分断・対立を乗り越え、大きな心の器を持つために

●人は森であり、森を見て、土を見る
 
 桐村理紗氏によれば、表面的には複雑多岐で分断された世界も、実際にはすべてが相互に作用するネットワークであり、裏には共通した土台がある。多様な生物のすべてが、「生命の綱」としてネットワークを形成し、共通土台としての「土」を共有している。
 物理的に分断された人と人も、インターネットにより世界中が接続しているし、距離や時間に関係なく、心はつながっている。誰が分断を作り出したのかと言えば、人の意識に他ならない。
 この世界はプラスとマイナスのように相対する2つの要素が結ばれてできている。しかし、その二つの要素は、どちらが優れていて、どちらが劣っているというものではない。どちらもが必要で、どちらにも偏りすぎず、環境の変化に応じて柔軟対応し、バランスを取っている状態がホメオスタシス(生体恒常性)が保たれた健康的な状態と言える。
 私たちが、身体の外から受ける環境や内部の変化に関わらず、身体の状態(体温・血糖・免疫)を一定に保つことをホメオスタシスと言う。ホメオスタシスを重視する思風庵哲学研究所の芳村思風所長は「発生学的解釈学」という方法を通して、「感性の世界が持つ『構造』を理性が『原理』として自覚化し、それを理性の判断基準と考えることによって、感性を原理とした世界観や人生観が成立する」と説いている。
 音楽の脳科学的基盤の研究を世界的に牽引しているザトーレ(Zatorre,R,J)などは、PET(ポジトロン断層法)などの脳機能画像を用いて、音楽を聴いてゾクゾクと鳥肌が立つような快感を体験する際の脳領域を解明した。また、画家のように絵を描くことに熟練した人とそうでない人とで、脳がどのように違うかを調査した結果、プロの画家においてのみ右半球の前頭葉が強く活動していることが判明した。
 さらに、専門家に新しいデザインを作り出す時の脳活動をfMRIで調べたところ、右半球の前頭葉にある下前頭回の活動が高まり、一方の左半球の同じ領域の活動は抑制されていることがわかった。
 感性処理の特色を知的処理と対比的に考察し、感性に関与する要因は、多量的でしかも情報量が多く、複雑な相互作用により、要素には還元できない創発特性を持っていることが明らかになった。
 日本政府は第5期科学技術基本計画において、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会(Society 5,0)」を未来社会のの姿とし、サイバー空間(仮想空間)と現実空間を高度に融合させる取り組みを推進し、狩猟・農耕・工業・情報社会に続く新たな社会を目指すことを政府目標として掲げた。Society 5,0が目指す社会は、すべての人とモノがつながることができる様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな革新を生み出すものとされている。

●道徳的感情が共感性・道徳的判断力に与える影響

 人工知能(AI)の出現によって必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車など人々の暮らしに直結する技術の進展により、少子高齢化や過疎化などで起きている様々な問題が克服され、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人ひとりが快適で活躍できる社会の創出につなげることができると期待されている。
 こうした人間の内面と情報やモノとのつながりを理解するには、脳科学と感性科学の融合が必要不可欠と言える。東京大学の大学院工学系研究科の「道徳感情数理工学講座」では、人工自我に感情を与え、人と寄り添う共感力と道徳心を持たせるという共同研究がすすめられ、学生向けの講座が始まり、「東大生が最も受けたい授業」と反響を呼んでいる。

 道徳科の目標を構成する⑴道徳的判断力(道徳心理学では「認知」)、⑵道徳的心情(「感情」)、⑶道徳的実践意欲(同「動機付け」)、⑷道徳的態度を、道徳心理学(感情・認知・進化心理学など)や脳科学、「道徳感情数理工学」等の最新の科学的知見に基づいて理論的に整理し体系化する必要がある。とりわけ道徳的感情が共感性や道徳的判断力に与える影響について考察する必要がある。
 
 これまで世界を「上下」「左右」「表裏」「生死」「男女」「身心」のように二元論で捉え、その片方だけに価値があり、、片方には価値がないと切り捨てたり、支配しようとしてきた。

 社会が混沌としている今、「人工自我」に感情を与え、人と人が寄り添う共感力と道徳心を持たせるという研究が、東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座を率いている光吉俊二特任准教授のリーダーシップのもとで進んでいる。光吉氏は「二元論に分けて、半分を切り捨てる」という対立的な人の思考を「割り算」的と表現している。
 「1÷2=?」という問いに対して、私たちは2分の1又は「0,5」と答える。確かに「あるものを等分にして、そのうちの一つの断片を求める」という命令の割り算(これを等分除という)の場合、この答えは間違っているわけではない。

●「Theory of Everything」

 しかし、一つのリンゴを半分にカットしても、そのうちの半分の断片がマジックのように消えるという事は現実にはあり得ない。カットしたリンゴの断片は、2分の1と2分の1として両方が残り、総和は「1」という状態が保存される。「割り算」に半分を消し去ることは、人の脳内でしか起こっていないのである。
 光吉特任教授はこうした諸々の割り算的矛盾を突き詰め、足し算・引き算・掛け算・割り算という既存の四則演算では表現しきれなかった、ありのままの世界を表現可能な4つの新しい演算子「切り算(cut)・動算・重算・裏算」を生み出した(詳しくは、鄭雄一『東大教授が挑むAiに「善悪の判断」を教える方法』扶桑社新書、参照)
 この数理によって導かれる方程式は、アインシュタインやホーキング博士らが追い求めてきた、宇宙万物の理論「Theory of Everything」だと高く評価され、国連でも公認されたのである。
 この数理を応用することによって、人工自我が従来の硬直的な対立的な二元論を超える調和的、包括的な意識を持ち、表の世界の「多様性」と同時に、裏にある「共通性」を理解し、道徳感情(道徳的な心)と共感力を持つ未来が到来すると予測されている。この混沌とした社会をコスモロジーに変革できるのは、私たち一人ひとりの自己変革つまり「主体変容」にかかって
いるのである。

 一人ひとりが健やかな心身を保ち、人生を豊かなものにするために。互いの個性を認め合い、許し合う大きな心の器を持つために、あらゆる専門分野の分断を統合し、顕在化した様々な社会問題を主体的に解決していくために、子供たちが素直な感性をそのままに表現できる大きな社会の器を作るために(「UZWA」公式ウェブサイトhttps://uzwa,jp)
 


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