ウェルビーイングをめぐるOECDと日本の学習指導要領の共通点

●道徳教育学会大会テーマ「ウェルビーイングと道徳教育」設定の趣旨  
 
6月29日~30日に金沢市にある北陸大学で開催される日本道徳教育学会の大会テーマ「ウェルビーイングと道徳教育」設定の趣旨は以下の通りである。

<VUCAと呼ばれる変化の激しい時代にあって、学校は中央教育審議会の答申を受け、「個別最適な学びと協働的な学び」の実現に向け、変革が進められています。道徳教育に関して見ると、授業研究を中心に個別最適な学びと協働的な学びの一体的な指導の研究が盛んに行われています。1997年からOECDはDeSeCoプロジェクトを始め、検討する過程でウェルビーイングをOECD Education 2030プロジェクトの目標としてきました。児童生徒は、コンピテンシーを身に付けて、ラーニング・コンパスを用いて歩んでいきます。その目標地点にはウェルビーイングがあるとしています。それでは、日本の道徳教育はウェルビーイングの実現に向けて何ができるのでしょうか。個人のウェルビーイングと道徳教育の関係性をどのようにとらえたらよいのでしょうか。今回の研究大会では、ウェルビーイングと道徳教育とのつながりに焦点を当て、研究者や学校現場で先進的に実践している先生方を招き、会員同士の活発な交流をもとに探っていきたいと思います。>

●OECDと日本の学習指導要領との共通点

 DeSeCo(Definitions and Selections of Competencies)とは、コンピテンシーの定義と選択、という意味で、コンピテンシーとは、「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因としてかかわっている個人の根源的特性」とされている。
 具体的には、動因(ある個人が行動を起こす際に常に顧慮し、願望する様々な要因)、自己イメージ(個人の態度、価値観、自我像)、知識(特定の内容領域について個人が保存する情報)、スキル(身体的・心理的タスクを遂行する能力)、から構成される複合的なものとして位置づけられている(Spencer &Spencer.1993)。
 白井俊『OECD Education 2030プロジェクトが描く教育の未来』(ミネルヴァ書房)によれば、OECD Education 2030プロジェクトにおいては、コンピテンシーの構成要素の領域として、知識、スキル、態度及び価値観の3つが挙げられている。一方、日本の学習指導要領においては、資質・能力の3本柱として、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」が挙げられている。両者の整理は完全に合致するものではないが、大きく重なり合う部分がある。

●テロの頻発が「態度」「価値観」の重要性に気づかせた

 同プロジェクトが始まっていた2015年の段階では、日本の学習指導要領改訂の作業の方が先行しており、既に3本柱についての骨格が概ね固まっていた。伝統的に「知・徳・体」を教育の基本に据えてきた日本では、「学びに向かう力、人間性等」が3本柱の一つとして位置づけられようとしていた。
 一方、OECDにおける議論においては、当初、一部の国からは、「態度」や「価値観」といた事柄は、本来、学校教育で扱うべきことではなく、家庭や個人の責任に委ねるべき事柄であるであるとして、コンピテンシーの枠組みに入れることについては否定的な意見も出されていた。
 しかし、テロが頻発し、どれほど高いレベルの知識やスキルを身に付けても、人権を侵害したり、平和や民主主義に反する形で行使されることは、教育が本来目指すべき姿ではないということが強く意識されるようになった結果、知識、スキルに加えて態度及び価値観の3本柱という結論が支持されることになったのである。

●OECDのウェルビーイングの捉え方

 OECDが行ってきたウェルビーイングに関する研究成果を踏まえて、2030年におけるウェルビーイングを達成するためのコンピテンシーの目標を設定し、ウェルビーイングはコンピテンシーを身に付けていく先にある目標として位置づけられた。
 OECDのミッションがGDPなどの単純な「経済的成長」から「包括的成長」すなわち、究極的に人々が心身ともに幸せな「ウェルビイングの向上」へと移行しており、OECDが開発した「より良い生活のための指標」の個人レベルの11の指標として、「健康状態、ワークライフバランス、教育とスキル、社会とのつながり、市民参加とガバナンス、環境の質、個人の安全、主観的幸福、所得と財産、仕事と報酬、住居」が示されている。
 これらの個人レベルでのウェルビーイングが、将来のウェルビーイングのための資本(これからの資本を維持することで、持続的なウェルビーイングが実現される)経済資本、人的資本、社会資本、自然資本として、社会レベルでのウェルビーイングに貢献するとともに、そのことがまた個々人に還元されるという循環関係にあるとしている。
 OECD Education2030プロジェクトには、国連の組織としてはユネスコがパートナー機関として参画しており、国連のSDGsとOECDののウェルビーイング指標を対照して整理すると次の通りである。

●OECDのウェルビーイング指標と国連SDGsの関連性

  


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