「性自認至上主義」と手術で性別を変更できることが問題

 10月26日のnote拙稿「最高裁性別変更決定に異議あり!」があちこちで取り上げられており、大きな波紋が広がっている。最大の問題点は、性自認は他者の権利法益よりも優先すべきであるとする「性自認至上主義」に基づいていることである!
 アメリカのフロリダ州では、「法的性別」は出生時の生物学的特徴によって定まり、終生変えられないとの立場を州法で成文化している。フロリダ州では、18歳以下の青少年に性転換手術を施すことも異性ホルモンを投与することも禁止している。
 こうしたアメリカの現状に精通している歴史認識問題研究会の監事で福井県立大学名誉教授の島田洋一氏が、国家基本問題研究所の10月30日付「今週の直言」に寄稿している論考を紹介したい。

<最高裁が 10 月 25 日、一定の条件の下で性別変更を認めた現行の性同一性障害特例法 のうち、生殖腺(内性器である精巣又は卵巣)の「不機能化」を条件に定めた 3 条 1 項 4 号は違憲という決定を下した。 「性同一性障害者に対し、強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受 するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放 棄するかという過酷な二者択一を迫る」ことは憲法 13 条(個人の尊重)に反するという。 15 人の裁判官全員一致の判断であった。国民の間でまだ議論が煮詰まらない中、非常に 前のめりの結論である。 とりわけ不可解なのは、「法的性別」の変更を認めた特例法の基本的立場そのものを問 題にする裁判官が一人もいなかったことである。

●出生時に性別は決まる

    例えば米国の最高裁では、現在多数を占める保守派判事が、連邦議会、各州議会の動 向を見守る「抑制的司法」の姿勢を堅持しており、性的少数者に対する雇用差別は許さ れないとした以外は、性別変更やトイレ、更衣室の使用等に関し何らの決定も下してい ない。 この間、保守派の勢力が強いフロリダ州では、「法的性別」は出生時の生物学的特徴に よって定まり、終生変えられないとの立場を州法で成文化している。手術によって法的 性別を変更できるとなれば、性別違和を感じる人々に対し「手術を受けなければ偽装ト ランスジェンダーと見なされる」と強迫観念を抱かせ、取り返しのつかない(のちに激 しく後悔する可能性のある)意思決定を促しかねないためである。ちなみにフロリダ州 では、18 歳以下の青少年に性転換手術を施すことも異性ホルモンを投与することも禁じ ている。 本人がトランスジェンダーを主張し、周りがそう遇するのは自由だが、性転換手術を 受けようが受けまいが法的性別は変えられないとなれば、少なくとも手術を急がせる法 的な要因はなくなる。
 
●特例法廃止が筋

日本のように、内性器や外性器の除去・改変を条件に法的性別の変更を認める特例法 を作ると、そこが蟻の一穴となり、「身体的侵襲」の受け入れを迫るのは「過酷」であり 人権侵害だとする訴訟が次々起こされることになる。 現にある最高裁判事は今回の決定の個別意見において、手術のみならず異性ホルモン の投与も重大な健康被害を招く場合があり、性別変更の要件とすべきでないと論じてい る。4 年前の少数意見が今回多数に転じた経緯に鑑みれば、今後この意見が最高裁で優 勢となる可能性は十分ある。そうなれば、男性の体のまま、憲法上の権利として女性と なり得る。 出生時に男性のトランスジェンダーの中には、女装に性的興奮を覚えるが性的対象は 女性という人々もいる。彼らの女性専用スペース利用に女性が不安を覚えるのを「偏見」 とは言えないだろう。 特例法を廃止し、法的性別の変更は不可とした上で、雇用差別を禁じるなどの措置を 講じていくのが常識的な解決策ではないか。>

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