終的にはタイトルのレイアウトや画面の印象、背景とのバランスなど総合的に判断し、落ちているポーズの絵に決まりました。

結果的に一番最初に出した案に落ち着くやつです。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございます。

人生の中で本を出す機会はこれで最後かもしれないので、2年にわたる執筆作業の内容を、宣伝も兼ねて振り返ってみました。

だいぶニッチな内容になったかと思います。

自分が執筆で得た経験や多少のノウハウを、本自体の内容とは別に紹介できたのはよかったと思います。

個人的にこうしたモノづくりの裏側のメイキング話が好きなので、これからもイラスト技法書なのか何なのかわかりませんが、ノウハウの発信は細々と続けていきたいと思います。

最後に改めて、新刊のAmazonのリンクだけ貼らせてください…!

この記事がこれからイラスト技法や技術書を書く方の参考になれば幸いです。




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