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いよいよ平成も終わりということで、私家版 #平成をかざるプレイリスト

長い前置き

あれは小学5年生の夏でした。何をトチ狂ったか、急に母親は息子を塾に入れると言い出しました。時は昭和63年。その名前とは裏腹に日本にとっては激動の時代である「平成」が、数カ月後に間近に迫っていることなど微塵も感じさせない、なんとものんびりした時代だったような記憶があります。あの頃僕は何をしてたっけな。手のつけられない悪ガキだったという記憶しかないです。母親が塾に入れたがったのも無理はない。

結局人生で塾的な物に行ったのはその5年生の夏から冬にかけての約半年でした。冬休みが終わり、あの「平成」の色紙を見たのも、塾での社会の先生の授業でした。その京大出身の先生に「中臣鎌足」を「ナカトミノカタマリぃ〜」とふざけたら、顔面をぶん殴られたこともよく覚えているので、その先生から「平成」話を聞いたことは間違いなく覚えているのでした。今なら塾講師の体罰ってことで一瞬でSNSで燃え上がりそうな案件ですが、あの頃確かに、学校も塾も、殴る先生はたくさんいました。今だからようやく言いますが、頭おかしい人多かった。

そんなこんなで、僕の最初にして最後の塾経験は、こと勉強とか先生とかいう面では惨憺たる経験でしたが、一つ良いことがありました。隣に座っていたシンヤくんと仲良くなったことでした。僕とは違う学区の子だったので、もし小学校だけに通っていたら出会うことも無かったしんやくん。結局その後、シンヤくんとめっちゃ仲良くなったとかいう話ではなくて、一度だけ家にあそびに行った時、シンヤくんのお兄さんがどういうわけか僕にCDを貸してくれたんです。忘れもしないBon Joviの超名盤「New Jersey」。いかにも時代の寵児のスタジアム・ロック的なLay your hands on meから始まって、Bad Medicine, Born to be my babyと、今から考えても頭おかしいくらいの名曲が3連発でかかり、その後もBlood on Blood,からI'll be there for youまで、ロックもバラードもまったく手抜きのない構成に、当時TMネットワークのゲッワィエンタフ!を聞いて喜んでた僕の魂は、バラッバラに打ち砕かれたのでした。嗚呼、あの瞬間の恍惚!!もしシンヤくんのお兄さんが、寛大にも発売したばかりのCDを貸してくれるなんていう、本当に心の広いことをしてくれたなかったら、僕は多分、ここまでロックにも、ハードロックにも、メタルにもハマってなかったと思うんです。それらの音楽が無い自分の人生を想像してみます。その暗さ、その寂しさ。あ、無理。絶対そんなの無理ゲーです。僕は今は小説や写真をやっていますが、結局のところNo music, No lifeを地で行く人生をその後歩んでいたように思うのです。

そう、そして、Bon JoviのNew Jerseyを11月に聞いて、年が空けた途端、平成が始まりました。僕にとって青春とはすなわち平成の洋楽ロックというわけです。

というわけで私家版  #平成をかざるプレイリスト

長い前置きと共に、 #平成をかざるプレイリスト いよいよ行ってみましょう。

全曲話してたら何万字かかるんやって話しなんで、適当にかいつまんで。

1. Nirvana "Smells Like Teen Spirits"

嫌いでした、ニルヴァーナ。いや、大好きでした。ニルヴァーナに対して愛憎半ばなのは、この時代を経由した全てのロックファンにある程度共通の想いの気がするんですよね。直前までガンズがロック世界を制覇していて、その前はSkid Rowやさらには最終的には彼らが生き残ることになるBon Jovi、さらにその前はAerosmithが華々しいパーティーロックを繰り広げてるところに、いきなり"Hello, Hello, Hello, How low?"ですよ。崩壊しつつあった「大きな世界」に対する鬱屈した感情を全て虚数解の様に爆発させ、それまでのロックを原子レベルまで破壊し、その荒涼とした瓦礫の上にオルタナティブ全盛の90年台を切り開いた。僕が愛していたあの華やかなロックは一時は全滅近くまで追い込まれ、暗くて救いようのないリアルでざらついた音がアメリカンロックを席巻した。ああでも、嗚呼、でもね。かっこいいんです。かっこよかった。どうしようもない、かっこよかった。パワーコードだけなのに、まるで黙示録の馬が響かせる破滅のラッパのように、不吉に鳴り響くあの冒頭のギター!僕は多分この経験を経て、自分の「殻」が一つ壊れた気がします。自分が信じていたものだけが美しかったり、正しかったりするわけではないということを。当時僕は15歳。遅まきの「反抗期」が始まって、学校を脱走ばかりするような学生時代を送り始めていたときでした。

2.Oasis "Don't Look Back in Anger"

