ユネスコ「世界の記憶」「南京大虐殺」「日本軍『慰安婦』の声」に対する意見書②(2016,9)

 私は戦争プロパガンダを中心に、米英加などの国立公文書館所蔵文書を長年にわたって研究してきた。昨年6月、中国がユネスコ世界記憶遺産に登録申請した「南京大虐殺」といわゆる「従軍慰安婦」に関する資料について全容は不明なるも、ユネスコHP上等で公開されている利用可能な情報を踏まえた問題点について意見を表明したい。

基本的問題点

 まず基本的な問題点について指摘したい。第一に、中国が「申請されている記録遺産の原本は中央档案館等それぞれの公文書館に保管されている」などと述べ、「著作権は同公文書館にある」と主張している。しかし、ユネスコHP上で公開されている上海の「楊家宅慰安所」の写真は、福岡市在住の産婦人科医、天児都さんの父・麻生徹男氏が同慰安所で軍医として勤務していた折に撮影したものであり、写真フィルムは天児さんが所有している。
 ユネスコは「世界の記憶遺産保護のための一般指針」の「2.5.4」で、「『法の支配』を尊重すること。・・・・著作権法、人格権・・・は、一貫性と透明性をもって、首尾一貫して遵守・維持される」と明記しており、所有者が許可していない写真を無断で申請し、著作権を持っていると虚偽申請していることは、同指針に違反する。
 また、ユネスコ記憶遺産のガイドラインで、登録の選考基準として、「資料のアイデンティティ及び出所は確かに立証されているか?」「複製品や模造品、偽装品、偽文書、でっち上げが、最善の注意を払っても、本物と誤解される可能性がある」などと規定しており、この規定に反する。 
 第二に、同指針の「4.4.3」にはIACは「記憶遺産へのアクセスを可能とすることを要求する」と規定されているにもかかわらず、中国は申請史料の一部しか公開していない。
 歴史的事実やその評価については諸説があり、客観的検証が必要不可欠である。資料公開並びに客観的検証を拒否する中国の一方的な主張にもとづいて記憶遺産として登録されるようなことになれば、ユネスコの国際的な信頼と権威を著しく損ねることになる。
 第三に、中国が登録申請した資料の中には、資料のごく一部のみ抜き出したものがあり、資料全体の脈絡の中で位置づけ、評価できないために、資料の内容の真正性について判断することができない。
 よって、この申請は慎重に審査されるべきである。
 次に、「南京大虐殺」といわゆる「従軍慰安婦」の主な申請史料の具体的問題点について指摘したい。

具体的問題点

 まず、第一に「南京大虐殺」の関連資料として、16枚の写真は、「いつ」「どこで」「誰が」撮影したかが一切不明である。 
 特に東中野修道他『南京事件「証拠写真」を検証する』(草思社)は、すべての証拠写真について検証した結果、「日本兵が中国人の首を軍刀で切り落とす」とされる写真の「撮影時期は5月末か6月初め」との結論に達し、「南京大虐殺」との関係性が疑われることを学術的に立証した。
 中国が申請した写真の日本兵は軽装であり、「南京大虐殺」があったとされる12月から2月の南京の平均気温は3~5度で、証拠写真としては全く信憑性に乏しいといわざるをえない。 
 第二に、日本軍の虐殺を米国牧師のジョン・マギーが撮影したとされる「マギー・フィルム」には、日本軍が虐殺している影像は全くない。
 第三に、程瑞芳(南京市国際安全区で働いていた中国人女性)の日記を中国は登録申請しているが、全て伝聞情報に依拠した記述ばかりである。
 第四に、虐殺を証言したとされる日本兵の供述書は、関係者の日記などから信憑性が乏しいものであり、中国の日本兵捕虜洗脳教育によってもたらされた政治宣伝にすぎない。
 第五に、中国共産党による南京軍事法廷で第六師団長、谷寿夫中将が30万人虐殺の首謀者として死刑になったが、第六師団は南京城内に5百メートル入ったところで移動を命じられ、虐殺は物理的に不可能であった。
 南京軍事法廷は弁護側に反対尋問の機会を与えず、証人喚問の要請を却下した。証人喚問で証言できなかった下野参謀長以下、約百名の日本兵が「大虐殺」の存在を否定する本を出版している。

●「性奴隷」「強制連行」申請資料の問題点
 
 次に、いわゆる「従軍慰安婦」が「強制連行」された「性奴隷」である証拠として登録申請された資料の問題点について指摘したい。
 第一に、憲兵の「日本軍犯罪月報」(1943年)には、日本軍将兵が「慰安所に於いて慰安婦に暴行」とあるが、その説明の下に「非違通報」と書かれており、その将兵が取り締まられていたことを示している。すなわち、この資料は慰安婦が法的に保護され、「性奴隷」ではなかったことを立証している。
 第二に、「郵政検閲月報」にある手紙について、中国は日本軍が女性を性奴隷にした犯罪を告白していると説明しているが、恋人を追って行く女性も限りなくあると書かれており、慰安婦には移動の自由があり、「性奴隷」ではなかったことを示している。
 第三に、中国が「黒竜江省の慰安所」と説明している写真は、「いつ」「どこで」「誰が」撮影したかが不明であり、舞台や多数の椅子が完備された慰安所があったとは思えない。
 第四に、中国が「慰安婦を輸送した船」と説明している写真も「いつ」「どこで」「誰が」撮影したかが一切不明であり、戦地の日本兵を「慰問」する娯楽目的のための輸送船と推測される。 
 いずれにしても出所不明の写真を申請することは、前述したユネスコ記憶遺産ガイドラインの、「資料のアイデンティティ及び出所は確かに立証されているか?」という選考基準を満たしておらず、紛争等から記憶遺産を保護しようという本来の記憶遺産事業の趣旨が損なわれ、ユネスコが政治的に利用される懸念があるため、この申請は慎重に審査されるべきである。

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