世界が驚く”Spirit of Japan"とは何か一文明論からの日本文化の創造的再発見

 ●「開発」と「進化」の違い

  効率性・利便性・均一性を重視する機械論的世界観に立脚して一律的な「開発(development)」を目指してきた西欧型の「自立型社会」から、複雑系の自律的秩序形成機能を活かす日本型の「自律型社会」への転換が求められている。神道の中で受け継がれてきた「産霊(むすひ・むすび)」が自律的秩序形成機能に他ならない。産霊は自然界が秩序を産む霊妙な働きを意味している。ノーベル化学賞を受賞したプリゴジンが「散逸構造論」において指摘した「自律的秩序形成機能」を活かそうとする伝統を2千年以上前から大切にしてきた日本文化の伝統は、人と自然との関係を大切にする日本人の感性によって育まれたものである(スマッツ著・高橋共訳『ホーリズムと進化』玉川大学出版部、の私のあとがき参照)。
 この視点からSDGsの「開発(development)」の意味を根本的に問い直す必要がある。中村桂子氏によれば、「進化(evolution)」は多様な内発的展開を意味するが、「開発」は一律的になっている点に問題がある。生きものの発生(development)という言葉が示す世界観そのものを見直す必要がある。機械論的世界観に基づく「進歩」は利便性・効率性・均一性を重視するが、その限界と「継続性」の重要性に気づいたからSDGsが提唱されるに至った。
「持続可能な(sustainable)」という言葉は継続性を重視するが、その後に「開発(development)」という一律的な言葉を続けて「目標(goal)」にした点を見直す必要がある。

●「グローバル」「ポスト・コロナ」「脱酸素」の世界観を見直せ

 中村桂子氏によれば、「グローバル」という言葉も本来は地球の各地域の多様な価値観を尊重するものであるが、今日では一律的な特定の価値観を意味するようになってしまった。「ポスト・コロナ」という言葉の世界観も、コロナと戦って勝ち、コロナと関係のない社会をイメージしているが、コロナと共存する中で賢く生きる生き方や社会を目指す必要があるのではないか。「脱酸素」ということが示す世界観にも同様の問題点がある。炭素化合物は生き物の根幹であり、炭素を上手に循環させる社会を目指す必要がある。
 21世紀の現代科学が辿りついた複雑系の自律的秩序形成機能を日本の伝統文化は2千年以上前から尊重し、全体との調和の中で「和を成して」多様性を活かし、違いに学び、違いを活かし合い、補い合う「共活」、そして自他の利害の単なる調整を超えて自他がつながり合い、支え合って、相互補完性を重視した新しい秩序を共につくっていく「共創」社会を目指してきたのである。こうした文明論的視点から日本文化を創造的に再発見し、SDGsを日本発の「常若・志道和幸」の視点から捉え直す必要がある。

世界が驚く「ジャパン・スピリット」とは何か?
 
 世界が驚く“Spirit of Japan”とは一体何か。かつてウォーギルト・インフォメーションプログラム(WGIP)を陣頭指揮したブラッドフォード・スミスは、神道・皇道・武士道を三本柱とする「日本精神」の解体を目指したが、今日では「世界が驚く日本精神」に注目が集まっている。
 日本人独特の自然観は、神道的なアニミズムや無常観を生み、禅の思想にも繋がっている。対立する概念や矛盾を受け入れながら、自らを中立的な位置に置き、あるがままの状態の中に美しさや意味を見出そうとする「『間』の感覚」や、人と人、人と自然の間を重視する「『間』の文化」を生み出した。
 日本人にとっての自然とは、「最も理に適った、調和のとれた状態」で、目指すべき調和のとれた状態を日本人は「和」と呼んだ。聖徳太子が「和を以て貴しとなす」と説いた17条憲法の第1条には「和」を目指すことが全ての物事の真理・理法に通じるという意味が込められている。
 自然から「間」を見出した日本人は、「和」を成すことを求めて、心(内なる自然)と体、そして体と環境(外なる自然)を一つにしようと努め、精神を磨き、身体感覚を整え、礼儀作法を生み出し、こうした「和」を目指す日本人の生活観の中から「道」を求める思想が生まれた。
 二律背反する欲求の間のニュートラルな状態に自らを置く感性が「間」であり、「道」とは、対立する感性を繋ぎとめ、心と体を整える価値観の体系といえる。
 「道」とは、もともと道教、儒教などの中国思想に基づく言葉であるが、日本人は、心と体を整え、調和された状態へと導くための価値観や行動様式を「道」として体系化してきた。

大谷翔平を育てた「躾の三原則」

 大谷翔平選手が世界の注目を集めている教育的背景には、挨拶・返事・整理整頓という「躾の三原則」や型を守り,型を破って、独自の手法へと磨き上げる「守破離」の伝統精神がある。
 「型」が磨かれると「技」となり、「技」を体系化したものが「道」となり、心と体を調和した状態(「和」)へと整えるための価値観の体系が「道」であり、日本人に最も特有の感性こそが「道」である。
 日本人独特の自然観、同化感覚を磨き、調和を目指す感性が「間・道・和」という独特の価値観を生み出し、日本人のライフスタイル、それを支えるものづくり文化へとつながっている。
 日本の伝統文化と美しい日本の心を次世代の教育を展望する視点で捉え直し、子供たちの不安やストレスを乗り越えるウェルビーイング、志教育、幸福学と関連付けて実践化することが時代の要請である。

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