最高裁性別変更決定に異議あり!

 性同一性障害をめぐり戸籍上の性別を変更する場合、生殖能力をなくす手術を必要とする法律の規定について、最高裁大法廷は「違憲」との初判断を示した。最高裁の小法廷は4年前、この規定を「合憲」としており、性別変更要件を緩和する大転換である。
 大法廷は、国民の意識の変化などを理由に挙げたが、わずか4年で国民の意識が変化したという根拠は一体何か?多数意見は「手術を受けずに性別変更審判者が子をもうけることにより親子関係等に関わる問題が生ずることは、極めてまれ」としているが、混乱は限定的だから問題がないとは言えない。

●今後の課題 

 最高裁はもう一つの論点であった、性別変更後の性別の性器に似た外観を備える要件については高裁に審理を差し戻した。性別変更の条件を緩和した結果、社会が混乱するような事態は避けねばならない。
 今後の家事審判や法改正など影響は甚大で、社会不安や混乱が生じないように、国は新たな法制度について、慎重に議論を尽くす必要がある。最高裁決定を受け、国会は特例法などの見直しを迫られる。医師による性同一性障害の診断を厳格にするほか、性別変更を認める際の新たな要件を設けるといった法整備が求められる。
 海外では元女性の男性が、人工授精によって子供をもうけ、出生登録を行った際、「父」との記載を拒否されたケースもある。こうした海外の現状や制度を十分に調査した上で、新たな仕組みやルール作りに向けて審議を尽くす必要がある。
 その際に、自らも性転換手術を受けて性別を男性から女性に変更した「性同一性障害特例法を守る会」などの反対意見にも耳を傾ける必要がある。同会は、1万人以上が手術を受け、手術要件が社会制度に定着しているにもかかわらず、手術を受けないで男性の姿のままで女性であるということが通じるのはよくないと主張している。
 同会は、「女性専用スペースに男性器のある女性が入ることが可能になったり、出産する男性が出てきたりして社会が混乱する」と訴えてきた。LGBT理解増進法が成立し、女性と自称する男性が女性専用スペースに入ることを正当化しかねないとの不安は払拭されていない。
 女性らの権利を守る団体など7団体は、手術要件を外せば、「社会的にも法的にも大変な秩序の混乱が起きる」として、合憲判断を求める要請書を提出していた。こうした声にも耳を傾ける必要がある。

●性別は自分で決められない一共通性と多様性の統合

 勿論、性同一性障害者の人権は尊重しなければならないが、個人が「性自認」に基づき、自らの性別を自己決定できるようになれば、社会秩序が揺らぎ、「性別は自分で決められる」という誤った認識や子供の「性的自己決定権」を強調する行き過ぎた過激な性教育の広がりに拍車をかけることは火を見るよりも明らかである。性別は先天的なものであって、自分で決められるものではない。
 読売新聞社説(10月26日付)が明記しているように、「性別は人格の基礎であり、現行法では一般に、生物学的な特徴によって客観的に決められる」。ところが、近年「性の多様性」や「性はグラデーション」という標語が教科書で強調され、教育委員会が作成した資料や教師用資料にも明記されるようになった。
 性別自体は男女のみであるという厳然たる事実(縦軸の“共通性”)と、「ジェンダー平等」という横軸の“多様性”を混同してはならない。「性は多様で、グラデーション」という科学的根拠はない。
 自然や人間には多様性があり、多様性を尊重しつつ、生物学的性差に関する科学的研究によって解明された性別は男女のみであるという生命の共通性との統合が求められる。横軸の多様な世界において、一つの価値観を認めると、自動的に他の価値観を排除せざるを得なくなるが、縦軸の共通性の視点も加えると、光吉俊二氏が発明した重ね算、動算の如く、包摂・統合する新たな視野が広がる。
 円柱は横から見ると長方形に見えるが、上から見ると円に見えて、対立する。しかし、斜め上から縦軸と横軸を統合する視点から見れば、円柱の実相が見える。

●脳科学・生殖科学・生命科学・行動生態学の科学的知見

 科学的に男女(オスとメス)に生物学的性差があることは明らかである。かつて、学会で対談した『脳の性差』『脳の性分化』の著者である順天堂大学の新井康充教授は、脳科学の視点から「脳の性差は、胎児期におけるアンドロゲンという男性ホルモンの影響の有無によって生じ、左半球と右半球を繋いでいる脳梁と前交連という脳の構造面の違いが『男の脳』と『女の脳』の性差を決定づけており、生物学的には『ジェンダー・フリー』というのは噴飯物だ」と断言した。
 性別の生物学的根拠については、日本政策研究センターの小坂実研究部長が『明日への選択』10月号で「『性はグラデーション』という詭弁」と題する論文で詳述しているように、以下の①生殖科学、②生命科学、➂行動生態学の専門家の科学的知見を踏まえる必要がある。

①    束村博子名古屋大学教授「動物のオスとメスにさまざまな点で差異があると同様に、ヒトにも生物学的性差があることは明らかである」(『ジェンダーを科学する』)
②    中村桂子(早稲田大学教授・大阪大学大学院教授を経て、JT生命館名誉館長)「単なる多様化ではなく、そこで生じる個体が、それまでにないまったく新しい組み合わせのゲノム(DNAのすべてに遺伝情報)をもつということ」(『生命誌とは何か』)
③    長谷川真理子総合研究大学院大学学長「雄と雌のこの基本的な違いから出発して、雄が適応度を高める戦略と、雌が適応度を高める戦略とは、生活のあらゆる面において異なるものとなる」「(男女の性差は)社会や文化が強制しているだけの表面的なもの」ではなく、「生命という存在そのものに根ざした本質的で深いもの」であり、「性は、38億年の生命の歴史を背負っている」

●最高裁裁判官は国会同意人事にせよ

 また、櫻井よしこ氏は産経新聞(10月26日付)で次のようにコメントしているが、全く同感である。

<15人の最高裁裁判官が幾百世代もつながってきた日本の価値観や社会の根幹を変えようとしている。たった15人の判断でこんなに大事なことを変えていいのだろうか。
 日本では最高裁の裁判官について一人一人のキャリヤや考え方など詳細な情報はほとんど知られていない。指名・任命権は内閣にあるが、弁護士会枠や外務省枠などがあるのが実態だ。法津は日本国民の望む方向に社会をつくっていくためのものだ。なぜこんなに多くの国民が不安を感じ、多くの女性が信頼できないと思っているような方向に社会を変えていくのか、理解できない。最高裁の裁判官は国会同意人事にすべきだ。>

  

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