そのニルヴァーナのフロントマン、カート・コバーンが自分の頭をショットガンで打ち抜いて死んだのは1994年の年末。当時もしYahooニュースでもあったら、トップニュースになったことでしょう。Twitterがあったら大量のRTと大量のRIPと大量の不謹慎な大喜利で賑わったことでしょう。でも当時、そんなものはまだ気配さえありませんでした。全てはプライベートで、ロックミュージシャンの死は急に降って来た個人的な喪失のような辛い体験として刻印されます。カートは死ぬ直前It's better to burn out than to fade away(消え去るくらいなら燃え尽きたほうがいい)と書き残したといいますが、fade awayすることの直接的な理由がなんなのか、そのことは今でも明らかではないままです。ただ、Nirvanaを聴けば、いずれカートが早すぎる死を迎えそうだという印象は、今になったらまるで遺書のように響きます。そうやって、ロック界は凶兆が刻まれたロックスターを失うわけです。輝きは消え、ロックは盟主を失って迷走するのか、という時に閃光のように現れたのがOasisでした。そしてセカンド・アルバム"(Whta's the story) Morning Glory"が発売されます。
Bon JoviのNew Jerseyが頭三曲が気が狂ってるレベルの完成度と書きましたが、オアシス(オエイシスって言うべきでしょうか?あ、それならカート・コベインですね)のこのセカンド・アルバムの冒頭四曲の完成度は、もしこの世界に音楽戦闘力を測れるスカウターがあれば、おそらく戦闘力53万と行ったところでしょう。フリーザ様の最終形態も青ざめるレベルの、ロックのど真ん中。カートで一度死にかけたロックは、オアシスのギャラガー兄弟の天才によって復活したわけです。暑かった、熱かった、アツかった!だって、HelloからRoll with itでノリノリにロック・アンド・ロールさせた後にWonderwallまず来ますって。Wonderwallですよ?ロックの歴史に燦然と輝く、「驚異の壁」が来るんですわ。今を持ってこのWonderwallが「どんな驚異の壁」なのか、あんまりはっきりしていないらしいんですが、この曲でもう歴史です。歴史完成なんです。ところがね、四曲目に来るのがこの"Don't Look Back in Anger"です。話によるとイギリス人の94%がこの曲の歌詞を覚えてて、全員熱唱できるらしいですよ。それもう国歌やん。国歌。
実際にイギリス人が10年ほど前に選んだ「この50年の最強のロックチューン」は、去年大ヒットしたボヘミアン・ラプソディで、まあそりゃ、いくらオアシスだってQueen相手じゃ分が悪いけど、でもね、でも、カートの後に来た彗星のような登場は、今振り返ってみても本当にワクワクする心躍るような瞬間だったんですって。まじで泣いたもん、あんまりかっこよくて。

3.以下しんどいのでまとめ

曲紹介長すぎ。ちょっと暑苦しい。この調子で全曲書いたら、まじで一冊新書書けるってレベルなのでやめます。しんどすぎ。結局僕はオーセンティックなアメリカ系ロックから、ちょっとひねったイギリス系ロックを中心に、ハードロック、メタル、オルタナ、プログレ、メロコア、ヘヴィミクスチャーあたりを経由しつつ、最近はもう何でもかんでも聞くようになりました。最近のお気に入りはKing Gnuの白日なんですよね。洋楽にこだわってた時期もありましたが、20代後半に入って、最後にしがみついていた「洋楽すげえ」「ロックすげえ」もなくなり、「いいもんはなんでもええわな」というノンポリに至るわけです。

でもやっぱり心には、魂の底には、このプレイリストあたりで上げたミュージシャンたちの音楽が流れてるんですよね。Bon Joviの次に好きになったQueen、美しさに惚れ込んで僕のアイドルになったGuns N' Roses, 「ロック以外」に神がいると知ったMichael Jackson(彼が死んだニュースを歩いている途中に知った時、同志社大学前の烏丸通の横断歩道で立ち尽くして、危うく車に跳ねられそうになったのはいい思い出です)、その攻撃的な音に衝撃を受けたMetallica、Oasisの後のイギリスの全てを背負い込んだRadiohead、新世代の頂点に震撼したSystem of a Down、そしてアメリカの闇の中央を凝視したGambino。新しいタイプの音楽に接する度に、自分が信じてきた「良い音楽の基準」が徐々に融解し、新しい「違和感」を取り込む中で、いろんな物事の多様な側面が見られるようになった気がします。

僕は小学校の時、塾では散々な目にあったんですが(てか小中校と散々な学童時代を送った気がします)、その後大きく道を踏み外さずになんとか大学院まで出られたのは、この何万曲ものロック音楽との出会いの経験が、僕に「学び」と呼ばれる態度の基本的な土台を作ってくれたからではないか、そんなことを思っているんです。

だからこそ、最近あんまり元気のないアメリカやイギリスのロックがちょっと残念なんですよね。もうOasisのようなバンドは出ないのかなと。あるいはカート・コバーンやアクセル・ローズのような破壊的なロックスターは?フレディのような「チャンピオン」は?ジェームズ・ヘットフィールドのようにガチムチにかっこいいヘッドバンカーは?

平成って、振り返ると割とひどい時代だった気がするんですが、そのひどい時代にあって、我々の人生に輝きを添えてくれた彼らロックミュージシャンの全てに、僕はいつだって、いつだって心からの感謝を持っているんですよね。彼らがいなきゃ、もしかしたら生きる力を絞り出せなかった。彼らの歌を聞いて、うなだれた頭を持ち上げて再び戦う力を、なんとか崩れた膝の下からかき集めて生きてきたんです。

だって、しんどいときだって、生きてる限りはショーは続けなきゃいけない。エイズに冒されたフレディー・マーキュリーが自分の死を目前に知ってなお、残りの命を注ぎ込むかのように"I can fly!!"と歌い、その絶唱にまるで泣いているかのような壮絶なギターソロで応えたブライアン・メイの魂の叫びの断片が、全てのロックミュージシャンたちの声や演奏に乗っかってることを、僕は知ってるんですよね。

Long Live Rock 'n' Roll!

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